マイティレディは謎の覆面を追って廃工場へと入っていった。  
「油断してはダメだわ……」  
 敵は強力なレーザー銃で武装している。  
 甘く見ていたら、如何に彼女でも危険である。  
 
 慎重に歩を進めるマイティレディが、工場の中央部辺りまできた時であった。  
 いきなり四方からスポットライトを浴びせられ、マイティレディの目が眩んだ。  
 ライトブルーのボディがテラテラと妖しく輝く。  
「うぅっ、何者っ」  
 マイティレディは、右手で目を庇いながら身構える。  
 
「我々はアメリカ国防省に所属する者だ」  
 スポットライトの背後に立った男が、タバコの煙を吐き出しながら答えた。  
 逆光になっているため、男のシルエットしか分からない。  
「ペンタゴン? アメリカ政府が私に何の用なの?」  
 マイティレディは驚きを隠せない。  
 
「日本にだけ、お前のようなスーパーヒロインが居るのは許せない。お前をアメリカへ連れ帰り、能力の全てを暴いてやる」  
 男が肩を上下に揺すって笑う。  
「お前の能力を元に、我が国の軍隊を宇宙レベルにまで引き上げるのだ」  
 男のシルエットが紫煙を吐き出す。  
 
「そんなことのために……ここはアメリカじゃないなのよ。あなたたちの好き勝手には出来ないわ」  
 マイティレディの声に、怒りの感情が混じる。  
「日本政府の許可は取り付けている。ちょっと圧力を掛けてやったらイチコロだったよ」  
 男がせせら笑い、タバコを投げ捨てる。  
「なんですって?」  
 マイティレディは我が耳を疑う。  
 
 これまで日本のために幾度も命懸けの戦いに挑んできたというのに。  
 余りに酷い政府の仕打ちであった。  
 
「大人しく我が国に来てもらおう」  
 男が合図すると同時に、マイティレディの足元の床が二つに分かれた。  
「アァ〜ッ?」  
 足場を失ったマイティレディが、廃棄物の排出口に転落する。  
 そこへ催眠ガス弾がぶち込まれた。  
 濛々と煙を上げるガス弾。  
 
「うぅっ。ゴホッゴホッ」  
 僅かに煙を吸い込んだ途端、周囲の景色がぼやけた。  
「うぅっ、意識が。ダッ、ダメ……眠ってしまっては……あぁっ」  
 全身の力が抜け、錆びた床にへたり込むマイティレディ。  
 
 天井からパイプが差し込まれ、液体窒素が流し込まれた。  
 
 数分後、カチコチに凍りついたマイティレディの体が引き上げられた。  
「手間を掛けさせおって」  
 ペンタゴンの役人が何本目かのタバコに火を付けた。  
 
                                 ※  
 
 それからどの位の時間が経過したのであろう。  
 薄暗い部屋の中でマイティレディは目覚めた。  
「ここは……そうだわ、私ペンタゴンの部隊と交戦して……」  
 立ち上がろうとして、マイティレディは体の自由がいることに気付いた。  
 X型のベッドに大の字になって寝かされており、枷で手足が固定されている。  
 腕は手首と二の腕に、脚は足首と膝上辺りに、計8個もの枷が身に食い込んでいた。  
「痛ぁっ、ダメだわ」  
 如何に身をくねらせてみても、頑丈な枷はビクともしない。  
 
「覚醒したようですな」  
 メガネを掛けた白衣の男が呟いた。  
「無駄な足掻きを」  
 スーツを着たヒゲの男が嘲笑するように言った。  
 マジックミラー越しに、磔になったマイティレディが見えている。  
「さっそく取りかかってもらおう」  
 ヒゲの男は興味津々に、藻掻き続けるマイティレディを見ている。  
 技術員がコンソールのレバーが操作すると、マイティレディを捕らえた磔台が動き始めた。  
 
「なっ、なに?」  
 いきなりXベッドが動き始め、マイティレディは驚いた。  
 水平から45度起きあがったところで磔台が停止する。  
 マイティレディが周囲を見回していると、天井から機械がせり出してきた。  
「なによ、これっ?」  
 本能的に危険を察知して、マイティレディが怯えたような声を上げる。  
 その全身に身の毛がよだつような感覚が走った。  
「放射線……私のレントゲン写真を撮ってる?」  
 
 彼女の予想は的中していた。  
 医療用としては、絶対に認められないようなX線が、青いボディに放射され続けた。  
「骨格の構造は、さして人間と変わらないようですな」  
 技術員はあらゆる角度からマイティレディの骨組みを撮影していく。  
 
