§   §   § 
 
 
 それ以降、パシャもキオも調練に学習に……もちろん実戦にも明け暮れていたから、 
 二人だけの時間はそれほど多くは無かった。 
 しかし求め合える時間があればそれを有効に過ごした。 
 汗にまみれて何度も睦み合うこともあれば、お互いの身体を優しく愛撫するだけのときもある、というように。 
 
 ――まさに順風満帆。二羽の鳥はこのまま大空を飛翔していくかに見えた。 
 しかし二羽のうちの一羽はまだ蒼空の全てを理解しきれてはいなかった。 
 空というものは気紛れで晴天だけではない。曇天もあれば荒天もある。 
 嵐も来れば雷も走る、と誰しもが知っていることだ。 
 
 
 
「敵襲ッ! 敵、ヒュ――」 
 警鐘に次ぐ、断末魔の笛の音――培った戦士の鋭敏な感覚はパシャの意識を急速に浮上させた。 
 ぱちりと目を開き、夜襲を読みきれなかった情報部への愚痴は、 
 勢いよく一度だけ頭を揺すったときに既に振り解いている。 
 毛布をはねのけて寝台から飛び下りる。 
 薄い鎧下を頭からかぶりながら振り返ると、キオも同じように衣服を身に着けていた。 
「終わったら「カラコル」を縛って」 
「お、おう……」 
 普段快活なキオだが、この時ばかりは緊張に口が重い。恐らくカラカラに渇いているだろう。 
 それでも精を何度も吐いた後とはいえ、危機に反応して飛び起きていたのはさすがだ。 
 元いたヒトの世界の経験もいくらか活きているだろう。 
 
 そしてパシャは【パリワナ】と名付けている愛用の細突剣を手に取った。 
 パリワナとカラコルはそれぞれヒトの世界の言葉で表せば、 
 「フラミンゴ」と「カタツムリ」を意味し、後者は尾に縛り付ける形の曲剣だ。 
 【カラコル】は同じくヒトの世界の文字でいえば「?」のような刀身をその形状としている。 
 
 薄給を切り詰め、それぞれ弱いながら奇跡を付与してもらった代物だ。 
 しかし「弱い」というのは神槍スントゥルパウカルや、妖刀パカリタンホ、 
 宝具カタ・チャリィ、コラケンケ、サンカワシを最上級に見据えた場合であり、 
 下級将校の一人が持つには充分に相応しいものだ。 
 それ故に基本的な金属強化・保護は備えていた。 
「よし、できたぜ」 
「ん」 
 きゅっと尾の先端が縛られ、頼れる尾刀【カラコル】の重さがパシャの身に馴染む。 
 左手に細突剣【パリワナ】を持ち直し、右手には屋内戦用の短剣を握りこむ。 
 そして得物を払い、自室の入り口にある垂れ幕を落とすと、 
「キオ、経路は七番で外へ出る。途中の武器棚で手槍でも取っておくこと」 
 手早く言い残し、パシャは彼へついてくるように促した。 
 
 パシャは周囲へ五感を研ぎ澄ましながら、身を低くして走る。 
 通過する部屋はどれも全て入り口の垂れ幕が落とされて、誰も残っていないことを示している。 
 (無理も、ない) 
 彼女は胸元で軽く音をたてるハチドリ【クェンチィ】の飾りに一瞬だけ意識を割いた。 
 軍養成所では、夜襲にあったらとりあえず武器を一つ持って一刻も早く外へ出ろと教えられているため、 
 従者を守れるだけの装備をとりあえず整えたパシャが最終なのは当然だ。 
 
 そして……キオが必死についてきているのを感じてはいるが、どうにも遅い。 
 さらに足音を消すような走りもできないため、賊が深く入りこんでいれば即時寄ってくるだろう。 
 また、それが一人だけという楽観をする気にもなれない。 
 パシャは聴覚を極限まで高めながら集中し、歩幅をやや緩めた。 
 
 賊と相対した時どうすればいいかを考えるのは弱い者だ。パシャも実感している。 
 「集中」とは「自然体」を指す。力を入れすぎず、抜きすぎず。 
 教官曰く、 
 「その体躯に刻んだものに思いを馳せろ。それは従順で、正直で、ちょいと怠ければすぐ拗ねるが―― 
  貴様らだけの、とびっきりの「いい女」だ。分かったら珠の肌になるまで、磨き上げろ」 
 男性にとっては良質の部類に入る冗談だろうが、彼女にはいまいち面白みが分からない。 
 ……とりあえず要約すれば、危機に相対すれば自然に、刻み込んだ反復が噴き出して身を守る。 
 それで命を落とせば相手の刻んだものが己より深かっただけのことだ。 
 だからそうならないように技を昇華させるのが、戦士たる者たちの務め。 
 
 
 
 その時―― 
「《今宵の月は九つ欠けて――》」 
 パシャの立ち上がった耳に聞こえてきたのは、祈りを捧げる言葉だった。かなり近い。 
 そしてその《欠月【アティ】》の祈りは、聞き覚えがある。 
「『クェンチィ』パシャ、助太刀参る!」 
 同士討ちを避けるためだ。パシャは鋭く声を上げながら、最後の曲がり角を直角に走りこむ。 
 いくら自分の命を優先しろと言われても、知り合いを黙って見過ごせるほど彼女は非情になれなかった。 
 ……そうでなければヒトという弱者を守り抜く、その根底が揺らいでしまう。 
 そして通路の先、パシャの視界に入ったのは三人の影。 
 
「あら、久しぶり、パシャ。……あの火事のとき以来かしら」 
 だがそのうちの一つの影はみるみるうちに横倒しになって行く。 
 ――《欠月》の一刀で斬り上げられた賊の一人が、血潮を夜風に飛沫かせつつ魂を手放したのだった。 
「それもお荷物つきまで一緒? ふふふ……」 
 パシャよりも高めの声の主はキオのもう一人の主人でもある、クク・ロカ侍女。 
 夜目にも鮮やかな甘柿色の編み込まれたお下げを、頭上から垂らしているのが大きな特徴だ。 
 彼女の種族は名目上ピューマ族を名乗ってはいるが、その姿はどう見てもオセロットの女性に近い。 
 明らかに肌は白いし、背格好は幼い。 
 そして物騒な発言と嘲笑は、パシャを見ていながらも傍らに立つ男に向けられていた。 
 
「てんめぇ、お荷物たぁどういう了見だ」 
 隣のクク・ロカより遥かに背の高い男性は、これも顔馴染み。 
 太腿の太さが尋常ではない、赤銅色の毛並みを持つピューマ、サキトハだった。 
 一時、キオの槍術指南を買って出てくれていた男だ。 
 彼はクク・ロカに時と場所もわきまえず食って掛かった。 
 つい最近、左腕に巻いた包帯が取れたばかりだというのに、 
 今度は右肩のあたりから赤い血をだらだらと流し、熱した胴板のような輝きを見せている。 
「今さっき、俺を盾にしやがったなぁっ!」 
 声を抑えてはいるが、血を見て猛っているのか…… 
 サキトハ個人としては虫の好かないこの侍女へと一歩詰め寄った。 
 
