「休憩入りまーす!」  
教室に私の声が響く。  
「はーい」「お疲れー」  
クラスメイトのみんながそれに答える。  
――ウェイトレスとウェイターの格好で。  
かくいう私もウェイトレス服を身に纏っているのだけど。  
 
私立式坂高等学校。  
元は色坂高等学校だったが平成3年に改名され、今の名前になった。  
でもその年の文化祭、すなわち色坂祭の名前の変更を学校関係者一同が忘れてしまい、  
そのせいで「式坂高校」と「式坂祭」の年数がずれてしまうという事態になってしまい、  
文化祭を「色坂祭」と呼ぶか「式坂祭」と呼ぶかで今でも先生達が揉めているらしく、  
現在は「式坂祭(仮)」と言うことで落ち着いてるようだ。  
・・・(仮)を着けることを承認する方が問題な気もするけど。  
まあそれはともかく。  
私たち3年8組もコスプレ喫茶という出し物で参加していた。  
 
「あ、綾乃!」  
教室を出ようとする私を同じくウェイトレス姿――なぜか「サブチーフ」という文字が書かれた  
ピンクの腕章を着けている――のみどりちゃんが制止した。  
「何、みどりちゃん。今啓介を探しに行くトコなんだけど」  
「白木ならアンタが休憩入るの待ってたんだけど・・・」  
「ホントッ!?」  
それを聞いた私は風を切りそうな勢いでみどりちゃんに駆け寄った。  
それに若干引き気味になったみどりちゃんに構わず問いかける。  
「それで啓介はドコッ!?」  
「ココ」  
そういってみどりちゃんは店員側のスペースの隅を指さした。  
そこには私の幼馴染みにして恋人――啓介が椅子に座ったまま居眠りしていた。  
まあしょうがないと言えなくもない。  
朝から料理の仕込みを手伝ったり客と揉めたり今まで忙しそうにしてたし。  
でもそれとこれとは話が別。  
「もう、しょうがないわね・・・」  
私は溜め息混じりにそう呟くと啓介に歩み寄って彼の肩を掴み、  
「け・い・す・け・起きなさ〜い!!」  
揺さぶりをかける。  
が、彼の瞼はぴくりとも動いてない。  
「十数える内に起きないと・・・」  
「・・・くかー・・・」  
起きる様子無し。  
その態度を挑発と解釈した私はカウントダウンを開始した。  
「十、九、八、七、六、五――」  
と、ここで私は起きなかった場合に何をするか考えてないことに気付いた。  
でも反応無いのでお願いだから起きて啓介と思いながらも続行。  
「――四、三、二、一、ゼロ」  
「・・・くかー・・・」  
起きる様子が全くない。  
 
「・・・ホントに寝てる・・・」  
仕方ない。少し恥ずかしいけど最終手段。  
そう決心すると私は啓介を抱き寄せ、  
「啓介、おきて・・・」  
そう呟くと彼の耳を甘噛みした。  
周囲からおお、やうわ、などの声が漏れるが無視。  
そのままの姿勢で5秒(きっちり数えた)後、  
「な・・・・・・!」  
唇と身体全体に伝わっていた感触が消え、悲鳴が聞こえた。  
そちらの方へ視線を向けると私の抱擁から逃れた啓介が顔を真っ赤にしてこちらを見ていた。  
彼が何か言おうと口を開くが、途中で彼の唇に当てられた私の指と台詞に遮られた。  
「お客さんがいるから大声たてちゃダメ」  
「お客さんのいるところでンな事するのはアリかい」  
啓介が半目でツッコミを入れるが私はそれを無視。  
と、みどりちゃんが手を叩きながら割り込んできた。  
「はいはい、夫婦でイチャつくのもそこまでにしなさい」  
「誰が夫婦だっ!?」「まあ、みどりちゃんったら♪」  
同時に違うリアクションをする私と啓介。  
「まあ夫婦はともかく婚約ならしてるけどね」  
「してねぇよっ!」  
そう叫ぶ啓介にみどりちゃんは冷ややかな視線を向け、  
「アンタそれ本気で言ってる?」  
「?、ああ」  
小さく溜め息をつき、  
「綾乃っていっつもアンタがあげた白いリボンしてるわよね?告白事件からずっと」  
「ああ、それが?」  
わっかんないかなあ、とみどりちゃんは頭を掻きながら小さく呟くと  
出来の悪い生徒に説教する教師のように人差し指を立て、  
「それって婚約指輪も同然よね?『コイツは俺のもの』ってしるし」  
その発言を受けた瞬間、啓介が凍りついた。  
 
