「佐緒里ーっ」  
景はベンチに座ったまま、準備運動後のシャワーに向かう友人を手招きする。  
「ん〜、なにか御用?」  
佐緒里と呼ばれた少女は、スクール水着からはちきれんばかりの胸を揺らしつつ景に歩み寄った。  
ビニール製の屋根が少女の顔を陽射しから遮る。  
「あ、えっと」  
揺れすぎな胸に目を奪われ一瞬言葉を詰まらせる景。  
「あのさ、今日もお昼、お世話お願いしていーよね」  
景は右腕をギプスで固定して吊っている。  
清籐女学園中等部三年A組の水泳の授業時間。  
このプールサイドにあって、制服のセーラー服をまとっているのは景ひとりだった。  
骨折しているため今日の授業は見学なのだ。  
ニッと笑顔の景に、佐緒里はやさしく微笑む。  
「うん。もちろん」  
そしてクスクスと笑うのだ。  
「また、親鳥の役目させてね。うちの雛はよく食べるのね〜、育ちざかりだもんね〜、って」  
「えーっ、勘弁してよー」  
景の抗議を背に、佐緒里はなおも笑いながら陽光の下へ出ていく。  
「もー」  
ため息をつきつつ、景は佐緒里の、細身なのにグラマラスな身体を見やる。  
穏やかでおっとりした佐緒里は、母親っぽいといえばそうかもしれない。  
それに比べると景は、身長は変わらないが小さな胸に細い腰と、女というより少年に近い体型だ。  
 
清籐女学園は小さな山の麓にある。  
季節によりその色合いを変える山は、多くの生徒に安らぎや温もりを与えてくれる。  
今は日増しに緑を色濃くしていく時期だ。  
他の生徒らがシャワーを浴びていくなか、景はその山にふと目をやる。  
そして言葉を失った。  
ふだん学園を穏やかに見下ろしている山が、突然立ち上がったかのように見え――  
他の生徒たちも気づきはじめ、沈黙が場を支配する中、景は見たのだ。  
とてつもなく巨大な男が山から現れたのを。  
 
東京タワーより高いのは間違いない。身長何百メートルあるのかわからない。  
ボサボサの長髪に腰蓑をまとったその姿は、イラストなどに描かれる原始人そのものだ。  
男は太い木々をザクザクと何事もないかのように踏み倒しながら、あっという間に近づいてきた。  
そして山裾の学園を上から覆うようにのぞきこんでいる。  
 
「なにこれ……」  
「妖怪、とか……?」  
プールサイドで他の生徒らが呆然とするなか、景はいち早く冷静さを取り戻した。  
ベンチから立ち上がり、毅然とした声で場を動かそうとする。  
「先生、はやく避難しましょう! ここに固まってたら危険です!」  
「え、でもどこに……」  
プールは校庭の端にあり、校舎からは離れている。校門からも遠い。  
そもそもあんな巨大な化け物からどう逃げたらいいのか。  
「だから、運動場とか部室棟とかに――」  
景の再度発した声は、女生徒たちの悲鳴で掻き消された。  
見上げた景の目に、腰蓑の中から生え出たような太く短い棒を取り出しつまんでいる男の姿が映った。  
「ね、ちょっと、あれって……アレだよね」  
「どーみても、おちんちん、でしょ」  
男はその棒を片手で握り、前後にこすりたてはじめる。  
もう片方の手は、棒の先端近くの少しエラのはった部分をときどきひかえめにこすっている。  
「お、オナニー?」  
だれかの呟きに、景も、  
(やっぱり、そうなの?)  
と思う。  
そんな場にそぐわぬ行為を始めた男を、多くの少女は逃げることも忘れて見上げていた。  
 
そのとき、不意に野太い声が響いた。  
1キロ四方に届くとさえ思えたその大声は、この巨大な男のものに相違ない。  
『ワシらの仲間うちでなぁ、女がいなくなってしまったんよぉー  
 だもんでなぁ、試しにあんたらに種付けしてみるかと思ったんよぉー』  
 
「た、種付け!?」  
景の脳裏には、以前マンガで見た馬の交尾のシーンが浮かんだ。  
(だけど、こんなデカいやつのあれが入るわけないし……)  
 
と、こすりたてられている男の棒がプールサイドの少女らに向けられる。  
『おぉーっ出る、出る、出るぞぉ――――!』  
聞く者の身体を震わす重低音の雄叫び。  
そして、景たち清籐女学園三年A組の生徒らは非日常的で淫猥な災厄に見舞われた。  
 
