2006年1月1日。  
 新年明けて間もない今日。のんびりと露天風呂につかっている男が3人。  
「ふぅ。極楽極楽」  
 頭にタオルをのせ、どっかりと浴壁代わりの岩に背中を預けている長身の青年。  
 東俊之。この旅行の提案者。  
「東先輩。年寄りじゃないんですから」  
 湯船のど真ん中で正座している、まだ少しだけ幼さの残る少年。  
 牧村仁。実は彼女とデートしているときに東に会い、強制的に連れてこられた。  
「ま、それが俊之だからな」  
 上半身を湯船からだし、雪景色の山を眺める青年。  
 白河亮。この旅行の幹事。正確には彼の彼女がこの温泉旅館のオーナーの娘という理由で幹事をやらされたのだが。  
「あの。東先輩」  
「ん?」  
「この旅行って、東先輩と木ノ下先輩の二人で来る旅行だったんじゃないんですか?」  
「ん〜。人数が多いほうが楽しいからな」  
「そんな理由で」  
 神妙な顔つきになる仁に亮が言う。  
「まぁ、気にするな。木ノ下もみんなが来るって聞いて喜んでたみたいだしな」  
「はぁ。そうなんですか?ならいいんですけど……あと、お金は」  
「それも気にするな」  
 旅行の面子で一番の年下。なおかつタダで連れてきてもらっているため仁はかなりの負い目を感じている。  
「気にするな。俺も払ってない」  
「えぇ!?東先輩も?」  
「俺は払うと言ったんだが、美冬の親父さんが受け取ってくれなくてな。まぁ、オーナーがいいと言うんだからいいんだろ」  
「……あの。柊先輩って、白河先輩の彼女なんですよね。そんなにすごい」  
 仁が全てを言い終える前に、突然、垣根の向こう側が騒がしくなる。  
『いっちば〜ん』  
 声とともに水が跳ねる音が聞こえてくる。  
『にば〜ん』  
 再度の水音。  
『小太刀さんも種田さんも。あまりご迷惑なるようなことは避けたほうがよろしいですよ』  
『えぇぇ。でも他に誰もいないしさ』  
『そうそう。こういうときは好きなようにするのがストレス発散にいいんだよ』  
 噂をすればなんとやら。  
 どうやら隣の女湯の方には彼らの相方たちがやってきたようだ。  
 
「うわ〜……山がみんな真っ白だ!!」  
 体を隠そうともせずに立ち上がって外を見回す少女。  
 木ノ下小太刀。小学生並みの体型と思考の持ち主。あたりまえだがスタイルは3人の中で一番子供だ。  
「んふふふふふ。ぇぇい!!」  
「ひゃぁ」  
「よいではないかよいではないかぁ」  
 ゆっくり近づき小太刀の胸を揉みしだいている女性。  
 種田ちとせ。今回の旅行のメンバーの中ではもっとも年長で大学1年。女性にしては高身長とモデル並みのスタイルの持ち主。  
「ふぅ。温泉は露天にかぎります」  
 体にがっちりとタオルを巻いて完全防備の少女。  
 柊美冬。この旅館のオーナーの娘。白い肌と碧の黒髪が日本人としての美を象徴している。  
 3人ともタイプこそ違えど、かなりの美人には違いは無い。  
「今日は誘ってくれてありがとね」  
「うん。でも、お礼は美冬に言ってよ。タダで泊めてくれたんだから」  
「特に礼を言われるほどでもありません」  
 気にするなと言いたげな美冬を前に、小太刀とちとせは顔を見合わせる。  
「ん〜。でもねぇ」  
「でしたら、この温泉と食事を堪能してください。それで皆さんがよろこんでいただくことで十分ですから」  
「そういうことなら……よぉし、今日は食べるぞ」  
「お〜!!」  
 ちとせの決意表明に呼応し声を上げる小太刀。  
 美冬はそれを微笑ましく見ていた。  
 
「ねぇ」  
「はい?」  
「なに?」  
 ちとせに声をかけられ美冬と小太刀は彼女を見る。  
「二人とも、エッチってどんなことしてる?」  
 恥じることもなくちとせが聞く。  
「へ?あ……あの。えっと」  
 美冬の問いに小太刀は真っ赤になって顔半分を湯船につける。  
「あれ〜。小太刀ちゃん、こういう話苦手?」  
「……うん」  
 小さくうなずく。  
「へぇ。結構好きそうなのに。ん〜。もう、このギャップがたまらないなぁ」  
 小太刀はますます真っ赤になって今度はちとせに背を向けてしまった。  
「ふふ。美冬ちゃんは?」  
「してませんよ」  
「へ?……じゃあ、キスは?」  
「い、一度だけ」  
 美冬は先ほどの小太刀同様真っ赤になる。  
「一度!?」  
 その答えには小太刀も驚いた。  
「なにか、おかしいでしょうか?」  
「おかしいというか」  
「ねぇ」  
 きょとんとしている美冬を前に、小太刀とちとせが顔を見合わせる。  
「美冬ちゃんの家ってひょっとして籍を入れるまで操を守れとかそういうタイプ?」  
「いえ。そんなことはありませんが」  
「ならなんで?」  
「は…恥ずかしくて……ちとせさんも小太刀さんも経験はあられるのですか?」  
「私はほぼ毎日してるよ。お互い一人暮らしだし、まぁ、今は仁のとこに半同棲生活みたいなものだしね」  
「わ、私も……週に1回くらいは」  
 スラリと言うちとせと、言って真っ赤になる小太刀。  
「そうなのですか。やはり、変……なのでしょうか?」  
「ん〜。年頃の男の子だからね。モタモタしてると他の女に取られるよ?」  
「でも私は白河さんを信じてます」  
「その時点でおかしい。彼氏を苗字でさん付けなんてさ。信じる信じない以前の問題」  
「そうでしょうか?」  
「そうなの。ちなみに白河くんは美冬ちゃんのこと何て呼んでる?」  
「え……美冬です」  
「ほら。やっぱり美冬ちゃんが他人行儀なのがきっと白河くんにも距離を置かせる原因なのよ」  
 美冬だけじゃなくて小太刀もちとせの言葉に聞き入る。  
「ってわけで。泊まる部屋はそれぞれ2人ずつ別々。いい状況じゃない。決めちゃいなって」  
「え。でも。あの」  
「まず手始めに、名前で呼んでみようか。さ、練習練習」  
「り……りょ……う……さん」  
 それを言うだけで真っ赤になる。  
「ん〜。まぁ、最初はさん付けでもいいとしても、ちゃんと名前で呼んであげないと」  
「あ。はい……りょうさん……りょうさん………亮さん」  
「うんうん。言うたびに顔が真っ赤になるのを直せばそれでいいよ」  
「あ、ちーちゃんちーちゃん」  
 ちとせが美冬の訓練を終えたのを見計らって小太刀が声をかける。  
「なに?」  
「えっと……セックス……のこと」  
「ほほう。なんでもお姉さんに聞いてごらん」  
 小太刀は美冬に負けないほど真っ赤になってちとせに耳打ちする。  
「マジ?」  
 コクリと頷く。  
「あ〜。それはね……」  
「亮さん。亮さん。亮さん……」  
 ちとせと小太刀の性教育と美冬の呟きは、3人がのぼせかけるまで続いた。  
 

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