もう日も沈んだ休日の街を一人で歩く。  
たったそれだけのことが妙に悲しく感じるのは何故だろう。  
そんな詩的な事が頭に思い浮かぶ。  
まあ要するに一人で寂しいだけなんだが。  
仲間内で唯一彼女いないし何か疎外感。  
まあ家に帰っても両親は旅行中だし  
担任でもある兄は嫁さんとイチャついてるだろうから居心地悪いだけだが。  
「あの・・・。」  
そんな寂しいことを考えていると誰かに声をかけられた。  
「はいはい・・・。」  
声のした方を向く。  
そこに立っていたのは、一言で言うと、美少女だった。  
綺麗とも可愛いともとれる整った顔立ち。  
卵形の輪郭。  
流れるような長い髪。  
女性らしい身体のライン。  
それらがバランスよく配置された娘であった。  
彼女と目が合う。  
すると何故か彼女は俺を見つめたまま硬直した。  
「ええと・・・、俺が何か?」  
何か気に障るような事したか俺?  
目の前の少女はそんな俺の疑問に気付かず躊躇いがちに聞いてきた。  
「もしかして白木啓介君?」  
「あ・・・、はい、そうです・・・。」  
何故か敬語で答える俺。  
「・・・!」  
彼女の顔がみるみると歓喜の色に染まり、  
「会いたかった・・・!」  
いきなり俺に抱きついてきた。  
 
「なっ・・・・・・。」  
「久しぶりー!元気だった?」  
少女が気軽に声をかける。  
が、こちらはいきなり女の子に抱きつかれたという事実に気が動転してそれどころではない。  
鼻先をくすぐるシャンプーの匂いやモロに当たってる弾力のある物体の感触、  
何より少し動くだけな触れてしまいそうなくらいに近づいた彼女の笑顔に  
心奪われそうになるが決死の思いでそれを阻止。  
というか女の子に抱きつかれただけで何ここまで動揺してんだ俺と  
頭の中の冷静な部分が訴えてくるが今はそれどころではない。  
(・・・久しぶり?)  
どういうことだろう。女の子の知り合いなんていないのに俺。  
いや、いた。  
子供の頃に一緒に遊んだ少女。  
いつも一緒だった少女。  
そして、家庭の事情で俺の前から姿を消した少女。  
その面影が  
「もしかして・・・、綾乃?」  
「うん!」  
少女――黒田綾乃は嬉しそうにそう答えた。  
 
「じゃあこっちに帰ってくるのか・・・。」  
「うん!」  
俺たちは夜の街を二人で歩いていた。  
もう夜遅くなので俺が綾乃を家まで送ることにしたためだ。  
「学校はもう決まってる?」  
「明日から私立式坂高等学校の2年8組に入るんだって。」  
「ウチのクラスかよ!?」  
兄貴の仕業か!?この狙いすましたかのようなクラス編入は!?  
「あ、そうなんだ。」  
何がおかしいのか彼女はくすくすと笑う。  
「でも、安心した。」  
「何が?」  
彼女は笑みのまま俺に言った。  
「やっぱり啓介って、昔優しい啓介のままだなあって。」  
「・・・そんなことない。」  
俺は彼女から目をそらし、  
「俺、一度お前を裏切ったからな・・・。」  
「啓介・・・。」  
会話が途切れる。  
 
その後、俺たちは目的地に着くまで無言のままだった。  
 
「じゃあ、また明日な。」  
「あ、ちょっと待って。」  
去ろうとした俺の肩を綾乃が掴む。  
「昔から啓介に言いたかったことがあるの。」  
「言いたかったことって――――!?」  
綾乃は自分の唇を俺のそれに重ねた。  
唇を離すと彼女は俺に満面の笑みを浮かべ、  
「私、昔からずっとあなたのことが好きです。」  
綾乃はそう言い残すと門をくぐり、玄関に入っていった。  
そして、ドアを閉める直前、  
「返事はいつでも良いからね。」  
直後、ドアを閉めた。  
残された俺は長い間その場に立ちつくしていた。  
 
