本来は食べる側と食べられる側の二匹の動物、狼「ガブ」と山羊「メイ」が群れから離れ、「緑の森」にたどり着いてから二回目の満月がすぎた頃。  
メイは、ガブが最近よそよそしくなっているのに気づき始めていた。  
夜中に頻繁にトイレに行ったり、会話をするとき真っ直ぐメイの顔を見なくなったり、気づいたら目を伏せ逸らせていたり・・・。  
ガブに何かがあったに違いない、とメイは考え、ガブの行動をガブには内緒でこまめに確認するようにしたのだった。  
しかし、一向に成果はでず、結局理由の解らないままに二度目の新月を迎えてしまう。  
 
 
「もう遅いですし、今日は真っ暗なので早めに寝ましょうか。」  
「・・・と、その前においらちょっとトイレ行ってくるっす。」  
「あ、はい、行ってらっしゃい。月が無いので気をつけて下さいね。」  
まただ、とメイは思った。ガブはこうして二日か三日に一度は夜にトイレに行く。はじめの頃はそんなことは殆ど無かったのに。しかも、ちょっと何かおかしい口調にも聞こえたし。  
ガブが、二匹が月を眺めた真下にある小さな洞穴から出て行くのを確認してすぐ、メイも気づかれないようにガブの黒い大きな影を追った。  
 
黒い影は繁みの影の中に音を立ててとけ込んだ。その奥は確か近くの森だったはずだ。メイも、こちらは極力音を立てないように、暗くて何も見えないその繁みの中を前に進む影が作る音を頼りに進んでいく。  
途中、伸びてきている若葉がいきなり顔にあたりくすぐったくて少し笑ってしまったが、ガブも同じタイミングで大きなくしゃみをしたのでその声は聞こえなかったようだ。  
数分経ったろうか、何度か見失いそうになるくらい真っ暗な森の中、少しだけ開けている(ように見える)部分にたどり着いた。そこが確かに開けているならメイが二匹は並んで眠れるほどのスペースだろう、そこにガブはメイに背を向ける形で座り込んだ。  
手前にある大きな樹からメイは身を乗り出す形でガブの背中を覗いているのだが、ガブはそのことを勿論知らない。  
 
「ふぅ・・・」  
ようやく目的地にたどり着いたというのに、用を足す気配もなく座り込んだままガブは何かごそごそ動いていた。何をしているのか、真っ暗で何も見えない。  
トイレと言ってこっそり狩りをしているわけでも無いみたいだし、例えばそこに何か大切なものが埋まっていて、こっそり掘り出しているわけでもなかった。  
目をこらしよく見てみると、足で何かをやっていたが、やはりはっきりとは見えなかった。  
 
「ん・・・メイ・・・」  
ガブが私を呼んでる……?思わずガブに近寄りそうになったが、動物的直感がメイを引き留めた。なぜか止めてはいけないような気がする。何故だろう?  
「メイ・・・良いっす・・・んん・・・くぅっ・・・」  
ガブの声色は、普段メイと話す時とは全く違っているように聞こえた。それはとても……恍惚そうで。はっと、メイは気づいた。  
まさか──まさか、私のことを考えて……ガブが?  
頭のてっぺんから足の爪先まで、メイの体はみるみるうちに赤くなっていく。  
そう思っただけで、恥ずかしくて。  
そう思っただけで、体がびりびりして。  
そう思っただけで、自分でも体が熱くなって。  
そんなことにもガブは気づかず(気づくわけもないのだけど)その行為を続けている。とても恥ずかしくて、でもとても嬉しくて、自分の秘所もしっとりと濡れている事に気づくのには時間がかかった。  
自慰や性交は勿論まだ未経験だし、あまり良くは知らないのだけど、それが示す意味はちゃんと─二つの意味で─知っていた。メイはお年頃だし─まぁ、同じ年頃のミイに無理やり聞かされた知識なのだけど(それにしても、何故ミイは知っていたんだろう、そんなことを?)。  
 
こんなところ、普段は触ったりはしないんだけど──  
ガブと同じように、自分でもおそるおそるそこを弄くってみる。びくっと、いきなり電気が走ったような初めての快感がメイを襲い、思わず声を─喘ぎ声を出しそうになったが、必死に堪えて。  
「メイ、メイ・・・」  
(私は、ここに居ますよ……)  
気持ちいい……メイは素直な気持ちでそう思った。気づいたら、いつのまにかそこには既にだらだらと液が滴っている。足をそこから離してみると、液は糸を引いて垂れた。ちょっと舐めてみると、しょっぱかった。  
 
なるべく音を立てないように─それでも体はびくんと跳ねてしまうのだけど─行為を続ける。割れ目を擦っているだけでこんなに気持ちいいなら、中にいれられたら、ガブとしたらどんなに気持ちがいいんだろう─ぶるぶると頭を振るい、ちょっとだけ自分を恥じた。  
そんな事を思っては、ガブに失礼だよ。 頭の中でメイの声が響いた。  
でも、ガブだってメイの事考えてしてるんだよ? 同じメイの声がまた響いた。  
どちらが正しいのか、メイには解らなかった。解るのは、それでも私はただし続けること…  
いつだったか、二人きりでいるときにミイが言っていたことがぼんやりと思い出される。  
──エッチはね、自分がいっちばん好きな、愛してる人とするから気持ちいいんだよ。メイはそういう人、居る?  
あのころは、まだそんな人は居なかったな(タプには別に特にそういう感情は抱いていなかった)。  
やっぱり私は、ガブの事が大好きなんだなぁ。行為を続けたまま、それだけは唐突に理解して。  
だんだんと気持ちよさと、ぬるぬるする液体が増えていく。びくびくと、体が反応する回数もだんだん多くなっていく……  
 
ガブ、私たちってほんっと、良く似てますよね。  
お互い隠れてこんな事してるんですから──  
 
「んあっ、んっ、メイっ、メイっ」  
(ガブ…もう、私‥‥‥っ)  
 
全く同じタイミングで、新月の森の中に二匹分の小さな叫びのような声が響いたのだが、それは誰にも聞こえなかった。  
 
腰の抜けた状態の真っ暗な森の中、どうやってガブより早く洞窟に戻れたのか。それはメイも覚えて、いない。  
 

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