コンコン
ドアを叩く音で目をさました昼下がり。
今日は両親は居ないはずだから、ノックの主は…
「咲季、カギ開いてるぞー」
―――へんじがない、ただのそらみみのようだ。
俺は再び眠りにつこうと目を閉じた。
ドンドン
今度は強いノック。
寝起きで不機嫌な俺はイラつきながら扉の前まで動いた。
「開いてるっつって―――」
勢いよく開けたドアの先で目にしたものに、俺は絶句した。
そこにあったのは妹・咲季の変わり果てた姿。
黒いローブにウィッチハット、大きく膨らんだスカートの下には二ーソックスまで揃っている。
呆然とする俺を前に、咲季は右手のカゴを突き出しながら言った。
「トリック オア トリート?」
「えーと、まず… その服どうした?」
「お隣の千晶ねえちゃんに貰ったの」
「知らない人からモノ貰っちゃダメだって言ってるだろ。変なことされなかったか?」
「んーん、このお洋服着て写真とっただけだよ。
それにおねえちゃん知らない人じゃないもん。」
あの女、咲季がコスプレに目覚めちゃったらただじゃおかねぇ。
だいたいアイツの咲季を見る目はかなり怪しいんだよな…
「おにいちゃん、おにーちゃんってば!」
「ん? あぁ… なんだ?」
「なんだじゃないよ。トリック オア トリート?」
この服装、そしてこのフレーズ。そうか今日は…
カレンダーに目をやる。10月31日、ハロウィンだ。
これもきっと、あの女に吹き込まれたんだろう。
「つってもお菓子なんて持ってないし…」
野郎の部屋にそんなもの常備しているはずもない。
アイツはそこまで計算してけしかけたのだろう。
このまま、奴の策略に負けてなるものか…
「そう。それじゃおにいちゃん、覚悟してよっ」
妹が不敵に微笑んだ。ご丁寧に指をうねらせながら。
「ちょっとサキさん、何か勘違いしてませんか?」
「へ?」
「トリック オア トリートの意味分かってる?」
「"お菓子くれないとイタズラしちゃうぞ"でしょ? おねえちゃんが教えてくれたもん。」
「やっぱり… 咲季、お前騙されてるよ。ちょっと来てみぃ」
そういうと俺は一冊の辞書を取り出した。
「ほらこれ。"Treat"はもてなす、まぁ"お菓子をあげる"だな。」
「うんうん」
「で、次。"Trick"はイタズラ。」
「なんだ、あってるじゃない」
「いや、だから… "イタズラするかもてなすか?"って意味なの」
「え? てゆーことは…」
「そ。イタズラされるのは咲季ちゃんの方なんです」
「つーわけで… 覚悟はしてきてるよな?
イタズラしようとするってことは逆にイタズラされるかもしれないって事を覚悟してきてるんだよな?」
今度は俺がわざとらしく指を動かす。
「ちょっ、おにいちゃん何言って…」
「それっ、攻撃〜」
「きゃっ」
咲季は慌てて逃げ―――ゴチン―――壁で盛大に頭をうった。
俺の部屋は出てすぐ壁だから当然だ。
さて。廊下でのびてるこの娘をどうしたものか。
「よいしょ、っと」
とりあえず、抱きかかえてベッドに運ぶ。
その軽い体を寝かせてしばらくすると、咲季は目を覚ました。
「ううぅ…」
「お目覚めですか? お嬢様」
「むー」
ふくれっ面のお嬢様。
その頬を指でつつくと ぷひゅ とマヌケな音をたててしぼんだ。
咲季は目を丸くして驚き、俺はからかうように笑った。
「さて、それじゃさっきの続きなっ」
そういって、脇腹を思いっきりくすぐった。
「やぁん。あはははははっ、やめっ、ひゃあ。ま、待ってぇ」
「ん、どした?」
「はぁはぁ。お洋服、しわしわになっちゃう。脱ぐからちょっと待ってて」
「逃げない?」
「逃げないよっ! …だから」
咲季が少し俯いた。
「だから、優しくしてね」
上目遣いで恥ずかしそうに放たれた必殺の一撃。
理性にヒビが入る音を、俺は確かに聞いた。
―――やさしくしてね―――
その一言が脳内でリフレインして、他のすべての思考を遮る。
ヤサシクシテ? 何を?