「内部はどうかな」  
 天井から新たなマジックアームが降りてくる。  
 その先端には鋭いメスが取り付けられていた。  
「いやっ、いやぁ〜っ」  
 メスから逃れようと、マイティレディが必死の形相で体をくねらせる。  
 メスが無情にもマイティレディの体に突き立てられる。  
 しかし、ハイマンガンスチールのメスは、マイティレディの皮膚を貫くことは出来なかった。  
 
 代わりに丸ノコがギギギという音を立てて降りてくる。  
 ダイヤモンドを刃に仕込んだ丸ノコが、マイティレディの腹部に押し当てられた。  
「やっ、やめてぇ〜っ。くすぐったい」  
 たちまち刃を失った丸ノコが、煙を上げて停止した。  
 
「なんて奴だ。あの体には刃物は通用しないぞ」  
 主任技師がメガネを光らせる。  
「外がダメなら、内から攻めたらどうだ。全身甲羅って訳でもなかろう」  
 スーツの男がタバコに火を付けながら言った。  
「ファイバー内視鏡の準備だ」  
 
 またもマジックアームのマニピュレータが、マイティレディに向かってせり出してくる  
 今度のアームの先端には妖しげな突起が付いていた。  
 前部は体内への侵入に適した曲線でできており、段差を伴う茎部へと続いている。  
 強いて言うなら、哺乳類の男性生殖器に似ていた。  
 
 妖しげな機器は大きく開かれたマイティレディの股間に忍び寄る。  
 敵の意図を察知したマイティレディが悲鳴を上げる。  
「いやぁ〜っ」  
 しかし足首と太腿を縛るいましめのため、股間を閉じることは叶わない。  
 股間に近づいた機器が、マイティレディの唯一柔らかな部分に押し当てられた。  
 
「うぅっ」  
 マイティレディの眉間に深い皺が寄った。  
 必死で力を込めるが、なだらかなカーブを描く先端部は易々と侵入してくる。  
「あぁっ、入ってくる。入ってくるわ……痛ぁ〜っ」  
 敏感な部分を無理やりに押し広がれて、マイティレディが泣き叫ぶ。  
 
「生意気に感じてやがる」  
 技師たちが下卑た笑いを浮かべる。  
「散々モンスターに犯られているのに、綺麗な色してるぜ」  
「こってりしたミルクを飲ませてやるぜ」  
 全員の股間は勃起し、パンツの内側を汚していた。  
 
 マイティレディの股間を貫いた機器は、どんどん奥へと進んでいく。  
 鋭い痛みに歯を食いしばって耐えるマイティレディ。  
 それも束の間、機器の先端部からドロッとしたローションが吐き出されると、侵入がスムースになる。  
「はぁぁぁ〜っ」  
 
 大きく広げられた口に、2本目の機器が押し込まれる。  
「おごぉっ」  
 いきなり喉の奥を刺激されたマイティレディが目を白黒させてえずく。  
 口から侵入した機器は食道を通過し、胃の中に到達する。  
 第1カメラは生殖器官、第2カメラは消化器系統の調査が目的であった。  
 
「フフフッ、マイティレディの生殖機能を徹底的に暴いてやれ。そして奴にアメリカ人の血を受け継ぐ子孫を産ませるのだ」  
 ペンタゴンの役人は唇を歪めさせた。  
「その時、我が国が地球だけでなく、全宇宙の覇者となるのだ」  
 男の哄笑が始まった。  
 
 新たなディルドゥタイプの内視鏡がせり出し、今度は消化器官の出口からの侵入を図る。  
「ムゥッ……ムゥゥゥ〜ッ」  
 アヌスに内視鏡が押し当てられ、マイティレディが身を震わせる。  
 マイティレディは必死で肛門括約筋に力を込め、異物の侵入を拒む。  
 
 しかし、相手は小径の穴に侵入することを目的に設計された内視鏡である。  
 計算され尽くしたカーブで構成された先端部が、肉の窄まりを押し割っていく。  
「うぅっ、ダメッ。入ってくる……私のお尻の中に、入ってくるぅ〜っ」  
 内視鏡の先端部からドロリとしたローションが滲み出し、摩擦を軽減する。  
 途端に内視鏡の動きがスムーズになる。  
「かっ、かはぁぁぁ〜っ」  
 内視鏡を含んだ口が大きく開き、唇の端から涎が滴り落ちる。  
 
「フッフッフッ、マイティレディが串刺しだ」  
 その様子をマジックミラー越しに見ていた男が、ニヤニヤとイヤらしい笑いを浮かべる。  
 消化器官の入り口と出口を同時に貫かれた彼女は、まさに串刺し状態にあった。  
「どうだ、このヨガりようは。マイティレディはアヌスがお好きらしい」  
 