 そしてクク・ロカも負けてはいない。 
「だらしない。他人のせい? 
 その長いだけの槍が役に立たなかったからって、八つ当たりは止めて頂けない?」 
 眦を強く吊り上げ、早口で言い切った。 
「……オレの『鉄笛』をバカにすんのか」 
「そうね。その御自慢の黒槍と心中したら、差し詰め大バカってところかしら。おめでとう」 
 
 ここまで性格の合わない二人も珍しいだろう。 
 お互いに前へ出たがる性根なだけにどうにも始末に負えない。 
「二人ともいい加減に。キオはサキトハの手当てを――」 
 くだらない口喧嘩を、戦地階級では一番上のパシャが止めさせようと口を挟んだ瞬間―― 
 「それ」は密林の民たちの耳を一斉にひくりと震わせた。 
「けっ。客だ」 
「挟まれた……というところ?」 
 ひそひそと口走りつつクク・ロカとサキトハはお互いを睨みつけ、強気な瞳の輝きは無言でありながら、 
「てめぇのキンキン声のせいだ」 
「あなたのダミ声のせいに決まってるわ」 
 そう語り合っていた。 
 
 苦労を常に背負って生きているようなユパなら耐えかねて激発するだろう。 
 体中に鉄鎖を巻きつけたジャガー族の偉丈夫は不本意な肩書きに納得できなくて、 
 周囲の者がユパを指差して「ユパは苦労人」と言いそうな雰囲気になるたびに、憤慨して我を忘れる。 
 それさえなければ貫禄のある頼れる男なのだが……如何ともしがたい。 
 ……一方、この場のパシャは心得ている。 
 彼女は自分のことを感情の薄い女と自嘲しているが、周囲にいる人間の雰囲気を操ることには長けていた。 
 さりげなく自覚のない行動で他人の気を引きつける。 
「……もう少し走る。ここでは拙い。向こうの小露台で待ち伏せ」 
 パシャがふわりと一陣の風を残し、率先して前に出ると、残りの三人も大人しく一斉に後を追った。 
 
 とんでもない厄介ごとを拾い上げてしまった感覚は、先頭を走るパシャに否めない。 
 二人とも決して思考が幼いという訳ではないはずなのに、顔を見合わせると売り言葉に買い言葉だ。 
(でも、考えようによっては……悪くない) 
 クク・ロカの侍女として行使する奇跡も、サキトハが誇って止まない父親の形見を操る槍術も、 
 非常に卓越したものだ。 
 だからこそパシャも短い時間の中で、敢えて耐えながら戦う判断を下した。……少々の打算を加えながら。 
 
 そして非常に興味深い事ながら、この深夜の出来事が奇妙な主従三人の関係をまた少し変える切欠となった。 
 
 
 
「私はこちらから……クク・ロカ侍女はそちらの通路をお願い。サキトハは彼女の直掩」 
「けっ。分ーった」 
「了解よ。それと「侍女」なんて面倒。省略してもらって結構よ」 
「ん。キオは後方で待機」 
「……」 
 ほんのりと赤いキンサンティンスーユの夜空の下、小露台につながる二つの昇り坂の端に、 
 二人の女性が立ち塞がった。パシャが北側、クク・ロカが西側だ。 
 戦闘向きではない衛生兵のヒトは露台奥に控え、彼によって傷の手当をされたピューマ兵が西の援護に付く。 
 残る二つの面は矢眼を開けた高い防壁がそびえ、露台自体が三階であるがために警戒は不要。 
「期待はしてないわ」 
「元々利き腕は左だ。心配無用」 
 眼下の薄闇に向けて「集中」するパシャの耳にクク・ロカ、サキトハ両名の声が細く聞こえる。 
 見事にかみ合っていない。自分の言いたいことだけを言っている。 
 クク・ロカとは、包帯だらけのキオを見舞い、彼と約束したあの日、 
 「その雄のヒトは「正」主人パシャにお任せするわ。何て言ってもわたし、「副」主人だもの」 
 という一件があって以来、私的な会話は交わしていない。……彼女の舌鋒は無闇に鋭い。 
 そしてパシャが軽く首を傾げ、ため息をついた直後―― 
 北と西の女兵士たちは素早く手信号を交わした。 
 
 「来ル」「コチラモ」 
 
 二つの通路にはほぼ同時に、いくつもの侵入者の影とそれに倍する爛々と輝く瞳が現れた。 
 狭い通路のため、二人しか同時にしかけられないはずだ。人数の少ないパシャたちもそれほど不利ではない。 
 また、上り坂の下から見上げる賊たちには小露台の様子が見えない。 
 そこに何があるか分からないという事実は階上の彼女が思うより大きな疑心を相手に与えるだろう。 
 地の利はパシャたちにある。 
 そこに三人の戦士の技量が加われば、いくらでも誤魔化せそうだ。 
 (《発光》が上がるまで……守る!) 
 パシャは左肩を前にする半身の構えを取り、 
 (キオ……あなたを、守る) 
 ハチドリ【クェンチィ】の銀飾りに一度だけ唇を触れ合わせた。 
 
 
 
 奇襲を受けた場合、砦外へ逃れることのできた兵士は予め定められたいくつかの場所へ集結する。 
 (外部で兵が伏せているほどの大規模な襲撃は賊軍『草刈衆』の人員的に不可能だ) 
 そして最高指揮官が《発光》の奇跡を夜空に打ち上げ、砦奪還の狼煙を合図するのだ。 
 装備、それも防御面が著しく弱いままの奪還作戦だが、 
 硬化皮革をまとったくらいでは所詮鋭い刃を止めきれない。 
 充分に備えたであろう賊軍が相手だとしても、六分四分くらいにしか勝率は変動しないだろう。 
 ……ジャガー族が誇る重歩兵ならともかく。 
 もちろん機動力が決め手の奇襲に彼らの機動性の無さは致命的であるからその心配はない。 
 
 とにかく、パシャたちの命運はウナワルタ守将たちの迅速さにかかっている。 
「ハチドリの嘴に掛かりたい者はいるか!」 
 パシャは鋭く威嚇した一喝を放つ。 
 愚かにも怯んだ敵兵のもとに踊りかかり、三本の刃を存分に閃かせると元の位置に戻った。 
 そして再び威圧せんと抑え目に吼える。 
 
「《今宵の月は六つ欠けて――》」 
 西側のクク・ロカは長距離用の《欠月》を祈り終えている。 
 欠月【アティ】の奇跡――月夜神ママキヤの司祭・侍女が「力」を振るうための奇跡だ。 
 その祈りは十二の月齢を、それぞれの齢に見合った形状の武具を召還することができる。 
 十二の半分、六段階欠けた月は夜空に弦を張った弓のそれ―― 
「穿ちなさい!」 
 祝福された弓をいっぱいに引き絞り、同じく祝福を受けた矢を射放つ。 
 一本は二本に、二本は四本に、―― 
 信仰心の高い者は一射で三十の魂を導いたという話もあるにはあるが、クク・ロカも決して劣ってはいない。 
 計八本に分散した矢を放てるのは相当に熟練した者に限られる。 
 狭い通路に賊兵が次々と折り重なった。 
 
