2月13日深夜。
「どうしよう・・・」
私は自宅のキッチンで1人頭を抱えていた。
時計の長針はもうじき『11』を指そうとしており、
私にタイムリミットが迫っていることを知らせていた。
「どんなチョコなら、啓介に気に入ってもらえるだろ・・・」
今、私の頭の中はバレンタインのチョコをつくろうかで一杯だった。
3歳の頃はチ○ルチョコ。
4歳の頃は板チョコ。
5歳の頃はチョコレートケーキ。
6歳の頃はお母さんに作ってもらったチョコレート。
7歳の頃ははじめての手作りのチョコ(失敗作で彼のお腹を壊してしまった)。
8歳の頃は渡せずじまいだったけど、
去年の17歳の時はハート形のホワイトチョコと、
毎回違うチョコをプレゼントしてるので、違うパターンを考えるのも一苦労だ。
「これ以上のチョコってのも思いつかないわね・・・」
子供の頃からこうやって彼に渡すチョコのことで頭をひねらせるのは楽しみだし、
そもそもどんなチョコでも啓介は喜んでくれる自信もあるけど、
同じものをプレゼントするのもサプライズが無くて芸がないし、
それにどうせなら好きな人にとびきり喜んでほしいというのも乙女心。
いや、私もう乙女じゃなかったっけ。
この前啓介にあーんな事やこーんな事されて奪われたんだし。
でも、悔いはない。
彼にしか渡したくなかったから。
髪の一房に巻き付いた白いリボン――啓介にもらった大切なもの――を撫でながらそう思う。
「・・・はっ、しまった!?」
ようやく正気に戻った頃には、既に日付が変わっていた。
そして当日。
啓介の自室で、私は啓介と唇を重ねていた。
「・・・ふぅん・・・、ちゅっ・・・」
「・・・うぅん・・・、ぢゅるっ・・・」
ただ触れ合うだけではない互いの味を確かめ合うキス。
だけど、今日のそれはいつものものと違っていた。
やがて、味を堪能した私たちは唇を離す。
「口移しで食わせようとするとは思わなかったな・・・」
「こういう食べさせ方は初めてでしょ?」
少し顔を赤らめてく血の端に突いた唾液を手の甲で拭う啓介に、
私はエッヘンと胸を張ってそういった。
結局、チョコ自体は小さなハート形のものをいくつかつくっただけなんだけど、
食べさせ方を変えることで変化を付けることにした。
ホントは前から――思い出すのも苦労するくらい昔から――したかった食べさせ方でけど、
こういう恋人らしいことは『恋人』になった今しかできないから。
そして、最後の一個も食べ終わる。
「ふぅ。ごちそうさん」
「お粗末様でした」
とても満足そうな啓介の表情を見て、私も満足しそうになる。
でも、まだ終わりじゃない。
「啓介」
「ん?」
「あと一つプレゼントするものがあるの・・・」
私はそういうと、身につけていたセーターやジーンズを脱ぎ捨て、
その下に隠していたものをさらけ出した。
黒髪に巻き付けた白いリボンとは対照的な、黒いリボンに包まれた身体を。
「裸リボン・・・」
啓介がそう呟いたあと、生唾を飲み込む音が聞こえた。
何てわかりやすい反応。そこが可愛いんだけど。
「定番で悪いんだけど、私も食べる?」
そういった直後、私は啓介に押し倒された。
「・・・あうぅ、あんっ・・・・」
既にパンツ一枚になった啓介がベッドに横たわりリボンに包まれた私のカラダを愛撫する。
私は恋人のその行為に身を任せていた。
普段とは逆の構図になってるけれど、
私が啓介にどうすれば喜んでもらえるかがわからないのでこのようにされるがままになっている。
悔しいという想いはない。
啓介が私のためにしてくれることはいつだって嬉しいことだから。
ただ、それに答えられないのが歯がゆい。
だから、少しでも啓介に尽くそうと思って彼に口付ける。
「んむぅっ・・・、くちゅっ・・・」
舌と舌を絡ませ合い、互いの唾液を味わう。
「・・・チョコの味がする」
「そりゃさっきまで食ってたしな」
しばらくそうしたあと唇を離すと、リボンに覆い尽くされた私の胸が啓介に揉まれ、形を変える。
「んぅっ・・・」
