「ちょっ、待て、紗枝! 誤解だって!」
「誤解ぃぃ〜〜?」
「誤解だ! あれはたまたま道を訊かれて答えてただけなんだって!」
「へぇー……崇兄は道を訊いてきた女の人と腕組んだりするんだ」
説明しよう! 二人は今、浮気詰問中なのだ!
「……ど、どこから見てた?」
「最初っから最後まで全部ー」
しかもこれで、前回から数えて二度目なのだ!
「……今の発言、認めたと見なしてももいいよね」
「待て待て待て! 最初から見てたなら分かるだろ!? あれは向こうが
いきなりやってきて俺だってびっくりしたんだぞ?」
「へー…」
男というものは、いつだって諦めと往生際が悪いのだ!
「どっちにしろ知り合いだったんだよね。初対面でそんなことする人なんか
いないもんね」
「いや、まあ、そりゃそうだが……」
「昔付き合ってた人達じゃなかったよね。あたしその人達の顔覚えてるし」
「そ、それも確かにそうだけど…」
「じゃあどこで知り合ったの?」
「あー……あぁ、えっとな、その…高校時代のクラスメイトだ」
「高校時代のクラスメイトの人が、久しぶりに会っただけで腕なんか組むの?」
「むぐ…」
しかし、言い訳をすればするほど泥沼化するのだ!
「で?」
「……」
「ほんとはどこで知り合ったの?」
「……」
「言わないならしばらくお預けだからね」
「工工工エエェェ('Д`)ェェエエ工工工」
「当たり前だろ、そんなの」
それを持ち出されたら、男にはどうすることも出来ないのだ!
「 ど こ で 知 り 合 っ た の ? 」
「その…合コンで知り合いました」
彼女への愛情も性欲も人一倍な彼には、効果はバツグンなのだ!
「 い つ ? 」
「……二週間前」
「 そ れ 、 一 回 だ け ? 」
「…………」
「 聞 い て る ん だ け ど さ 」
「その……三回くらい行きました」
一回認めてしまったら、後は崖を転がり落ちる勢いなのだ!
「ふーん……」
「あ、あの、紗枝さん?」
「うるさいからちょっと黙ってて」
「ハイ…」
付き合い方に慣れてきたのか、最近の紗枝は逞しくなってきたのだ!
「とりあえずもう話になんないよね。散々『浮気しない』って言っといて
これだもんね」
「……ごめんなさい」
「言い訳があれば聞くけど?」
だけど、ちょっと逞しくなりすぎなのだ!
「……」
「無いの? 無いなら無いで別にいいけど」
「……時に、紗枝」
「何だよ」
「お前はご飯派か? それともパン派か?」
「…ご飯だけど」
「けど、毎日ご飯だったら飽きるよな? たまにはスパゲッティとか他のもん
食いたい時もあるよな?」
「……まあ、あるけど」
「つまり、そういうことなんだ」
「……」
それは言い訳じゃなくて屁理屈なのだ!
「女の子と食べ物を同列に扱うわけ?」
「布団の上じゃ女の子も食べ物っつーのが俺の持論なんだ」
考えるまでもなく最低の持論なのだ!
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「……………………」
「……………………えへっ☆」
べきゃあっ!!
「……ゴメンナサイ」
「 本 当 だ よ ね 」
ある意味、予定調和なのだ!
「もう…いい加減にしてよ」
「……」
「あたしには『忙しい忙しい』って言っておいてさ…」
「すまん、今度こそは…」
「もう信じないから。崇兄、我慢とかするの無理みたいだし」
「……」
「認めないでよっ」
こういう時だけ潔くても、意味なんて全然無いのだ!
「罰、受けてもらうからね」
「……」
「文句無いよね?」
「……はい」
だけど、(やっぱり)別れるという選択肢は出てこないのだ!
「そんじゃ、とりあえず週末バイトって言ってたけど空けといてね。
もちろん朝から晩までだからね。当然、一回だけじゃないからね」
それははっきり言って罰じゃないのだ!
「分かった。何とかやってみる」
「うん。それと当然、しばらくはお預けだから」
「何ぃ!!」
やっぱり罰なのだ!
「たまにならいいけど…毎回はやっぱりちょっと嫌だし」
「ナズェダ!」
「……崇兄、優しくしてくれないんだもん。最初の時だけだったし」
「それはだってお前あんな表情身体仕草見せられたら我慢できねーって!」
半泣き上目遣い少し怯え気味にシーツで半端に身体隠されて吐息が震え気味だったら、
それはもう無敵なのだ!
「とにかくしばらくはダメ。たまにはそういうこと無しでもいいじゃんー」
「ど、どのくらいダメなんだ?」
「一ヶ月くらい」
「長っげーよ!」
「……反論できる立場じゃないよね?」
「うぐっ……! ……性感帯が分かったから、あれこれ開発しようと思ってたのに…」
「うっ、うるさい!」
ちなみに紗枝の性感帯は、おへそ周りなのだ!
「そんなこと言うなら、もっとずっと禁止にするよ」
「嫌だああああああ!」
「じゃあステイで」
「ぐぅぅ……っ」
自業自得なのだ!
「それじゃ、週末予定空けといてね」
「お預け……我慢…」
「崇兄?」
「…禁止……ステイ……」
「崇兄? 聞いてる?」
「……」
「……もう、しょうがないなぁ」
ちゅっ
「…ぉ……?…」
「……こっちは…嫌いじゃないよ?」
「……」
「これでも、まだ我慢できない?」
「いや……できる…多分……絶対」
「…良かった。それじゃ、待ってるからね」
「……おう」
結局、なんだかんだ言いながら二人は相変わらずなのだ!
喧嘩するのもなんとやらなのだ!
犬も食わないのだ! まる!