 しかし賊方も負けっぱなしではなかった。 
 物言わぬ骸と化した仲間を盾にじりじりと前進し、手にした投槍や手斧を投げつけてくる。 
「《今宵の月は一つ欠けて――》」 
 その時既に彼女は祈りを変え、弓を大盾に変化させていた。小柄な身体全体を覆えるほどだ。 
 粗末な飛び道具たちは強固な盾に阻まれて、力なく床に落ちる。 
 さらにクク・ロカは自分のすぐ前方に、大盾を突き刺す。 
 次いで、 
「《煌天、彩天、謐天、煩天――》」 
 まったく韻の異なる祈りを捧げ始めた。五指のうち二本の指を束ねた右手で空中に印を結ぶ。 
「《――急々如律令》」 
 そして左手を翻して、床に親指ほどの物体を放り投げる。 
 重さを感じさせない風に転がったのは干からびた骨――と見た瞬間光を放ち、 
 あっという間に燐光を放つ一頭のリャマが現れた。 
 戦士【カヨク】の守護神にして火星神【アウカヨック】に仕える従者の一つ、 
 《乙女座【カツリヤァ】》の召還だった。 
 特に長命だったリャマの遺体を、聖なる業火で一気に燃焼させることでこの触媒たる骨片を作成できる。 
 殺傷力は低いが、奇跡を付与された武器でなければ傷つくことはない。 
「行って! お願い、《乙女座》!」 
 主の命令は絶対とばかりに、奇跡によって生まれた神獣が単独で通路下に駆け下りる。 
 右に左に頭を振りたてて賊兵をかく乱する。 
 一方の操者は忠実な従者を巧みに誘導しながら、 
「《今宵の月は六つ欠けて――》」 
 《欠月》の奇跡を慎重に狙い射つ。 
 
 ――多重侍女。その中でも陰陽侍女と呼ばれるのがクク・ロカの侍女としての位だ。 
 本来相容れないはずの陽と陰の奇跡を願える。 
 陰……陰の主神、月夜神ママキヤとの親和性を持ちつつ、 
 陽……陽の従属神、火星神アウカヨックとの親和性をも併せ持つ。 
 神話は割愛するが、アウカヨックは天空を彩る《乙女座》をはじめとする幾つかの星座も司っている。 
 
 
 
「することねぇ」 
 クク・ロカの傍らに立つ赤銅色のピューマの彼は不満そうだ。 
 彼女と《乙女座》の連携はことのほか上々で、一人の賊兵も近づけていない。 
 そして《欠月》が大盾から弓に変化したため、 
 サキトハはその代わりに散発的に飛来する飛び道具を自らの槍で払い落としてやってはいるが、 
 一点突破を旨とする彼の戦法には物足りない。 
「……」 
 クク・ロカは薄く小さな唇をくい、と引き結び、完全に無視の体勢だ。一瞥すら彼に与えない。 
 黙々と、弦音をかき鳴らしている。 
「てめぇ……本当、性格駄目女な」 
 うんざりとしながら、それでも鉄槍を引くことはしない。 
 当然、彼とて皇后を仰ぐ誇り高い官軍兵士。譲れない物が確実に魂【ノホティペ】に宿っている。 
 (ユパに、サッリェに、チタラに……同期のヤツらと誓ったこと、オレは片時も忘れたときはねぇ) 
 鉄鎖術の遣い手『虜囚』ユパ。両髭落とし『落葉』サッリェ。飛刀の妙『若先生』チタラ。 
 他にも幾人もの親友たちの顔が、次々にサキトハの頭に浮かぶ。 
 彼が『鉄笛』とあだ名されるまでに槍技を昇華できたのも、その誓いがあったからだ。 
 (そんで……) 
 サキトハはほんの一瞬、半瞬ですらないが、後方のキオへ意識を向ける。 
 彼は背後の防壁に背中を預け茫然と短槍を構えていた。 
 随伴衛生兵ですらなく、後方から重傷者に駆けつける救急衛生兵であるキオ。 
 魂をやり取りしなければならない、このいきなりの実戦は荷が勝ちすぎている。 
 傷を負い悲鳴を上げる知り合いを何度も見たとしても、 
 その知り合いが実際に現実として、魂を刈り取る様を見たことがないのかもしれない。 
 ――平たく言えば、知り合いが公然と殺し合いをしている、と。 
 (負けんなよ……キオ。 
  お前はパシャを……オレたち同期がやるせねぇ思いを持ったそれを、してのけやがった) 
 パシャとキオが体を重ねたことを、ピコン砦に詰めるほぼ全員が知っている。 
 そしてサキトハが思うことは、それに対する嫉妬や羨望、諦念では絶対にない。 
 こみ上げるのは歓喜。 
 既に亡き同期の魂を呼び寄せてでも全員で軍靴を踏み鳴らし、得物を打ち合わせて謳いたい。 
 肩を叩いて惜しみない祝福を浴びせてもいい。 
 (何があったかは聞かねぇ。でも、パシャが見たことがねぇくらい、思いっきり笑ってる。 
  それだけでオレらは救われちまう。荷を……下ろせちまう) 
 昔に薄くぼんやりと思いを馳せながら、 
「……よ、っと」 
 あだ名の由来である父の形見、総鉄製の黒槍『鉄笛』の穂先を鮮やかに舞わせ、 
 賊の投げつけた投槍を絡め取る。 
「返すぜ」 
 サキトハはすかさず右手に備えてある投槍器に、その粗末な投槍を装填すると、 
 素早く屈強な手首を翻して賊兵の眉間目掛けて投げつけた。 
 妖しく輝く瞳の光はこの上ない目印だ。 
 外れることなくその瞳の輝きは消滅した。 
 (だから、死ぬな、キオ。お前はいい奴だから……死ぬな) 
 
 
 
 善戦を続ける西側とは対照的に、北側のパシャはやや苦しい。 
 祈りを捧げる時間さえあれば一度に多数を抑えきれる奇跡とは違い、 
 三本の刃では白兵戦の限界というものがあった。 
 かと言ってサキトハを招き寄せては、クク・ロカが崩れたときに一方的になる。 
 パシャの展望としては北側を自分が抑え切り、西側をクク・ロカ、サキトハ両名に抜いてもらいたかった。 
 (そうすれば、通路を移動しつつ時間を稼げるはず) 
 敵の増援はこの際考えない。考えても果てがない。 
「ちっ」 
 パシャは大きく舌を鳴らした。既に五度目になる賊の突撃が押して来ていた。 
 西のサキトハがしているように右手の短剣で賊の飛び道具を打ち払い、機を見抜くと頭を低くして突っ込む。 
 そして尾刀カラコルの曲がった刀身を前方に繰り出し、 
「――な!」 
 先頭の男の膝を刈り取る。膝下を急に失った賊は大きく平衡を崩し、後続によりかかった。 
「破ぁっ!」 
 パシャはその機を逃さない。逃さないことでここまで生き残ってきた。 
 当然のように大きく踏み込み仰け反った賊にさらに体重をかける。 
 そして充分に集団の勢いを殺すと、左手の突剣パリワナで一気に、数度貫き通す。右の短剣も、ある。 
 密着した数人を一度に無力化し、悲鳴と怒号も数人分が廊下を圧した。 
 彼女の手には肉を裂き骨を断つ感覚が生々しく残響していた。 
「何度来ても同じこと! 退がって!」 
 パシャの裂帛の威嚇が、賊方をして倒れ伏した仲間を引きずって後退させていった。 
 