 アヌスに刺さった内視鏡が前進と後退を繰り返す。  
 その度腸壁が擦り上げられ、気が狂いそうな快感を呼び起こした。  
 アヌスがギュッギュッと締まり、内視鏡の映像にノイズが走る。  
 並みの男のペニスなら、只では済まないところだ。  
 
 内視鏡のディルドゥ部に仕込まれた無数のセンサーがミリ単位で腸壁を刺激し、逐一レスポンスをチェックする。  
 たちどころにマイティレディの泣き所が判明してしまう。  
 
 猛然とスウィートスポットを責め立てるディルドゥ。  
「あぅぅっ、そっ、そこはぁぁぁ〜っ」  
 マイティレディの目に火花が散り始め、脳波が大きく乱れる。  
「もっ、もうダメェ〜ッ」  
 マイティレディの腰が台座から浮き上がり、背中が弓のように反り返った。  
 ライトブルーのボディがブルルッと震える。  
 次の瞬間、フリーの状態にあったもう一つの排泄口から、液体が勢いよく迸った。  
 マイティレディの腰が力無く台座に落下した時、彼女の瞳は焦点を結んでいなかった。  
 
                                 ※  
 
 次ぎに彼女が意識を取り戻したのは、液体を満たしたカプセルの中であった。  
 手足を縛る拘束はなかった。  
 
 周囲を見回すと、他にもカプセルが設置されており、中には見たこともない生物が収納されていた。  
 ピクリとも動かないところを見ると、全部死体なのであろうか。  
 あるものは生前の姿を保ったまま、あるものは内臓をはみ出させたむごたらしい姿を晒して、液体の中を漂っていた。  
 
「このままじゃ、私も標本にされてしまうわ」  
 カプセルを叩き割ろうと、マイティレディは内側からパンチを叩き込む。  
 しかし密度の高い液体が彼女の動きを制限し、全力の攻撃が出来ない。  
 内部からの破壊を断念したマイティレディは、カプセルの天井部へと手を伸ばす。  
 そして天井部を押してみると、なんの抵抗もなく蓋が開いた。  
「しめたっ。鍵の掛け忘れだわ」  
 マイティレディはカプセルの上端部に両手を掛ける。  
 そして、一気に飛び上がってカプセルから抜け出た。  
 
 ミントグリーンのロングヘヤーから、液体が滴り落ちる。  
 マイティレディは素早く体の異常を改め、無事を確認する。  
「今のうちに逃げないと」  
 マイティレディがドアのスイッチを押すと、分厚い扉がせり上がった。  
 通路の安全を確認し、そして脱兎の如く駆け出す。  
 
 途端に警報アラームが鳴り響き、通路の照明が赤い非常灯に切り替わる。  
「しまった、もう見つかった?」  
 一旦立ち止まったマイティレディが、意を決したように再び駆け出す。  
 通路の向こう側に、陸軍の迷彩服を着た兵士が現れ、慌ててM16を構える。  
「ホッ、ホールドアップ」  
 不意を突かれた兵隊が立ち直るより早く、マイティレディがスライディングに入る。  
 足元を救われた兵隊たちが、ボーリングのピンのように吹っ飛ばされた。  
 素早く立ち上がったマイティレディは、後ろを振り返ることなく走り出す。  
 
 行く手を遮るように、再び別の一団が立ち塞がる。  
「ファイヤッ」  
 今度の兵士は、躊躇いもなく銃を発砲した。  
 22口径程度の小銃弾では、マイティレディの強化皮膚を貫けない筈であった。  
 しかし、彼らの発射した銃弾は、只の小銃弾ではなかった。  
 カートリッジに詰められたエネルギーが、ビームの弾丸と化してマイティレディに襲いかかったのだ。  
 
 数発がボディを掠め、大爆発を起こした。  
「アゥゥゥ〜ッ」  
 強化皮膚と内臓を強かに痛めつけられ、マイティレディが悲鳴を上げる。  
「そっ、そんな……地球の技術力で、こんな兵器を作れるはずが……」  
 既存の技術を超越したビーム兵器の出現に、マイティレディに怯えの色が走る。  
 そして敵の力を侮っていたことを後悔する。  
「まともに喰らうわけにはいかないわ」  
 マイティレディは脇の通路に逃れて走り出す。  
 
 迷路のような通路を駆け回るうち、格納庫のような広い場所に出た。  
「いたぞっ」  
 兵士の一団が追いつき、背後から迫る。  
 マイティレディは逃げようとするが、前の通路からも別の一団が駆け込んでくる。  
 そしてマイティレディに向けて、M16ビームライフルを発射した。  
 
