「――つまり、あなたも“つぁとぅぐあ”さんと同じように旧支配者さん?」  
「……そう呼ばれた事も……あったりなかったり……」  
 どっちだよ。  
 ちゃぶ台の向いに正座する美少女――“いたくぁ”さんは、全く表情を変えずに熱いほうじ茶を傾けた。  
 雪の舞う夜、ベランダに出現した『旧支配者』さんに、なんだかよくわからないけど寒いだろうから、  
とりあえず室内に入れて御茶を出してあげた。  
 どんな光も吸い込みそうな、暗黒色のロングストレートヘアー。髪と同じ色の着物。  
染み1つ無い灰色の肌。そして、真紅の瞳――  
クールビューティーという言葉を究極的に具現した冷たい美貌は、人形のように瞬きすらしない。  
僕が彼女は人間じゃないと見抜いたのは、その美しさゆえだ。  
これは人間の美しさじゃない。絵画や彫刻すら凌駕する、究極的な“芸術”の部類に入る美しさだ。  
 いつのまにか、彼女の透明な美に見惚れている事に気付いた僕は、慌てて頭を振った。  
誤魔化すように、先程からの疑問を口に出す。  
「――で、その“いたくぁ”さんが、なぜ僕の所に?」  
 全く抑揚の無い声で、彼女は語った。  
「……おめでとうございます……ひでぼんさんは抽選の結果……  
……1万人に1人のラッキーマンに選ばれました……」  
「間に合ってます」  
 僕は彼女の襟首を掴むと、窓の外にぽいっと投げ捨てた。  
「……しくしく……冗談なのに……しくしく……」  
 力無く窓を叩く“いたくぁ”さん。ちなみに、『しくしく』というのは彼女の台詞であって、本人は全くの無表情だ。  
 仕方なく彼女を中に入れる。何事も無かったように、“いたくぁ”さんはちゃぶ台の向いに腰を下ろした。  
「……で、本当は何が目的で僕の所に?」  
 
“いたくぁ”さんは、しばらく無言で湯呑みを傾け、御茶請けの煎餅を僕の分までばりばりと頬張り、  
勝手にポットからほうじ茶のお代わりを注ぎ、遠慮無く飲んで――  
――かなり熱かったらしく、顔色1つ変えずに喉を押さえて苦しみ――  
十数分後、ようやく返事をした。  
「……ユーから(文字化けする記号の数々)の気配を……ミーは感じた……じゃじゃーん……」  
 どこの生まれだアンタ――じゃない、  
「(文字化けする記号の数々)って、何?」  
「……チミの種族の言語形態には……それを表現する言葉はありません……  
……強いて表現すれば……『邪神の匂い』……っぽい感じ……」  
「邪神の匂い?」  
 それったやっぱり、“つぁとぅぐあ”さんの――  
「……我はそうした……『異界と接触した存在』を……禁断の地に……連れていく……どっぎゃーん……」  
「つまり、僕をその禁断の地とやらに連れて行くのがあなたの目的なんですか!?」  
「……ぴったしかんかん……商品は……  
……禁断の地48億箇所以上巡りに……私とペアで御招待……ぱちぱち……」  
 口だけで拍手してくれた“いたくぁ”さんの無表情に、僕は慌てた。  
「ちょ、ちょっと待ってよ。なぜ僕をそんな物騒な名前の場所に連れ回す必要があるわけ!?」  
 “いたくぁ”さんは、無言で小首を傾げた。無表情なのでよくわからないが、何か考えているらしい。  
たっぷり10分間は思案した後、小さな口から出た言葉は――  
 
「……なぜでしょう?……」  
 疑問文を疑問文で返さないで欲しいなぁ。  
「……というわけで……れっつごー……」  
「嫌です」  
 僕は即答した。  
「……がーん!!……」  
 彼女はよろよろっと起き上がると、貧血を起こした少女みたいにふらふらと部屋中をよろめき歩き、  
壁際で崩れ落ちた。そのまま袖口を目元に当てて、  
「……しくしく……よよよ……えーんえーん……」  
 抑揚の無い声で泣く真似をした後、何事も無かったかのように立ちあがり、  
元の位置に座り直した。ふう、と台詞だけで溜息を吐く。  
「……昔は良かったのう……爺さんや……」  
「誰が爺さんですか」  
「……『禁断の地に連れて行ってあげる』と言えば……どんな魔導師も……探求者も……  
……信奉者も……喜んで来たのに……みんなビンボーが悪いんや……」  
 感情の無い顔付きで淡々と呟くその姿に、どこかしょんぼりとした物を感じた僕は、  
何となく彼女が可哀想になってきた。空の湯呑みに新しいお茶を入れてあげる。  
「その『禁断の地巡り』に行くと、どんな事があるの?」  
「……心の中身が……あちゃらかぱーに……」  
「え?」  
「……その後……凍らせます……カチンコチンに……」  
「は?」  
「……最後に……落とします……成層圏の向こうから……ヒモ無しバンジーです……いえーい……」  
「…………」  
「……さあ……私と一緒に……れっつごー3匹……」  
 彼女を可哀想と思った自分が、世界一のおバカさんに思えた。  
「いや、行きませんって」  
 
