すっと気分が浮く感覚のあと、あたしは目を開けた。  
 どうやら眠っていたらしい。  
「えーと・・・・」  
 あたしは正面に見えた白い壁を眺め、それが見覚えのない天井だと気づいてから視線をめぐらせた。  
「やぁ、おはよう」  
「・・・これどういうことですか、先生」  
 あたしは診察台のようなものの上にいるようだった。大の字の形で仰向けに寝ている。  
両手両足を動かそうとしたら、手錠みたいなもので拘束されていた。  
「何ですか、これ」  
 そして、あたしの脇には白衣姿の男が立っている。  
 あたしの高校の生物の教師だ。校内の誰からも変わり者と称される人。  
「どこまで覚えているかい?」  
「先生のところに課題を提出して、コーヒーを頂いたところまで」  
 言うと、先生は満足したように頷いた。  
 
「記憶に混乱は見られない。良好だな」  
 やはり君にしてよかった、と呟く先生に、あたしは更に聞いた。  
「ここ、どこですか?」  
「私の家の地下だよ。完全防音だから安心してくれ」  
「安心? 何を?」  
 改めてぐるりと周りを見ると、6畳ほどの狭い部屋だ。隣はすぐ壁。窓はない。  
「声をいくら出しても大丈夫だということだよ」  
 先生は言い、白衣のポケットから何かを出した。  
「君に少し協力してもらおうと思って」  
 それは銀色のペンみたいなものだった。ボールペンより少し太くて短くて、中央は少し膨らんでいる。  
ボールペンというよりは、短めの万年筆に近い。  
「この卵の孵化にね」  
「卵・・・?」  
 先生はそれをあたしの顔の横に置き、そのままあたしの下半身の方に移動した。  
そして、あたしにかかっていた毛布をはぎとる。  
「きゃぁっ!」  
 突然素肌が外気に触れて、あたしは悲鳴をあげた。  
ここであたしは、初めて自分が全裸であることに気づいた。  
 
「空調はきいているから、寒くはないだろう」  
 いきなりのことに、顔の横の物体から注意が逸れる。  
とっさに暴れようとしたけれど、拘束されているせいで動けなかった。  
「いや! 誰か助けて!」  
「言っただろう? ここは防音なんだ。もっともその前に私は一人暮らしだがね」  
 下着がひっぱられ、恥ずかしいと思う間もなく脚の奥に空気が直に触れた。  
「いやっ! 何するのこの変態!!」  
 先生はあたしがわめくのも暴れるのもお構いなし、といった感じで、顔の横の銀色の物体を取り上げた。  
そして、何を思ったかそれを自分の口の中に入れた。  
「今は濡れていないようだからな」  
 もごもごしながらそんな事を言う。  
 そして、先生は口から出したそれをあたしの脚の奥に持ってきた。  
「え・・・ちょっ、何するのっ、いやっ!」  
 内ふとももに添えられた手の感触が生々しい。  
同時に、硬い金属があたしの体の中の一番柔らかい箇所に触れる。  
びくんと体全体で震えた次の瞬間には、それはもうあたしの中に埋めこまれていた。  
 
「・・・もう少し奥かな?」  
「や、あっ」  
 呟いて、先生はそれを更に奥に押し込む。指も少し入ってきて、あたしは思わず声をあげた。  
「やだ・・・っ!」  
「入ったよ。ではよろしく」  
 先生はその様子を満足げに眺め、ファイルとペンを手に部屋の隅の椅子に腰掛けたようだった。  
拘束されたあたしの位置からは見えなくなったのでよくわからない。  
 細いから痛くはない。でも少しでも体を動かすと、  
硬くて冷たい金属と柔らかい肉とが擦れあって、その感触にあたしは震えた。  
震えた拍子に中でまたそれが擦れて、切ない感覚が背筋を走る。  
中がきゅんと締まるのが自分でもよくわかって、恥ずかしかった。  
「あ、あ、お願い、とって・・・!」  
 先生は答えない。そこにいるはずなのに、何も言わない。  
 
 そのまま、数分が過ぎた。  
 変化を感じたのは、金属があたしの中で温められて冷たくなくなった頃だった。  
 
「・・・んっ」  
 中に埋め込まれたあれが、大きくなっている気がする。  
 気のせいだとすぐに思った。あたしが気にしすぎているだけだ。  
 あたしは気にしないことにした。  
 けれど、すればするほど体内の異物の存在をまざまざと意識してしまう。  
 膣が収縮して、熱いものが奥から流れてきた。  
 ・・・こんな時に濡れてくるなんて!  
 と、それに反応するように中のものがぐにゃりと、あたしにもはっきりわかるほどに蠢いた。  
「あんっ!」  
 突然のことに、思わず変に色っぽい声をあげてしまう。  
何が起こっているのかよくわからない。金属はなくなってしまったのだろうか。  
でも、その代わりに、あたしの中で何かがぐねぐねと柔らかく蠢いている。  
「な、何、が・・・」  
 訳もわからず戸惑っていると、いきなり中の何かがずるりと外に向かって動き出す。  
「あ、あぁんっ!」  
 腰がみっともなく動く。と、外に出たその「何か」は内ふとももに張り付いた。  
「あぁっ!」  
 
「せ、んせ・・・いったい、何を・・・」  
「孵化したようだな。もうこれはいいだろう」  
 先生はあたしを無視して、両手両足の拘束具を外す。  
「苦しいことはないから、楽しんで」  
 言うと、また元の位置に戻ってしまった。  
 
