「俺達、別れよう…もうついていけないよ…」  
彼はそうきりだした。  
「な、何いきなり言ってるのよ!そんな冗談面白くないわよ!」  
彼女は困惑しながらも言った。彼が本気でそんなことを言ってるとは夢にも思わずに。  
俯いて首を振り、彼女は笑って顔を上げた。  
「…ははぁん分かったわ。そうやって、私の気持ちを試そうって言うのね?  
 アンタってほんと駄目だ駄目だと思ってたけど、やだ、可愛いところあるじゃない」  
あはは、と軽やかな声でさらさらの髪を指先で弄る癖を出す。  
彼女の言葉に、彼は震える声で答えた。  
「もううんざりなんだよ……。  
お前の我が儘に付き合わされるのも、お前が勝手に決めた事に従わされるのも……。  
今まで何度も別れようと言おうと思ったさ……。  
それなのにお前は俺の話も聞かずに俺を振り回してきた……。  
良い機会だから言わせてもらうよ……。  
俺は、もう、お前の我が儘には、ついていけない。」  
今まで聞いた事の無い、彼の真剣な声。  
それでも彼女は心の中に湧き起こる微かな真実を受け止めたくなくて、何故か笑ってしまう。  
しかしその笑いは先ほどまでの軽いものではなく、どこか引きつった感じのするものだった。  
「あはは、何言ってんの?今なら冗談で済ませてあげるわよ?」  
ドンッ!  
「俺は本気だ!」  
やや怒りと悲しみを帯びた口調でまるで自分を制するかのように机を叩く彼。  
緊張した空気が2人を支配する。  
長い沈黙の後、彼女はようやく口を開いた  
「わ、わがままなんて言った?」  
その声にいつもの勢いはない、それにさっきから彼女の髪を弄る回数が多くなっている  
この癖は彼女が動揺したときに出るものだということを彼はよく知っていた  
「自分で気付いてないのかよ」  
彼はチッと舌打ちをした  
その舌打ちを耳にすると、彼女の手が不意に髪を梳く仕草を止める。  
変わって血の気が引いていく感覚が痛いくらいに感じ取れた。  
「………おい、お前な!  
 何か言いたい事あるんならはっきり言えよ!」  
彼女のその煮え切らない態度にイラついたのか強い口調で攻め立てる。  
その彼の言葉には、過去の優しさが一切消えていた。  
今までだったら、自分がどんな態度を見せても  
穏やかな顔を見せていた彼の姿はここにはない。  
 
本気……だったのだ。  
 
「………」  
彼女はその後の言葉が続かなかった。  
俯き、ただただ下を向くその姿は、  
今の彼女の心境を表すかのように小さく何処か頼りないものに見えた。  
いや、彼が本気だということはわかっていた  
ただ彼は本気ではないと思い込みたかっただけだ  
今まで彼に言ってきたこと、それは単なるわがままだったことも自覚している  
でもなぜそんなことをしたのか、その理由は自分でもわからない  
ただ一つわかっていることは、彼女の心は彼に依存してしまっていることだ  
それは、はたから見れば彼女が彼に甘えきっているだけだと看破できたろう。  
しかし、彼女は自分が異性に甘えていると自覚するには幼すぎたし  
彼もそれを受け止め、抱擁し続けてやるには未熟すぎた。そう、この時までは。  
 
彼は、いつもの闊達さを失い、小さく頼りなく見える彼女の姿に、ちくりと胸の痛みをおぼえる。  
(言い過ぎたかな…でも…)  
後悔が胸を掠めても、一度口にしてしまった別れの言葉を、今更取り下げることなどできない。  
(これ以上、こいつに振り回されるのはもうゴメンだ)  
「じゃあな」  
返事が来るのを諦め、彼は教室を去ろうと彼女に背を向ける。  
その背中に小さく、今まで聞いたことのないような、彼女のか細い声が聞こえた。  
「ま…間違いよ…こんなの…」  
声は、今にも泣きそうに掠れ、ふるえていた。  
そう、間違いだ。間違いに決まっている。  
 
自分の言葉に慄然とする。  
間違い?何が?はっきりと今自分の耳で聞いたではないか。  
「間違い・・でしょ?」  
 
遠ざかる背中は止まらない。彼の手が教室の戸に掛かった瞬間、私は叫んだ。  
そ・・・そうよ・・ま、間違いよ・・・・  
「ね、ねえ!・・・・・・本当はそんなに怒ってないんでしょ?」  
 
彼はそれを聞きやっぱりもう駄目かと思った。そして教室のドアを開けた。  
そしてそのまま彼が呆れて教室を出て行こうとした時、  
彼女は蚊の鳴くような声で言った。一縷の望みを懸けて。  
何を言えば振り返ってもらえるのかどうしても分からなかった。  
彼が自分のどこに怒っているのかも分からなくて彼女は、  
それでも怒っている相手に許してもらうための言葉を必死で思い出した。  
「ご、……ごめんなさい」  
背中が遠ざかるのをやめる。  
―ああ、これで間違いなんてなくなった。  
安堵のあまり息をほころばせ胸元を握る。  
 