・・・ああ、そんな解釈もアリか・・・。  
とりあえずフォローしてあげよう。  
「みどりちゃんみどりちゃん、これは啓介が昔くれたものだから。  
夏に海行ったときも着けてたし」  
そういって私はリボンを巻き付けた髪の一房をヒラヒラと振ってみせる。  
と、啓介がこちらに視線を向けてきた。  
その眼差しは「頼むからこの状況をどうにかしてくれ」と語っていた。  
あくまでカンだけど。  
とりあえず私は彼に力強く頷くとみどりちゃんに解説した。  
「つまり昔から私は啓介のものだから♪」  
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉい!!」  
ほんのちょっぴり涙目になった啓介が勢いよく立ち上がる。  
「ほらもう泣かないの。男の子でしょ?」  
「誰のせいだよっ!?って頭撫でるな抱きしめるな頬擦りするなあああ!!」  
「すっかりラブラブよね・・・」「見てるこっちが恥ずかしくなるよな・・・」  
「見てないで助けろよ!」  
そう叫ぶ――もはや客への遠慮は忘却の彼方のようだ――啓介の肩をクラスの男子の一人が掴み、  
「貴様に選択の余地を与えよう。  
第一に、遺書を書いて死ぬ。  
第二に、辞世の句を残して死ぬ。  
第三に、ダイイングメッセージを残して死ぬ。  
第四に、誰にも知られることなく一人寂しく死ぬ。  
さあ選べ十秒以内に一二三四五六――」  
「全部却下だっ!っていうか結局死ぬんじゃねえか!」  
「やっかましい羨ましすぎんだよこの野郎死ねぇっ!」  
その発言に頷く男子数名から目をそらして啓介は溜め息をついた。  
「・・・ったくなんでこんなことに・・・」  
「啓介が居眠りしてたせい」  
「ぐ・・・」  
啓介がいめくと同時、周囲から多数の拍手や口笛の音が聞こえた。  
 
「っていつの間にか客増えてるしっ!?」  
言われてみると確かにお客さん――というか野次馬――が増えた気がする。  
「アレがあの校内新聞に載ってたバカップルか・・・」  
「マイク使って告白だなんて真似できないわよ・・・」  
「ありゃあウチにも聞こえとったわい。若いモンはいいのう・・・」  
周囲から聞こえる声――聴力は良い方だ――の内容をしっかり吟味してから一言。  
「大評判ね、私たち」  
「誰のせいだっ!?」  
「・・・お互い様だと思うけどな」  
そう呟いてると、啓介が私の抱擁から逃れてしまった。残念。  
「騒がしくなってきたな・・・」  
そう言いながら店の奥から誰かがこちらに近づいてきた。  
今回の発案者で反対意見を屁理屈で黙らせてしまった黄原君だ。  
黄原君なのだが――――  
「「・・・・・・」」  
私と啓介は彼を見ると同時に沈黙した。  
彼は何故かみんなとは違う格好をしていたのだ。  
服装は共通のウェイター服で「チーフ」の赤い腕章を着けてるけどそこは問題ではない。  
「「・・・何そのチョビ髭」」  
私と啓介が同時にツッコミを入れるが黄原君は動じることもなく、  
問題の髭――言うまでもなく付け髭――を撫でて一言。  
「『喫茶店にはお約束の渋めのマスター』だ」  
黄原君の発言を聞いた私たちはお互いに顔を見合わせて口を開く。  
「全然似合ってないし渋くもないと私思うんだけど」  
「というかコスプレ喫茶に何故マスターがいるんだ」  
「何故ツッコミのときは息ピッタリなんだお前達は」  
 