 ここまでパシャは十を遥かに超える敵を無力化させていたが、「即時的には」一つの魂も導いていない。 
 それは別に人道的な理由ではなくて、 
 (卑劣な賊相手に情けをかけることを、軍養成所では教えていない。もっとも、戦意が有ればの話だ) 
 死体にさせると面倒だからに過ぎない。 
 仮に心臓や頭部を貫いて即死させても、遺体となった仲間を盾に前進して来られると困るのだ。 
 敵一人を貫くのに、二人分の肉と骨を貫く力がいるのではとても体力が続かない。 
 また怪我を負った人間があげる苦痛の悲鳴は戦意を挫くものの、 
 仲間の死を量産されれば怒り狂って本当の死兵となって襲い掛かって来るだろう。 
 
 彼女は追撃を念じる。下り坂の下まで踏み込んで大げさに武器を振り回していた。 
 その美しくも圧倒するような剣舞はパシャのあだ名に恥じない。 
 しかし、パシャもまた疲労していた。 
「……っ! ……このっ!」 
 一瞬の隙――仲間の後ろに隠れていた――を突かれて、二名の突撃を許してしまった。 
 平均的なオセロット族と、背の低いピューマ族の彼らはその小柄な体格を活かしてパシャの脇をすり抜け、 
 上り廊下を駆け上がろうとする。パシャの意識は自然と後ろに引かれる。 
「寄らないでっ!」 
 ただし、半分だけだ。残りの半分は、じわりと不用意に包囲を狭めた賊の足元を尾刀カラコルで裂かせていた。 
 たまらずに数人がうずくまり罵声を上げる。 
 彼らとしては全く厄介なことに、パシャの振り回す山吹色の尻尾と白銀の曲刀に対抗できずにいた。 
 彼女は実にうまく得物を使う。上段、中段、下段を問わない多段攻撃。それも刺突と斬撃が巧妙に連なる。 
 そして憎たらしい女兵士はその場に女性特有の香りをふわりと残して、飛び去った。 
 
 パシャは軽快な足運びで二人の小兵を追う。 
 そしてもう少しで小露台というところで彼らに追いつくと、パシャは廊下に身を投げ出す。 
 突剣ごと両手を突き、 
「させないっ!」 
 身体を捻って山吹色の尾を全力で回転させた。後を追うように曲刀が閃く。 
「あ、あ……」 
「むぅ…ん」 
 重い感触が尾の付け根を強く打ち据える。 
 (し、しまったっ……) 
 焦りのままに薙ぎ払った一刀は、手加減なしであっただけにパシャの三本目の腕に痺れるような鈍痛を与えた。 
 そして床に横たわっているのはそれぞれ後頭部と背面を深々と割られて絶命した賊二人。 
 (しまったっ――!) 
「クク・ロカ! サキトハ!」 
 パシャは小露台の上にいるはずの二人に小さな警戒の声をかけ、 
 二つの死体を上に蹴り飛ばす。そして駆け寄るとまだ温かい体を探り、いくつかの飛刀の束を奪い取る。 
 飛び道具はあって困ることはない。 
 彼女は振り向きざまに、入手したばかりの飛刀を数度に分けて北側の下り坂に向けて放つ。 
 明らかに警戒を促すような声が聞こえ、北の賊を一時的に留めることに成功した。 
 
 青冷めたパシャの顔を見たクク・ロカは《乙女座》を待機させ、北のパシャへ駆け寄った。 
「……尾の根を挫いた。不覚……」 
「西側はあらかた掃除し終わったわ。パシャのおかげでね」 
 パシャが振り仰げば、西側の通路への入り口にピューマ兵の姿はない。 
 彼は下り坂を下りて索敵と「虱潰」をしているのだろう。 
 キオも既に壁際にはおらず、サキトハと一緒のようだ。 
「そして、パシャが下りてる間に赤の《発光》有り、よ」 
「赤……」 
 《発光》は砦奪還作戦の準備が整ったということ。 
 そして赤色の光は……最高指揮官の不在を示す。味方の進軍は若干遅くなるだろう。 
 しかしパシャは腑に落ちない。北側に蠢く敵は再び小露台に向けて突撃を再開させる気配を見せている。 
「……どうして、賊は撤退しない?」 
 パシャはぽつりと呟いた。 
「そんなの知らない。屑の思考なんて想像したくもないわ」 
 甘柿色の編み込まれたお下げをいらいらと振りながらクク・ロカは答えた。 
 
 奇襲作戦というものは一撃離脱を大事とするわけであり、 
 例え進軍が遅かろうと官軍が寄せ返してくると知れれば撤退するのが定石だった。 
 これ見よがしに《発光》を打ち上げるのも「さっさと帰れ」の意味を含んでいる。 
「とりあえず、奪還隊と合流するのが先ね」 
「すまない。迷惑をかける」 
 勇敢な若き女性二人は、顔を見合わせて一度だけ頷いた。 
 流れるように無駄の見当たらない動作で小露台を後にし、先行している男性二人に追いつこうとする。 
「言ったじゃない。パシャのおかげって」 
 パシャが思うより、クク・ロカは自分を嫌ってはいないようだった。 
 彼女に対する評価を「八つ当たりが激しい」にパシャは変えた。 
 
 
 
 ――この小さな露台で短いが激しい戦闘をこなした三人と一人は知る由もないことだが、 
 賊軍『草刈衆』には賊軍なりの理由と事情があった。 
 
 彼らの正体は一種の罪人である。賊軍内部にも秩序があり、犯した罪を償わせる手段が存在する。 
 それがこの突発的な夜襲だった。 
 夜襲には官軍兵士たちの寝込みを襲い、防御の薄いままに討ち取る目的と、 
 重要な資源である「女体」を獲得する目的がある。 
 特に新たな兵士を生み出す母体を浚ってくれば、その小隊員はどんなに重い罪でも許される。 
 彼らはどれほど味方が劣勢になろうとも行くも「死」戻るも「死」なのだ。 
 
 ただでさえ執拗な官軍情報部をようやく騙しすかしたのに、 
 若い女性兵士を前にしてそれを拉致しない手段はない。 
 手や足、耳や尾を断ってしまっても構わない。彼らが欲しいのは「母体」そのものだ。 
 ……勿論女性が原形であればあるほど、資源価値は高くなるのではあるが。 
 
 また、これは二次的なものではあるが、賊奇襲隊の秩序が大幅に崩れていたこともある。 
 赤色の《発光》が打ち上げられた場合の意味は、 
 ……最高指揮官ウナワルタ守将が砦奪還隊の集合地点のどこにも現れなかった、ということだ。 
 その行方知れずのウナワルタ老将はどうしたかというと、 
 脱出時に賊の司令集団と鉢合わせ、今まさにこのとき賊の指揮官と壮絶な果し合いを繰り広げている。 
 
