ちりん  
 涼しげな風鈴の音が、熱帯夜の蒸し暑さを幾分和らげてくれる。  
 エアコンを切った居間の窓は開け放たれて、  
新鮮な夏の空気と満点の星空を部屋の中に送り届けていた。  
 夏はまだまだ終わりそうにない。  
 
『魔法怪盗団』が巻き起こした珍騒動が一段落してから、数ヶ月が過ぎた。  
 いや、珍騒動と言ったら当事者達には失礼かな。  
よくわからないけど、割と世界がピーンチだったらしいし。  
 とにかく、それ以降は世間にこれといった騒ぎもなく、極めて平穏な日常が続いている。  
 8月――猛暑の盛り。  
 それは、僕こと『赤松 英』が体験する最後の夏となった。  
 
「……お化け屋敷?……」  
 いつものように勝手に煎れたお茶を飲みながら、“いたくぁ”さんがきょとんとした無表情で呟いた。  
最近、何となくだけど彼女の無表情に隠れた感情が読み取れるようになった気がする。  
あくまで気がするだけだけど。  
「くぅん?」  
 “てぃんだろす”が僕の膝の上から不思議そうな表情で僕の顔を見上げた。  
『お化け屋敷』という単語がいきなり飛び出した理由がよく分からないのだろう。  
「いや、来週に町内会主催の夏祭りがあるんですけど――」  
 僕はつい数時間前に町内会長の菊池さんから頼まれた話をそのまま繰り返した。  
 夏祭りの出し物で、子供向けのお化け屋敷があるのだけど、  
ちょっとしたトラブルでお化け役の人達が当日に会場へ来れなくなってしまったらしい。  
で、その代役として僕に話が回ってきたというわけだ。  
当然、『なぜ一介のWEBデザイナーに過ぎない僕がお化け役の手配を?』と抗議したけど、  
お前の周囲には怪しい連中がウジャウジャいるからという推薦理由に、僕は一言も反論できなかった……  
「菊地さんは僕の父の親友で、父が亡くなってから色々とお世話になった人なんですよ。断りきれなくってさ」  
「つまリ、我々に臨時のお化け役を代行して欲しいト……?」  
 台所からお盆に乗せた西瓜と麦茶を持って来てくれた“しょごす”さんが、糸目を僅かに綻ばせながら首を傾げる。  
「早い話がそういう事です。まぁ、子供向けの小さなお化け屋敷で、ちょっと真似事するだけですから。  
報酬にお米券も貰えますよ」  
「承知しましタ。私の能力ならばお化け役に最適でしょウ。お米券の為に粉身努力致しまス」  
 いやぁ、『邪神』の皆さんにお化け役をやらせるなんて無茶苦茶失礼な気もしますし、  
嫌なら正式に断りますから――そう言おうとした矢先に、“しょごす”さんはきっぱりと即答で承知してくれた。  
とほほ、これで後に引けなくなっちゃったなぁ。  
実は『賛同者が誰もいなかったので、残念ですがこの話は無かった事に』……という展開を期待していたんだけど。  
 
 でも、確かに“しょごす”さんはお化け役としては最適だろう。  
ろくろ首、のっぺらぼう、二口女、その他どんなお化け役でもオールオッケーだ。  
本人も(なぜか)乗り気らしく、わざわざ背景に炎の演出効果を肉体変化で出現させて、  
シャドーボクシングの真似事をしている。  
 しかし、“しょごす”さん1人だけでは人数的に無理があるよなぁ。  
「わん、わんわん!」  
 そんな僕の考えが顔に出たのか、  
“てぃんだろす”が片手を上げながら尻尾をぱたぱた振って立候補してきた。  
でも……くりくりとした愛くるしい瞳、ロリロリでプニプニな小さな身体、  
思わず抱き締めたくなるくらい可愛らしい顔立ち……  
「残念だけど、“てぃんだろす”には向いてないんじゃないかな……」  
「くぅん……」  
 しょぼんと項垂れる“てぃんだろす”の頭を撫でながら、  
僕はすぐ目の前で西瓜を頬張っている“いたくぁ”さんに――  
「……やだ……」  
 ……とほほ、まだ何も言ってないのに……  
 気を取り直して――とにかく、お化け役に向いてそうな邪神さん達にかたっぱしからお願いしてみよう。  
 ただし、今ここにはいないけど、“ばいあくへー”さんにお願いするのもアレだし、  
手首でミサンガ状態の“おとしご”ちゃんに頼むのも問題外だ。  
 そうなると、やっぱり――  
 