そうツッコミを入れる黄原君に啓介は半目になった視線を向け、  
「っていうかもしかしてそれがしたかったから企画を立てたのか?」  
「そんなことはない」  
と、無意味に胸を張って黄原君は口を開く。  
「ただ単にみどりにフリフリの格好をしてもらいたかっぐはっ!?」  
「あ、ゴメン秀樹。ツッコミ欲しそうだったからつい」  
脇腹へ肘を機転にしたチョップという過激ツッコミの姿勢のままあっけらかんと言うみどりちゃん。  
黄原君は脇腹を押さえて二、三度咳をすると復活し、  
「ま、まあそれはともかく」と言いながら啓介に向かって手を差し出した。  
「ありがとう。お前たちバカップルのおかげで商売繁盛だよ」  
「・・・そりゃあよかったな。俺達もお前たち新聞部のおかげで一躍有名人だよ」  
啓介は棒読みで返事をすると手を握り替えした。  
手の甲に筋が浮かび上がるほどの力で。  
「ふっふっふっふっ・・・」  
「はっはっはっはっ・・・」  
でも黄原君は眉一つ動かすことはなかった。  
 
「あ〜〜、疲れた・・・・・・」  
夕焼け空を背景に、俺は猫背の姿勢のまま帰路についていた。  
今日は疲れた。心身共に。  
綾乃をこっそり撮影しようとする客に注意したり料理の仕込みを手伝ったり  
綾乃を口説こうとした客に注意したり大量の料理を運んだり綾乃を触ろうとした客に注意したり  
ウェイトレス服のままの綾乃と一緒にいろんな出し物を見て回ったり  
綾乃とともに周囲の好奇の視線にさらされたり――――  
そこで殆ど綾乃がらみなことに気付いて余計に疲れが出た。  
が、なんと言っても決め手はアレだ。  
後片付けの手伝いをするために残ることになった俺は、  
待とうとする綾乃に『先に帰って飯の用意しといてくれ』といって先に帰そうとし、  
綾乃は少し顔を赤くして頷いた。  
やけに素直だと思ってたら別れ際にまた唇を奪われ、  
『じゃあ先に帰ってご飯の用意してるわね♪あ・な・た♪』  
とかいってすぐさま帰っちゃったもんだから残された俺は周りから総攻撃を受けてしまった。  
殺意のこもった視線が十三人分、好奇心のこもった視線が二十二人分といった割合で。  
彼らに寄れば、『先に帰って飯の用意』の発言が同棲してるみたいな言い方に聞こえて、  
恋人と言うよりはまるで新婚夫婦のように思えた、とのことらしい。  
まあ俺の言い方が悪かったからだろうけど、  
ここまでの仕打ちはあんまりじゃなかろうか。  
だが、まあ俺にも役得があったし、と思うと少しは気が紛れた。  
ふと、俺は自分の唇を指でなぞってみる。  
自分の唇の感触しかしないが、綾乃が何度も唇で触れた場所だと思うと――  
「ままー、あのおにいちゃんわらってるよー」  
「しっ、指さしちゃいけません!」  
・・・・・・泣いてないぞ。くそう。  
 
そんなことを考えてながら歩いてるとすぐに自宅についた。  
俺は玄関の鍵を開けドアを開き、  
「ただいま〜・・・」  
「おかえりなさい♪ご飯にする?お風呂にする?それとも――」  
即座にドアを閉めた上で鍵もかけた。  
はっはっはっ今何か幻覚と幻聴があった気がするが気のせいだそうに違いない  
何やらデジャブがするが気のせいだったら気のせいだじゃあ飯でも喰いに――  
背後で鍵とドアが開く音が鳴り、  
「ドコ行くの啓――――」  
俺は声の主を抱きかかえて家に入った。  
 
