「だめ… もう、我慢できない」  
美味しそうなエモノの匂いに魅せられて、私はふらふらとその男に忍び寄る。  
「はあぁ。コレよ、コレが欲しかったの。いただきます」  
首筋に牙をたて精を吸うと、哀れな生贄がわずかに身をよじった。  
「うふふふ… 悪いけど逃がさないわ。  
それに、誘ったのはアナタの方じゃないの。」  
 
充分に渇きを癒したあと、私のつけた痕を見る。  
支配欲が満たされるのを感じて、私は口を歪ませた。  
「いいわ。今だけ、アナタを愛してあげる」  
耳元で囁き、吐息でくすぐる。  
その若者は恐怖とは異質の感情で肩を震わせた。  
自慢の細脚を目の前で動かすと、男の熱っぽい目は私に釘付けになる。  
「さあ、いらっしゃい…」  
あくまで主導権を握りながら、攻守の立場を入れ替える。  
すがりつく亡者のように、男は両手をゆっくりと伸ばして―――  
 
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  
 
 
パチン!  
 
「よっしゃ、やっと倒せた」  
手に付いた血を見ながら、安眠が確保された喜びで俺は声を張り上げた。  
「何騒いでんだい、このバカ息子っ!」  
「吸血鬼と戦ってたんだい。それより母ちゃん、ムヒどこだっけ?」  
 
 

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