ら〜らら〜らら〜ら〜ら〜ら〜ら〜〜ららら〜、ら〜らら〜らら〜ら〜ら〜ら〜ら〜〜♪」
啓介の家に泊まりに行く前日の夜、
私はどこかで聞いたようなフレーズを口にしながら荷物の整理をしていた。
「ら〜らら〜らら〜ら〜ら〜ら〜ら〜〜ららら〜♪っと、こんなもんかしら」
そういいながら作業の手を止める。
荷物の方は大丈夫としても確認しなければならない。
鏡に映る自分の姿を眺めてみる。
「問題ないわよね・・・多分」
ちゃんと胸やお尻も大きいしおなかも二の腕も細い・・・はず。
シミとかニキビとかそばかすとかもないし体の方は万全。
・・・多分。
「・・・・・・大丈夫だといいんだけど・・・・・・」
彼は私のカラダを気に入ってくれるだろうか。
今更こんなこと気にするのも我ながらどうかと思う。
けど気になるのも事実だし、現在の状況に満足して何もしない方が問題だろうと思う。
そう考えると、今用意した荷物では心許ない気がした。
「・・・やっぱり変えよう。下着を」
決心した私は早速鞄の中から持っていく予定だった下着を取り出し、
それとは別にタンスの中からお気に入りのモノを二,三枚ひっぱり出して、それらを見比べる。
目の前の下着は五着。
それに対して実際に使うのは一、二着。慎重に選ばないと。
とりあえず、一番お気に入りの紫のモノは決定として鞄の中にしまっておき、
二着はタンスにしまっておく。
「・・・問題はあと一枚ね・・」
そういいながら私は目の前の二つの下着を見比べる。
片方は鞄の中から取りだした、所々がシースルーになった淫靡な雰囲気の黒の下着。
もう片方はタンスの中から出した、リボンをアクセントにした可愛らしい白の下着。
無論、どちらも上下セットだ。
「やっぱり、白にしようかな・・・」
初めてなのに黒下着というのはちょっとあざとすぎる気もする。
それに正直な話、私は黒より白の方が好きだ。
黒も大人っぽいし全てを内包するという意味もあり優しい感じだけど、
白は清楚、純粋といった感じだし何より啓介を連想する色だし。
というわけで白にしよう。
そう思った私は白の下着に手を伸ばし――
「・・・やっぱりやめ」
――途中でその手を引っ込めた。
白はもっと後。
今はまだ黒で。
そう思い直した私は黒の下着を手にした。
そして当日。
「・・・遅い」
俺は自室で思わずそう呟いた。
俺の視線の先に置かれた時計の短針は既に『11』を通り越して『12』に近づいている。
要するに今は昼前。
ついでに言うと俺が起きたのもついさっきだ。
にもかかわらず、綾乃はいまだ我が家に到着していなかった。
「まあこの天気じゃ仕方ないけどな」
窓から見渡せる景色は雨に濡れている。つまりは大雨だ。
そして手元の携帯を見ると、
『題名:愛しの啓介へ
本文:今すごい雨なんだけど
傘持ってきてないのでそっちに着くのが遅れます。
お風呂沸かせて待っていて下さい。
P.S.昔みたいに背中流しあいっこする?』
などという文章が表示されていた。
「『了解。P.S.丁重にお断りします。』と・・・」
とりあえず彼女の要請の両方に回答しておく。
ちなみに、これが送られてきたのは
その上着信履歴には彼女の名前が一分おきに表示されていた。
『ストーカーかお前は』とツッコミを入れたいところだが起きない俺のせいだろうからやめておく。
って、なんで俺は彼女の到着が遅いってだけでこんなにさっきからそわそわしてるんだ。
まあいつもそうなんだけど今回はエロイことをするという約束をしているので期待と緊張が増加。
「なんか欲求不満のエロガキみたいだな・・・」
実際そうなんだけど。
と、突然携帯が着メロと振動を全開にして騒ぎ出した。
慌てて携帯のディスプレイを見るとそこには『馬鹿兄』の3文字が表示されていた。
・・・普段ならメールで済ませようとするのに、何故電話?