 ――そして、『舞姫』パシャと、陰陽侍女クク・ロカは、というと。 
 
 山吹色の太めな尾と、甘柿色の細長い尾が左右に揺れ、その後を燐光を放つ神獣が続く。 
 異臭がたちこめる西側の通路は賊の死体が折り重なり、それらをひょいひょいと避けながら進んでいた。 
 どれも魂を確実に手放していて、サキトハの「虱潰」は万全なようだった。 
「何だか、不穏ね」 
「……キオ?」 
 パシャとクク・ロカは前方を窺い、一瞬だけ垣間見ることができた。 
 キオがサキトハの肩の傷を診るように見せながら……実際はサキトハがキオの胸倉を強く掴んでいた、と。 
 
 三人と一人は再度合流を果たす。 
「何してるのよ、ヒトを苛めて何が楽しいのかしら」 
 彼女は一瞬の出来事を見逃さずにサキトハをなじった。 
 この時点では、クク・ロカはキオを単なる雄のヒトとしてしか見ていない。 
 ……しつこいようだが、彼女はキオをかばった訳ではない。 
「男だけの会話に女が割り込むなよ。な、キオ?」 
「……ああ」 
 キオは薄闇に青ざめていたが、特に傷を負っているというようではなかった。 
 また、ヒトの彼が持つ手槍の穂先は銀色のままで、「虱潰」はサキトハだけが行ったようだ。 
 おそらくその辺りで軽い諍いが起きたのではないか、とパシャはそれとなく確信した。 
 しかし今はそれを気にしている時間はない。 
「……サキトハ。私は尾の根を挫いた。殿軍を頼みたい」 
「ふん、何か投げ物持ってねぇか? パシャ」 
「これ」 
 パシャは腰の辺りから、先刻の賊兵から奪った飛刀の束を差し出す。 
「上々、上々。任しときな」 
 赤銅色のピューマはパシャからそれを受け、好戦的に笑う。彼は元来た方向に感覚を向けた。 
 小露台の辺りが騒がしい。パシャが抑えていた賊が近付いてきている。 
「……ここからの経路は十三番」 
 皆がパシャを見ている。彼女もそれに応え、そう言うと各々の顔を見比べる。 
 それぞれ別の表情だが確かに全員はしっかりと頷いた。 
 
 パシャの示した経路は、先程の小露台から西側に抜け、 
 下り坂を降りながら一つ階下にある大きな露台に出る流れだ。 
 時機が良ければ味方の奪還隊の一つと合流できるはずだった。 
 後方からの猛追をサキトハがあしらい、三人と一人は大露台へ走りこんだ。 
 
「……皇后陛下は!」 
 その前方から抑えた誰何が飛んでくる。官軍の合言葉――味方だ。 
「……酒に男児に悪戯がお好き!」 
 (この合言葉、慣れない……) 
 パシャの評価に関わらず、その口から対となる合図が吐き出される。 
 予想通りの展開に三人と一人は少しだけ安堵した。これでかなり、楽になるはずだ。 
 しかし――大露台に集結していた味方はかなり数を減らしていた。 
「我ら第四が集中的に刈られてしまったようで、な」 
 息を弾ませるパシャたちの前にいるのは、知られているような第四奪還隊の隊長の顔ではなかった。 
 そしてその彼がおらず、次席階級のこの男が指揮しているということも鑑みると、 
 特に第四隊所属の兵士たちが脱出時に多く討ち取られたことを示している。 
 パシャたち四人を加えても、その数は三十に満たない。 
「だとしたら、かえって――」 
 「この大露台にまとまるのは危ない」パシャはそう続けたかったのだが、 
 さらに「もう、遅かったみたい」と、続けなければならなかった。 
 
 
 
 賊の増援はまさに思わぬところからやってきた。 
 大露台の構造的に、東と西に通路が伸び(東側はパシャたち三人と一人が駆け下りてきたその通路だ)、 
 北側は砦北棟と接し、南側はいくつもの矢眼が開く、分厚い防壁がそびえる。 
 ――賊はその北棟の三階部分にある窓からその身を多数、パシャたちのいる大露台に躍らせてきたのだ。 
「……く、いかん! 西通路を確保だ!」 
 第四奪還隊の隊長は慌しく部下に命じる。 
 しかし不意を突かれたその攻撃に、さしもの強兵たちも迎撃が間に合わない。 
 逆に一人、また一人と悲鳴をあげながら次々と味方が倒れていく。 
 落下してくる賊の数が少ないうちに討ち取ることもできず、続々と北棟の窓から影が飛び降りてくる。 
 あっという間に西通路がある方向に、賊が満ちた。 
 (……何と、いうこと) 
 パシャは牙をぎり、と噛む。 
 結果的に大露台は東と西に官軍と賊軍と別れ、東側は少数で押し込められてしまっている。 
 
「てめぇら! 背中は任せろ!」 
 いつの間にかパシャやクク・ロカの傍らに槍兵サキトハの姿はない。 
 元来た通路を逆走し、追ってきた賊を防がんと黒槍を構える。 
 長大な鉄槍を振り回すには屋内のこの場は狭すぎるが、何も戦い方はそれだけではない。 
 右肩に宛がわれた止血帯を構わず引き剥がすと、まったく血は滲んでいない。キオの腕は確かだった。 
 (けっ、上々だ!) 
「『鉄笛』の首級【ツァンツァ】はここにあるぞっ! 来いっ!」 
 彼から時間稼ぎという概念は吹き飛んでいた。 
 退路は自分が一点で突破、確保する、ただそれだけでよかった。 
 
 彼は敢えて一人だけで退路を作りに行った。しかし、かのピューマの豪傑に対する信頼は厚い。 
 元気なサキトハの咆哮に、他の男たちの呻きが少しだけ軽くなる。 
「……クク・ロカ侍女は小さいから、そこの矢眼から外に出られない?」 
 パシャはちらりと傍らにある防壁、矢を射るために開けた穴を見た。 
 パシャは敢えて「侍女」を付けた。従軍司祭や従軍侍女の扱いは一般的な兵士とやや違う。 
 逃がせるものなら逃がしたいという思いが山吹色の彼女の口を開かせた。 
「へえ、パシャって冗談が言えるのね、すごい意外だわ。《今宵の月は九つ欠けて――》」 
 勿論いくらクク・ロカが小柄だとしても潜り抜けられる隙間はない。 
 さらに言うならば、パシャが心配しているような、 
 ひ弱な奇跡行使者と自分を一緒にされるのは我慢ならなかった。 
 甘柿色の彼女は鼻で笑いながら一蹴すると、祈りの言葉を捧げ始めた。 
 《欠月》は反り返った片刃の曲剣に姿を変え、その小さな身には白兵の覚悟が漲っている。 
「《――急々如律令》」 
 さらにここが正念場と感じたのだろう。 
 火星神アウカヨックにも助力を請い、もう一頭の《乙女座》と、 
 数匹の光るフクロウ《瞳座【チャッカナ】》の召還を叶えた。そしてちらりと背後に目を向ける。 
「まったく、だらしない――」 
「クク・ロカ! 来るっ!……おおっ!」 
 パシャは彼女に注意を促し、気合の叫びを轟かせた。 
 