「困った時の“つぁとぅぐあ”さ〜ん」  
「ふわぁ……おはようございますねぇ」  
 何時ものように供物(おにぎり)を捧げに来た僕を、  
“つぁとぅぐあ”さんは相変わらずのんびりと、美しく、おっとりと、華麗に、ぽわぽわと、威厳に満ちて、  
聖母のように優しく、魔王のように恐ろしく、ふにゃふにゃっと迎えてくれた。  
 あああああ、相変わらず彼女は理不尽なくらい美しい……  
見惚れるあまりに思わず使命を忘れそうなくらいだ。  
 ……って、それじゃ駄目だよ自分。僕は蕩けそうな魂に活を入れて、眠そうなタレ目を擦りながらも、  
『にへら〜』と微笑みながらおにぎりを頬張る“つぁとぅぐあ”さんにきっぱりと声をかけた。  
ちょっと声が裏返ったけど。  
「実は、例によってちょっと相談があるのですが」  
 僕はお化け役を探している件を包み隠さず“つぁとぅぐあ”さんに伝えた。  
「ん〜……そうですかぁ」  
 ちょっと小首を傾げながら、最後の一口を飲み込んだ“つぁとぅぐあ”さんは、  
「それではぁ……『恩恵』をぉ」  
 あの『にへら〜』ではない、地獄の女神のように妖艶な笑みを浮かべて、  
僕に向かってずいと身を乗り出してきた。咄嗟に目を閉じなかったら、  
僕は一瞬の躊躇もなく彼女を押し倒していただろう。  
「い、い、いえいえ!! そうじゃくて、  
“つぁとぅぐあ”さんの知り合いに引き受けてくれる御方はいないかなーって……」  
 “つぁとぅぐあ”さん本人には流石に頼めなかった。  
子供向けのお化け屋敷を18禁にするわけにはいかないし。  
「そうですかぁ……ええとぉ、一目でSAN値が0になるような知り合いなら沢山いるのですがぁ」  
「こ、子供向けなので、できるだけ穏便に……」  
「難しいですねぇ」  
「あ、そうだ。あの御方はどうですかね? ただ暗闇に立っているだけで死ぬほど恐そう――」  
「あら、呼びまして?」  
「――ッ!?」  
 いきなり背後から“当人”に声をかけられて、僕は魂の髄まで凍り付いた。  
 
 糸の切れた人形のようなぎこちない動作で振り向くと、  
漆黒の長髪と同じ色のセーラー服を着た魔性の玲嬢“あとらっく=なちゃ”さんがすぐ目の前にいた。  
ギェー。  
「おおおおお、おっはようございます!! 今日も相変わらず反則的なくらいお美しいですね!!」  
「ふふふ、取って付けたようなお世辞、ありがとうございますわ」  
 恐い。何の敵意も見せてないのに無茶苦茶恐い。  
その意味では、お化け役には向いてるかもしれない。  
「色々な意味で興味深いお話が聞こえましたが……」  
「ええと、いや、その、あの」  
「そうですねぇ……“あとらっく=なちゃ”ちゃんはお化け役やってみませんかぁ?  
ひでぼんさんの推薦ですぅ」  
 あああああ、サラリと火に油をガロン単位で注いでくれるなぁ。この御方は……  
……グッバイマイライフ。  
 ところが、“あとらっく=なちゃ”さんの返答は意外なものだった。  
「そうですわね……深淵の橋作りも一段落した事ですし、退屈凌ぎにはなりそうですわね」  
「え、いいんですか?」  
「それに、子供向けという点が気に入りましたわ」  
 ……ああ、そういう意図ですか。お手柔らかに頼みますね。  
「そうだ、“あぶほーす”さんは――」  
「あの子はこのン・カイからほとんど動く事は無いから、間違い無く断られると思いますわよ」  
 うーん、これでようやく2人ゲットか……やっぱりまだまだ足りないよなぁ。どうしようか?  
龍田川さんにお願いしたら月までブン殴られるだろうし。俳句付きで。  
「あぁ、良い事を思いつきましたねぇ」  
 その時、“つぁとぅぐあ”さんがぽふっと手を打ち合わせた。  
「あの方達にお願いすればイイと思いますよぉ」  
 
 暗黒世界ン・カイは広い。  
 基本的には地球の地下に存在するらしいけど、  
例によって邪神の不思議パワーでほとんど無限大と言っていい空間容量があるそうだ。  
その広大な空間の中には、“つぁとぅぐあ”さんや“あとらっく=なちゃ”さん、“あぶほーす”さん以外にも、  
まだ人間に知られていない様々な邪神さんが生息しているという。  
 で、“つぁとぅぐあ”さんに紹介されたのは、  
昔、“つぁとぅぐあ”さん達がヴーアミタドレス山の地底に暮らしていた頃、  
同じ地下世界に住んでいた邪神さんだという。  
 “つぁとぅぐあ”さん達の名前を出せば、快く引き受けてくれるというけど……大丈夫かな?  
「……っ?」  
 先導する“おとしご”ちゃんに袖口を引かれて、僕は物思いから醒めた。  
彼女の道案内が無かったら、僕はたちまち迷子になっていただろう。  
 気付けば、周囲の光景は一変していた。いつ、どんなタイミングで変わったのか、僕にはまるでわからない。  
 水晶の柱だけが光源のごつごつした岩肌だった世界が、  
大理石のような石材で造られた、白い円形の広間に変貌していたんだ。  
 どうやら、すでに邪神さんのテリトリーに踏み込んでいるらしい。  
 広間の中心には高い円柱が聳え立ち、かなり急角度な階段が頂上へと伸びている。  
「……何用ぢゃ?」  
 その円柱の頂上から、その声は聞こえた。舌っ足らずな女の子の声なのに、  
とてつもない威厳に満ちた『神様』特有の轟きが、僕の身体と心を硬直させる。  
“おとしご”ちゃんが心配そうに僕の背中を撫でてくれなかったら、このまま永遠に硬直していたかもしれない。  
「え、ええ、ええと……ぼ、僕は“つぁとぅぐあ”神の血の捧げものでございますっ!!」  
 “つぁとぅぐあ”さんに言われた通りに、僕は名乗った。  
何だか不吉っぽいフレーズだけど、ホントにこの名乗り方でいいのかな?  
 