嫌な予感がするが無視するわけにもいかず、通話ボタンを押す。
「あ〜はい、もしもし?」
《・・・なんか嫌そうだな。まあ、それはともかく早速だが、頼みがある》
スピーカー越しの兄のその台詞を効いた瞬間、予感が確信になった。
「・・・・・あのお兄様?当方はたった今何やらとてつもなく嫌な予感がしたのですが・・・・・」
《そのしゃべり方気持ち悪いからやめろ。そんで本題だけど洗濯モン取り込んどいてくれ》
・・・嫌な予感的中。
「って干してたのかよっ!?こんな大雨の中!?」
《今朝の天気予報じゃ大丈夫だったんだけどな〜。それと干したのは母さんだから苦情はそっちに》
全く、こんな肝心なときに当てにならんとは・・・。
お天気キャスターに裏切られた気分だ。
《じゃ、頼んだ》
「な、ちょ・・・!」
少しの間現実逃避した隙をつかれ、兄は俺の抗議を聴きもせずに通話を切った。
「ちっ、いつもながら役立たずどもめ・・・」
我が家に一人きりなのをいいことに本人達の前では言えもしない不満を口にする。
だがもしそれが聞かれてても洗濯物は減りはしないわけで。
そう思うと自然とため息が出た。気だるさ三割増で。
正直な話、したくない。濡れるし面倒だし。
「綾乃がいたら手伝ってくれるだろうけど・・・」
そう呟きながら俺はまだ姿を現さない恋人に思いを馳せる。
そういえば綾乃は今どうしてるだろう。
傘忘れたらしいから俺が傘持っていった方がいいかもしれない。
もしかしたら相合い傘・・・。
俺の脳裏に過去の――具体的には海に行ったときの――場面が蘇った。
あの時は柔らかかったいや楽しかった。
まあそれはともかく思考を元に戻す。
洗濯物と彼女。どちらを優先させるか。
「・・・考えるまでもないな」
そう呟き、俺は着替えを手早く済ませて部屋を飛び出した。
「待ってろよ、綾乃・・・!」
当然俺は家族よりも恋人との愛を優先することにした。
愛しの彼女を濡れネズミにさせるわけにはいかない!恥ずかしいから本人の前では言えないけど!
そんな大義名分をとってつけた俺は親切半分下心半分(自己査定)で傘を片手に自宅から飛び出した。
「せっかっいっじゅうにっ、1人しっかっいなっいっ、
自分に〜、嘘〜をつ〜い〜ていっきっられないっ♪」
うろ覚えの歌を口ずさみつつ俺は玄関から飛び出そうとする。
――――直後。
俺の目の前を車が通りすぎた。
――――玄関前にあった水たまりの水をぶちまけながら。
その直撃を浴び、俺は一瞬で濡れ鼠となった。
「・・・やっぱりやめ。洗濯物回収して風呂入れてこよう。多分綾乃もびしょ濡れだろうし」
前言をあっさり撤回して俺は自宅に戻った。
「許せ、綾乃・・・」
何となく雨雲に覆われた空を見上げながら俺はそう呟いた。
そこからの俺の行動は速かった。
まず濡れた服を着替え、風呂掃除を済ませて湯を入れ始める。
湯がたまるまでの間、無事な――流石に数えるほどしかないが――洗濯物を即座に回収し、
びしょ濡れになった洗濯物と同じく先ほど脱いだ服を乾燥機に放り込む。
「ここまでわずか7分23秒(自己査定)・・・。また一つ世界を縮めてしまった・・・」
自分の成し得た偉業に恍惚としながらそう呟く。
俺って実はやれば出来る子だったんだな。
普段は自慢とかはしないが今回ばかりは自画自賛してもいいんじゃないだろうか。
ああ、今ここに綾乃がいないことが本当に悔やまれる。
そう思いながら俺は乾燥機が正常に動いてることを確認し――――
「・・・・・・あれ?」
――――しようとしたところで動きを止めた。
乾燥機の窓から見える洗濯物に違和感を感じたからだ。
「今、何か見慣れぬモノが見えたような・・・」
俺はそれを確かめるべく目を
「・・・っう゛ぇっくしっ!?」
盛大にクシャミをした。
「・・・う〜、冷えるな〜」
そういって身を縮こまらせながら、もう一度乾燥機に目を向けるが、
「・・・・・・あれ?」
そこから見える洗濯物には何の異常もない。
「・・・気のせいか」
そう判断した俺は乾燥機から視線を外した。
それが間違いだったと気付かずに。
手早く服を脱ぎ捨て、洗濯機の上――我が家は脱衣所に洗濯機と乾燥機を置いている――に置く。
「・・・う〜、寒〜」
寒さに身を縮こまらせながら扉を開ける。
「・・・・・・え!?」
と、そこにはすでに先客がいた。
兄貴か、と一瞬思ったが兄貴はこんなに髪が長くないし腰が細くないし女みたいな顔してないし
乳があるわけないし足の間に男根がないはずがないと俺的時間0,05秒で判断。
つまり眼前にいるのはジャイアントさらばな姿になりはてた兄ではなく、
ましてやついに豊胸手術に手を出した義姉さんや飴をなめて若返った母でもなく、
当然どこぞの温泉の力で女になった父でもない。
そこにいるのは俺のよく知る少女――黒田綾乃その人だった。
「「・・・・・・なんで?」」
お互いに全裸のまま頭に疑問符を浮かべる俺達二人。
何をするでもなく、裸体を隠そうとすらせずにただバカみたいに棒立ちになっていた。
何かしなくては、とは思うが頭の中は真っ白になっておりマトモな思考すら出来ない。
こういうときどうすればいいかわからないよ笑えばいいと思うよいや思わないかそうだよなあ。
ええい落ち着け俺!無理だけど!