「・・・今度はなんだよその格好は」  
玄関に入るなり、俺は目の前の少女――綾乃を睨みつけた。  
――実際には睨むふりして彼女の格好を上から下まで眺めてるんだけど。  
カチューシャから天に向かって生え、半ばあたりで重力に負けて折れ曲がり、  
尖った先端をダラリとさせた人間にはあり得ない白く長い耳。  
肩紐のない黒いワンピース型の水着――のようなもの――の尻に付いた白い毛玉。  
素肌の上に申し訳程度につけられたカッターシャツから切り取ってたような白い襟と赤い蝶ネクタイ。  
手首にボタンひとつで止められた白いバンドのようなもの。  
脚のラインを隠すことを完全に放棄したストッキングと微妙に踵の高い黒いサンダル。  
どこからどう見ても――――  
「バニーさんだけど見て解らない?」  
「俺が聞いてるのはその格好をしてる理由だ!」  
思わず声を荒げてしまう。  
 
しまった、と少し後悔するが綾乃は笑顔のままであっけらかんとした表情で答えた。  
「義兄さんと義姉さんが『この格好したら進展間違いなし!』って親指立てて言ってきて」  
「・・・二度とあの二人の戯れ言を真に受けるな」  
「いやさすがに私も真に受けた訳じゃないけど『じゃせっかくだから』ってことでノリで」  
「尚悪いわっ!」  
二度目の絶叫にはもはや遠慮はなかった。  
ふと、頭に浮かんだ疑問を口にしてみる。  
「・・・なんでサイズピッタリなんだ?」  
「兄さん達から渡されたのは姉さん用だったからサイズ合わないんで、  
今回の式坂祭の衣装用意してくれた直ちゃんに相談して作ってもらっちゃった♪」  
「『もらっちゃった♪』じゃねえぇぇぇ!!それアイツラ全員に知れ渡ってるって!!!」  
三度目の絶叫ツッコミにもやはり綾乃は怯みもせずに「まあそれはともかく」と呟くと、  
「どう?この格好」  
その場でくるりと一回転して見せた。  
その動きに合わせて彼女の重そうな乳房が揺れてその動きに目が集中しそうになるがそれはともかく。  
「・・・まあいいと思うが」  
「ありがとっ♪」  
そういって綾乃は満面の笑顔を見せると俺の手を取り、  
「じゃご飯にしよ♪今日はこの格好でいつもの1.5倍(当社比)の愛情注いで作ったから♪」  
「その格好でかよっ!?っておい引っ張るなって!」  
四度目の絶叫ツッコミは妙なテンションの彼女には聞こえていないらしく、  
俺を強引に引っ張っていく。  
そのとき俺は思った。  
やっぱり尻も柔らかそうで丸くてエロい形をしている、と。  
 
「ふふふふふんふんふふふふ〜ん♪ふふふふふんふんふふふふ〜ん♪」  
キッチンから水の流れる音と微妙に調子の外れた鼻歌が聞こえてくる。  
食器を洗っている綾乃が口ずさんでるものだ。  
そして俺はそれが終わるのをソファに腰掛けて待つ。  
甲斐性無しと言うなかれ。  
手伝おうとすると『今日は啓介いっぱい仕事してたから休んでなさい』と怒られてしまった。  
・・・まあ気遣いは正直嬉しいが。  
と、その音と鼻歌が止まり、  
「皿洗い終わったよ〜」  
「おう、お疲れ」  
そう返しながらキッチンの方に振り向くとちょうど綾乃が出てきたところだった。  
「エプロンをしたバニーというのはこれまた斬新だな・・・」  
「ムラムラした?」  
「するかっ!」  
悪態をつきつつも彼女から目をそらす。  
彼女の姿を正視できないからだ。  
チラリと綾乃の方へ目を戻すと、  
ちょうど不服そうな顔をしながら白いリボンでポニーテールにしていた髪をほどき、  
エプロンを外そうとしているところだった。  
何気ない動作のはずなのに着替えを覗いてるような気になってしまい、  
彼女が俺の視線に気付かないうちにまた目をそらしてしまう。  
 
