それからしばらくの間はまともに美保ちゃんの顔を見れなかった。
直視したら多分私の顔が真っ赤になっているのがばれてしまうからだ。
それでも成績を下げる事は無かったし、取りあえず家庭教師としては及第点な働きはしていると自分自身で思う。
あれから数ヶ月が過ぎ、冬もそろそろ終わりに近づく時期になった。
まだまだ彼女の家庭教師は続けている。
美保ちゃんの服は大抵は私服だったけれど、学校から帰宅する時間によっては制服姿の彼女も見ることが出来た。
いつもの彼女もどきどきするけれどもブレザー姿の時は特に興奮してしまう。
彼女はもともと無口な方で最初の頃はあまり会話もしなかったのだが、最近ではよく話すようになった。
休憩時間中には新作のゲームの話や学校の行事の話など、主に彼女の話題が多い。
ところが今日は珍しく彼女が私の事を尋ねてきた。
「先生の行ってる大学って、どんなところ?」
「私?…そうね、ここからだと駅2つ位離れたところにあって…」
私の言葉を興味津々な表情で聞く彼女。
彼女はさらに質問を投げかけてくる。
「えっと…。先生は彼氏とかいるの?」
「へ?」
珍しい、まだ色気より食い気の彼女がそんな質問をしてくるなんて。
それと同時に私の心がまた震えてしまいそうになる。
「…いないよ、まだ恋人募集中」
「へぇー。先生きれいなのに…。もうそういう人がいるかと思った」
彼女の言葉に私の心臓の音が早くなっていく。
「珍しいねー、いつもはゲームとかの話をするのに」
心の動揺を抑え彼女に話しかける。
その言葉に何故か彼女の表情は固くなり、そして何かを思いつめたように一言、ぽつりと漏らす。
「…この前、クラスの男子に告白されたんです」
「!」
いきなりの言葉に衝撃を覚え、私は驚きの表情を隠せなかった。
「でも、断りました。だって、そういうのよく分からないから」
「…美保ちゃんはその男の子の事は好き、なの?」
微かに震える声で私は彼女に問いかける。
彼女は首をゆっくり横に振る。
「実は、あんまり。いつも仲のいい友達に相談したんだけどその子たちは『どうして付き合わなかったの』って言うばかりで…」
そして彼女は俯きながら言葉を続ける。
「だから聞いてみたんです、みんなは告白された事ってある?って」
「どうだったの?」
あえて『相談相手の先生』役を演じる私。
でも心の中はその告白をした男子生徒に嫉妬を抱いていた。
「ある子もいました。その子が言うには『すごく心臓がどきどきして、胸がきゅうんとする感じだった』って」
「そうね、私も経験あるけどそんな感じになるわね」
私の言葉に何かを考えたのだろうか、私の顔を見る。
「先生、私にそういう経験を教えてくれませんか?」
「え!?」
何を突然この子は言うんだろう。
「み、美保ちゃん?」
「先生は女の人だから私に対してはそういう感じにはならないと思うけど…。どういうものか興味が出てきたんです」
言葉のひとつひとつが私の心にまるでハンマーを打つように感じられた。
心臓の鼓動は自分でも分かるくらい音を立て、口の中が乾いていく。
それでも私はあくまで『家庭教師』を演じながら彼女に教えていかなければならなかった。
「しょうがないなぁ…。まぁ私に対してそういう感じになったら駄目だけど、雰囲気はこんな感じっていうのを教えてあげるわ」
そして私は椅子から立ち上がり、彼女にも立つように勧める。
彼女の制服姿にくらくらしてしまいそうな自分がいる。
衝動的に力強く抱きしめたい気持ちを抑えて、お互いが向かい合う。
「まぁよくあるパターンとしてはドラマとかであるように告白されてどきどきするパターンね」
そう言って俗に言う「好きです、付き合ってください」的な動きをする私。
「こんな場合は言われた当人も好きじゃないと美保ちゃんみたいに断られるのがオチね。これは逆でも言えるよ」
そして今度は彼女の後ろに移動する私。
次に私がする行動に自分自身の心が破裂しそうになる。
「もうひとつは結構大胆なんだけれども」
私の腕が、彼女の身体に絡まる。
「…!」
後ろからの私の行為に少し驚いたのか、身体を震わせる彼女。
「ごめんね?まぁこういう風にいきなり後ろから優しく抱きついて告白するパターンがあるわね」
そう言いながら私は彼女の身体をそっと抱きしめる。
もちろん不自然にならないように声のトーンはいつものようにしているが。
「この場合は驚きもあるけれど、相手の体温を直に感じ取れるから結構どきどきしやすくなるのよ。ただ雰囲気に流されちゃう
恐れがあるからこういう時ほど相手の事が本当に好きかそうでないか、冷静になる必要があるんだけどね」
彼女の髪の毛からほのかに漂うシャンプーの匂い。
最初は少し震えていたが今はこの状況を確かめるかのようにじっとしている彼女。
もう私の頭の中ではこの状態から彼女を強く抱きしめて彼女の全てを愛してしまいたい、そんな考えがうごめいていた。
「そうですね、ちょっと心臓がどきどきしています」
そのまま身体をひねらせ、彼女の顔が私に近寄る。
お願い、これ以上私を壊さないで…。
自分が望んでいた事なのに残っていた理性がそれを拒絶する。
彼女の顔と私の顔はもう拳ひとつ分の空間しかなかった。
何とか誘惑を断ち切り、慌てて私はその身体から離れる。
「こ、こんな感じかしら?ちょっとでもそういう雰囲気を味わう事ができたかしら?」
私はそそくさと椅子に座り、お盆の上に乗っている冷めた紅茶を口に運ぶ。
彼女も同じように紅茶を飲み、私にその感想を話す。
「何となく、ですけど先生に後ろから抱きしめられた時にちょっと心が温かくなった、というか何というか、そんな感じがしました」
私は少し落ち着いた心で彼女に向かって説明をする。
「それがクラスの子も言ってる『胸がきゅんとなる』って感じかしら?もちろん本当に好きな男の子が出来たらもっと心臓が
どきどきするものだけれど」
そういう事を言ってる私の心臓がもうどきどきしっぱなしである。
「取りあえずこういう感じ、っていう事がちょっとでも分かったからいいんじゃない?」
私はそこまで言うと何事かも無かったようにまた勉強を始めた。
彼女も納得した表情をしているのが私の目からでも分かる。
「…ここはこの数字にxを代入して…」
表面上は何とも無かったように見える私だが、実は結構濡れていた。
抱きしめている時なんかちょっと自分の恥ずかしい液体が噴いていたのが感じる位だったのだ。
指導を終えて、ふと自分の下半身を見ると微かにジーンズの色が少し濃くなっていたからその状態は推して知るべし。
帰り道に今日の出来事を思い出す度、私の恥ずかしいところがまた濡れていく。
美保ちゃんの制服姿、シャンプーの香り、そして私がその身体をそっと抱きしめた事。
そんな事が頭の中を巡っていき、限界が訪れたのか一人暮らしをしているアパートの玄関で私は達してしまい、そこで失禁してしまった。
それでも自分のしでかした水溜りの上で彼女の事を想いながらジーンズの中に手を入れひとり慰める私がいた。
決して彼女には、私のこの想いを伝えることは無いだろう。
でも私は、それでも彼女の事が…。