だが、混乱するばかりの頭脳とは逆に体の方は本能に忠実に動いていた。
こんな時でも性欲は正直で、目線は彼女の艶姿をなめ回すように上から下、
下から上へとエンドレスで行き来している。
なんだか他人事みたいな言い方だが実際俺もあまり意識せずにこうしてるので
自分の意志でしてる実感がない。止める気もないけど。
一方、綾乃は胸や足の間などの重要な箇所を隠すことも忘れ、呆然とこちらを見つめ返していた。
流石にこの状況は綾乃にも衝撃的だったらしい。
が、俺は気付いた。
彼女が俺と同じように俺へと向けた視線を上から下、下から上へとエンドレスで行き来してることに。
俺の視線と彼女の視線がこの状況そのもののようなメビウスリングを描きだす。
が、やがて彼女の目線はある一点で停止した。
俺のそびえ立つ股間で。
そこで俺の中にようやく羞恥心が戻り、我に返る。
「・・・失礼しました、レディ」
そういいながら俺は扉を閉め――――
「・・・・・・ってちがうだろっ!!!」
――――ツッコミを入れながら再び扉を勢いよく開いた。
「・・・・・・・・・・・・・あれ?」
扉を開け放った体勢になってようやく我に返るが、綾乃はそんな俺に冷めた目で答えてくれた。
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
流石に二度目となるとお互いに先ほどのように慌てたりはせず、
俺達の周囲にはただ白けた空気が漂うだけだった。
「・・・結局、何がしたいの?」
「・・・俺にも分からん」
お互い半目になってそう言い合うと、頭も冷静になれた。
「まあゆっくりと・・・」
しておけ、という言葉は綾乃の言葉に遮られた。
「せっかくだし、一緒に入る?」
「つまり到着したのはいいけど俺が洗濯物取り込んでる最中だったんで、
先に風呂入ってたら俺が入ってきた、ということか」
俺の言葉に綾乃は首を小さく縦に振る。
「乾燥機の中に、見慣れない黒とか紫の女物の下着が見えたんだがもしや・・・」
「・・・うん。そのまさか」
驚愕の事実に、俺は目を見開いた。
そんな色の下着を持ってくるとは綾乃の本気具合が半端じゃないというのが分かる。
ってそんなことはどうでもいい。いやよくはないけど後回しだ。
「せめて一言声かけるとかしろって・・・」
「『忙しそうだったんで先にお風呂はいらせてもらいます』ってメール送ったんだけど」
「・・・マジっすか」
「マジです」
言われてみれば濡れた服のポケットから取りだした携帯のランプが点滅してたかもしれない。
・・・悪いの俺じゃん。
「・・・ごめん」
「謝らなくていいって。私だって連絡不足だったんだし」
そういいながら綾乃は俺の頭を撫でてくれた。
・・・そういえば最近俺って頭『撫でる』側じゃなくて『撫でられる』側になってるような気がする。
まあこれはこれで気分いいからいいけど。
「まあそれはともかく」
「うん」
綾乃は頷くと手を俺の頭から離す。
その手が降りていくのを見届けながら、俺は言った。
「・・・まさかいくらか段階すっ飛ばしてお前と一緒に風呂はいることになるとは」
「・・・うん。私も予想外」
そういって俺達は湯船の中で同時に肩を竦める。
ついでにうなだれると、俺の目に向かい合わせに座った綾乃の裸体が目に飛び込んできた。
どうやら以前にも言っていた『啓介なら裸見られても構わない』というのは本気らしく、
彼女はタオルどころか手で大事な箇所を隠そうともしていない。
いやいくら何でも無防備すぎだろ!