「――――ということがあったぐげがっ!?」  
昨日のこと(流石にキスされたことは隠した)を話し終える直前。  
俺は突然話を聞いていた友人の一人に殴られた。  
「な・・・何するんだよ!」  
「やかましい!!」  
俺の文句を遮って俺を殴り飛ばした長身の体格の良い友人――赤峰博人は言葉を続ける。  
「てめえそんなに羨ましい体験をしやがって・・・!  
男として俺は貴様を許せねえ!!この場で成敗してやる!」  
「・・・お前彼女いるだろうが・・・。っていうか声デカすぎだ。落ち着け。」  
もう一人の眼鏡をかけた細身の友人――黄原秀樹が冷静に赤峰にツッコミを入れる。  
「馬鹿野郎!それとこれとは話が別だ!  
そう言うシチュエーションが羨ましいと思うのは男として健全だ!!」  
「へえ。そうなんですか。」  
その発言を聞いた途端、黄原の発言の後半を無視して大声を出していた赤峰が硬直した。  
固まった赤峰の後ろにはいつの間にか背の低い(自己申告152a)少女――青野直美が立っていた。  
「博人君は自分から告白もできないような女の子は嫌なんですね・・・。」  
「いや、直美、そう言う意味じゃ・・・。」  
赤峰は半泣きになる青野を必死になだめ始めた。  
その隙に俺は退避。  
 
「ふう、助かった・・・。」  
「安心するのはまだ早い。」  
戦略的撤退を試みる俺の肩を黄原が捕まえる。  
「・・・ナニカヨウデセウカ?」  
「さっきの話をもっと詳しく聞かせてもらいましょうか?」  
いつの間にか俺の前に長身の少女――吉村みどりが俺の前に立ちふさがっていた。。  
「まだ何か隠してることがあるだと新聞部部長のカンが告げているのよ・・・。」  
「イイエ。ナニモナイデスヨ?」  
「カタコトで言ってる時点で説得力がないぞ。」  
「く・・・。」  
俺にもう逃げ場はないのか・・・?  
と、そこでチャイムが教室に鳴り響いた。  
同時に教室のドアが開き、担任である兄が入ってきた。  
「さ、朝礼やるから席に着けー。」  
「チッ、時間切れか・・・。」  
「命拾いしたわね・・・。」  
渋々とどこぞの三流悪役のような捨てぜりふを残して席に戻る黄山と吉村。  
「た、助かった・・・。」  
俺は拷問から解放されたことに安堵する。  
しかしこのときの俺は知らなかった。  
まだ地獄は終わってないことを。  
 
「今日からこのクラスに入ることになった黒田綾乃です。  
よろしくお願いしまーす。」  
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!  
クラスの男子のほぼ全員が歓声を上げる。  
・・・まあルックスは良いからなアイツ。  
と歓声を上げなかった男子の内の一人である俺は人ごとのように思う。  
「あ、啓介おはよー!」  
彼女が脳天気に俺に声をかけた瞬間。  
その場の全員の好奇と殺気の入り交じった視線が俺に集中した。  
・・・いやみんな怖いよ・・・。  
 