誰かの悲鳴が響く。  
男の握った棒から白いかたまりが飛び出た――と見えた次の瞬間、  
べっちゃりとした白く生臭いかたまりが景の身体に叩きつけられた。  
「あぐっ」  
景は折れた右腕をかばうこともできず、前のめりに倒れる。  
と、すぐにどろどろとした白濁液が地面を覆い、腕といわず髪といわず彼女の全身にまとわりついてきた。  
そして――  
「きゃあぁぁぁっ!」  
「なにこれなにこれ! 気持ちわるいああぁっ」  
いっせいに飛び交う無数の悲鳴。景自身もおそらくは悲鳴を発していただろう。  
「虫? みみず? ああぁなんなのぉっ!?」  
プール内もプールサイドも白く濁る粘っこい液体に覆われたなか、  
粘液中を泳ぎ回る小さな生き物が無数にそこらじゅうを這いずり回っているのだ。  
それは液体と同様に白く、おたまじゃくしのような形をした、体長五センチほどの細長いシロモノだった。  
長い尻尾を激しく振って少女らの肌の上を泳ぎ回る。  
「これっ精子、精子じゃないっ!?」  
白濁液にまみれてもがく少女たちの誰かがそう叫んだ。  
またいくつも悲鳴があがる。  
動揺しながらも景は納得した。  
男がしていたのがオナニーなのだとしたら、この白い液体は精液で、  
そこで動き回るおたまじゃくし状のものは精子、ということになる。  
それでは先程男が口にした「種付け」というのは――  
 
水泳の授業といった体裁はすでに消え失せ、濁った白液に浸されたプールサイドには、  
紺色のスクール水着を白く汚して身悶えする少女たちがいるばかりだった。  
「気持ちわるぅ、なんとかしてっ!」  
「ああっだめっだめぇ」  
「くすぐったいくすぐったいくすぐったいああぁ」  
生徒たちはもう逃げるどころではない。  
身体中にべったりと精液がつき、数限りない精子が水着の上から、さらには中にまでもぐりこみ、  
若い肌を絶え間なく苛んでいるのだ。  
 
景のセーラー服の襟元からも精子が侵入する。  
「あっ、やめ――」  
しっぽを跳ね上げ、頭を振り、あっという間にブラの中にまで入り込む。  
乳首の上を精子が走り抜ける。何匹も、次々と。  
「あんっ、あん、あん、あぅん、あんんっ」  
景の声は止まらない。攻め手は無数にいるのだ。  
首すじでくねるもの。背中をはうもの。脇腹をさするもの。へそをこするもの。  
身体を震わせよじらせる。背中をビクンとのたうたせる。  
虫たちのぷちぷちとつぶれる感触。  
「あぁっ、入らないでっ」  
制服のプリーツスカートに包まれた腿もすでに粘つく液に浸り、精虫の通り道をつくっている。  
生白い頭がいくつもくねりながらショーツの入り口を探る。  
そして、すぐにもぐりこむ。  
「やめて、やめぁああああっ」  
にゅるん、という音を聞いた気がした。  
ショーツの中、秘められた肉の合わせ目を精子がなぞったのだ。  
女としてのからだの奥が、来たるときに備えてきゅうっとあえぎ、熱いよだれをトロリともらす。  
「やめて……」  
襞のまんなか、小さくあいた入り口に、精子の頭の触れるのを感じた。  
「んっ、あああぁ……、やめて、やめて――――っ!」  
入ってくる。からだのなかに。  
頭を振り、尾をくねらせ。  
からだの奥が熱くなる。ひくっ、ひくっ、と腰が動く。  
「あぁ、はぁ、はぁ、んっ、あああぁっ、はぁ、あああっ、ああぁっ」  
二匹目が入ってくるのを感じる。三匹目も、四匹目も。  
あそこがじんじんして、何も考えられなくなる。  
ただ腰が疼く。くねる虫の動きが身体中の神経を甘やかになでさする。  
 
