「啓介ー!起きなさーい!遅刻するよー!!」  
朝早くから聞き慣れた女――綾乃の声が俺の耳に響いた。  
毎朝思うが何で朝っぱらからテンション高いんだコイツ。  
俺低血圧だから朝弱いのに。  
いや低血圧と寝起きの弱さは関係ないというが俺は朝が弱いわけだから  
両者の関係は決して無関係とはああ訳解らんようになってきたとにかく寝よう。  
今日は兄も親もいないから毎朝起こしに来る悪魔さえ退ければぐっすり眠れるはずだ。  
「・・・おやすみ・・・。」  
「寝るなー!」  
引き寄せようとした布団が引っ張られる。  
慌てて布団を掴み直そうとするがそれより速く俺の手から布団が離れた。  
そうはさせるか!  
俺は瞼を閉じたまま(眠いから開けるのがつらいのだ)布団が引っ張られた方向  
(目を閉じているので当てずっぽうだが)へ素早く手を伸ばした。  
指先に何かがあたる。布団の感触だ。  
迷わず俺はそれを掴み全力で引き寄せた。  
「わっ・・・!」  
綾乃が悲鳴を上げるが構うことなく手にした布団を抱きしめた。  
だが抱きしめた感触は布団とは違うものだった。  
ついでに言うと重みもある。  
流石に気になって目を開ける。  
すると綾乃の顔がすぐ近くにあった。  
「え・・・!?」  
俺は疑問符を浮かべながらも自分が抱きしめたものを見る。  
それは布団ではなくどう見ても綾乃の身体だった。  
 
と、顔を赤くした綾乃が口ごもりながら疑問に答えた。  
「け、啓介がいきなり布団引っ張っちゃったから、  
バランス崩して一緒に倒れちゃって・・・。」  
「そ、そうか・・・。」  
そして沈黙。  
「・・・。」  
「・・・。」  
「・・・・・・。」  
「・・・・・・。」  
お互いに何も言わない。重苦しい沈黙。  
ただお互いに見つめ合うだけだ。  
綾乃の身体の感触が熱を持っていくのが解る。  
いやもしかしたら俺の熱かもしれない。  
綾乃の表情も驚きから熱を持ったものへと変わっていく。  
多分俺も同じだろう。  
そして俺の身体を綾乃が抱きしめ――  
――ようとしたところでいきなりけたたましいベルの音が沈黙を破るように鳴り響いた。  
二人同時に音のする方を向くと、そこには俺愛用の目覚ましが存在を自己主張していた。  
「・・・ごめん。」  
「・・・ううん。」  
お互いに冷や水を浴びせらた様な気分になった俺たちはどちらともなく身体を離した。  
 
「ふんふんふんふふふんふんふんふんふ〜ん♪」  
あれほど赤面していたというのに、登校時には綾乃は鼻歌を口ずさむほど上機嫌になっていた。  
「何でいつにもましてハイテンションなんだよ・・・。」  
「さっき啓介に抱きしめられたから♪」  
「・・・そんな恥ずかしいことサラリと言うなよ・・・。」  
恥ずかしいので目をそらそうとする。  
が、目が自然と彼女の方を向いてしまう。  
しかも彼女の身体を上から下へと視線を移そうとしてる。  
ふと、先ほどの抱きしめた感触を思い出してしまう。  
彼女の身体は暖かくて柔らかかった。  
俺にかかった重量もそこまで重いというわけではなくむしろ軽い方だろう。  
なんて言うか、当たり前だが昔より成長したんだなあ綾乃。  
ってさっきから何女の子の身体について真剣に考えてるんだ俺。  
・・・こんなキャラだったかな俺・・・。  
何とか視線を遠くに持ってきてそんなことを思う。  
でも、不思議と悪い気はしない。  
誰かと一緒に送る日常。  
そして変わっていく自分。  
こんな日常も悪くない。  
もしかしたらこれから、俺はコイツと・・・。  
「どしたの啓介?私を抱きしめて欲情した?」  
「するか!」  
いや、それはないかと俺は即座に心の中で前言撤回した。  
 

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