 あたしは、とっさに身を起こした。自由が戻れば先生に殴りかかることも、台から飛び降りて逃げ出すこともできる。  
・・・・できるはずだった。  
「やっ、あ、あっ・・・!」  
 急な動きで中の何かがぐにゃりと肉壁に絡みつき、あたしは思わずのけぞった。  
と、追い討ちをかけるように敏感な肉の突起に湿った何かが触れる。  
「いやぁっ!」  
 何が、起こっているの。  
 あたしは自分の下半身に目をやり、そして・・・悲鳴をあげた。  
 
 どす黒いピンクの、大きなミミズのようなものが張り付いていたのだ。  
それはのっぺりとしていて、ぬめぬめと濡れている。  
 触手、という単語が頭に浮かんだ。  
「それは君が孵化させた分だよ。それらは女性の体で孵化し、成長するんだ」  
 後ろから、先生の声がする。まるでその辺の生物の生態を説明するみたいな声音だった。  
「そして繁殖する。その様子をどうしても観察したくてね」  
 つまり、あたしは実験台にされたということらしい。  
 でもあたしは、そんな言葉の意味を深く考える余裕を失っていた。  
 そいつは、まるでなぞるように割れ目を上下に擦り始めたのだ。  
「あっ、あっ、あっ、あっ、・・・やっ、あん!」  
 柔らかなそこに押し付けられた触手はぐちゅぐちゅと湿った音をひびかせて動き、クリトリスを押しつぶし、転がした。  
両手をついてかがみ込む形で身悶えていると、今度は中から肉壁を撫でられる。  
中のものも成長しているのか、最初よりもずっとずっと奥の方を擦られて、あたしは咽をそらして喘いだ。  
「ああぁっ!」  
そこに、今度は浅いところから、ずるりと、中から外に出ようとする蠢きが加わった。  
二匹目、三匹目が外に出てくる。  
 いったい何匹いるの・・・!?  
 と、両手首に何かが巻きついた。触手だ。  
 
 それは、ひとつの生物というよりは、ミミズみたいな生き物の集合体だった。  
でも、それぞれの個体は同じ意志のもとに活動をしている。  
 あたしを犯す、という意志のもとに。  
   
 あたしの中で蠢くものはどんどん増えているらしく、肉壁を押す感触は、今では息苦しいほどの圧迫感も伴っている。  
でも、それ以上にあたしの外にでてきたものがいる。  
 ふとももに、腰に首に巻きつかれ、胸の谷間にも触手が這った。  
「きゃぁっ! あんっ」  
 その中の一匹が、先端を乳首に押し付ける。  
腰から巻きついてきた触手は乳房を押し上げ、脇の下を這ってきたものは横から押し、  
あたしの胸は粘液にまみれた触手でもみくちゃにされた。  
「や、や、めて・・・・も・・・やめてぇ」  
 下半身は増えた触手の中に半分埋もれてしまっている。  
あたしの中にいる触手たちはずるずるとひっきりなしに外に出ていてる。  
「せんせい・・・たすけ、て・・・・」  
 先生は顔色を変えることなく、あたしと触手を見ていた。  
 と、中でずるずると触手が蠢く感覚が消えた。あたしの中からすべての触手がいなくなったのだ。  
体中を這い回っていた触手も、動きを止めた。  
 
 ・・・・終わった・・・・?  
 かすかな期待は、先生の声で砕かれた。  
「ああ、成長期に入ったのか」  
 あたしの目の前で、触手たちはうねうねと蠢いている。  
よく見ると、それまでのっぺりとしていた触手にこぶのようなものがいくつもできはじめていた。  
ついでに太くなっている。あたしは、なんとなくゴーヤを連想した。  
 逃げなきゃ。  
 そう思うものの、息は上がっていて、下半身はだるくて、しびれたように感覚がなくて、動かない。  
そのくせ、あたしのずっとずっと奥の方からはとめどなく熱がこみあげてくる。  
 逃げられなかった。  
 成長期とやらを終えた触手たちは、いちだんと太くなってあたしに絡み付いてきた。  
甘いような臭いような、変な匂いがする。粘液で体がべたべたする。  
気持ち悪いはずなのに、触手が肌の上をすべる感覚には今まで以上に声が漏れる。  
「あぁっ、あぁっ、あぁっ、は・・・・っん!」  
 下半身に集まった触手は、肉をかきわけ突起を押しつぶし、最奥に触れた。  
ずっ、ずっ、と今までにない圧迫感とともに奥の熱く潤った方へと分け入ってくる。  
 
「あっ・・・あっ・・・あ、ああ、あ、だめ、だめ」  
 うわごとのようにあたしはつぶやく。  
 触手のこぶが内壁に複雑にからみついて、擦りあげて。  
 ずっとずっと奥の、誰も触れたことのないような場所にまで達した。  
「あ、あ、あ、あ、あああっ! あぁーっ!!」  
 瞬間、衝撃といってもいいようなすごい快感が背筋を走り抜けて、あたしはイッた。  
びくびくと痙攣し、中の触手を締め付け、のけぞる。  
 その後ぐったりと体中の力が抜けた。  
 でも、触手は力を抜いてくれない。  
 より敏感になったそこには、たくさんの触手が身を押し付けてきた。  
「いや、いや、すぐにはいやぁ・・・」  
 
 終わりは、見えない。  
 

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