「あ、すご〜〜い」  
暖かみが少しだけ離れる。 引き留めるほどでもない、僅かな距離だけだが。  
「……?」  
 
「わ〜〜……」  
「どしたの?」  
「ほら! 見て、見て!」  
 
「ん? …雪、か。」  
最初は暗くてわからなかったのだが  
よく目をこらせばひらりひらりと舞い落ちる結晶が、地面に少し積もっていた。  
 
 
 
「スゴイよ、ホワイトクリスマスってやつだよ!」  
珍しくやけにはしゃいでいる。 何か特別な理由でもあるのだろうか。  
 
「…雪、好きだったんだ。」  
「うん。  
 だってこういう寒い日とか外出禁止だったし、昼は照り返しが強くて散々だったし。」  
 
「そういやよく暖めてやってたよな。 こんな風に。」  
毛布ごと抱きしめてやると、いつの間にか驚くほどに冷えている肌に触れた。  
 
「…うん。 よく暖めてもらってたね、あの頃から。」  
そうして軽く、触れあった唇が、  
鎮火した思いを再燃させるように、深くなっていく。  
 
 
 
「ねえ、あの頃から…好きだった?」  
「…かもしんない。」  
 
胸元に甘える銀色。  
外の雪のように、いずれ儚く消えてしまいそうなそれをそっと抱きしめる。  
 
「私はね、もっと前から好きだった。」  
抱きしめ返す瞳は赤く濡れていた。  
 
「好き、だったんだよ… お兄ちゃん…」  
そう呼ばれるたびに、抱きかかえている胸が痛む。  
 
もう、振り切った筈の感情なのに。  
 
二人だけのクリスマス 恋人同士みたいに過ごそうと決めて  
 
キラキラ光る飾り付け 普段は食べない豪華な献立  
ちょっとだけ酔わせてくれる飲み物と  
 
明日の朝まで開けてはいけないプレゼントを交換した後は  
後かたづけなんか忘れて ただひたすら、求め合って……  
 
だから、今の今まで忘れていた。 兄妹は、そんな風にはならないって事を。  
 
 
 
口と口とでキスなんかしない  
お互いを抱きしめ合ったりなんかしない  
裸になって、思いと体力が尽きるまで求め合ったりなんか…しない  
 
いくら外見が違おうとも、二人は確実に血の繋がった兄妹なのだから  
 
青白く透ける肌が手を誘い、紅く燃える瞳が視線を捉え、  
美しく輝く銀の髪が、絶えることなく魅了してこようとも……  
 
「うう〜〜、さっむ!」  
起き上がっていると布団の隙間から冷気が入ってくる。  
寝転がり直して、体を暖め直す事が無言のうちに決定した。  
 
「あったかい、ね。」  
「うむ。」  
雪山で遭難した男女が…というのはよく聞くシチュエーションではあるが、  
こうして実践してみるとその正しさがわかる。 特にその内部から熱を発生させようという発想が。  
 
「ん… ふぅ、ん…」  
そしてその熱に、さらに摩擦熱を加えて伝導させようという発想が素晴らしい。  
手も、足も、胸板も、唇も、そして髪の毛でさえも、その為のツールと化すのだから。  
 
 
 
「指、はぁ…」  
この聖なる夜に同じようなことをしている輩は…たぶん星の数ほどいるんだろうな。  
と言っても自分たちも数時間前に一回し終えているんだけども。  
 
「挿れて、いいよ…」  
妹の指が兄の肉棒を自らの穴に誘う。  
こんな光景を見る自分は、とても幸せであり、そして同時にとても不幸せとも言えよう。  
 
 
でも  
 
 
 
 
「ひゃうう! お兄ちゃん、お兄ちゃん…!!」  
そう呼ばれる事に胸を抉られているのに、それがたまらなく心地良い感覚をも産み出す。  
愛してはいけない人を愛し、その相手からも愛されている。 その何とも不道徳で、説明の付かない感覚。  
 
「お願い、もっと好きって言って。 もっと愛して。」   
想ってはいけない相手を想ってしまった妹  
それに応え、愛してしまった愚かな兄  
 
「愛して、るから…」  
こんなに深く愛し合えているのに、それは許されない。  
 
 
 