そう思いながら出来るだけ綾乃から視線を外そうとしているが、やはり横目で彼女の姿を見ようとしてしまう。
父さん母さん兄さん義姉さん驚きです。乳はお湯に浮きます。
それを誤魔化すために、何か言おうとする。
「「あの・・・」」
だが、その声は綾乃の声と同時に出てお互いのそれ以上の発言を封じてしまった。
「・・・」
「・・・」
そしてお互いに沈黙。
だが、何が言いたいかは目を見れば分かる。
『・・・お先にどうぞ』
『・・・いや、正直何喋ればいいのか分からん』
俺もそういう思いを目で表す。
と、綾乃は驚いたように目を見開き、
『じゃあなんで喋ろうとしたのよ?』
俺はふんぞり返って答えた。
『何も考えてなかった』
『胸張って言うことじゃないでしょうが!』
『じゃあお前はどうなんだよ』
『そ、それは・・・』
痛いところを突かれたらしく、彼女は俺から目をそらす。
どうやら俺と同じらしい。
それならそうとちゃんと言えよ。いや実際には喋ってないんだけど。
と、そこで俺は視線だけで語り合う無意味さにようやく気付いた。
綾乃の方を見ると、どうやら彼女も同感らしく疲れに満ちた目を俺に向けていた。
「・・・普通に喋ろう」
「・・・そうね」
同時に溜め息をつくと、今度は綾乃の方から口を開いた。
「何年ぶりかな?こうやって二人で一緒に風呂に入るのは」
「ん〜〜〜、あの事件のちょっと前が最後だったから十年ぶりかな」
「・・・ホントによく覚えてるな」
「あと私が入浴中に溺れた啓介に人工呼吸したのが十一年前かな。
ちなみにそれが私のファーストキス」
「だから何でそんな余計なことまで覚えてるんだお前はっ!?」
思わずいつもの調子でツッコミを入れる。
が、なぜか綾乃はそんな俺の様子を見て吹き出した。
「・・・なんだよ」
「いや、こういうリアクションしてる方が啓介らしいって思っちゃって」
「・・・やかましい」
そう答えても彼女の苦笑は止まるどころか増すばかりだ。
くそう。結局いつも通りの展開だ。
「・・・というわけでさ」
「何が『というわけ』なのかは知らんがなんだ?」
「私もいつも通りに戻っていい?」
「へ?」
俺が間抜けな声を出した瞬間。
綾乃は俺が返事してないにもかかわらず、俺に抱きついてきた。
「・・・な・・・!?」
何するんだ、という抗議は俺の唇が彼女のそれにふさがれてしまい、出すことが出来なかった。
あまりの状況の変化について行けずに混乱したままの俺を尻目に、綾乃は唇を離す。
「あの時のキスのやり直し」
そういって綾乃は息が触れるほどの距離で俺に微笑みかける。
それはいつも通りの行動のハズだが、お互いに全裸でその上風呂場の中で密着してるという
特殊な状況が彼女のそれを普段よりも淫靡なモノに感じさせていた。
それだけでなく綾乃の二つのふくらみというかでっかい二つのメロンというか、
まあ要するに彼女の乳房が俺の胸に押しつけられてその形を胸板にフィットするように変え、
彼女の細い腕は俺の背に回され、指が背のラインに沿って滑っていく。
普段としている――というかされてる――こと自体は何ら変わらないのに、
身体全体から伝わる彼女の感触が俺に『女』特有の素肌の柔らかさと暖かさを伝えてくる。
・・・ヤバい。このままじゃ理性が持たん。
流石に綾乃も今は避妊薬飲んだはずないだろうし安全日だからといって遠慮なくする訳にもいかない。
だが既に俺の男の象徴というか主砲というか、
つまりその俺の股間がいわゆる勃起という生理現象を引き起こしてしまっており、
その上その先端が彼女の太ももに触れている。
既に身体の方はヤる気マンマン。その上それを向こうに知られていてもおかしくない状況だ。
ケダモノとか思われないかなと不安になってると、超至近距離にある綾乃の顔が口を開いた。
「大きくなったね・・・」
「へっ!?」
バレた!?