 “いたくぁ”さんは、顔色1つ変えずに僕を見つめた。  
その透明な視線に何か不吉なものを覚えた僕は、思わず仰け反った。  
「……ならば……最終手段……」  
 ふわり、と彼女の体が浮いた。次の瞬間――  
「……えいっ……」  
 ぽすん、と“いたくぁ”さんの小さな体は、僕の腕の中にあった。  
「ちょ、ちょっと“いたくぁ”さん!?」  
 動揺する僕を尻目に、甘えるように頬をすり寄せる“いたくぁ”さん。  
繊細で爪の長い指が、くりくりと僕の胸をまさぐった。  
「……あちきの趣味は……雪原に足跡を残す事と……ゴミを漁る事……」  
 ロクな趣味じゃないなぁ……じゃなくってぇ!?  
「……そして……犠牲者の下半身を……崩壊させる事……」  
 感情がまるで感じられない彼女の呟きに、僕の魂は震え上がった。  
 確かに崩壊寸前だ――僕の理性は。  
 胸一杯に吸い込む、少女特有のミルクのような甘い香り。着物越しに伝わる、柔らかな肢体の感触。  
 最近仕事が忙しくて、“つぁとぅぐあ”さんに抜いてもらっていない身では、この刺激は強過ぎる。  
「……さあ……そなたの魂を篭絡させてあげましょう……」  
「……つまり、色仕掛け?」  
「……だまらっしゃい……」  
 いきなり“いたくぁ”さんの小さな唇が、僕の口に押し当てられた。  
動揺する間も無く、熱い舌が刺しこまれて、甘い香りが口いっぱいに充満する。  
たまらず僕も舌で応戦した。絡み合う柔らかい舌が互いの咥内を蹂躙し、熱い唾液を交換し合う。  
 はたしてどれくらいの時間そうしていたのか――ゆっくりと甘い吐息が離れた。  
唇の端から、熱い雫がしたたり落ちる。  
 
「……さぁ……これ以上の快楽が欲しいなら……私と――」  
 もう、僕は彼女の言葉を聞いていない。身を翻そうとした“いたくぁ”さんを、背後から抱き締めた。  
「……え……ちょっと……あ……」  
 もう、僕は彼女を陵辱する事しか考えていない。薄れゆく理性のどこかで、  
やっぱり人外の存在との交わりは、確実に正気を失わせるのだなぁと他人事のように考えた。  
「……ねぇ……そこまでサービスは……するつもりは……」  
 “いたくぁ”さんの棒読み抗議を無視して、着物の胸元に右手を差し入れる。  
「……あっ……」  
 僅かな胸のふくらみに触れた瞬間、彼女の体がピクンと震えた。小さな蕾を掌で撫で回し、指先でくりくりと弄ぶ。  
「……ん……くっ……はぁ……」  
 切ない吐息が漏れてきた。左手を着物の裾に伸ばして、素足を広げようとすると、  
僅かながら抵抗があった。僕の両足を絡めて、無理矢理かき開く。  
「……やぁん……」  
 露わになった細い脚に手を伸ばして、太ももをゆっくりと撫でる。さらさらとした感触が心地良かった。  
“つぁとぅぐあ”さんの掌に吸い付くようなしっとりとした肌も良いけど、  
“いたくぁ”さんの極上の絹みたいな手触りも捨て難い。  
「……ん……そんな……待ってぇ……」  
 小声の抗議を意図的に無視して、掌を太ももの奥に運ぶ。  
 くちゅ  
「……ひゃうっ……!!……」  
 案の定、下着は着けていなかった。  
「……はぁ……あっ……あっ……あはぁ……」  
 僅かに濡れた熱い秘所を、指先で撫でるように愛撫する。  
控え目に生えた茂みの奥にあった米粒よりも小さなクリトリスをノックすると、  
面白いように全身を震わせて反応してくれる。それが面白くて、僕は両手の動きをより早めた。  
「……っ!!……あっ!……やぁっ!……きゃあん!……」  
 やがて、彼女はビクビクッと痙攣すると、力無く僕にもたれかかった。  
 