いや待て待て、俺とお前は兄妹なんだかr―――
「おまたせ、おにいちゃん」
「はいぃっ!」
いきなり現実に引き戻されて、俺は跳ね上がった。
見れば、下着姿になった咲季が目の前に座っている。
可愛らしいフリルに彩られたキャミソールとパンツ。
魅力よりも幼さが強調されたその格好を、俺は食い入るように見つめた。
ゴクリ、呑み込む音がやけに大きく響く。
「はやくぅ」
「あ、あぁ」
俺をせかすその声に、おずおずと手を伸ばした。
脇の下を"優しく"撫で上げると―――
「きゃはははは、くすぐったーい♪ あはははははっ」
屈託なく笑う咲季を見て、俺も吹っ切れた。
「うりうり〜」
「やだぁ。優しく、んんっ してってぇ、あははははははっ」
これだけ良い反応をしてくれると、くすぐる側もノッてくるというもの。
調子に乗って脇以外のところにも指を滑らせる。
背中を撫で、首筋をなぞり、そして…
(あ。咲季の胸、やわらかい)
それは間違いなく"お兄ちゃん安全装置"の解除スイッチだった。
熱病に冒されたように何も考えられなくなって、無心に咲季の身体を触る。
はじめは生地の上から、そしてその中に手を入れ胸の感触を確かめた。
「や、ちょっとおにいちゃ ふぁあ」
うっすらと汗ばんだ肌、わずかにしこりのある胸の頂き。
成長中のふくらみを、ふにふにと指で揉んでみる。
「はっ、あぁ… ひぅっ」
甲高い笑い声だったものに、嬌声が混じってきた。
胸の先端を軽く擦ると ビクッ と大きく跳ねる。
シーツを握りしめて堪える姿が愛しくて、その小さな身体を抱き寄せて髪を撫でた。
咲季の奏でる声と荒い息遣い、そして潤んだ瞳が俺を加速する。
止まらない―――もう止まれない。
当然のように俺は"そこ"へと辿り着いた。
何かを受け入れるには幼すぎるそこに指をあてる。ぷにぷにとした肉感が心地いい。
その柔肉を分け入って指が少し沈んだとき、咲季の反応に明らかな変化がおきた。
「そこっ あっ ああん だめぇ」
断続的に身体を震わせ、そして―――
「やぁぁあああぁ…」
―――ぷしゃぁぁぁぁぁぁ
熱い飛沫を手に受けながら、俺は頭を冒していた熱が急速に冷めていくのを感じた。
手足をだらしなく投げ出し虚ろな目で惚けている咲季の横で、俺は頭を抱えていた。
実の妹になんてことを…
『かわいい妹にヒドイことしちゃった時の、仲直りの魔法♪』
ふと思い出したのは数日前の千晶の怪しい台詞と、同時に手渡された小さな紙袋。
カバンの奥に眠っていたそれを取り出すと、中には棒付きの大きな渦巻きキャンディーが入っていた。
こんなものでどうにかなる状況じゃ…
「くすん くすん」
泣き声に振り返ると咲季がぽろぽろと涙をこぼしていた。
「ごめんなさい。咲季っ、おもらし…」
「咲季は何も悪くないよ… ごめんな、兄ちゃん調子に乗り過ぎちゃって」
どうしていいか分からず、誤魔化すように咲季の頭を撫でる。
「ひっく おにいちゃあん」
「ほら、もう泣くなって。これやるから」
そう言って先程のキャンディーを差し出す。
そのとき、涙で濡れた咲季の目がわずかに光ったような気がした。
「…いいの?」
「ああ、だから」
「ありがとっ♪」
言うより早くキャンディーをひったくられた。我が妹ながら恐るべき転身の早さだ。
何事もなかったかのように嬉々としてキャンディーを舐める姿を見ると、
やっぱりまだお子様なんだなと思う。
その微笑ましい行為を眺めながら、俺は安堵の息をついた。
「ねえ、ほにいひゃん」
「行儀悪いなぁ。舐めながら喋んなよ」
「んっ… あのさ」
「なに?」
「これ、キャンディーのお礼ねっ」
乗り出した咲季がくれたもの、それは
―――マシュマロよりやわらかい唇の、アップルパイより甘いキス―――
♪Lollipop lollipop oh lolly lolly lolly
Lollipop lollipop oh lolly lolly lolly
Lollipop lollipop oh lolly lolly lolly
Lollipop!!
(bo bon bon bon)
Call my baby lollipop tell you why her kiss sweeter than an pumpkin pie
And when she does a shaky rockin' dance Girl, I haven't got a chance I call her
「ふふふふ… あの子、上手くやったかしら」
軽快な替え歌をひとしきり口ずさんだあと、千晶は不敵に口元を歪ませた。
「教えた通りの台詞喋れば、間違いなくアイツは堕ちてるはず。
あとは詳細を報告してもらって… 幼馴染みがネタの宝庫ってのは楽で良いわね。
アタシも気合い入れて冬コミまでに仕上げないとっ」
ある男が妹の描いた壮大な地図の処理に悩まされている数メートル先で、策士の高笑いが響いた。