「・・・情けない・・・」  
唇の動きだけでその台詞を表現する。  
正直に言おう。  
すっごくムラムラしてます。  
腰まで届きそうなほどにのばした黒くて柔らかそうな髪とそのアクセントになった白いリボン。  
隠しきれずに上部分が露出した形の良い豊かな乳房とそれらが寄り添うことで出来た深い谷間。  
露わになった贅肉のない二の腕、肩、鎖骨、背。  
胸や腰を強調するように細く引き締まったウェスト。  
着衣が食い込むことでより一層肉感を表現した尻。  
ストッキングに覆われていつもとは違う色気を醸し出す脚。  
そして、「少女」と「女性」の中間の子供っぽさと大人らしさが同居した整った顔立ち。  
それら全てが俺の目には魅力的に映っていた。  
いや、よほど特殊な趣味をしてない限りは今の彼女に心惑わされないものはいないだろう。  
最初に理性をダムにたとえたのは誰だろうか。  
その心のダムが崩壊寸前な今ならその人の気持ちが分かるような気がする。  
・・・ヤバいなホントに。  
何かの拍子――要するに抱きつかれたりキスされたりすると――に決壊してしまうかもしれない。  
「啓介」  
「ど、どうした?」  
突然の呼びかけに努めて平静を装って返事をする。  
同時に慌ててさっきから起立姿勢な倅を足で挟んで隠す。  
それに気付いているのかいないのか綾乃は俺の隣に座り、  
「私って、魅力ない?」  
あまりにも突然の発言に、俺はソファからずり落ちた。  
 
「・・・な・・・、何をいきなり・・・」  
慌てて座り直す俺に、綾乃は口を尖らせて、  
「だって海行ったとき義姉さん達の方を先にじろじろ見たんだもん」  
そういってそっぽを向いてしまった。  
・・・バレてたのか・・・。  
俺は軽く咳払いして――多少誤魔化そうという意図があったのは  
否定できない――言い訳じみた説明をした。  
「俺はケーキのイチゴは最後に食うタイプなんだよ。それぐらい知ってるだろ?」  
「そりゃあ、わかってるけど・・・」  
今度はうつむいてしまった。  
「水着の女の人のグラビア写真集なんて持ってるし」  
「なんで知ってる!?」  
まさか隠し場所がバレた!?  
「この前啓介を起こそうとしたら机の上に全開のまま置いてたけど」  
「・・・捨てたのか?」  
「隠し場所だと思うところに直しておいた。勉強机の裏」  
・・・ビンゴだよオイ。  
「図星みたいだから補足するけどあくまでカンだしその中は見ても触ってもいないから」  
「・・・お気遣いありがとう」  
俺がそういうと、綾乃は不機嫌な表情を隠しもせずに俺を睨みつけてきた。  
 
その様子を見て、俺はもしやと思ったことを聞いてみた。  
「・・・嫉妬した?」  
「そりゃあ嫉妬ぐらいするわよ。彼女なんだから」  
そういって頬をふくらませる綾乃。  
その様子を見て、不謹慎にも可愛い、と思ってしまった。  
それと同時になんだか『心のダムが〜』とか考えていた自分がすごく恥ずかしくなってきた。  
「綾乃、ゴメ――――」  
「謝るのはナシでしょ?」  
謝罪の言葉は途中で俺の唇に当てられた綾乃の指と台詞に遮られた。  
何となく唇を動かしてはいけないような気になって黙ってしまうと、  
綾乃は首ごと視線を下に向け、  
「・・・まあこのカッコは効果あったみたいだし、  
この件はそこの正直さと元気さに免じて許してあげる」  
そういって俺の股間をしげしげと眺めた。  
俺もつられてそっちを見ると、隠していたはずの俺の――まあいわゆる男根が  
テントを張ってその存在を自己主張していた。  
おそらくソファからずり落ちたときに出てしまったんだろう。  
「な・・・!?」  
思わず何か言い訳してしまいそうになるが、綾乃は俺の唇を指でつまむことでそれを阻止した。  
「まあ、男の子なんだからある程度は仕方ないけど・・・」  
そう言うと綾乃は俺の唇から指を離してその手を俺の手に乗せ、  
「啓介がそういう目を向けるのは、私だけにして欲しいから」  
決壊した。  
 