「ほう、“つぁとぅぐあ”殿の捧げものか。何十万年ぶりになろうか……近う寄れなのぢゃ」  
 彼女の名前を出した途端、声の主の響きが少しだけど和らいだような気がする。  
円柱があまりに高いので、その頂上にいるだろう声の主の姿はまるで見えない。  
「ええと、その……」  
 しかし、僕が階段を上るのを躊躇しているのは、単に死ぬほど疲れそうなだけじゃなかった。  
「…………」  
 超巨大な蛇が一匹、円柱にとぐろを巻きながら、冷血な瞳で僕を見下ろしているからだ。ひえー!!  
「ち、ちょっとそちらに向かうのは無理っぽいのですが……」  
「なんぢゃと? ええい、仕方の無い奴ぢゃのぅ」  
 心底飽きれたような返答と同時に、遥かな塔の高みから、  
僕の目の前に1人の少女が音も無く現れた――と思う。  
まるで初めからそこに存在していたかのような、あまりにも唐突な出現だった。  
 でも、僕の口をあんぐりと開かせたのは、その魔法みたいな登場シーンじゃない。  
 歳の頃10歳前後の、御伽噺のお姫様みたいな白いドレスを着た、  
身震いするくらい可愛らしい美少女――釣り目気味でちょっと気が強そうだけど――が、  
その人物の正体だったからじゃない。  
 頭が無い――彼女の身体には、首から上がなかった。  
そして、金色の王冠をかぶり、おでこがチャーミングな顔を薄いベールで隠した自分の頭を、  
なんと小脇に抱えているんだ。  
「なんぢゃ、人間ではないか。人間の生贄などいらぬのぢゃ」  
 あああああ、胴体の無い生首がきっちりはっきりと喋ってる!!  
 え、えーと、落ちつけ自分。まずは過呼吸寸前まで深呼吸だ。  
どんなにドッギャーンな姿格好でも、相手が邪神さんならある意味当然じゃないか。  
それに、以前こんな姿のキャラを漫画やアニメで見た覚えがあった。  
確か、デュラハンとかブロッケンナントカとかいう人外さんだったかな?  
対戦では毒ガス攻撃禁止令が出たという……いやいや、そういう話じゃなくって。  
 
「わらわの尊名は“はおん=どる”ぢゃ……これ、おぬしも名乗り返すのが礼儀であろう」  
「ぼ、僕の名前は! ひでぼんこと赤松 英です!!」  
 特に怒鳴られたり凄まれたわけではないけどに、僕はガタガタ震えながら答えた。  
なまじ相手がとてつもなく可愛らしい美少女なだけに、逆にムチャクチャ恐い。  
なるほど、“つぁとぅぐあ”さんの言う通りお化け役向きだ。必要以上に。  
「ふむ、それでそのひでぼんとやらがわらわに何用なのぢゃ?  
“つぁとぅぐあ”殿の血の生贄など、わらわに会う為の方便であろ?  
つまらぬ話であったら後悔する事になるぢゃぞ」  
「す、すいません!! 出直してきます!!」  
「今ここで話さないのなら、もっと後悔する事になるのぢゃ」  
「……ええと、実は――」  
 僕は自分の死刑宣告書を読み上げる心地で、お化け屋敷の件を包み隠さず伝えた。  
「ほほぅ……このわらわを下賎な祭事の道化役になれと申すか……面白いのぢゃ」  
 うわーい。“はおん=どる”さんの腕の中で俯く彼女の首が、  
怒りでわなわな震えているのがはっきりわかるよー。短い人生だったなー。  
 そして、彼女の全身から怒りの波動が迸ろうとした――その時、  
黒い影が僕と“はおん=どる”さんの間を猛スピードで横切った。  
「あ」  
「ぢゃ!?」  
 “はおん=どる”さんの驚きの表情が――いや、顔が頭ごと消えた。  
後には首の無い胴体だけが、呆然と突っ立っている。  
 そして、円柱の影に人影がフッと出現した……って、あの子は!  
「“おとしご”ちゃん?」  
 そう、“おとしご”ちゃんが“はおん=どる”さんの生首を抱えていたんだ。  
「ぢゃ〜!! 何をするのぢゃ!! 離せ無礼者め〜!!」  
 “はおん=どる”さんの生首が喚き散らすと同時に、  
頭の無い胴体がスカートを引き摺りながら“おとしご”ちゃんに迫ろうとする。  
しかし、その動作は僕から見てもフラフラと危なっかしく頼りなげだった。  
 これは、もしかして……  
 