 《欠月》を隙なく構える、かの侍女の言いかけたことをパシャも理解している。 
 理解していて、最後まで言わせたくなかった。戦力としてまったく当てにならないキオのことを。 
 ヒトの彼も一応、サキトハなどから武器の扱いを教えられている。 
 とは言ってもその期間は短いし、いつも後方で控えている救急衛生兵に実戦の経験はない。 
 頭を抱えてうずくまるよりはましだが、手槍を所在なさげに持ち、 
 一言も発しないで立ち尽くす彼を誰が責められようか。 
 (……守らなければ、絶対) 
 切りかかってきた賊の一人が振りかざす大斧に、パシャは先手を取って短剣を牽制気味に突き出す。 
 重い武器を巡らせて相手は簡単に誘いに乗った。 
 そのまま短剣で切り結び、痛む尾を走らせて尾刀を賊の太腿へ突き刺す。 
 重心を傾けた賊の後頭部に細突剣の切っ先を一瞬で覗かせると、 
「次っ!」 
 隣の味方の掩護に、魂を失ったばかりの巨躯を敵の集団へ蹴り飛ばした。 
 
 ――その時だ。 
 剣戟と怒号と悲鳴が交錯する中、夜空を飛び交う《瞳座》の光に招かれたのかもしれない。 
「隊長――!」 
 砦北棟三階部分にパシャの部下が顔を出した。 
 その場所は、賊たちが飛び下りて来た、まさにその場所。 
 同様に彼が所属する奪還隊の一団が窓から顔を覗かせる。 
「今、行きますっ!」 
 そして味方が次々に身を空中に躍らせて、露台の上に着地する。 
 先陣を切った幾人かは迎撃した賊に切り下げられたが、切り下げた賊の上から味方が槍で床に縫い付ける。 
 落下地点をどうにか確保し、北と東に官軍、西に賊軍という配置になった。 
 配置だけでなく、それらは一斉に白銀を閃かせて殺到する……絵に描いたような乱戦の始まりだった。 
 
 
 
「くぁっ!」 
 誰かは知らない体当たり受け、パシャはしなやかな身体を床に転がせた。 
 木製の床を打つ鈍い音、耳元をかすめる風圧。 
 それは直感で閃くだけ、しかし現実としてパシャに振りかかっている。 
「……く! ふっ……!」 
 彼女は起き上がりざまに黒色の皮鎧へ突剣を突き出し、引き抜く。 
 そして噴き出す血潮に濡れる位置に、既にパシャはいない。 
 また、右手に備えていた短剣は致命打を避けるために犠牲となって弾き飛び、 
 今や尾刀カラコルが尻尾から右手へと持ち替えられていた。 
 錘から解放された山吹色の尾を、身体の平衡をとることに専念させつつ、 
 得物を打ち合わせる敵と味方の隙間を走りぬけ、防壁までたどり着こうとする。 
 (キオ……キオ……っ!) 
 彼女は戦いの最中に人垣にもまれ、移動させられていたのだ。 
 元いた空間は最も密度が高まっている。上の階から飛び降りた援軍が一目散に走りこんできたからだ。 
 
 パシャは瞳を輝かせて周囲を探る。そこに探し求める人物はいないか、と。 
 しかし、その身なりの故に賊は彼女を自由にさせるつもりはない。 
「ぐおぁ!」 
 魂消るような悲鳴とともに、パシャの目の前で一人の官軍兵の上腕部が断ち割られた。 
 さらにそのオセロットの賊は彼女よりも頭一つ以上低い体を翻し、今度はパシャへと斬りかかった。 
 身長差のせいで膝を狙う形になったその斬撃を、 
「……ふっ!」 
 曲刀の刃先を下に向けて遮る。賊の波打った刃が擦れて、闇に次々と火花を生む。 
 すかさずパシャは突剣を突き下げたが、相手は間一髪の際どい動きで避ける。 
 得物が突剣であることを理解している動きだった。 
「……」 
 賊はさらに波形の小剣を擦らせ、パシャの右側へと回りこむ。 
 彼女は右のカラコルが邪魔で、左のパリワナによる刺突を打ち込むことができない。 
 パシャの動きを封じたまま相手は一瞬で側面を取る。オセロットならではの旋回性能だった。 
 
 (手練れ者!) 
 あっという間に攻守が固定されてしまった。 
 賊の息もつかせぬ多段攻撃にパシャは受けざるをえない。 
 そして重い曲刀をどうにか敵の刃に何度となく絡ませる。 
 身体を開こうとするにも巧妙な斬撃で阻まれ、下手をうてば背側へ回られてしまうような危険性もあった。 
 (カラコルが本来の位置にあるならば……!) 
 鉤形の刃先を向けて牽制もできるだろうが、無理な話だ。 
 下段を集中的に薙ぎ払われてパシャの意識も自然と慣れていく。慣れさせられていく。 
 
 そこを賊は的確に突いた。 
 面としての斬撃を突如、点としての刺突に変化させ、パシャの顔面へ突き通そうとする。 
 並の戦士であれば両眼に向かって一直線に伸びるそれに距離感を損ね、眉間を割られるだろう。 
 しかし、パシャは並の戦士どころではなかった。 
 瞬時に深く身体を沈めると、視界が小柄なオセロットよりも下になる。 
 彼が深く突き上げた波型の刃を引きつける前に、パシャは動いた。 
「……!」 
 斬ることができない突剣だとしても、真似事はできる。 
 そしてその真似事は「突く」という動作よりも容易く、手首の返しだけで行えるという利点があった。 
 パシャの強靭な左手首が高速で跳ね、しなった突剣パリワナがしたたかに相手の膝裏を打つ。 
 不安定な体勢からだったが、賊は驚愕の表情を浮かべ体を泳がせた。 
 熟練の戦士らしくその動きはほんの僅かなものだったが、パシャの体勢が有利に整うには充分だった。 
 細突剣には近すぎる間合いを飛び跳ねて嫌うと、相手の射程外から突きまくる。 
 上段から角度を違えて突き下げ、賊の体に次々と不気味な赤い花を咲かせる。 
 深すぎる刺突は小回りが利くオセロットには危険なことをパシャは充分に体得していた。 
 
 古来より、ジャガー族はオセロット族を苦手としてきた。 
 大振りで重い武器を剛力に任せて薙ぎ払うジャガー族の一般的な戦法は、 
 懐に素早く潜り込んで刀身を閃かせるオセロット相手には分が悪い。 
 それとは逆にピューマ族には滅法強いのではあるが…… 
 このように、キンサンティンスーユ地方の三種族はそれぞれ有利な種族と不利な種族が存在し、 
 ちょうど三すくみのような関係をしている。 
 だからこそ、密林の皇国の建国以前は三種族のうちどれかに力が偏ることなく、均衡を保てていたのだ。 
 さらに言えば建国后サヤ・クサのもたらした戦略・戦術は、それほどまでに強力だったということになる。 
 
「ぐ……」 
 初めてオセロットの賊から抑えた呻きが洩れた。 
 一旦攻撃に出られれば、手数と技の豊富さに勝るパシャの方が断然有利だ。 
 彼は小ぶりな木製の盾をかざして防御の構えをとる。 
「破ッ――!」 
 パシャは気合の咆哮を上げた。 
 これこそ彼女の狙っていたことだった。 
 二、三度突剣パリワナでその盾を小突いた後、素早く踏み込んで右手の曲刀カラコルを上段から振り下ろす。 
 刀身の下半分を、賊は見事に受け止めたが、 
「ぎぇ…ぇ」 
 奇妙に捻じ曲がった刃の上半分は、盾を飛び越えて賊の頭蓋骨へ突き刺さった。 
 そのまま力をこめて相手を押しやると、賊はたたらを踏み、どさりと夜空を見上げるように倒れた。 
 