「……うぅ……ヒドイです……神権無視です……」  
 潤んだ瞳、熱い吐息、火照った柔肌、人形のような無表情に、僅かに浮かぶ官能の波――僕ももう限界だ。  
 くるり、と“いたくぁ”さんの向きを変える。向かい合った彼女の体を持ち上げて、  
濡れた秘所をビンビンに爆発しそうな僕のペニスの上に置いた。  
「……えぇ……?……ちょっと……待って……」  
 やだ、待てない。僕は両手をぱっと離した。引力の法則に従って、  
彼女の秘所が僕のペニスを飲み込みながら、ずぶずぶと沈んで行く。ビバ、ニュートン。  
「……っ!!……」  
 一瞬、“いたくぁ”さんの震えが止まって、  
「……んぁあああああ!!!……」  
 次の瞬間、嬌声混じりの絶叫が、僕の部屋全体を揺るがした。  
「……ふあっ!……いやぁ……とめて……んくぅ!……」  
 涙を流して哀願する彼女だけど、股間から脳天を直接揺さぶるような快楽の渦に、  
僕の腰の動きは止まらない。火傷しそうなくらい熱い秘肉の締め付けは、痛いくらい強烈だ。  
“つぁとぅぐあ”さんの、むこうから絡みついてくるような淫肉の締め付けも最高だけど、  
こうしたドリルで掘り進むような圧迫感も、また格別だ。  
「……いたぁ……きゃうっ!……はうぁあ……ふわぁ!……」  
 “いたくぁ”さんはあまり濡れない体質らしく、初めのうちは快感よりも苦痛が強かったようだけど、  
徐々に比率は逆転していったらしい。今では彼女の方から腰を動かし、悲鳴のような嬌声を上げている。  
「……んあっ!……いい……いいのぉ!……いくっ……イッちゃう!……」  
 目の前で僅かに揺れる平坦な胸に舌を這わせ、小さな蕾に歯を立てた――瞬間、  
「……あ……あはぁああああああああ!!!……」  
 今までで最大級の締め付けが僕のペニスを襲い、激しい痙攣と同時に“いたくぁ”さんはイッてしまった。  
 
「……はぁぁ……あ……」  
 くてっ、と崩れ落ちる“いたくぁ”さん……でも、僕はまだイっていないんだよね。  
 僕は再び彼女の向きを逆にして、うつぶせになるように小さな腰を持ち上げた。  
「……ふわぁ……何を……」  
 ぺろん、と着物の裾をめくると、小ぶりのみずみずしいお尻が現れた。  
マッサージするように、両手でふにふにと揉み崩す。柔らかいくせに弾力のある不思議な感触が心地良い。  
「……ひゃあん!……そ……そんな……」  
 びくびくっと彼女の身体が震えた。さっきイッたばかりという事もあるだろうけど、  
やっぱりお尻が性感帯らしい。着物が似合う女性は、お尻が良いという噂は本当だった(注:俗説です)。  
「……きゃふんっ!……やぁあ!……そんな……ところをぉ!……」  
 柔らかい尻肉を摘んで左右に広げると、ほとんど色素が沈着していない、小さな可愛いアヌスが顔を覗かせた。  
待ち切れないようにひくひく動くそこに、愛液とザーメンの混じった淫液を擦り付けて、念入りにマッサージする。  
「……やぁあん!……なんでぇ……あふぁ!……感じ……るぅ!……」  
 秘所を弄る時の倍は激しい反応で、彼女は喘ぎ、震え、悶えた。  
アヌスはぱくぱくと小さな口を開けて、自分から僕の指を咥えようとする。  
 
(もうそろそろいいかな……)  
 僕は震える“いたくぁ”さんを持ち上げると、背面座位の形で抱きかかえた。  
ペニスの先端をアヌスに当てて――  
「……きゃぁあああぁあん!!……」  
 もう一度、僕は重力に彼女を預けた。  
 ほとんど一気に、僕のペニスが“いたくぁ”さんのアヌスの奥まで突き刺さった。  
あまりの狭さと締め付けに、激痛に似た衝撃がペニスに響く。  
でも、それが快感だと気付いた時には、僕は激しく腰を突き上げていた。  
「……っ!!……ぁ……は……っく!!……」  
 “いたくぁ”さんは、もうまともに声も出せないようだった。  
カリが腸壁をこする度に、しびれるような快感がペニスから脳へダイレクトに叩きつけられる。  
そして――!!  
「ううっ!」  
「……ぁあああ……きゃあふぁああああ!!!……」  
 爆発した僕のペニスがザーメンを腸の奥に注ぎ込むと同時に、  
“いたくぁ”さんもまた、激しい絶頂に襲われて――僕達は同時に床へ伏した……  
 