「ぢゃ!?」  
 僕は素早く“はおん=どる”さんの身体を抱きかかえた。  
「はなせ〜!! 何をするのぢゃ無礼者〜!!」  
 ジタバタと細い手足を振り回す彼女だけど、  
その抵抗は片手で押さえられるくらい弱々しい、年齢相応なものだ。  
 もしかして……“はおん=どる”さんって、頭と胴体が離れると力が出せない?  
「“はおん=どる”さん、改めてお願いしますけど、お化け役を引き受けてもらえませんか?」  
「ふ、ふざけるのもいい加減に――っきゃははははははっっっ!!!」  
 ちょっと腋の下をくすぐっただけで、彼女の生首は甲高い笑い声を漏らした。  
これはちょっと……面白いかも。  
「ひゃははははははっ!! やっやめっ!!  
きゃはははははは!! ひゃはぅん!! あっははははははっっっ……!!」  
 たっぷり1分間、念入りにこちょこちょと腋の下をくすぐってから、僕は指の動きを止めた。  
「もう一度聞きます。お化け役を引き受けてもらえませんか?」  
「はぁ……はぁ……だ、誰がぁ――んひゃあぁははははははははは!!!」  
 再び僕の指が踊る。まるで楽器を奏でるように、  
“はおん=どる”さんの頭から泣き声と笑い声の入り混じった叫びが溢れ出す。  
 よし、このまま上手くお願いできれば――  
「きゃはははぅぅぅ……ひゃふぅん!! んぁははあああ……あああっ!!」  
 ところが、時間が経つにつれて彼女の笑い声に変化が訪れた。  
「あはぁああ……ぁああんっ! ふわぁあああん!!」  
 笑い声に徐々に甘い響きが混ざり、泣き笑う“はおん=どる”さんの表情も切なくなっていった。  
そして――  
「ひゃうぅうううううう――!!!」  
 ビクビクっと小柄な身体が痙攣するや、ぐったりと力が抜けたかと思うと、  
 ぷしゃあああああ……  
 股間から生暖かく香ばしい液体が漏れ出して、白いロングスカートを黄色く汚していった。  
 
 ええと……イっちゃったの? ただ腋の下をくすぐっただけで?  
 これは、くすぐりの拷問にあるような苦しさのあまりの発作じゃなかった。  
彼女は明らかにこの行為に快楽を感じて、性的興奮で達したんだ。  
 それなら、遠慮は無用だね。  
「くどいようですが、もう一度聞きます……お化け役をお願いできませんか?」  
「……はぁ…はぁ……い…いやぁ……ふわぁあああああっっっ!!!」  
 また僕の指が彼女の身体を演奏する。今度は腋の下だけじゃなくて、全身をまさぐるように。  
「ふひゃぁああん!! あふぅうう!! きゃはあぁああああん!!」  
 おへそを指でクニクニをほじくり、あばら骨の間を伝う。  
太ももの付け根を撫で回し、足の指をくすぐる。首筋と耳の裏も――って、それは無理か。  
 執拗なくすぐりプレイに、“はおん=どる”さんは全身をくねらせながら悶絶した。  
股間はオシッコと愛液でビショビショとなり、平坦な胸には勃起した乳首が震えている。  
身体が断続的にイきっぱなしのようだ。  
 まぁ、いくら可愛らしい美少女とはいえ、  
首の無い胴体だけを愛撫できるなんて異常な行為にしか見えないだろうけど……  
今の僕はそれをごく自然に行っていた。  
おそらく、いつもの『人外の淫靡』に囚われていたのだろう。  
 そして――  
「ひゃぁあああああん!! やるっ!! やりますっ!!  
だからもう勘弁して欲しいのぢゃあああああ!!!」  
 数十分後、やっとその言葉が“はおん=どる”さんの口から飛び出してから、  
ようやく僕は彼女の身体を開放したのだった……  
 
「ええと……ムチャな事してしまって、すいません」  
「ふん、謝るくらいなら、初めからやらなければいいのぢゃ」  
 ひっしと涙目を浮かべた自分の頭を抱える“はおん=どる”さんに、  
僕はペコペコと頭を下げていた。  
 まぁ、その前に“つぁとぅぐあ”さん印のお化け役引き受け誓約書に、  
しっかりと署名させたけど。  
 とにかく、これで3人目をゲットできたわけだ。  
「……ところで、わらわの方からも、おぬしに条件があるのぢゃ」  
「え?」  
 思わず身構える僕の耳元に、“はおん=どる”さんは自分の頭を近付けて、そっと耳打ちした。  
「……全てが終わったら……ええと……またくすぐって欲しいのぢゃ」  
 その顔は、トマトみたいに真っ赤だった。  
 
「さて、次はどこに向かえばいいのかな」  
 くいくい  
 僕の肩の上に乗る“おとしご”ちゃんが、服の襟首を引っ張って行き先を教えてくれる。  
とはいっても、僕の目には周囲と同じ光景――暗黒の空間とごつごつした黒い岩肌、  
光源代わりの水晶柱が星々のように輝いているのが見えるだけだ。  
 ちなみに、先刻まで恥ずかしがって僕の側に近寄ろうとしなかった“おとしご”ちゃんが、  
急に僕に肩車を要求したのは、“はおん=どる”さんとのプレイに嫉妬したからなのかな……  
……というのは、僕の勝手な想像だけど。  
「……っ!?」  
 ――と、これまた急に何の前触れも無く、目の前の光景が一変した。  
それだけなら邪神の不思議パワーでと理解できるけど、僕の目を丸くしたのは、  
その光景があまりにも『暗黒世界』に似つかわしくないからだった。  
 床や壁は継ぎ目1つ無い、光沢のある金属製の素材で構成されて、  
球とか三角推とか正立方体とか奇妙なデザインの――しかし、非常に洗練されたビルが立ち並ぶ。  
透明チューブ型の道路が、ビルの隙間を縫うように展開されている……という、  
まるで海外古典SFの未来都市みたいな町並みが、広がっていたんだ。  
「ええと……今は21世紀初頭ですよね?」  
 独り言が妙に空しく響いたのは、僕達以外にこの未来都市に動いたり音を出したりするものが、  
何一つ存在しないように見えるからだ。  
『何らかの理由で住民が放棄した未来都市』――強引に喩えれば、そんな感じかな。  
「おや、お客さんニョロ〜?」  
 その時、僕の想像を否定する声が、さっきと同じように僕の頭上から聞こえてきた。  
見上げれば、正面ビルの五階の窓から、上半身を乗り出している女性がいる。  
歳は20歳くらいか。眼鏡が良く似合う、理知的そうな美女だった。  
ビジネススーツ風の真っ赤な服を着て、透明感のある緑色の髪をアップした姿に、  
僕は理系の美人女教師を連想した。  
「人間なんて、数十万年ぶりに見たニョロ」  
 その、マヌケな語尾を除けばね……  
 