「・・・・・・啓、介?」  
綾乃の呆然としたような声で俺は正気を取り戻す。  
気がつけば俺は綾乃をソファの上に押し倒していた。  
ゴメン、とか、済まない、とかは欠片も思わなかった。  
ただ、目の前にいる少女が愛おしくて、どうしても彼女の全てが欲しかった。  
綾乃は少しの間驚きの表情を見せていたが、  
「・・・うん」  
表情を真剣なものにかえて頷き、たどたどしくキスをしてきた。  
「ん・・・」  
いつも通りの触れ合うだけのキスのつもりだったのか綾乃はただひたすら唇を押しつけてくる。  
だが俺はそこで終わらず、半開きだった彼女の口に強引に舌を入れた。  
「!?」  
俺の突然の行為に綾乃が目を見開くが構わずに舌を限界まで突き入れ、先端で綾乃の舌を突く。  
口の中が見えるわけがないので己の舌から伝わる感触だけでしか判断できないが、  
俺は執拗に自分の舌で綾乃の舌――と思う部分――を責め立てる。  
先端で突き、なぞり、全体で絡ませる。  
それを満足するまで繰り返し、唇を離すとお互いの唇が唾液の糸で繋がっていた。  
それを舐め取ろうと舌を伸ばす。  
と、綾乃が伸ばした舌とぶつかった。  
多分同じことを考えていたんだろう。  
そのことを少し嬉しく思うと自分の舌を使って綾乃のそれを舐め始めた。  
綾乃もそれに答えて舌を絡め合わせる。  
 
「啓介・・・」  
「ん?」  
「口だけじゃなくて、他も・・・」  
その言葉に素直に従い、まずは胸を責めることにした。  
両手は既に綾乃の両胸に触れている。  
・・・すっげえ柔らかい。  
軽く指を曲げるだけでそれが簡単に彼女の乳房に埋まっていき、  
確かな弾力でそれを押し返そうとしてくる。  
そう言えば手で触るのは初めてな気がするが今はどうでも良い。  
今の俺の意識は目の前の双丘とそれに触れた自分の両手に集中していた。  
だが俺はあえて揉みはせず、露出した部分の曲線を指でなぞっていく。  
最初は右手の人差し指から。  
そして中指、薬指、小指と続き、親指まで動かすと左も同じように。  
それぞれの指がまるで無数の軟体生物のように二つの柔肌を蹂躙していく。  
その動きを止めぬまま綾乃の顔を見ると、明らかに紅潮していた。  
「気持ちいい?」  
「・・・わかんない。自分じゃこんないやらしいさわり方しないし・・・」  
「やかましい」  
「・・・自分から聞いてきたのにっひぁっ!?」  
最後の悲鳴は俺が彼女の首筋を舐めたからだろう。  
そして両手も指を這わせるのをやめ、彼女の豊かな果実を鷲掴みにし、  
十指を突き立てるように揉みしだき始めた。  
弾力の割にその二つのふくらみは手の中で自在に形を変えていく。  
そして俺の手のひらに押し返すと言うよりは吸い付くように触れた乳肉が張り付いてくる。  
 
「すごいな・・・」  
「・・・ありがと」  
いつもとは違う、顔を赤らめたまま礼を言う彼女の顔。  
それは俺の知らない顔だが、  
「なんか今の綾乃の顔、すごく可愛い」  
「えっ・・・!?」  
その言葉に頬を赤らめる綾乃。  
が、俺はそれをあえて無視してゆっくりと右手を彼女の脚へと手を運ぶ。  
指先が太ももに触れ、やはり指を這わせる。  
ストッキングとそれを通して伝わる彼女の肌の柔らかさは乳房には及ばないが、  
それでも俺の肉欲を煽るには十分すぎた。  
その感触を味わいながら、左手を彼女の尻とソファの間に潜り込ませる。  
綾乃の尻の柔らかさと弾力が彼女自身の重みによって強調され、  
俺の手一杯にその感触を自己主張していた。  
そして俺の指が綾乃の秘所に触れ――  
「待って!」  
――る寸前に綾乃に制止された。  
 