「ハァァァーッ」  
 マイティレディは的を絞らせないように、連続バック転で逃げる。  
 そして高く積み上げられたコンテナの背後に滑り込んで息を整える。  
 だが兵士たちは躊躇せず、コンテナに向けて発砲してきた。  
「キャアァァ〜ッ」  
 コンテナが爆発し、爆風に巻き込まれたマイティレディが転がり出る。  
 床に転がったマイティレディに向け、数十丁の銃が一斉に照準を合わせた。  
 ライトブルーのボディのあちこちに、赤いレーザーポイントの斑点が浮かび上がる。  
 
「仕方がないわ」  
 人に限らず、凶悪宇宙人といえども、極力命を奪うことを避けるのがマイティレディの信条である。  
 しかし、自らの命が危ない今、地球人に向け最小限の力を使うのはやむを得なかった。  
 マイティレディは精神を統一すると、おへその部分にあるコスモクリスタルにエネルギーを集中する。  
 そして細胞を活性化させて16メートルに巨大化しようと、エネルギーを解放しようとした。  
 
 その瞬間、マイティレディの脊髄に電流が走り抜けた。  
「くはぁぁぁ〜っ、あはぁぁぁ〜っ」  
 マイティレディが鋼鉄の床を転げ回って悶絶する。  
 能力を使おうとした瞬間、謎の感覚が股間に発生したのである。  
 その感覚は、脊髄を通って脳髄を滅茶苦茶に掻き回した。  
 能力の解放どころではなかった。  
 
 のたうち回るマイティレディを、せせら笑うように見守る兵士達。  
「うっ……うぅっ……」  
 なんとか立ち直ったマイティレディは、手近に転がっていた鉄棒を握りしめる。  
 エネルギー攻撃技であるエナジー・ボゥを使おうというのだ。  
 
 コスモクリスタルにエネルギーを集中させると、鉄棒が光のアーチェリーに変貌する。  
 引き絞った弦を放そうとした瞬間、再び背筋を電気が駆け抜けた。  
「ギャアァァァ〜ッ」  
 悲鳴と共にエネルギーが霧散し、光の弓が元の鉄棒に戻ってしまった。  
 鉄棒を取り落としたマイティレディが、床をのたうち回る。  
 
「マイティレディ、お前の超能力は、全て我々が封じた。普通の女の子になれた気分は如何かな?」  
 兵士の壁を割って、例のタバコ男が姿を現せた。  
 
「お前の女の部分に、ちょっとしたオシャレをしてやったのだ」  
 マイティレディが股間を探る。  
 なんと、クリトリスに小さなリングが嵌められていた。  
 先程からの異様な感覚は、そのリングがクリトリスに作用を及ぼすことにより発生していたのである。  
 
「そのAMLリングは、お前が力を使おうとして、コスモクリスタルにエネルギーを集中させると、それを感知してお前にイタズラするって仕組みだ」  
「なんですってぇっ?」  
 マイティレディの顔が真っ青になる。  
 それが事実なら、ほとんどの超能力が使えないことになる。  
 
 エネルギーの集中を必要としないのは、巡航速度での飛行と中程度の打撃攻撃くらいである。  
 マッハ3の飛行能力も、必殺のマイティビームも使用できない。  
 何より、怪獣やロボット兵器と戦うために必要不可欠な、巨大化が出来ないのである。  
 直径1センチにも満たないAMLリングは、無敵のスーパーヒロインを只の『空飛ぶ女』に貶めてしまった。  
 これでは地球を防衛するどころか、自分自身の安全さえ守れない。  
 
「なによっ、こんなもの……キャァァァーッ」  
 無理やりリングを外そうとしたマイティレディが、絶叫を上げてのたうち回る。  
「うっ……うぅっ……」  
 体をピクつかせて痙攣するマイティレディに哄笑が降り注いだ。  
「そのリングは手術でも外せないように取り付けてある。諦めて、大人しく我々のモノになるのだな」  
 
 絶望の淵に追いつめられたマイティレディに兵士達が飛び掛かり、頑丈な鎖で縛り上げてしまった。  
 本来彼女が守るべき人間の手によって、彼女の体が蹂躙される。  
 それはどう考えても理不尽な光景であった。  
 
 連行されていくマイティレディに、タバコ男が追い打ちを掛けた。  
「今後は地球の危機など心配しなくてもよい。お前は、ただ食事と生殖活動、それに出産のことだけ考えておればいいのだ」  
 タバコ男の哄笑が再び始まった。  
 