“いたくぁ”さんを背中から抱きかかえながら、僕は漠然とした不安を感じていた。  
 誘ったのは彼女の方からだとはいえ、半分強姦に近かったよなぁ……僕がした事は。  
『責任とって』とか言われたらどうしよう?いや、そういう事じゃなくて……  
 彼女に覚えた異常なまでの情欲――それは“つぁとぅぐあ”さんに抱いた物と同質だった。  
人間には絶対に成し得ない、悪魔的なまでの誘惑と快楽。  
やはり彼女も、人知をはるかに超えた超存在『旧支配者』なんだ。  
 そんな人間なんて塵芥にも感じない高位存在に、あまつさえアナルセックスまでしてしまうなんて……  
ぶるっ、と僕は震え上がった。それと全く同じタイミングで、“いたくぁ”さんはゆっくりと体を起こす。  
 なぜか、怖くてその姿を見るのが躊躇われた。  
「……よくもやって……くれましたね……」  
 さっきまでと同じ感情の無い声。でも、それは今までの声と明らかに『質』が違う。  
 恐る恐る、僕は彼女を見上げた。  
 名伏し難き無表情が、僕をじっと見つめている。  
 僕は寝ていて、彼女は立ち上がっている。だから、彼女が僕を見下ろす形になるのは当然の事だ。  
 でも――何かおかしい。  
 部屋が巨大化したわけではない。僕が小人になったわけでもない。  
 それなのに、“いたくぁ”さんが巨人と化して、数千メートルもの高みから、僕を睥睨しているように見えるのだ。  
「……初めてだったのに……あんなに乱暴に……激しく痛かったです……」  
 人形を拾うみたいに、僕は彼女に摘まれて、目線の高さまで持ち上げられた。  
きっとこれは幻覚だろう。幻覚だといいなぁ。  
「……禁断の地巡りは……中止……」  
 真紅の邪眼が、爛々と輝いた。  
「……そのかわり……お前を……禁断の地に……置き去りにしてやろうぞ!……」  
 たぶん、僕は絶叫したと思う。  
 異界の風に乗って、僕達は禁断の地へと歩み去っていった――  
 
 何も無い空間を、落下する感覚があった。  
 周囲はただ闇が広がるだけ。暗黒。漆黒。暗闇。ただ闇があるだけ。  
 落ちていく。  
 堕ちていく。  
 堕ちて――  
 ふにょん  
「――へ?」  
 馴染み深い柔らかな感覚が、僕の体を受け止めてくれた。  
「……ん〜……だれぇ?」  
 聞き覚えのある、おっとりとした眠そうな声。  
「ひでぼんさんですねぇ……また来てくれたのですかぁ」  
 ぽっ、と周囲が明るくなった。  
 戦慄するくらい美しく、魔王のように荘厳で、それでいてどこかほっとさせる雰囲気を持った僕の神様――  
“つぁとぅぐあ”さんの眠そうな笑顔が、僕の体の下にいた。  
「……ここは禁断の地……暗黒世界“ン・カイ”……」  
 どこか得意そうな抑揚の無い声が、すぐ側から聞こえる。  
「……君はこの恐怖の空間に……一生閉じ込められるのだよ……怪人21ェ門君……」  
 薄い胸を偉そうに張る無表情な着物美少女――“いたくぁ”さんがそこにいた。  
「…………」  
 僕は無言で起き上がると、“いたくぁ”さんをひょい、と持ち上げて、“つぁとぅぐあ”さんに手渡した。  
「これが今回の供物です」  
「まぁ、ありがとうございますぅ……美味しそうですねぇ」  
「……え?……」  
「じゃあ、今回は急いでいるので、これで失礼します」  
「また明日ぁ……待ってますよぉ」  
「……え?……え?……」  
 背後から聞こえる“いたくぁ”さんの、悲鳴とも嬌声とも聞こえぬ声を無視して、  
僕は自室の押入れに通じている黒い靄へと歩み去った――  
 
「……そういえば、締め切りがあったんだっけ」  
 馴染み深い禁断の地“ン・カイ”から無事生還した僕は、  
安堵もそこそこにモニターの前へ噛り付いた。そのまま一心不乱にキーボードと格闘する。  
 “いたくぁ”さんには悪い事しちゃったかな。今度会った時には、とっておきの玉露でも煎れてあげよう。  
でも、今は締め切りが最優先事項だ。  
 僕は仕事に夢中になっていた。  
 だから、“それ”にしばらく気付かなかったんだ。  
 部屋の隅――部屋の『角度』から、蒸気のような煙が湧き出している事に。  
 
 続く  
 

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