 くいくい  
 ……あ、そうだ。  
 “おとしご”ちゃんに襟首を引っ張られて、  
僕は咳払いしつつ“つぁとぅぐあ”さんに教わった口上を述べた。  
「あー、僕は“つぁとぅぐあ”神の血の捧げ――」  
「ちょっと待つニョロよ。今、そちらに向かうニョロ〜」  
 そう明るく言って……なんと、彼女は五階の窓から飛び降りたんだ!!  
「!!」  
 でも、僕を驚愕させたのは、五階から飛び降りたという事実ではなく、  
その際の異様な彼女のシルエットだ。  
 あ、あ、あれはもしかして……  
 むくり、と何事も無かったように彼女が起き上がる。  
その姿は、僕が今まで遭遇してきた邪神の中でも一際異様だった。  
 上半身は知的な眼鏡美女なんだけど……なんと、下半身が10mはありそうな虹色の巨大な蛇の尻尾!!  
 えーと、これって確かラミアとかいう人外さんだったかな? 巨乳で語尾が変だという……  
 驚愕の僕を尻目に、蛇女さんは首を傾けながらにっこり微笑んだ。  
「私の名前は“へびにんげん”ニョロ〜」  
 うわー、そのまんまな名前なんですね……語尾もすごくヘビっぽいし。  
「僕は赤松 英と言います。渾名はひでぼんです」  
「ひでぼん君ニョロか、よろしくニョロ〜」  
 差し出された綺麗な手をシェイクハンドしながら、僕は彼女に対する第一印象を修正しつつあった。  
にこやかな彼女からは敵意も悪意もまるで感じられない。  
どうやら悪い人――じゃない、邪神さんじゃないみたいだ。  
もちろん、僕の勝手な思い込みかもしれないけど。  
「とりあえず、お茶を出すニョロ。ゆっくりしていけばいいニョロよ」  
「ありがとうございます。でも、その前にお願いしたい事が……」  
「ニョロっ?」  
 
 “へびにんげん”さんは、くりっと小首を傾げて見せた。  
人間にはありえない角度に曲がったように見えたけど、忘れよう。  
 僕は自分が“つぁとぅぐあ”さん達の接触者である事と、  
お化け役についての紹介を包み隠さず彼女に伝えた。  
「OKニョロよ」  
 即答だ。わーい、ホントにいい人だよー。  
「……ただし、こちらのお願いも聞いて欲しいニョロ」  
 その時――彼女の瞳がヘビっぽくキラーンと光ったような気がした。  
「な、何でしょうかっ?」  
 人が変わったような不気味な雰囲気に、思わず1歩後退りしてしまう。  
「私は“へびにんげん”……とっても研究熱心な科学的種族なのニョロよ」  
 ズルズルと、2歩分彼女がにじり寄った。  
「そ、それで……?」  
「数多くの邪神と交流している人間……研究のサンプルにはもってこいニョロっ!!」  
 次の瞬間、彼女の尻尾が猛スピードで蠢き――瞬きにも満たない一瞬の間に、  
僕の身体は彼女の尻尾でぐるぐる巻きに拘束されてしまったんだ。ひぇええええええ!!!  
 同時に、素早く“おとしご”ちゃんが“へびにんげん”さんに飛びかかったのだけど、  
「ちょっと大人しくしているニョロ」  
 “へびにんげん”さんの胸ポケットから独りでに飛び出した虹色の液体が降りかかると、  
ぽてん、と力無く床に落ちて、そのまま小さな寝息を立てて眠っちゃったんだ。  
 あわわわわ……よく考えなくても大ピーンチ!!  
「ぼ、僕をどうするつもりですか!?」  
「心配しなくても大丈夫ニョロ。ちょっと精を採取するだけニョロ〜」  
 “へびにんげん”さんの瞳が、さっきとは違う光をキラーンと放った……気がする。  
 このパターンは……もしかすると……  
「ほ〜れ、よいではないかよいではないかニョロ〜」  
「あーれー」  
 そして、予想通りに僕のズボンとパンツは一瞬の内に剥ぎ取られた。  
ギンギンに勃起したペニスが彼女の顔にぶつかりそうな勢いで飛び出したのも、ある意味予想通りだ。  
「痛くしないから、大人しく採取されるニョロ」  
 しかし、彼女が自分のスーツを脱いで、胸元を肌蹴た瞬間――  
 
