私は泣いていた。  
初めて幼稚園に通った日。  
今まで一緒だって親も帰ってしまい、見慣れない場所に置き去りにされ、  
ひとりぼっちにされたような気がして、急に不安になったのだ。  
周囲の大人達は暴れ回る子供達をなだめようと必死で、私には見向きもしない。  
やっぱり、私は今、ひとりぼっちなんだ。  
そう確信した瞬間、声が聞こえた。  
「だいじょうぶ?」  
声のした方を向くが、次々と溢れる涙のせいで視界が歪んで良くは見えない。  
目に溢れる涙を拭い、視界をクリアにして改めてそちらを向く。  
すると、そこには顔も知らない男の子がいた。  
「どうしたの?」  
再び声をかけられる。  
私はしゃくり上げながらもどうにか答える。  
「ヒック・・・、お母さんが・・・ヒック、私置いて・・・ヒック、行っちゃった・・・・ヒック。  
誰も相手・・・ヒック、してくれないし・・・ヒック」  
と、突然彼は私の手を取り、  
「だいじょうぶ。」  
そう言うと自分の(といっても私と同じくらいの背だが)胸の高さまで繋いだ手を持ち上げ、  
「ぼくとあそぼう?」  
ひとりぼっちだと思ってた私にかけられた声。  
私と同じ年のはずなのに、その声は何故か優しく、私の心に響いた。  
それと同時に、私の鼓動が速くなった。  
 
ふと、テレビでやっていたフレーズを思い出す。  
『あの人と初めてあったとき、ビビっときたんですよ。』  
もしかして、それはこういう感覚なんだろうか。  
つまり、私は彼を――――  
それを自覚したとき、もう自分が泣いていないことに気付いた。  
私は、自分の気持ちを口にした。  
「うん・・・!」  
その言葉を聞くと、彼は「よかった・・・。」と呟き、  
「ぼく、しらきけいすけ!」  
「わたし・・・、くろだあやの・・・。」  
互いに名乗ると、彼――けいすけはにっこりと微笑んで、  
「よろしくね?」  
「・・・・・・うん!」  
私も笑顔で答えた。  
彼に負けないくらいの笑顔で。  
 
これが私と啓介が初めてあったときの出来事。  
そして、私が彼を好きになった出来事。  
 
 
「・・・って、何悶えてるの?」  
「・・・悶えもするわンな恥ずかしい事言われるとっ!」  
そして現在。  
啓介は当時の話を私から聞き、日光を浴びた吸血鬼のように悶え苦しんでいた。  
「全く、何でお前も覚えてるんだよ・・・。」  
「お前、『も』?」  
啓介場ぼそりと呟いたその言葉を、私は聞き逃さなかった。  
「って事は、啓介も覚えてたって事よね〜?」  
「グッ・・・。」  
啓介が悔しそうな声を出すが、私は気にせずにうっとりとしたような声で言う。  
「あの時の啓介は格好良かったなあ・・・。今でもそうだけど。」  
「いやあれくらい当たり前だろ?電車とかでお年寄りに席譲るのと同じくらい。」  
・・・そうじゃないと思うけど・・・。  
その『当たり前』をするのが難しいのだが、  
啓介は自分がそれが出来るほど優しい人間だと自覚していない。  
こんなに善人なのに。  
過去の自分の『罪』をいまだに許せないくらいに。  
「まあそう言うところが啓介の良いところだけど。」  
「え?」  
「何でもない。」  
でも、教えてあげないことにした。  
多分、それは彼が自分で気付かなければいけないことだから。  
 
まあそう言うわけで話題転換。  
「でもその『恥ずかしいこと』をしたのは啓介だけど?」  
「そ、それはその、ドラマでそんなことやってとのを思い出して、  
そうすれば泣きやむって思ったから・・・。」  
「・・・どんなドラマよ・・・。」  
「い・・・、いいだろ別にっ!っていうかお前こそそんな恥ずかしいこと事細かに覚えんなよっ!?」  
照れ隠しなのか啓介は大声でまくし立てる。  
「むう。啓介が『お前って俺にどういう状況で惚れたんだ?』って聞いてきたから  
答えてあげたのにそう言う態度はないんじゃな〜い?」  
私はそう言って彼に身をすり寄せる。  
「わ、わかった、わかったから・・・、って頭撫でるな抱きしめるな慈しむような笑顔になるなぁ!」  
「もう、そんなに照れちゃって〜、可愛いでちゅね〜♪」  
「男が『可愛い』って言われても嬉しくないっ!」  
啓介はそう言って私の腕の中で暴れ回るがこちらに気を使ってかその力は弱い。  
まあ啓介も口ではこう言っているけど、本当に嫌なら簡単にふりほどけるはずだが、  
それをしないということは「嫌よ嫌よも好きの内」と言うことなんだろう。  
 
でも、分かっている。  
私たちはもう、あの時とは違う。  
今抱きしめている啓介の身体は当時とは違い、体つきもガッシリし、  
同じくらいだった背も差がついている。  
かくいう私も、身体は女性としての曲線を描き、短かった黒髪も長く伸びている。  
それは、私たちが離れていた時間の長さを示していた。  
それに、この関係は長くは続かない。  
啓介と再会したあの日、私は彼に思いを告げたのだから。  
初めてあったときから、ずっと胸に秘めていた思いを。  
返事は現在のところは保留だが、彼の返事次第ではどうなるか解らない。  
最悪の場合、私は彼の傍にいられなくなるかもしれない。  
でもそれでもいい。  
今こうして彼の傍にいられるから。  
長い間会えもしなかった、彼の傍に。  
だから私は待つ。  
彼がいかなる返答をしても、受け入れよう。  
たぶん彼が今まで真剣に悩んでたどり着いた答えだから。  
彼の傍にいられるようになれることを信じて。  
 
「まあそれまでは、現状を楽しむって事で一つ。」  
「何の話だっ!?」  
 

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