「あああっ、やだ、やだ、やだぁっ」  
聞き慣れた声に顔を上げると、いつの間にか佐緒里がすぐそばまで来ていた。  
プールサイドを覆う白濁液にまみれつつ、こちらへ来ようと、まるで溺れているかのように必死に手足を動かして。  
いつもは穏やかな表情を見せるその顔も、今は白い粘液にまみれ、精子が無数に這い回っている。  
「あぁ、景ぃ」  
佐緒里がにじり寄る。もう手の届くところまで来ている。  
「ああぁ、ひうっ、さお、りぃっ!」  
動かせる左腕で景も佐緒里にすり寄る。  
とろとろとあふれそうな快楽に耐えつつ、すがれるものもない状況で、それでも友に手を伸ばす。  
自分と同じく白く汚れ、じんと熱を帯びたその肌に手をかける。  
「ひあっ、ひうっ、うぅっ、んんっ」  
景は泣き出していた。  
顔は涙とよだれでぐしょぐしょになり、髪をはいずる虫も払わないまま、佐緒里の肩にしがみついている。  
「景ぃ、ああぁっ、だぃ、じょぶ、あぅっ、だからっ、景っ」  
佐緒里は四つん這いで、腰をビクッ、ビクッと間歇的に動かしている。  
何匹もの精子が忙しなく膣を出入りしているのだ。  
水着の下にもぐりこんでは通り抜けていく無数の虫が、紺色の水着の表面にさざなみを立てる。  
大きな胸がつくってしまう水着の隙間では、先程から踊り狂う精虫たちの刺激がやまず、  
その尾が乳首をかすめるたび、甘い吐息をもらしつづけている。  
「佐緒里っ、やだっ、やだあっ、こんなああぁっ」  
景も身体をのたうたせながら、必死で佐緒里の水着につかまり爪を立てる。  
膣内で精虫が蠢いて、柔らかな壁を押し、こすり、じわじわと体内の熱を淫らに高めていく。  
「景っ、景っ、だいじょっ、ぶっ、あああぁっ、んっ、だいっ、あっ、じょうぶっ、だよっ、あああんっ」  
白濁液にまみれ乱れた佐緒里の髪が景の手をなでる。  
肩に手を感じ、顔を上げると佐緒里の潤んだ目と目があった。  
「景っ、んううっ、景っ」  
佐緒里が手を伸ばす。  
震える手が景の背中を抱きしめる。  
「佐緒里っ、さぉ、りぃっ、さぉりぃっ」  
もう耐えられない。  
這い回る精子の甘やかな攻めに、膣内をかき回すいくつものくねりに、景は、張り詰めていた心を明け渡した。  
「ああっ、はあぁっ、さぉりぃっ、あぁっ、きもち、いいよぉっ」  
胸をさすられ、背筋をなぞられ、景は絶え間なく喘ぎをもらす。  
おしりをこすられ、恥ずかしい襞の中を泳がれ、身体中をびくびくと震わす。  
最も敏感な肉の芽にまとわりつく快感。果てしもなくなぶられつづける喜悦。  
「はああぁっ、あたし、あたしっ、もうっ、あああぁっ」  
佐緒里の水着にかけた手がぎゅっと握られる。  
背中に感じる佐緒里の手の震えを感じる。  
「景っ、けぃぃっ、わたしもっ、あああぁっ」  
佐緒里の声も感極まっている。  
「きもちっ、よくてっ、あぁっ、んああっ、すごくてっ」  
泣き出しそうにせっぱつまった喘ぎ声。  
「ああっ、すごいっ、はああぁっ、すごいのっ、ああぁっ、もうっ」  
「んああぁっ、あたしっ、あたしもっ、あああぁっ、もうっ、だめっ、だめぇっ」  
声が震えて裏返る。  
「ああぁっ、もうっ、あぁっ、いっちゃうっ、ああっ、あああぁっ、あっ、はあああああああぁっ」  
「だめっ、あたしっ、だめぇっ、あああぁっ、んああああああああああああああああああああぁっ」  
びくびくっとおしりを突き上げ、背中をきゅうっと反りあがらせて、  
景と佐緒里は、そろって絶頂の果てへと押し上げられた。  
そして、粘つく白液と蠢く精子にからみつかれたまま、  
真っ白になった意識は熱を帯びてそこで途切れた。  
 
 
あの事件の日から二日が過ぎた。  
大男は、出動した自衛隊機の警告を受け、慌てたように山へ踵を返すと、フッ――と姿が掻き消えたそうだ。  
山中では、足跡などの分析や残留物の捜索などが行われているという。  
でも、きっと今回の事件は解明されないままだろう。  
体験したことのあまりの異常さに、景はそう思う。  
 
あの場にいた女性は皆、婦人科等で検査を受けた。  
今のところ、妊娠したと思われる者はいない。  
「種付け」は失敗に終わったということか。  
 
今日は佐緒里の家へ泊まりに行く。  
佐緒里とは、この事件によって今までより一歩進んだ心の通い合いができた気がする。  
目を合わせる快さ。肩を寄せ合う安らぎ。  
ふと見つめあって感じるくすぐったいような気持ち。  
それが得られたことで、少なくとも自分にとって、そして佐緒里にとっても、  
この馬鹿げた淫靡な事件には意味があったんだ、と景は思うのであった。  
 
(終)  
 

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