そしてまた罪を一つ犯す  
 
「あった、かい……」  
 
子供を作る事が出来るようになった子宮に、そのまま快楽を流し込むなんて。  
 
 
 
月は、雪降る雲に隠されて、光すら見えない……  
 
 
 
 
 
 
410 名前: ◆n.HIMAoD9I 投稿日:2005/12/30(金) 07:16:11 ID:+oxPYXUb 
「さ〜む〜い〜」  
「じゃあやめるか?」  
「やめな〜〜い!」  
目の前の小鳥が駆けだしていく。 銀色のまま、そのままで。  
 
「きゃっは! え〜〜い!」  
幼い頃に出来なかった事を取り戻すように、無邪気に雪とじゃれていた。  
 
ああ、そういえば…  
天使といえば金髪に碧い眼と決まっているが、俺にとっての天使は…  
「お兄ちゃ〜〜ん!!」  
銀髪に紅い眼で、ずっと、こんなに近くにいたんだったな。  
 
いま雪玉を俺の顔に命中させた、ちょっと小生意気な可愛い天使が。  
 
 
 
「…やったなこのー!」  
「きゃ〜〜」  
 
逃げ回る雪の妖精を追いかけ、雪を巻き上げ、追いつめて、腕の中に抱き留める。  
 
 
「……もう。 誰かに見られてるかもよ?」  
「いいよ、別に。」  
そしてもう一度顔を寄せ合って……  
 
 
 
「ぎゃ〜〜〜!!」  
服の間に雪を入れてやる。 作戦成功!  
 
「冷た、冷たい〜〜!!」  
「あははは。」  
「くぉら〜〜 仕返しじゃあ〜〜!!」  
 
そうやって戯れあう姿は、子供時代を彷彿とさせる…  
けっしてそんな体験はできなかった、あの頃を…  
 
 
 
 
 
411 名前: ◆n.HIMAoD9I 投稿日:2005/12/30(金) 07:18:46 ID:+oxPYXUb 
「う゛〜〜〜 さ゛〜〜む゛〜〜い゛〜〜〜」  
 
「…まああれだけ外にいれば風邪も引くよな。」  
いくら最近元気だからと言っても、防御も無しに日の光を浴びて、  
気温の低い中で遊び回れば、1日2日寝込むのは当たり前だと言われてしまった。  
 
「せっかくのクリスマスなのに〜〜 どこにも遊びに行けない〜〜〜!  
 
 ふにゅ〜〜……」  
「…自業自得って言っていいか? 俺だってお前の看病で何処にも行けないんだぞ。」  
「お兄ちゃんのせいでもあるから同罪だ〜 それに…」  
「それに?」  
 
 
 
「どうせ、私と一緒に過ごす予定だったでしょ? じゃあ変わってないじゃない。」  
「…そうかもな。」  
頭を撫でてやるとする笑顔は、今も昔も変わっていない。  
 
「そうだ! クリスマスプレゼント、開けていい?」  
「ああ、いいよ。」  
 
「わぁ…」  
プレゼントは小さな銀のリング。  
「付けていい?」  
と言いながらもう付けている。 …左手の薬指に。  
 
 
 
「どれ、お前からのプレゼントは…」  
「あ…」  
 
『お兄ちゃん、大好きっ?』 って書いた紙とリボン  
そのリボンを手にとって、胸元に…  
 
「…つまり、お前自身がプレゼント? 例年通りだな。」  
「いや… まさかお兄ちゃんがこんな立派なプレゼント用意してるなんて想像もして無くて…  
 ゴメン。」  
 
 
 
 
 
412 名前: ◆n.HIMAoD9I 投稿日:2005/12/30(金) 07:21:43 ID:+oxPYXUb 
 
「謝る必要なんて無いよ。」  
額にキス。 例年通りだが、いつも最高のプレゼントだと思っているから。  
 
「…キスなら口がいい。」  
「バカ。 風邪がうつる。」  
「うつってもいいからするの〜〜〜」  
 
そうして握り合う手は、いつも離れる事なく、ずっと側に…  
 
 
 
 
月は満ちて、いずれ欠け、そしてまた満ちる。  
それは変わることはない。  
いつも近くに見える、太陽の光がある限り。  
 
 
 
 
終わり  
 

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