「ねぇ、仁」
「ん?」
ベッドに転がって雑誌をパラパラとめくるちとせ。
仁はベッドの下でゲームをしている。
「仁の好きな人って誰?」
「ん〜」
仁が顔をあげる。
「近くて遠い人」
「なにそれ。なぞなぞ?」
「そんな感じかな」
ちとせは雑誌を置いて起き上がる。
「遠距離恋愛?」
「ちょっと違う」
「え〜。でも、ちょっとか。何が遠いんだろう………ヒント」
「は?じゃあ、ここは何県?」
「静岡。えぇぇ。全然わかんないって」
「ヒントしゅうりょ〜」
「教えなさいよ」
仁の肩を掴んでグラグラと揺するちとせ。
「もう、これで終了。おしまい。あ、ちとせの好きな人教えてくれたらもう一個ヒントあげる」
「それって、全然対価違うし。それに私は今は好きな人いませんよ〜だ」
「あれ?そうなの。恋はしたほうがいいよ?」
「…………ば〜か」
「ちとせには言われたくないなぁ」
二人はケラケラと笑いながらお互いに他愛も無い話を続ける。
酒を飲み、音楽を聴き、テレビを見る。
楽しい時間はあっという間に進んでいく。
「ねぇ……好きな人って。誰?」
ちとせの問いかけに仁は応えない。
代わりに聞こえる微かな寝息。
「寝ちゃったんだ。もう、こんな時間かぁ」
ちとせは立ち上がり、毛布を仁の体にかける。
「おやすみ」
起こさないようにゆっくりと部屋を出る。
「おやすみ。ありがとうな………ちとせ」
ちとせの居なくなった部屋に、仁の声が微かに部屋の暗闇に消えていった。
帰宅途中の仁。
大会が近いせいで、帰る時間はもう真っ暗だ。
「先輩、少し厳しすぎ。お?」
アパートの前。
ちとせを見つけた。
「あれ?誰だ?」
ちとせと一緒に誰か男がいる。何か話し合っている……いや、言い争っている感じだ。
「あ、やっと帰ってきた」
ちとせが仁に気づいて駆け寄ってくる。
「お?ただいま。どし」
「この人が私の彼氏。アンタなんか、もう彼氏でもなんでもないの」
仁が聞き終わる前に、ちとせは腕を掴む。
「はぁ?このガキがかよ。どうせ、嘘なんだろ?そんな嘘つくなよ」
「彼氏ったら彼氏なの!!ね、仁。そうだよね」
仁と目のあったちとせの瞳。涙で濡れている。
「………あぁ」
ストーカーまがいのちとせの元彼。それが目の前の男。
全てを悟った仁。
「ちとせは俺の彼女だ」
「ぁっ」
仁はちとせの肩を抱き寄せ、キスをする。
「……んっ………はぁ……仁、いきなりなんて強引だよ」
「ごめん。でも、アンタもわかったろ。俺とちとせの関係」
「あぁぁ!?」
ストーカー男が仁に殴りかかる。
「おいおい」
ちとせを抱きしめたまま、上体をそらしただけで簡単に避ける。
避け際に足をひっかけると、男は簡単に転んだ。
「で?アンタはなんなんだ?」
仁は上から男を覗き込む。
「ひっ」
仁の睨みに男がひるむ。
「二度とちとせに近づくなよ」
男はコクコクとうなずく。涙目になっているところを見ると睨んだだけで相当こたえたようだ。
「んじゃ、帰るか。ちとせ」
「うん」
「ふぅ」
仁の部屋に入る二人。
ちとせは、ベッドに腰掛けて落ち着く。
「ごめんね」
仁はちとせに背を向けてたっている。
「あ、俺の方こそ……キスしちゃったし」
「いいよ。初めてじゃないしさ」
「そうかもしれないけど」
仁はうつむく。
「なに落ち込んでるのよ」
「落ち込んじゃいないけど」
「はぁ。人の後ろの初めて奪った人が、キスくらいで」
「あれは!………酔ってたし。初めてだったし」
仁が勢いよく振り向く。
ちとせは手を広げている。
「もう一回……抱きしめて」
仁は小さくうなずき、ゆっくりとちとせを抱きしめる。
「……キス……して」
もう一度うなずく。
キス。
「んっ」
「……!?」
ちとせの舌が仁の中に入ってくる。
ソレは仁の歯を舐め、唾液を流し込む。
「ちとせ」
「仁………して」
ちとせは仁を抱きしめたままベッドに倒れこむ。
「ぁっ……んんっ…」
ちとせの乳房が優しく揉まれる。
「ゃ。もっと他のとこも。ひゃん」
勃起した乳首を指でこね、軽くつねあげる。
「ちとせのおっぱい。凄く気持ちいいよ」
「うぅ……ぁっ……小さいから…んっ…私は…嫌い」
「そんなことないって。可愛いよ」
ちとせの胸に顔をうずめ、舌を這わせ、口付ける。
「………仁」
「ん?」
「……ちょっと切ない」
「どうしてほしい?」
「…………絶対に離れないくらいに、抱きしめて……仁を感じさせて。痛いくらいに」
「うん」
強く抱きしめる。
微かな痛みを感じる程度に。
「あったかい」
「うん」
………仁の胸に寄りかかるちとせ。
「ちとせ」
「ん?」
「………好きだ」
「……………うん。私も……私も、仁が好き」
二人はそれだけを言うと、深い眠りについた。
お互い、満ち足りた顔で寄り添って。