 ぶるるるるるんっ!!  
「え!?」  
 まさか、“つぁとぅぐあ”さんに匹敵するくらいの巨大な爆乳が、  
服を内側から爆発させるような勢いでまろび出るとは思わなかった……  
 血色が良い艶やかなボリューム満点の乳房は、  
“へびにんげん”さんの指の動きに合わせてむにゅむにゅと淫猥に形を変えては、  
手が離れると弾けるように元の大迫力な美乳の形に戻った。  
信じられないくらい柔らかくて張りのある乳房だ。  
朱鷺色の乳輪はやや大きめで形も良く、陥没気味だった乳頭が徐々に顔を出していく……  
それは僕の理性を破壊するには十二分だった。  
「ほっほっほ、オッパイには自信があるニョロ〜」  
 そう妖しく瞳を細めた“へびにんげん”さんは、一気に僕のペニスをその爆乳で包み込んだ。  
「はううっ」  
 思わず悲鳴のような声が漏れる。それくらい彼女のパイズリは気持ち良かった。  
左右から爆乳を挟む手がムニムニと動く度に、まるで別の生き物のように乳房が脈動し、  
とてつもない快楽の波を伝えてくれる。気持ちいい。夢のように気持ちいい。  
まさか“つぁとぅぐあ”さんに匹敵するパイズリに使い手がいるとは思わなかった。  
“つぁとぅぐあ”さんの暖かく肌に吸いつくような感触とは違って、  
“へびにんげん”さんの爆乳はひんやりと冷たく、さらさらしている。やっぱり変温動物なのかな。  
とにかく、そんな差異が“つぁとぅぐあ”さんのパイズリとはまた違った極上の快楽を与えてくれた。  
「これはこれは、とっても逞しくて興味深いペニスニョロね……それでは、そろそろ精を採取するニョロ〜」  
 そして、“へびにんげん”さんは爆乳の隙間から顔を出す亀頭をぱくりと咥えた。  
ひんやりとした咥内の感触が、僕の背筋をゾクゾクと震わせる……  
 
 かぷっ  
「!?」  
 “へびにんげん”さんの鋭い牙が、優しくペニスのカリを甘噛みした――瞬間、  
まるでスイッチを入れたように、僕は大量のザーメンを彼女の喉の奥へと放っていた。  
尋常じゃない量の白濁液を、しかし“へびにんげん”さんは何の躊躇も無く飲み干してくれる。  
息を吐きながら口元を拭い、  
「ふぅ、無事にサンプルを採取できたニョロよ」  
 相変わらず口調に似合わない妖艶な仕草で、ようやくあの爆乳サンドイッチから肉棒を開放してくれた。  
 でも……  
「でも、もう少し量が欲しいニョロ」  
「へ?」  
 射精後の脱力感に浸っていた僕のペニスに、細長い何かが素早く巻き付いて、  
「ほれほれ、もっと出すニョロよ〜」  
「はううっ」  
 イったばかりで敏感なペニスを容赦無くゴシゴシとしごき始めたんだ。  
 僕のペニスを愛撫するもの――それは、彼女の尻尾の先端だった。  
未知なる器官が与える未知なる快感に、射精したばかりのペニスは一瞬にして回復してしまう。  
「とどめニョロっ」  
 あまつさえ、その上から再びあの爆乳が挟み込んで、亀頭をしゃぶってくれるのだからたまらない。  
股間に立て続けに電流が流されるような、凄まじい快感――そして、  
「うううっ」  
「きゃはぁ……んぐんぐ……いっぱい出たニョロ〜」  
 先程以上に溢れ出た白濁液を、今度も“へびにんげん”さんは一滴残らず飲み干してくれた……  
 
 なでなで  
「……ん?…ああ、大丈夫だよ……“つぁとぅぐあ”さんとやる時なんか、こんなものじゃ済まないし……」  
 あれから“へびにんげん”さんにたっぷり十数回搾り取られた僕は、  
心配そうに背中を撫でる“おとしご”ちゃんに、頬の扱けた顔で無理矢理唇の端を吊り上げて見せた。  
 恐ろしく体力を消費しちゃったけど、まぁ、無事に約束を取れたのだから良しとしよう。  
実際、役得という気もするし。  
「ええと、確か“つぁとぅぐあ”さんに紹介された邪神さんは、次が最後だよね。まだ着かないのかな?」  
 暗闇を照らす水晶の柱も、徐々に数を減っていく。  
以前、“ばいあくへー”さんの件で訪れた事のある、ン・カイの最深部――  
“あぶほーす”さんの住処までもうすぐ辿り着いてしまうだろう。  
「ねぇ――」  
 “おとしご”ちゃんに意見を求めようとした――瞬間、  
 ひゅぅぅぅぅぅぅ……どろどろどろどろ〜〜〜  
 日本の夏の怪談話でお馴染みのBGMが、闇の奥から聞こえてきた。  
 ぼっ ぼっ ぼっ  
 御丁寧にも、青い人魂まで周囲を漂い始める。  
 そして――  
「う〜ら〜め〜し〜や〜」  
 陰気そうな声と共に、灰色の死装束に青白い肌、長い黒髪に三角形の頭部パーツを着けた、  
思いっっっっっきりステロでレトロなタイプな『日本の幽霊』って感じの、  
超お約束な幽霊さんが闇の中から出現したんだ。  
「……“おとしご”ちゃん?」  
 肩車している“おとしご”ちゃんに声をかけると、こくこくと頷いた。  
 やっぱり、このどこからどう見ても幽霊以外の何者でもない御方が、最後の紹介邪神さんというわけか。  
 軽く咳払いして、例の口上を述べる。  
「えー、僕は“つぁとぅぐあ”神の血の捧げものでございます。  
名前は赤松 英。親しい人――じゃない、神様からはひでぼんと呼ばれています。  
貴方も邪神さんなのですよね?」  
「……なんだか〜私だけ〜おざなりな〜名乗りを〜されているような〜」  
 すいません、あまりに古典的な幽霊っぽい姿格好なので、逆に恐くないんです。  
やっぱり本体は氷漬けになっているのかな?  
 