しかし振り返った彼の顔つきは彼女の期待していたものとは少し違った。  
振り向いた彼は、やはり彼女が期待していたいつもの彼ではなく  
ただむっつりと押し黙って、冷たく彼女を見ている。  
再び彼女の胸にのしかかる不安。  
「ね、ねえ……そんなに怒らないでよ」  
普段の彼女とはかけ離れた声は、怯えるような響きさえこもっている。  
だが、彼はその声にも表情を動かす事はなく、黙ったままだ。  
彼女は思わず、不安と苛立ちを彼にぶつけてしまう。  
「な、なによ……私が悪かったって言ってるでしょ!?」  
 
「……処置なしだな」  
それを聞いて、彼の顔にはっきりと失望の色が浮かんだ。  
怒りでも苛立ちでもないその表情に、彼女の背中からスッと、冷たく血が引いていく。  
(……ち、違うの。私が言いたかったのはこんな事じゃ……)  
「本当にもうこれっきりだ。サヨナラ……」  
彼女の目の前で、ガラッと教室のドアが閉ざされる。  
なすすべもなく彼女は呆然と、その場に立ち尽くしていた。  
一人残された教室。  
「な・・・何よ・・今のは間違いよ・・・・ 」  
彼女はただただ、紡ぐ。  
「ね、ねえ・・・・・・そんなに怒らないでよ 」  
甘え、怯え、怒り、羞恥、絶望……どれともつない言葉を。  
「私が悪かったって言ってるでしょ? 」  
懇願は彼の元に届くこともなく―――、  
「い・・・行かないで! 」  
呟きを耳にする者は彼女しかなく―――、  
「わたし・・・ 」  
壊れたレコーダーのように、繰り返す。  
「わたし・・・・アンタがいなくなったら・・・・・・ 」  
取り戻せない言葉と想いを、暮れ行く教室で彼女は―――。  
 
彼女は手近の椅子をひき、すとん、と腰を落とした。  
窓の外に広がる、禍々しく感じられるほどに赤い夕景に、視線が吸い寄せられる。  
しばらくすれば、眼下を彼のちいさな背中が通過する筈だ。  
きっと、ひとりきりで、しょぼくれた影をひきずるようにして、彼は校門へ向かうだろう。  
いつも俯きがちな彼が、今日は一際悄然として背を丸め、処理しきれない鬱屈した思いを後生大事に両手で抱え込み、  
よたよたと覚束ない足取りで、下校する生徒の黒い群れの中に消えるだろう。  
彼を止めなければならない。自分のもとへ引き戻さなければならない。  
今、だ。今引き止めなければ、彼と彼女は決定的に隔てられてしまう。彼は薄闇に呑まれるように消え、  
二度と彼女の前に現われないだろう。  
何もせずにいれば、翌朝、この教室で出会う彼は、彼女の知らない少年になっているだろう。  
そう、彼女は確信している。大切なのは、行動が必要なのは、今、この瞬間だ。  
どうしよう、と彼女は力なく呟く。どうしたらいいのだろう。どうすれば彼は許してくれるのだろう。  
……だが、そうだ、彼女はそもそも彼が何故ああまで真剣に怒っているのかがわからないのだ。  
何かきっかけがあった筈だ。彼女に対するこれまでの不満が、こういう形で爆発する事になる、きっかけが。  
焦りを押し殺しつつ、彼女は考える。これまで気にもしなかったような、冗談半分の悪ふざけを、彼の視点に立って見つめなおそうと努力する。  
そして彼女は思い出す。自分の鈍感さを呪いながら思い出す。  
このまえの日曜日のことを。  
遊びに行った彼の部屋。彼が後ろ手に隠した大学ノート。  
いつもに似ず必死な顔の彼から奪い取ったそれを、自分がどう扱ったかを。  
 
そのノートはそう、私と彼が付き合いだした当初、お互い初めての恋人だったため何から初めていいのかわからず、  
ふたりで考え、共有の何かを持とうということになって、その結果できたのがこの交換日記だった。  
いつの日か自然に終わってしまったが、私はその日記を書くことが楽しかったのを憶えている。  
あの日、彼の部屋で…  
 
「まだこんなの持ってたの〜?」  
彼の隠したノートを無理矢理奪い取って言った一言だ  
「いいじゃないか、良い思い出なんだし」  
私は心の中では嬉しかった、いつの日か交換されなくなった日記。  
その原因も私の照れ隠しのつもりで言った  
「めんどくさいからもういいよ〜」と言う一言が彼を怒らせたのを今でもはっきり覚えている。  
 
今回も照れ隠しだった…  
本当は日記を大切に持っててもらって、思い出を大切に抱きしめてもらえているようでとても嬉しかった  
しかし、私は言ってしまったのだ  
 
 
「こんなボロボロのノートなんか捨てちゃいなよ〜」  
そういって、投げ捨ててしまった…  
 

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