 
 
 パシャがこうして賊方の猛者を接戦で退けた頃、大露台での乱戦もまた、終息しようとしていた。 
 味方援軍、特に《影【ラクァハ】》の奇跡を扱えるピューマ戦士たちの力が大きいだろう。 
 彼らは完全に気配を消し、賊軍の退路を断つ方角に突如出現して賊集団を大いに混乱させた。 
 
 大露台の悲鳴は既にまばら、敵方へ降伏を促す声も聞こえる。 
 (お願い、お願い、どうか!) 
 パシャは疲労やら負傷やらで座り込む味方の集団に鋭く目を走らせる。 
 そこに白い肌を持つ彼がいないかどうかを油断なく確かめながら、駆け回った。 
 
 そして――防壁の端で何かに覆いかぶさるように、ぴくりとも動かない黒皮鎧を見つけた。 
 その賊軍の証である黒色の硬化皮革からは血の色でまだらに染まった刃先がわずかに飛び出ている。 
 パシャはある予感に駆られてその微動だにしないジャガー兵へ近付き、異臭を放つ巨体の横に回りこんだ。 
「……キオ」 
 そこに彼女が探す人物の姿があった。 
 壁に寄りかかるように腰を下ろし、両手は手槍をひどく大事そうに、 
 しかし逃げたくても離れられないようにしっかりと握っていた。 
 どうやら、その手槍が上方から被さる死体を――手槍の穂先で貫いて――支えているようだ。 
 状況の推移はこの場にいるキオしか分からないだろうが、彼は幸運にも自力で障害を退けたのだ、と。 
 パシャは何処かすっきりとしない、安堵の中でそう悟った。 
 ……彼は手槍を伝ってしきりに汚す命の水を、ひたすらに、虚ろに、呆然と見つめていた。 
 
 
 
 事が終わった後の処理が完全に済んだ頃には、既に空は白け始めていた。 
 パシャは自室で寝台に腰かけ、窓から明けの夜空を眺める。 
 夜空に瞬いていた星たちは、これから姿を現すだろう彼らの主神を畏れてかその輝きを控えている。 
 あれほど激しく、血生臭い魂のやり取りが行われたとしても日は明け、日は暮れる。 
 ふと、気の早い一羽の鳥が翼を羽ばたかせてパシャの視界をすい、とよぎった。 
「なあ」 
 キオがそう呼びかけたのは、その鳥に釣られたわけではないだろう。 
 パシャに背を向けて寝台のもう片端に体を預けている彼には、窓の外の様子は窺えない。 
「ん?」 
 そして同様に、主人が何を考えているのかも彼の思案には入っていないだろう。 
 キオはただ何かをぶちまけたい、その相手が欲しいだけだ。 
 パシャは寝台に敷いてある敷布を握り締めて、彼を促した。 
 
 これまで無言だったのを取り返すかように、それでもぽつぽつと降り始めの雨のようにキオは呻き始めた。 
 元いた世界での職業でも、こちらに落ちてからの衛生兵としての活動でも、 
 キオは魂を手放す人間についていくらかの理解があった、こと―― 
 けれども、魂を自らの手で刈り取ることは考えないようにしていた、こと―― 
「俺が、コロした」 
「……ん」 
 パシャも通った、ジャグゥスーユにある大規模な軍養成所の主席だろうと何だろうと、 
 誰しもがこの分厚い関門にぶち当たる。 
 生まれついての殺人者でなければ、 
 自分たちの受けてきた訓練がただ単に皇后陛下の御為に働くだけではないことに、苦悩する。 
「俺が…俺が…」 
「……そう」 
 キオの苦しみに、パシャは乾いた相槌を打ち、 
「お前ら、ンなに、簡単に……頭、おかし……だ、ろ」 
「……キオがそう思うなら、それが真実……」 
 主従二人はそれきり、顔を一度も見せ合うことなく、口を閉ざした。 
 二人が座り込んでいるその敷き布は、数刻前に二人が体を重ねていたとは信じられないほど、冷え切っていた。 
 
 
 
 それからというもの、主従の関係はぎくしゃくとし始めた。 
 軍務を放り出すことこそなかったが、陽気なはずの彼の顔から本来の意味での笑顔が消えた。 
 己の主人を見る目には仄かな恐れが潜み、パシャもそれを敏く感じ取った。 
 しかし主人だとしても、この命題に関してパシャがキオにしてやれることは何も無い。 
 解答者自身が答えを導く他、方法はない。 
 
 そしてさらに一月も経った頃だった。 
 ――キオが副主人であるクク・ロカ侍女に伴われて後方にある神殿【カンチャ】に異動した。 
 書置きは一枚だけ「約束、すまない」 
 パシャは、その書置きを報せてくれた部下に対してただ、頷くだけだった。 
 神殿にこもり、失われる魂に対して一生その罪業を悔いる…… 
 僧としての行き方に救いを求めるのもさして珍しいことではない。 
 パシャもざわめく胸のうちをそうして無理やり落ち着けた。 
 そしてキオが離れて行ったその日の晩、随分と久しぶりに、パシャは炎に包まれる例の悪夢の恐怖を味わった。 
 
 銀色の戦士は、出てこなかった。 
 
 
   §   §   § 
 
 
 ―― チリン 
 陶器と金属とが醸す涼やかな音色は来客を告げていた。 
 独り自室で物思いに耽っていたパシャはその鈴の音に緩慢と顔を向けた。 
「……どうぞ」 
「入るぞ、パシャ」 
 入り口の垂れ幕を引き上げてのっそりと鉄錆色の毛並を現したのは、彼女の斬込隊長仲間で同期のユパだった。 
 彼を特徴づけている体中を取り巻く鉄鎖は外され、代わりに短めの衣服を身に着けていた。 
「む。まあ、くつろぎたい時くらいは鎖を外す。……突然来てすまんな」 
 ユパは入り口のところで立ち尽くしている。 
 彼は普段パシャの自室を訪れることなどなかったわけで、落ち着かなげに視線をうろつかせている。 
「そこの椅子、使っていい」 
「すまん」 
 二人は短く言葉を交わすと、小さめの机の両側に腰を下ろした。 
 しかし彼女は卓上に組み合わせた両手を見つめるばかりで、前に座るユパを見ようともしない。 
 