「私は〜“あるけたいぷ”と〜申します〜」  
 両手を前に垂らしたお馴染みのポーズを取りながら、“あるけたいぷ”さんは深々と頭を下げてくれた。  
長い黒髪に隠されて、その表情はまるでわからない。まぁ、きっと幽霊っぽい顔なんだろうなぁ。  
「それで〜この私に〜何の御用でしょうか〜」  
「ええと、実はですね、貴方にピッタリのお願いがありまして――」  
 お化け役の依頼を“あるけたいぷ”さんに伝えると、彼女はより陰気な溜息を吐いた。  
「それは〜私に〜死ねと言う事ですか〜」  
「え? 失礼ですが“あるけたいぷ”さんって、もう死んでるのでは……」  
「ヒドイ〜まだ実体はありますよ〜太古の霊体という説も〜ありますが〜」  
「は?」  
「気にしないで下さい〜裏設定というものです〜」  
「は、はぁ……」  
 うーん、もう慣れたとはいえ、やっぱり邪神の言動は意味不明だなぁ。  
「それで、なぜお化け役を引き受ける事が死ぬ事になるんですか?」  
「私が〜この場を動いたら〜母上に〜私の存在がバレてしまうの〜  
母上に見つかったら〜食べられて同化されてしまうの〜」  
「ぶ、物騒なお母さんですね……どんなお母さんなんですか?  
場合によっては“つぁとぅぐあ”さん達にお願いすれば――」  
「“あぶほーす”神と〜いいます〜偉大なる外なる神々で〜」  
「ああ、それなら問題ないです」  
「はぁ〜?」  
 
「あ、こんにちは“あぶほーす”さん。実は赫赫云々なんですか、見逃してもらえませんか?」  
「…………」  
「おっけー? どうもありがとうございます」  
 
「――というわけで、もう大丈夫ですよ」  
 “あるけたいぷ”さんは、ぽかんとした顔で僕の話を聞いていた。いや、髪で顔が隠されているから推測だけど。  
 ぱん  
 ん? 今、何か音がしたような……?  
「あ〜り〜が〜と〜う〜ご〜ざ〜い〜ま〜す〜」  
 そして、“あるけたいぷ”さんは陰気に喜びの声を上げると、いきなり僕に抱き付いてきたんだ……って、ええっ!?  
「これで〜私は自由の身です〜感謝感激雨霰です〜」  
 しかし、僕を動揺させたのは、幽霊に抱き付かれるという心霊体験じゃなかった。  
(う、美しい……)  
 はらりと横に揺れた前髪の陰から、蕩ける様に美しい、天上典雅な極上の美貌が現れたんだ。  
外見年齢は30歳くらいか。伏目がちの切れ長の瞳に細い柳眉。すっきりとした鼻筋に形の良い唇。  
優しそうでおしとやかで、母性にあふれた美しさ――これはやばい。  
人知を超えた文字通り人外の領域な超絶美女や美少女なら、今までの邪神との遭遇で見慣れている筈だけど、  
僕自身の『女性の好み』という点を考慮すれば、この“あるけたいぷ”さんは、  
“つぁとぅぐあ”さんや“しゅぶ=にぐらす”さんに次ぐくらいの超好みな外見なんだ。  
それに、こうして抱き付かれて初めて分かったけど、灰色の地味な死装束の内側に、  
豊満な乳房とムチムチしたお尻の肉感的な肢体が存在するのが実感できる。  
もう疲れ果てた僕のペニスが、鎌首をもたげてきた――  
 いかんいかん、鎮まれ僕の生殖本能。いくら相手が人外の美貌を誇る超好みな邪神さんとはいえ、  
相手が誘ってるわけでもないのに、野獣と化しては男の尊厳に関わるし、相手にも失礼――  
「この御恩は〜一生忘れません〜私にできる事なら〜なんでもします〜  
お望みならば〜この身体を自由に〜」  
「それではいただきます!!」  
 光の早さで彼女を押し倒す僕の背後で、“おとしご”ちゃんの呆れたような溜息が聞こえた気がした……  
 