焦りのあまり素っ頓狂な声を出してしまうが、綾乃はあまり気にせず俺の背中をなでながら言った。
「背中」
「あ・・・、ああ。まあ、そりゃあ、なあ・・・」
口ごもりながらも返事を返す。
どうやら先ほどの目つきは懐かしさからだったらしい。
なんとなく自分の下心を指摘されたような気になり、俺は彼女から視線を逸らした。
「ってこら。どこ見てるのよ」
そうしたら、なぜか綾乃に頬をつねられた。
「イタタタタタ!なんでつねるんだよ!?」
「今、私のお尻見てたでしょ」
「尻?」
言われてみれば、まあ確かに俺の視線の先には湯船からつきだした綾乃の丸い尻があった。
表面に無数の水玉を張り付かせたそれは、
乳房とはまた違った柔らかさと丸いラインを見る者にアピールしている。
とか思ってるとまた頬をつねられた。
「ほらまた見た!」
「イタタタタタ!なんで怒るんだよ!?
いつもだったら『啓介にだったら見られても・・・』とか言うのに!」
「それはそうだけど、そういう一部分よりも私自身を見てほしいって言うか・・・」
最後の方にはごにょごにょと口ごもりながら綾乃は俺から目をそらしていく。
「とどのつまりは、俺がお前以外のモノを見てるみたいでなんとなくイヤだと」
「・・・うん」
案外素直に肯定する綾乃。
・・・自分のカラダに嫉妬するとはやっかいな女だ。
まあそれはともかく男の誇りにかけて自己弁護。
「・・・そうは言うがな。これは男として仕方のないことなんだ」
「なんか言い訳くさい」
「いいから聞けって。この状況ってすごく生殺しなんだぞ」
「・・・そうなの?」
俺の言葉に綾乃はきょとんとした表情になり、俺に尋ねてくる。
「そうなんです。だって好きな女の子が抱きついてきたりキスしたりして、
今息がかかるほどの超至近距離にいるんだぞ。それも全裸で」
表情をますます
「それって、私だからってこと?」
「・・・そうだよ悪いか」
「ううん」
そういって綾乃は小さく首を左右に振り、
「ありがとう。すっごく嬉しい」
「それは光栄で」
多少精神的に余裕が出来たため、俺も軽口で返す。
「だからってワケじゃないけど・・・」
そう言いながら綾乃は俺から身体を離し、浴槽を出る。
ああなんで離れるんだやわらかくて気持ちよかったのにでも俺に向けた肌の背や尻がなんエロイな
と思ってると彼女は身体全体をこちらに向け、俺にこう言った。
「どう?私の裸」
「どうって・・・」
そう言われて――言われる前からそうしていたが――俺は彼女の肢体に視線を集中させた。
いつもはストレートロングにしている濡れた漆黒の長い髪は
彼女の肌の表面に無数の水玉と共に張り付き、
その名とは対照的なシミ一つない白い肌も今までにない色気を醸し出している。
何かを挟めそうなほど豊かに実った彼女の乳房は彼女の髪でも隠しきれずに、
その大きさと形の良い曲線、小さな桃色の先端を自己主張している。
キュッとくびれたウェストも丸みを帯びた尻も凹凸がハッキリしてお互いの存在を引き立てている。
体つきは乳と尻を覗けば華奢だが細すぎるということもなく、
肋骨が透けて見えるというわけでもない無駄な肉が一切無い身体つきだ。
それら全てを目の当たりにした俺はポツリと呟いた。
「凄く・・・、綺麗だと思う・・・」
俺がたどたどしくそう言うと綾乃は俺の前に座り込み、浴槽を隔てて俺と向きあうと、
「・・・ホントに?」
「ウソ言ってどうする」
と、なぜかそこでまたも綾乃は吹き出した。
「・・・なんで反論とかツッコミの時は即答できるのよ」
「やかましい」
そう反論しても彼女の苦笑は止まるどころか濃くなるばかりだ。
ちくしょう。俺のプライドはボロボロだ!・・・元からあんまりないけど。
「・・・でも」
そこで綾乃は言葉を切ると身を乗り出し、お礼のつもりか触れるだけのキスをした。
「ありがと♪」
笑顔でそういうとよし、と小さく呟き立ち上がった。
現在の俺の目線からは自然と下から見上げる形になり、
俺の目の前に彼女の隠しもしていない魅力的な裸体をさらけ出した。。
このアングルからの光景を楽しんでいると綾乃は前屈みになって俺に右手をさしのべ、
「カラダ、洗いっこしよ。昔みたいに」
「・・・ああ」
俺はその言葉に頷くと、彼女の手を取った。