「それで?」 
「パシャ、あの、だな」 
 奇しくもジャガー族の男女の声は重なる。 
 それきりパシャは口を閉ざしたままで、その沈黙がユパの大きな口を動かした。 
「俺は……こういうやり方しかできん。小難しいのは性に合わん……というか、できん」 
 ユパはいくらか緊張しているようだった。 
 同じようなことを繰り返すと机にいくつかの紙片をばらまいた。 
 薄桃色、白色、空色、それぞれの色は違っていた。 
「親戚が送ってきた。幼子の館【エルクェ・ワシ】通いの女子なんだが、よくできてる」 
 変わった形に折り込まれたそれを彼の太い指が掴むと、ユパは口元へ押し当てた。 
 釣られてパシャの視線も白色の紙片とユパの顔に移った。 
 そしてユパは中央に目を寄せ、息を小さく吹き込んだ。 
「エルクェ・ワシで教えてもらった折り紙というらしい……これは「フラミンゴ【パリワナ】」だな」 
 パシャの愛用している細突剣と同じ名のそれは、ユパの無骨な手を離れ、机の上で翼を広げていた。 
 息を紙片内部へ吹き込むことで中央の胴体部分が膨らみ、立体的に鳥の形をなしている。 
 細い足はついていないが、細い首も、嘴もそっくりだった。 
「とても小さい子供が作ったとは思えんだろう。パシャもやってみんか」 
 パシャに拒絶する理由も気力もなかった。その気があればユパの来室を許していない。 
 促されるままに、今度は薄桃色の紙片を手に取った。 
「こう、だ」 
 ユパもまたもう一羽を手に取り、両手でパリワナの翼になる部分を指で摘んだ。 
 そして二人同時に、 
「ふぅっ」 
 頬を膨らませ、二羽のパリワナを完成させた。 
「子供だから、だな。一羽ずつ形が違う」 
 確かにユパの言うとおり、彼の小さな親戚の小さな指は一生懸命に動き、折ったのだろう。 
 統一性を牙にもかけない真剣さはパリワナの嘴を、首を、翼を、個性という素晴らしさで飾っていた。 
 パシャはのろのろと折り紙を卓上に下ろすと、 
「……」 
 それを軽く指で弾いた。 
 すると薄桃色のパリワナは白色のつがいと寄り添い、愛しそうに嘴の先を合わせている。 
 
「どうして?」 
 朴念仁の誉れ高い彼もいくらかの情趣を解する能力を持ち合わせていた。 
「……」 
 ユパは無言でパシャに応えた。 
「どうして、皆……どうして?」 
 パシャの濃藍色の瞳はユパを見ていない。卓上の二羽の折り紙を見ていた。 
 そこにユパの作った三羽目のパリワナは踏み込めない。 
 ……ユパにはその資格がない。とても悔しく、やるせないことながら。 
 彼女の独白は続く。 
 変わらずその声には覇気が感じられず、 
「皆、おかしい。私は元に戻った、それだけ」 
 しかし心の内を激しく表してもいた。 
 
 
 
「どうして、皆こうまで私を気にかける?」 
 彼女の部屋は、ユパも含めて四人の来室を既に経験していた。 
 
 一人目はチタラ。パシャの従者がいなくなった次の日の晩だった。 
 パシャの同期、ピコン砦医務主任、黄土色のオセロット。キオの直接の上司にあたる。 
 頭脳明晰で、飛び道具を使わせても相当の腕前を誇る。皆から慕われ、物腰も柔らかだ。 
 あだ名は『若先生』。 
 由来は……彼の医術に対しての正当な評価であるとともに、彼が開業医志望であるからだ。 
 そのチタラはパシャを訪れると、気を落ち着ける効果があるのだと、特殊な温茶を淹れはじめた。 
 最近お茶のおいしい淹れ方に凝っているらしく、黙りこくるパシャに延々と説明し続け、 
 そして話題が尽きると、穏やかな香りを放つ香木を置いていった。 
 それはどことなく、従者の匂いに似ていた。 
 
 二人目はサキトハ。チタラが訪問した次の日の晩だった。 
 同じく「星の456期生」出身、ユパの率いる斬込隊所属、赤銅色のピューマ。 
 キオには槍術を指南してくれていた。 
 あだ名は『鉄笛』。 
 由来は……総鉄製の槍を振り回す速度が余りにも速く、 
 槍身が空気を裂く音がまるで一種の笛の音のような音色であることから付けられた。 
 性格は荒々しいが、陰気な暴力とは無縁でキオと一緒にいると本当の兄弟のような気がする男だ。 
 そのサキトハはパシャを訪れると、キオともよくやるというある賭け事を強要してきた。 
 「あいつは賭けが好きだが、全くもってその才能がねぇ」 
 薄給を減らすばかりのキオを面白おかしく話し始め、 
 素人の彼女にもわかるほどにサキトハは手を抜き、パシャに大勝ちさせると帰って行った。 
 
 三人目はサッリェ。そのまた次の日の晩だった。 
 またもや彼も同期。中衛の撹乱隊所属、淡い若葉色のオセロット。 
 パシャはあまり彼とキオの組み合わせを見たことがないが、水泳大会の例を見るに親しいに違いなかった。 
 あだ名は『両髭落とし』『落葉』。 
 由来は……落ち葉が風に舞うように獲物へと近付き、 
 両手に持った双つの小太刀で、相手の両側の髭を気付かれることなく斬り落としたことから付けられた。 
 芯の強いしっかりとした信念を構えた男で、そののんびりとした口調とは対照的だ。 
 そのサッリェはパシャを訪れると、特に何も言わなかった。ただ二つの品を置いて行った。 
 一つ目は壁にかける形の水墨画で、 
 国河アマル・マョ川の遥か上流に位置するという壮大な滝を描いた、彼の宝物の中の一つだった。 
 二品目は一言「拙作ながら」という走り書きがついていたが、 
 間違いなく、サッリェ自身がその優美な尻尾を使って書いたと分かる「真善美」という額だった。 
 
 四人目は当然、ユパ。 
 繰り返すが彼もパシャの同期生。斬込隊の一つを率い、鉄錆色のジャガー。 
 よくサキトハとキオに悪戯をしかけられて、ぷるぷると耐えているのが似合う男だ。 
 あだ名は『虜囚』。 
 由来は……全身に太い鉄鎖を巻きつけている姿が、 
 いかにも虜囚のようなことから付けられた。鉄鎖術ではおそらく、官軍随一の遣い手。 
 普段は貫禄のあるどっしりと構えた男で、ある特定の状況下においてだけ、子供のように拗ねる。 
 そして言うまでもなくユパがパシャへと持ってきたのは、可愛らしい折り紙だった。 
 
 
 
「皆が心配してくるほど、今の私はおかしい?」 
 終始疑問符ばかりの静かな叫びは……それきり力を失った。 
 ユパは大きくため息をつく。 
「疑問は……もっともかもしれん。 
 しかし、な……これまで形にならなかったと言って皆がパシャを心配していなかったということにはならん」 
「……」 
「同期のよしみとすればそれまでだが、皆心の内ではパシャを気にかけていた。いや、違うな。 
 気にかけていない時はない」 
 
 ――同期とはいえ幼い頃から軍養成所に入ったパシャは、ユパたちより年下だった。 
 そして誰もが適当に流そうとする辛い訓練を彼女は黙々と、かつ苛烈にこなした。 
 教官たちはことある毎にパシャを引き合いに出し、それを種にユパたち訓練生をしごき倒した。 
 サキトハなどは、 
「あの女、いつかシめてやる」 
 と言って憚らなかった。そして「星の456期生」にとっても忘れもしない事件が起こった。 
 文字通り「事件」だった。 
 本来ならば過程上の訓練生が何年も先であるはずの、初陣を経験してしまったからだ。 
 
 

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