「ホワイトクリスマスだねッ」
「…そうだね。」
ぼくは暢気な隣の玄関に、はあと肩を落とした。
ホワイトはホワイトでもホワイトアウトっていうか吹雪。
雪国住まいにとってロマンチックなどと浮かれられるものではない。
これでは今日明日部活が休みになってしまう。
おふくろに命じられた雪かき仕事を果たすべくシャベルを片手に、アパートの一階から景気良く踏みだした。
滑った。
ずるりと、柔らかな雪の下で凍っていた伏兵に長靴が不意打ちを食らう。
派手な音で転倒するぼくを見て、隣の104号室に住むチビ女は遠慮なく笑った。
「あはははは!情けなーい」
「くっ」
手首を打ってはいないので今の暴言は忘れてやる。
冬の演奏会がこれで駄目になったとかだったら泣ける。
命じられた道路への通り道開通までの道のりはそれに反して遠そううなのだが。
シャベルでせっせと雪をかきわけ、道の端へと積んで行く。
一息ついてまた玄関に戻ると、赤い雪用ジャージのままめいが隣に座ってきた。
帽子を被っていつもは結んだ髪がもこもことそこに押し込まれている。
「タカちゃんはクリスマスプレゼント何貰ったの。」
「もう貰う歳でもないだろ」
「キスしてあげよっか」
にやにやと意地悪く笑うのに心を打たれなかったわけではない。
寒さが多少差し引きで和らがなかったわけでもないけど。
「な、何言ってんだよ。そういうのは好きなやつとするもんだろ」
「そうだね。」
防水手袋で帽子を深く被りなおして、めいは小さく頷いた。
吹雪に冷たい風が吹く。
また精精頑張って一時間後の労力を少しでも減らし、部活にいって楽器を触るのだ。
ぼくはまた立ち上がる。
めいはちまちまと彼女らしくなく雪かきを暫らくしてから、ドアの向こうに先に戻ってしまった。
何を落ち込んでいるのか分からないがぼくだって落ち込んでないわけではない。
文句もなしに納得されたということはそれってつまり、
めいがぼくを好きでないからしてくれなかったということに他ならないからだ。
学校にラジオを聴きながら行ったら、松任谷由美の恋人がサンタクロースが流れていた。
何かむかつく歌だ。どうせ恋人もサンタクロースもきそうにないちくしょう。
部活は急遽休みになっていて空しく帰ってきた。
めいが雪かきをしていた。
だから手伝って、小六の妹がめいに中学校の話を聴きたいというから家に入れて、
ぼくは部屋で一人楽譜を読んでいた。
「タカちゃん。私帰るね」
六時過ぎにノックもせずに部屋に顔を出す。
「うん。」
ちょっと考えて勇気を振り絞って言ってみた。
「玄関まで送るよ」
「えー?何それー隣じゃん」
けらけらと笑われて後悔した。
めいは玄関を出てすぐに朝のぼくと同じように滑った。
薄い水色と青の水玉を散らしたパンツが見えた。
あ、クリスマスプレゼント貰ったかも。
半泣きのめいと右隣のドアの隙間が消えていくのを眺めてそんなことを思った。
(おわり)