「じゃあみんな綾ちゃ・・・黒田に質問無いかー。」  
その一言をきっかけにクラスメートが次々と質問していく。  
「身長体重3サイズは!?」  
「身長は164センチ。後はご想像にお任せします。」  
「誕生日と血液型は?」  
「9月3日生まれの乙女座で、A型です。」  
「好きな食べ物は?」  
「美味しい者なら何でも。」  
しかし綾乃はそれらに怯むことなく答えていく。  
赤峰が声を上げた。  
「啓介とはどういう関係なんですかー!?」  
「幼馴染みです。3歳の頃からずっと一緒でした。」  
おお、と歓声が起こる。  
「あの白木が先物買い・・・!」「未来を見据えて手を付けるとはやるな・・・!」  
「赤峰よりはマトモな方だと思ってたのに・・・。」「やはり奴も獣(ケダモノ)か・・・。」  
何か凄い事言われてるよ俺・・・。  
と、そこで歓声を上げなかったもう一人―黄山が手を挙げる。  
「ドコまでしましたか?」  
涼しい顔して露骨に聞くなよ・・・。  
その質問を受けた綾乃は赤らめた頬に手をあて、  
「キスまでなら・・・。」  
俺は思い切り頭を机に打ちつけた。  
「ちょ、ちょっと待てぇ!」  
流石にそろそろ止めねばならない。  
周囲の突き刺すような視線と額の痛みを無視して体を机から引きはがして立ち上がる。  
「た・・・、確かに子供の頃したけどな・・・。」  
とりあえず本当のことを言う。  
ただし必要な部分を意図的に省いてるのでみんなは子供の頃の戯れだと思うはずだ。  
まあ言い訳臭いのは重々承知してるがこうでもせんと俺の身の安全がヤバイ。  
「でも昨日「うわああああああぁ!!」れ際にキスし「うわああああああぁ!」」  
わずか2秒で俺の思惑はいとも簡単に打ち砕かれた。  
 
「アレか?再会の勢いって奴か?」「そのまま一気に?」「「「「キャー!」」」」  
「いや、さっきキスまでと言ってたし・・・。」「いやいや、嘘という可能性も考えるべきだ。」  
何かみんな好き勝手言い始めてるし・・・。  
吉村に至ってはメモまで取っている。  
「うああああああああああ・・・・・・。」  
あまりの恥ずかしさとプレッシャーに圧され、俺はどこからか聞こえてくる嗚咽をBGMに  
机に突っ伏した。  
・・・嗚咽?  
聞こえる方に目を向けるとそこには涙を流してうつむく兄の姿があった。  
「・・・ああ・・・、綾ちゃんがいなくなってから家族からしか  
義理チョコももらえないほど浮いた話一つ無かった啓介に遂に春が・・・!」  
そう言うと兄は目元に拳をあてて涙をぬぐい、  
「・・・この愚弟の保護者として、今日という日を神に感謝する・・・!」  
「黙れ愚兄!」  
そう叫んだところでチャイムが鳴った。  
ああ、これでこの地獄から解放される・・・。  
「次の時間俺の担当だし構わず続けてー。」  
「「「「「「「はーい!」」」」」」」  
「このクラスにマトモな奴はいないのかー!」  
俺の絶叫は全員に無視された。  
 
 
昼休み、とりあえず俺たちは屋上に逃げ込むことに成功した。  
1月半ばのこの季節、こんな寒いところに来る奴はいないだろう。  
「ゴメンゴメン。調子に乗りすぎちゃった。」  
「・・・・・・お前なー。」  
今更の謝罪への抗議代わりに哀愁たっぷりのため息をつく。  
しかし綾乃はそれを気にもしない。  
「逃げてよかったの?」  
「あのまま教室にいたらまた質問攻めに合うからな。流石に疲れた・・・。」  
お前を教室に残したらまた余計な事言いそうだし、という台詞は心の中に止めておく。  
「私の手繋いだまま何処かに逃げたって言うのは十分話題になると思うけど。」  
「手?」  
「ほら。」  
そう言うと綾乃は自分の右手を俺に見えるように持ち上げる。  
そこにはしっかりと俺の左手が握られていた。  
というか俺の方から握ってる。  
「ゴ、ゴメン!」  
暖かく柔らかい感触に思わずドキリとしてしまい、慌てて彼女の手を離す。  
が、綾乃は怒りもせずに笑顔で俺を見ていた。  
「啓介のそう言うところ、可愛い♪」  
「・・・ほっとけ。」  
ぶっきらぼうに返すが綾乃は笑顔を崩そうともしない。  
くそう。何か調子狂う。  
「まあ、いろいろあったけどさ・・・。」  
そう言うと彼女は俺に笑顔のまま言った。  
「これからもよろしくね?」  
「・・・ああ。」  
そう返事をすると俺は空を見上げた。  
寒い風に似合わないくらいの強い日差しが雲の切れ間から降り注いでいた。  
 

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