「ええとね、啓介」  
綾乃は彼女にしては珍しく俺から目をそらし、  
「すごい言いづらいんだけど言わなきゃいけない大事なことがあるの・・・。  
あ、でもこうされるのが嫌なんじゃなくてあくまで確認なんだけど」  
普段にはない長い前置きを挟んで綾乃は俺に言った。  
「・・・今日、危険日なの・・・」  
その言葉を聞いた途端、俺は高ぶっていた感情が一気に冷めていくのを感じた。  
それを察したのか、綾乃は恐る恐るといった口調で俺に聞いてきた。  
「・・・ゴムは?」  
「・・・買ってない」  
その台詞を聞いた綾乃は、俺に目線を合わせると頭を下げた。  
「ホントにゴメン・・・。私から誘っておいて・・・」  
顔を上げても彼女はなおも謝罪の言葉を口にした。  
「ごめんね・・・」  
瞳を潤ませながら再び口を開こうとする彼女の動きを俺は彼女の頭を撫でることで阻止した。  
「大丈夫」  
何の根拠も脈絡もない発言。  
だが俺は彼女の目から溢れそうな涙を止めるために言葉を紡ぐ。  
「お前を不安にさせた俺が悪いんだから。だから、泣かなくてもいい」  
「・・・うん」  
そう答えて目元を拭う綾乃に俺は頭を下げる。  
「俺の方こそゴメン。ろくに準備も確認もせずに押し倒して――」  
俺の謝罪の言葉は、綾乃が俺の頭を抱え込むことで阻止された。  
 
「大丈夫」  
先ほど啓介から言われたばかりのことを私は本人に言った。  
「絶対に最初から上手くいくって言うワケじゃないし」  
胸に抱いた啓介のつむじに語りかけるように私は続きを言う。  
「ゆっくりでいいから、いっしょにやっていこうよ」  
「・・・ああ」  
啓介はそう返すと顔を上げて私と目を合わせた。  
と、私の胸元に彼の目尻からこぼれた水滴が落ちた。  
「・・・啓介」  
「・・・なんだ?」  
私はあえて、答えの解りきった質問をした。  
「もしかして泣いてる?」  
「・・・泣いてない」  
予想通りの反応。  
でも、私はなおも彼に問いかけた。  
「だって、目元が濡れてる」「汗掻いただけだから」  
「でも・・・」「汗だ」  
「・・・うん、そうだね」  
私は微笑みながらそういうと啓介の頭を抱きしめ直して彼の顔を隠した。  
「いっぱい汗流しちゃって良いから。私がびしょ濡れになるくらい」  
その代わり、と私は続け、  
「私には遠慮とかしなくていいから、思いっきり甘えたりしていいからね。  
昔から啓介って遠慮ばっかりして損してるんだから」  
それを聞いた啓介は言った。  
謝罪の言葉ではなく、感謝の言葉を。  
「・・・ありがとう」  
「どういたしまして」  
そう返した私は彼の髪を撫で、  
「「ただいま〜・・・」」  
帰りの遅かった義兄さんと義姉さんが私たちを見て硬直した。  
 
はいここで現在の状況確認。  
 
私は露出過多なバニーさんスタイルで啓介は私の胸に顔を埋めてて、  
その上抱きしめあってソファの上で横たわっている。  
うん言い訳不可能。  
どうみても現行犯です。本当にありがとうございました。  
 
「「じゃ、がんばって」」  
「「ああ待って二人とも〜!!」」  
私たちは遠ざかろうとする兄さん達を必死に呼び止めようとした。  
 
結局、誤解を解くのに30分かかってしまった。  
 

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