吹雪…全ての命が凍え、消える世界…  
 
 
その中に燃える様な二つの眼  
 
 
ソレは出会ってはいけない者  
 
 
まるで蜘蛛の巣に捕らえられた蝶  
 
 
ヒトではどうしようも無い存在  
 
 
これは確信  
 
 
私はここで死ぬ  
 
 
そして…全てが砕けた  
 
 
 
吹き荒れる雪…数m先すら見えそうにない…人が住む事の出来ない世界…外に出れば鼻水すら一瞬で凍り付きそうだ  
 
そう…外に出れば  
「ま、基地の中はまあまあ快適なもんだ」  
…話し相手がいればな  
コーヒーを飲みながら独り言を呟いた俺を数匹の犬達が見つめる  
…そんな目で見つめるな。余計虚しくなるだろ  
深い溜め息を吐いて犬共に餌をやろうとして…気付いた  
 
 
吹雪の中に人が居るのを…  
 
 
人?女?白い着物の… 違う…  
 
 
…足が無い!?  
 
 
「なんだ…あれ…幽霊!?」  
馬鹿言え。俺は学者だろ!!そんなもん信じてどうする  
見間違え…そう、見間違えだ!!  
そう自分に確認してもう一度確認して…  
そいつは倒れた…  
 
「な!?ヤバいだろ!!」  
さっきまでの恐怖も忘れて急いで基地から飛び出る  
「おい!アンタ!!大丈夫か!?」  
「人…?あぁ…そっかぁ…夢…」  
そう言って瞼が降りていく  
「おい!!寝るな!!寝たら死ぬぞ!!」  
最近聞かなくなったテンプレの様な台詞を吐きながら往復ビンタを食らわせる  
「い…痛い!!痛いって!!止め…」  
目も覚めたみたいだし、このままここに居てもどうしようも無いので、取りあえず基地に連れて帰ることにした  
…俺も寒いからな  
 
 
「はぁ…生き返る…」  
毛布にくるまり、コーヒーを飲みながら呟く  
お姫様だっこで基地にダッシュで連れ帰り、さっきまで飲んでいたコーヒーをくれてやったところで初めて相手の顔を確認する余裕ができた  
歳は20代始め、高そうなコートを羽織り、整った目鼻…どちらかと言うと可愛い系で童顔…まぁ根も葉もない言い方をすると美人だった  
一言で言うと可愛いOLという感じ  
しかし何より安心したのは…  
足がある。スカートから覗く細く、長く、白い足が…  
やっぱり見間違いだったか…  
あからさまにホッとした表情をする…  
そうだよな…足がなくて着物なんて幽霊くらいだ  
…そうだったら非常に困る  
しかし北極にそこいらのOLの様な格好で居たこの女―日本語話しているから日本人か?―はどう考えても異常だ  
「あ〜…取りあえず自己紹介するぞ  
俺は後藤孝治。歳は27、独身現在彼女無し。職業は学者見習い。主に生物と環境専門だ。趣味は…」  
「な〜んか合コンの自己紹介みたいですね」  
途中で遮られた  
「ゲフン…まぁ、気にするな  
で、お前は?何者?」  
 
「あー…えーと…何者でしょう…?」  
馬鹿にされているのか…  
「…まぁ、質問を変えよう。アンタ名前は?」  
「さぁ?」  
「…どこから来た?」  
「さぁ?」  
「何で北極なんかに居るんだ?」  
「さぁ?」  
「…馬鹿にしてるのか?」  
「さぁ? ……あ」  
そこで俺はブチ切れた  
「てめぇ!!折角助けてやったのに馬鹿にするのもいい加減にしやがれ!!また吹雪の中に放り出すぞ!!」  
女の肩を掴み思いっ切り前後に振る  
「ご、ごめんなさい〜」  
頭がガクガクとなりながら謝っている。腕が疲れて開放した頃には完全に目を回していた  
「あ…頭が…」  
「もう一度チャンスをやろう…」  
またさっきみたくふざけたら外に放り出すと付け加える  
「そう言われても…何も覚えていないんですよ…」  
「はぁ!?…記憶喪失ってやつか?」  
「何かかっこいい響きですよね」  
…ずれた女だな  
「お前…危機感とか無いのか?」  
「何にも覚えて無いと逆に落ち着くものみたいですね」  
「…そういうものなのか」  
少々腑に落ちないが…  
「ですね〜」  
非常に腑に落ちない…  
 