「ウェルカム、マイティレディ。エリア51にようこそ」  
 それはアメリカの誇る、対宇宙人戦略研究所の総本山の名称であった。  
「お前の身柄は、ペンタゴンの財産として所有してやる。これからは国防省の時代が来るのだ」  
 ボールギャグを噛まされたマイティレディが、タバコ男を恨めしげに睨み付ける。  
 しかし彼はそんなものを意にも介さなかった。  
 タバコ男が根元まで吸ったラッキーストライクを床にポイ捨てする。  
 そして革靴の爪先で乱暴に踏みにじった。  
 
 
 
 マイティレディがエリア51に連れ込まれてから、数日が経過していた。  
 手狭な一室に監禁されたマイティレディは、頑丈な拘束台に寝かされたまま日々を過ごしている。  
 両足は開脚台に乗せられた上で固く縛られ、ひっくり返ったカエルのような姿を強いられていた。  
 両手は頭側の金具によって固定され、文字通りお手上げの状態にある。  
 更には腰の辺りも革製のベルトで幾重にも縛られ、身悶えすることすら許されない。  
 
 口にはゴム製のパイプが喉の奥まで通されており、声を上げることも出来ない。  
 日に2度、そのパイプを通して流動食が与えられる仕組みになっており、ハンストすら許されていなかった。  
 一度パイプに噛み付いてみたが全く歯が立たず、自殺防止用の猿轡を兼ねているように思えた。  
 排泄の方も、股間に差し込まれた大小2本のパイプを通じて行われ、室内は清潔さを保っている。  
 彼女は脱出を諦めたのか、最近は全く抵抗を見せずに、されるがままになっていた。  
 
「研究経過は順調です」  
 モニター越しにマイティレディの姿を確認し、主任技師が満足そうに言った。  
 タバコ男も鷹揚に頷く。  
「排卵促進剤の投与ですが。本日から経口薬をやめて、注射に切り替えます」  
 タバコ男を振り返った主任技師は、今後の作業予定について説明をする。  
 国防総省の役人として、国家の運営を担う1人であるタバコ男は、検査データに目を通しながら頷いた。  
 
「アレの卵子を使って、我が国独自の巨大ヒロインを生み出す計画、ずばり成功しそうですな」  
 主任技師は指先で眼鏡を持ち上げながら、上司へのお追従を口にする。  
「ふん、『我が国』な……」  
 モニター越しにマイティレディの姿を見て、スモーカーはそっとほくそ笑んだ。  
 
                                 ※  
 
 それから更に半月余りが過ぎた。  
 その間、体液の採取や怪しげな薬の投与などの人体実験が繰り返された。  
 一見、大人しくなすがままになっているマイティレディ。  
 しかし、自由を奪われて実験を繰り返された上、食事や排泄までが強制的に管理される生活に、彼女のプライドが耐えられるはずはなかった。  
 
「何とかして逃げなければ。私の力を奴らに渡すわけにはいかないわ」  
 マイティレディは内心で歯噛みする。  
「こんな奴らにスーパーパワーを与えたら、世界の均衡が……」  
 
 そんな事を考えているうちに、いつもの通りマニピュレータが作動して、マイティレディの陰部を大きく広げる。  
 4本の鉗子が膣口に対してX字に掛けられ、それぞれが斜め方向に大きく広がる。  
 そこへ、CCDカメラを装備したマニピュレータが近づけられる。  
「くぅっ、いつもよりきついわ……見られてる、中まで全部見られてる」  
 マイティレディの顔が羞恥に歪む。  
 
                                 ※  
 
 惨めなマイティレディの姿をモニター越しに見つめていたのは、スモーカーおよび主任技師以下の特務研究員たちである。  
「それでは採卵に入ります」  
 技師の1人がリモコン式のマニピュレータを慎重に操る。  
 モニター上のマイティレディの膣道に、細長い針がついた注射器が入っていった。  
「フフッ、綺麗な色だな」  
 マニピュレータに付属した超小型カメラの画像を見て、スモーカーが鼻で笑った。  
 
                                 ※  
 
「痛っ」  
 卵管に異物を突き込まれ、マイティレディの下腹部に激痛が走る。  
「くっ……くぅぅぅっ」  
 唯一自由になる爪先が虚しく宙を掻く。  
「なっ……何をしてるの? 痛ぁぁぁーっ」  
 何をされているのか分からない不安が、彼女を恐怖に駆り立てる。  
 
 やがて作業を終えたのか注射器が膣から抜き出された。  
 ようやく激痛から解放されたマイティレディは、全身の力を抜いて深く息を吐いた。  
 天井の穴に収納されていくマニピュレータを、彼女は虚ろな目で見送った。  
 
                                 ※  
 
「卵巣内より、卵子15個の回収に成功しました」  
 技師の1人が、採卵器の中身を培養液の入ったシャーレに移し替えながら説明する。  
「新開発の排卵誘発剤を投薬した甲斐がありました。これで作戦の第2段階は終了です」  
 主任が口元を弛めて微笑む。  
 