「ふわぁ……あむぅ〜んふぅ……」  
 まずはキスで御挨拶。  
 顔にかかる黒髪をかきわけて、桜色の唇を舌でくすぐり、舐めほぐし、  
おずおずと伸ばされた舌を咥え――後はひたすら互いの舌を絡めて貪りあった。  
「はぁうっ!…んんぅ〜んはぁああぁ……」  
 キスを続けながら、死装束の上から豊満な乳房を揉み解す。  
仰向けになっても形の崩れない立派な乳房は、僕の手の動きに合わせて卑猥に形を歪めた。  
乳房は握り締めればそのまま解け消えそうなくらい柔らかいのに、  
勃起した乳首は服の上からも形が分かるくらい固くなっている。  
たまらなくなった僕は彼女の唇から口を離して、服の上から勃起した乳首にむしゃぶりついた。  
「んはぁ! あうぅ…気持ちぃ…あはあっ!!」  
 布越しに甘い乳首の歯応えが感じられる。唾液でビショビショになった胸元には、  
薄桃色の乳首が透けて見えていた。たまらなく美味しい乳房だ。  
「やぁあああ……ぁあうう〜そんな所…までぇ……」  
 乳首をしゃぶりながらも、僕の手は彼女の下半身へと侵攻している。  
服の裾を肌蹴ると、すらりとした白い美脚の奥から、豊かな茂みに隠れた性器が顔を覗かせた。  
そこに容赦無く、そして何より繊細に指を躍らせる。  
「あはぅ! あぁあうぅぅ…うはぁあん! ご、御容赦をぉ…はぁうっ!」  
 茂みの奥からクリトリスの皮を剥き、撫でるように押し潰す。  
ラビアを指で開いて、愛液でヌルヌルなヴァギナに浅く指を刺し入れる。  
尿道をノックして、アヌスの皺を撫でる――  
“あるけたいぷ”さんは僕の愛撫に面白いくらい反応してくれた。  
 
「あふわぁあああ……ああうぅ…も、もぅ……お慈悲をくださぃい〜」  
 恍惚の表情で悶えていた“あるけたいぷ”さんは、やがて身体をごろりとうつ伏せにすると、  
ムチムチのお尻をキュっと上げて、いやらしく左右に振って見せた。  
うーん、バックから誘うなんて、分かってるじゃないか。  
白桃のように丸い立派なお尻に、肌蹴た肩と背中のラインが美しい。  
 僕は揺れる白いお尻を押さえて、湯気立つくらいに熟した彼女の秘所に、  
そそり立つ肉棒を一気に挿入した。  
「ひゃあぅうううう〜!!」  
 “あるけたいぷ”さんの肢体が跳ね上がる。  
 僕は彼女の腰を破壊するくらいの勢いで、激しくペニスを叩きつけた。  
ドロドロに溶けそうなくらい彼女の蜜壷は熱く、最上の柔らかさで極上の刺激を与えてくれる。  
僕は自動人形のようにいつまでも腰をピストンさせていた。  
 そして――  
「イクっ! イクぅう!! んはぁあああああああ〜〜〜!!!」  
「うううっ」  
 間一髪、射精と同時に抜き取られたペニスから迸ったザーメンが、  
“あるけたいぷ”さんの震えるお尻を白く汚した……  
 
 ぱん  
「え?」  
 また、どこかで手を打ち合わせたような音が聞こえた――次の瞬間、  
僕の目の前には妖艶な肢体を火照らせた熟女ではなく、  
あの陰気そうでいかにも幽霊な感じの“あるけたいぷ”さんがいた。  
直前までのセックスの余韻などどこにもない。僕自身もズボンとパンツをしっかり着ている。  
 これは一体……どういう事?  
「う〜ふ〜ふ〜若い殿方の精〜とっても美味しゅうございました〜」  
 縦線の書かれた顔の奥から、“あるけたいぷ”さんは憂鬱な笑い声が聞こえて来た――  
 彼女の話によると、久しぶりに遭遇した生命体の精気が美味しそうだったので、  
ちょっと摘み食いしたそうだ。半分霊体に近い彼女は、  
一種の催眠術で相手の嗜好を読み取り、望む姿に外見を変える事ができるとか。  
 やれやれ、どうやら『食べられた』のは僕の方だったらしい。  
「ちゃんと〜お化け役も〜引き受けますから〜うふふふふ〜」  
 ニタリと口元を歪める彼女の髪が揺れて、  
一瞬、交わっていた時の“あるけたいぷ”さんの顔が見えたのは、果たして幻覚だったのだろうか……  
 
 ――で、町内夏祭り当日――  
「それでは、お化け役よろしくお願いしますね」  
「御主人様の名誉の為ニ、全力を尽くしまス」  
「ふふふ、楽しませてもらうわね」  
「なぜ、わらわがこんな事をしなければならぬのぢゃ……ぶつぶつ」  
「私に任せるニョロ〜」  
「あ〜う〜」  
 
 ……その後、夏祭りの間中『お化け屋敷』の中からは子供達の絶叫と嬌声が絶える事は無く、  
中に入った子供全員が何らかの心理的外傷を受けて、  
半年以上精神科の医師によるカウンセリングへ通う羽目になったそうだ。  
ついでに男の子は全員童貞を喪失し、女の子は全員レズビアンの道に踏み込むというおまけ付き。  
 いやー、菊池さんから怒られた怒られた……とほほ。  
 
 ……そして、これが致命的にまずかった。  
 世間に堂々と『邪神』を晒した為に、『あの2人』に僕の存在を知られてしまったんだ。  
 1人は、“いほうんでー”、“しょごす”、“るりむ=しゃいこーす”、  
そして“うぼ=さすら”という邪神の接触者となった怪人に。  
 そして、もう1人――いや、一柱。  
 白い、白い、どこまでも純粋な、残酷なくらい純粋な、白き邪神――『大帝』に。  
 
続く  

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