「まぁ、日本人だろ?」  
「んー…日本語話してるからそうなんでしょうね」  
取りあえず日本に連れて帰ればあとは警察なりなんなりが保護してくれるだろう  
「一応迎えが来たら説明してやるよ」  
「え?無線とか無いんですか?」  
言わなければ良かった  
「……」  
「……?」  
返事を待っている…言うしかないか…  
「まぁ、壊れた…つーか壊した」  
「…ドジですねぇ」  
苦笑された  
悔しい…頭のネジが二、三本抜けている様な女に、ドジと言われた事実が非常に悔しい  
「迎えちゃんと来るんですか?」  
「多分な」  
「多分って…」  
呆れた顔をされる…これも悔しい  
「通信が途切れたんだ。数日したら来るだろ」  
「それ…迎えと言うより救助…」  
「……」  
沈黙が…嫌な空気が流れる  
「まぁ、そんな事より何か食べるか?」  
我ながら無理やりな話の逸らし方だが  
「あ、食べます!!食べます!!」  
この女が馬鹿で良かった  
「何あります?」  
「あ〜…缶詰とか…レトルトとか…そのくらいだ」  
「え〜…」  
物凄く嫌そうな顔だ。まるで苦虫を噛めと言われた様な。ん?使い方ちょっと違うか…  
 
「文句あるのか?」  
「いいえ。ありません」  
追い出すぞと脅すとあっさりそう言った  
缶切りを探す。どこ置いたっけな?  
「あ、お肉食べたいです」  
「贅沢言うな。太るぞ」  
「ケチ〜」  
聞き間違いかもしれない。だが、その後確かにそう聞こえた  
 
 
貴方を食べたいな  
 
 
ゾッとして振り返る  
背中を嫌な汗がつたう  
今の声は…いや、今の音は人の出せる音じゃないぞ!!  
「今…今何て言った!?」  
「ご、ごめんなさい!!まさかケチって言っただけでそこまで…」  
「違う!!その後だ!!」  
「え?何も言ってませんけど」  
そんな馬鹿な!!あんなにハッキリと  
「え?え?何?何、何?」  
頭に幾つもの?マークを―目視出来そうなくらい―付けていた  
…気のせい…か  
今日は随分見間違えだか聞き間違えだかが多い  
「あ、いや、何でもない」  
「変な人ですね…」  
お前には言われたくないと軽口を叩きながら缶切り探しを再開する  
 
 
嫌な予感は冷えきらぬまま  
 
 
無事缶切りを見つけ、無事食事も終えた…かに思えた  
「おかわり」  
満面の笑みでほざきやがった  
「馬鹿かお前。ある訳無いだろ」  
「え?もう!?」  
「お前の分もあるから量が少なくなったんだよ」  
あっさり突き放した俺に恨めしそうな顔で返す  
「文句言うなら追い出すぞ」  
「どうせ追い出す根性も無いくせに」  
ボソッと呟きやがった  
「てめぇ…何て言いやがった?」  
「あ?聞こえた?別に何でもないですよ?」  
「聞こえてたよ!!あいにく俺は地獄耳なんでな!!」  
キレた。しかもマジギレだ  
「聞こえてたんなら聞こえたって言えばいいじゃないですか!?」  
「あぁ?ホントに放り出すぞ!!」  
「やれるもんならやってみなさいよ!!さっきから放り出す放り出す!!そればっかりじゃないですか」  
「―っ!!お望みどおりやってやるよ!!」  
俺はそいつの首根っこを掴んで引き摺り出した  
「え!?や…ちょっと!!」  
抵抗するが所詮は女の力。かなう訳が無い  
「外吹雪いてますって!!出されたら死にますって!!」  
「知るか!!凍死しろ!!」  
そう言って扉を力一杯閉めた  
「けっ。せいせいしたぜ」  
あ〜ムカツク。無線は壊れるわ、幻覚は見えるわ、幻聴は聞こえるわ、変な女はウザいわ…  
 
 
数分間ぶつぶつ愚痴っていたらコンコンと扉を叩く音が聞こえた  
「早っ…根性無しはどっちだよ」  
扉を開けてやると背中に雪を積もらせて―あの数分でここまで積もったのか―凍えたあいつが  
「ご、ごめんなひゃい…もう…愚痴言わないから…何でもするから…中入れて…」  
そこで俺はピタリと固まった  
「…わかったよ」  
そう言った俺の顔には、物凄く嫌な―ニヤリという表情がよく似合う笑みが浮かんでいた  
 
 
 

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