初めて揉まれたときは痛みも伴ってたその行為も、
何回か行為を重ねた現在では私にただ快感を与えてくる。
そして、啓介は私の胸のリボンをずらして乳首を露出させると指で摘み始めた。
「はぅ・・・」
コリコリと彼の指の腹で愛撫され、思わず声が出た。
そうして胸の先端が攻められると同時、啓介は私の鎖骨、二の腕、ウェストや太ももに唇を寄せ、
少し強めに吸い上げてキスマークを付けていく。
「うっ、はぅ・・・!」
私はどうやら感じやすい体質のようで、それらが与える刺激に敏感に反応してしまう。
そして、啓介の指が私のクレパスに触れ、なぞり始めた。
「綾乃のここ、濡れてる」
「はぁっ・・・はぁっ・・・うん・・・」
激しい責めで息も絶え絶えになりながらも、私は何とか返事をすると、
お返しに私も啓介の股間に触れた。
「啓介のも、大きくなってる」
「うん」
頷いた啓介は最後に残ったパンツを脱いだ。
「ちょっと待って」
私はそういうと枕カバーの中に手を入れ、そこからあるものを取り出した。
「はい。ゴム」
「おう」
啓介がいつも避妊具を隠している場所はこれまで何度もえっちをした時に覚えている。
啓介もそれを承知しているので素直に差し出されたコンドームを受け取り、自分のものに付けた。
それを確認した私は脚の間を覆っていたリボンをずらして秘所を剥き出しにし、
「・・・いれていいよ」
啓介は頷くと私の割れ目に自分のゴムに包まれた肉棒を押し当て、一気に貫いた。
「ん、くぅ・・・!」
啓介の性器が私の膣内に入り込み、一体になる。
そのときにいつも感じる強烈な快感に苛まれた私は喘ぎ声を漏らしてしまう。
「んはぁっ、今日は、私が、上に、なるね・・・」
啓介が頷くのを見ると、私たちは繋がったまま体勢を逆転する。
「んぅっ、あぁっ!」
「ぐぅっ、ふはぁっ!」
身体を動かすたびに互いの性器がこすれあって、圧倒的な快感が襲いかかってくる。
それに耐えながら位置の交換を完了させると、私はゆっくりと腰を動かし始めた。
「あふっ、ああん、あうぅ、あんっ・・・・!」
「くうっ、あうっ、かふっ、うあっ・・・・!」
私が腰を動かすたび、私と啓介は同時に喘ぎ声を漏らしていく。
私の中に啓介が何度も出入りし、その度に感じる摩擦すらも愛おしく感じてくる。
それを何度も繰り返していくうちに、絶頂が近くなってきた。
「啓介、私、そろそろ・・・」
「俺も・・・」
互いに頷きあうと、私は腰の動きを速めた。
「くううぅっ!!!」
「やああああぁっ!!!」
その叫びを合図に、私と啓介は同時に果てた。
「えっちのときにはなんであんなに積極的なのよ。
普段は照れまくってて自分からはなにもしてくれないのに」
「・・・仕方ないだろ。俺だっていろいろ溜まってるんだから」
「いろいろ?」
「ああ、普段は恥ずかしいけど出来ることなら綾乃とイチャつきたいし
特にえっちしてる時にはそういう気持ちが抑えられなくなって暴走してしまうというか
・・・って何言わせてるか!」
「別に言えって言ってないけど」
行為後の心地よい疲労を感じながら私たちは裸のままベッドに横たわって雑談をしていた。
子供の頃もこうやってベッドの中でおしゃべりはしていたけど、
こういった恋人同士のビロートークでは同じような行為なのにものすごく新鮮に感じる。
そのことと先ほどの啓介の自爆から思わず苦笑が漏れる。
「もっと好きにしてもいいんだけどね。私的には私はとっくに啓介のものなんだし」
「・・・やかましい」
「あっ、赤くなった。かわいい〜♪」
「やかましいっつーに!」
そう叫ぶと啓介は彼の頭を撫でていた私の手を掴んだ。
もしかして怒って手を振り払っちゃうかなと考える。
が、それも一瞬のことで啓介は掴んだ私の手を引き寄せ、
それに引っぱられた私のカラダを抱きしめた。
「ありがとな」
そういって私の頭を撫でる。
「うん・・・」
愛しい人の肩口に顔を埋めながら私はそう答えた。
ひょっとしたら、私って啓介に思った以上に愛されてるのかなと少し自惚れた考えをしながら。