「次はアメリカ男の精子を受精させる、第3段階に入ります」  
 スモーカーが黙って頷く。  
「驚異の超能力を誇るヒロインの遺伝子は、必ずあなたのご栄達に役だってくれます」  
 主任研究員はすかさず上司のご機嫌をとる。  
「全ては合衆国のために」  
「全ては合衆国のために」  
 
                                 ※  
 
 マイティレディの卵子を人工受精させる精子が選定された。  
 父となる男には、優れた知能指数とずば抜けた体力、そして国家に対する忠誠心が求められた。  
 対象がWASP──ホワイト、アングロ・サクソン、プロテスタント──に限られていることは不文律であった。  
 
 3軍の士官学校から選抜された20から25歳の男たちが、それぞれの精子の優秀性を競った。  
 その結果、陸軍士官学校のスミス候補生の精子が、最も優秀との判定が下された。  
 スミス候補生の精子を受精したマイティレディの卵子は、順調に細胞分裂を繰り返していった。  
 作戦は大成功である。  
 
                                 ※  
 
 その夜のこと、マイティレディが収容された特殊実験室に忍び寄る影があった。  
 本作戦の最高責任者、タバコ男ことMr.スモーカーである。  
 
 ズボンの前を膨らませたスモーカーが、特殊実験室のドアロックを解除する。  
 カードを認識したドアが自動的に開き、殺菌済みの清浄な空気が洩れ出してきた。  
 スモーカーは周囲を確認してから実験室へと侵入し、中からドアを閉める。  
 ひんやりとした実験室はスモーカー1人が入ると、もう手狭であった。  
 
「フフフッ」  
 ベッドにはM字開脚を強いられたマイティレディが仰向けに横たわっている。  
 明滅するパイロットランプが、その体を幻想的に浮かび上がらせていた。  
 もう栄養を与える必要がないため、喉に差し込まれていたパイプは取り除かれている。  
 
 宇宙一のアイドルヒロインの容姿は、地球人であるスモーカーから見ても、充分すぎるほど可愛い。  
 絶世の美少女ヒロインが、体を弛緩させた無防備な姿で目の前にいる。  
 
「ゴクッ……」  
 繊細な曲線を余すことなくさらけ出したマイティレディを前に、男は生唾を飲み込む。  
「お前の卵巣には、卵子を1個だけ残してある。無論、俺が直接受精させるためだ」  
 タバコ男がマイティレディの胸の隆起に指先を伸ばす。  
 仰向けになっても、重力に逆らうかのように張りを失わない盛り上がり。  
 男の指が乳房に触れると、プリンのように柔らかく弾んだ。  
 不埒な指が桜色をした突起に触れる。  
 摘んでみると、コリコリした感触であった。  
 
 スモーカーがその感触を楽しんでいるうちに、乳首が徐々に固くしこってきた。  
「寝てても感じるのかよ。スケベなエイリアンだよ、お前は」  
 やがて手は山の頂を離れ、円を描くようにしながら裾野へと降りていった。  
「うふぅぅ〜ん……」  
 ソフトタッチに反応して、マイティレディが眠ったままで甘えたような鼻息を上げる。  
 たまらず左右の乳房を揉みしだくスモーカー。  
 手の動きが興奮度に比例して、徐々に荒々しくなってくる。  
「うぅぅ〜ん……」  
 乳房の荒っぽい扱いは、マイティレディの意識を覚醒へと導いた。  
 
「……はっ?」  
 欲望に濁った男の目と、マイティレディの澄んだ瞳が絡み合う。  
「イヤァァァ〜ッ」  
 スモーカーはアゼレアの口に手のひらを押し当てる。  
「雌エイリアン風情が、一丁前に悲鳴上げるんじゃねぇ。どうせこの部屋は完全防音よ」  
 猛り狂った男は乳房を鷲掴みにすると、乳首にむしゃぶりついた。  
 興奮した男は、彼女の乳首を唇で挟んで舌で転がし、更には荒っぽく歯を立てる。  
「痛ぁっ、やめてぇ……あぁっ」  
 執拗な責めから、何とか逃れようと身悶えるマイティレディ。  
 しかし、頑丈な拘束具からは離脱出来ない。  
 
「このデカパイ、全然飽きが来ねぇな」  
 スモーカーがマイティレディの胸の上に馬乗りになり、いきり立ったモノを胸の谷間に挟み込む。  
 そして両胸を中央に寄せてペニスをきつく挟むと、腰を前後に揺すり始めた。  
 男の尻に肺の拡張を妨げられ、マイティレディの顔が苦痛に歪む。  
「くっ、苦しいっ。どいてちょうだい」  
 眉間に皺を寄せて喘ぐマイティレディの顔に、白濁色の粘液が降り注いだ。  
「くはぁっ。たまんねぇぜぇ。お前のパイオツはよぉ」  
 
 溜まりに溜まった男のモノは、1回の絶頂では全く衰えを見せない。  
「俺ばっかり楽しんでちゃ悪いな」  
 男は彼女から降りると、開脚台に固定され、閉じることの出来ない股間に顔を寄せた。  
 そして男は指先で秘密の包皮を剥き、股間の肉芽をさらけ出させた。  
 
 その部分には、AMLリングが固くはまっていた。  
「こいつが宇宙にきらめく神秘のルビーか」  
「いやっ、ソコはやめてっ……イヤッ、イヤァァァ〜ッ」  
 哀願を無視し、男の舌先が彼女の最も敏感な部分に触れる。  
「あぐぅぅっ」  
 体の奥底から無理矢理に快感を呼び起こされて、マイティレディが複雑な悲鳴を上げる。  
「感じてるのか?」  
 男が彼女の反応を楽しみながら問い掛ける。  
「だっ、誰がっ。こんなコトして……あなた恥ずかしくないのっ?」  
 マイティレディは歯を食いしばり、厳しい口調で言い放つ。  
 満員電車の中でお触りしてくる中年のサラリーマンたちを思い出し、マイティレディが不愉快そうに眉をひそめる。  
 
 若い男の痴漢がいない訳ではないが、中年サラリーマンの行為は度が過ぎている。  
 彼らは満員電車の中でマイティレディを見つけると、集団で取り囲み、視界を遮ってから集中砲火を浴びせる。  
 彼女が訴えたりしないと舐めているのか、睨み付けたくらいでは怯みもしない。  
 更にエスカレートすると、こっそり取り出した貧相なペニスを、彼女のお尻の割れ目や下腹部に擦りつけて射精までするのだ。  
 
「恥ずかしいのは、こんなとこまで晒しているお前の方だろ?」  
 男が小刻みに振るわせる舌先は、剥き出しの肉芽を容赦なく責め立てる。  
「あふぅぅぅ……」  
 マイティレディはイヤイヤをするように激しく首を振り、不当に与えられた快感に耐える。  
 
「こっちも好きなんだろ?」  
 男は彼女の肛門から伸びている強制排泄パイプを握ると、円を描くようにグリグリと回し始めた。  
 パイプの表面にビッシリと付いている脱落防止用の逆鉤が、直腸壁を掻き回す。  
「かはぁぁぁ……そっ、そこぉぉぉ。だっ、駄目ぇぇっ……」  
 開ききったマイティレディの口から涎が垂れ、黒目が瞼の裏に潜り込み掛ける。  
 
「アンタが怪獣にアヌス責めされてるビデオで、抜いたことあるんだぜ」  
 宇宙でも指折りのアイドルヒロインの獣姦ビデオは、ヤッホーネットにおいて、宇宙規模のオークションがなされている超人気商品である。  
 
 男が排泄パイプを強引に引き抜く。  
「アヒャアァァァ〜ッ」  
 脊髄を走り抜けた快感に、マイティレディは思い切り首を後ろに反らせて悲鳴を上げる。  
 そして足指が内側へときつく折り畳まれる。  
 めくるめく快感の波に飲み込まれたマイティレディが、敢え無く失神した。  
 
                                 ※  
 
 マイティレディが意識を取り戻すと、男が股間の花弁に舌を這わせているところであった。  
 知らぬ間に股間を濡らせている液体は、決して彼の唾液だけではなかった。  
「いやぁっ」  
 狼狽えたような悲鳴を上げるマイティレディ。  
「気が付いたかい、お前の蜜は極上の味だぜ。しかしこの量は……」  
 彼女の秘所から溢れ出た液は、既に肛門までベトベトに濡らせていた。  
 
「もう受け入れ準備は整ったろう」  
 スモーカーがペニスに一扱き入れる。  
 硬度は低いが、日本の高校生よりは遥かに巨大である。  
 かつて渋谷のチーマーに捕らわれた挙げ句、シャブ漬けにされ、散々輪姦された記憶が鮮明に蘇った。  
 
「それじゃ頂くぜ」  
 スモーカーがマイティレディの股間に割って入る。  
 しかし男の腰を受け入れるのには、彼女の開脚度は浅すぎた。  
 男は舌打ちすると、開脚台のロックを解除して、彼女の足を大きく開く。  
 
 次の瞬間、下半身の自由を取り戻したマイティレディは、男の腹を目掛けてキックを放とうとした。  
「キャァッ」  
「ギャッ」  
 スモーカーとマイティレディが同時に悲鳴を上げた。  
 フルパワーのキックを放とうとした瞬間、AMLリングが引き絞られたのである。  
 
 それでも空手の有段者程度のパワーは出ており、完全に虚を突かれたスモーカーは、壁まで吹っ飛ばされる。  
 しかし、意識を失うまでには至らず、スモーカーは後頭部をさすりながら立ち上がった。  
「やってくれるわい」  
 
 スモーカーが懐から、トゲのビッシリ生えたバイブを取り出す。  
 スイッチを入れると、トゲの間に放電のスパークが飛んだ。  
「反抗的な態度を改めてやる」  
 こんなもので中を掻き回されたら、如何にマイティレディといえども無事では済まない。  
「いやっ、そんなのいやぁっ」  
 男を近づけまいと、足をばたつかせるマイティレディ。  
 しかし腰から上はいまだに動かせない身では、あっさりと抱え込まれてしまう。  
 
「さぁ、覚悟は出来てるな。使い物にならなくしてやるぜ」  
 スモーカーの唇が歪められる。  
「もっ、もうダメェ」  
 
 マイティレディが固く目を瞑った時であった。  
 爆発音と共に、激しい振動が伝わってきた。  
「何事だ?」  
 スモーカーはインターカムに向かって怒鳴り散らす。  
「研究所が攻撃を受けています」  
 慌てたような声がスピーカーから流れ出した。  
「まさかラングレーの連中が……」  
 スモーカーが苛立たしそうにマイティレディを見る。  
「しばらく大人しくしてろ」  
 スモーカーが電磁錠を解除して実験室から出ていった。  
 
                                 ※  
 
 スモーカーの予想は当たっていた。  
 マイティレディをペンタゴンに独占させまいと、CIAの特殊戦術班が殴り込んできたのである。  
「M対象は地下12階の実験室に監禁されている模様。如何なる犠牲を払っても奪取せよ」  
 黒覆面の男たちが耳に付けたイヤホンに指令が流れた。  
 覆面部隊が銃を手に、無言のまま駆け出す。  
 同種の武器同士の凄まじい撃ち合いになった。  
 
                                 ※  
 
 爆発音と地響きが連続して巻き起こる。  
「うぅっ」  
 マイティレディは拘束台から逃れようと、自由になる下半身を振り乱す。  
 逃げ出すチャンスは今しかない。  
 しかし、腰から上の拘束具は緩む気配すら見せなかった。  
 
 その時、部屋の照明が消え、薄暗い非常灯に切り替わった。  
 動力室が破壊されたのである。  
 同時に、マイティレディを捕らえていた枷が外れた。  
 強力な電磁石も、電源を断たれては用を為さなかった。  
「今だわっ」  
 マイティレディは拘束台から飛び降りると、ドアのノブに飛び付く。  
 しかしロックは別電源なのか、開く気配はない。  
 
 マイティレディは指先からビームを小出しにして、電磁ロックの破壊に掛かる。  
 コスモクリスタルのエネルギーが活性化され、クリトリスに嵌められたAMLリングが微妙に締まる。  
「むぅっ……うぅぅ〜っ」  
 それだけで、耐えられないような快感が背筋を走る。  
 下半身が痺れるような疼きに支配され、足がガクガクと震えた。  
 ようやくロックを破壊した時、彼女の股間はベトベトに濡れていた。  
 走ろうにも、腰が抜けたようになって動けない。  
 やむを得ず、マイティ・フライトで移動を開始する。  
 
 下手にエネルギー消費を上げると、リングが反応するので、ジョギングぐらいのスピードしか出せない。  
 それでもなんとか基地を脱出することが出来た。  
 撃ち合いに夢中になっているガンマンの子孫たちは、彼女の逃走に全く気付かなかったのである。  
 
                                 ※  
 
 それから数日後、マイティレディは成田行きのジェット旅客機の車輪庫の中にいた。  
 マッハの速度を奪われた彼女が日本に帰る方法は、密航しかなかったのである。  
 著しく能力を弱められてしまった上に、こともあろうに彼女の遺伝子を人間の手に渡してしまった。  
 その事実は、アッという間に侵略宇宙人やテロ国家の知るところとなるであろう。  
 彼女に恨みを持つゴロツキは、町中にもウヨウヨしている。  
 宇宙麻薬の販売ルートを潰された暴力団から、果ては彼女を執拗につけ狙うマニアやカメラ小僧たちまで──。  
 敵は宇宙人やテロリストだけとは限らないのだ。  
「これからの戦いは厳しくなるわ」  
 雲海の隙間から顔を覗かせ始めた富士山を見ながら、マイティレディは顔を曇らせた。  
 

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