ふ、と。  
鼻腔に迷い込んできた何かが香った。  
浅い河岸にたゆたうような記憶の中にそれはあったような気がした。  
秋良はそれを掬い上げて確かめようとするが、何度も掴み損ねてうまくはいかない。  
あと少し、もうちょっと、そこで引っかかれ。  
滑りぬけようとする記憶のしっぽを夢中で掴もうとしていると、慣れた気配が邪魔  
をした。  
「うわ、まずい」  
秋良とは明らかにキーの異なる、澄んだ声が頭上から聞こえてきた。  
あ、あいつか、と瞼を開けようとしながら認識した瞬間。  
「わっ」  
「ぐえっ!」  
 
蛙を踏んだような声を出した秋良は、腹に容赦のない一撃をお見舞いされもんどりうった。  
「ご、ごめん、秋良!だ、大丈夫、ちょっとっ!?」  
あほ、大丈夫なわけないやろ、と叫んでやりたかったが、あまりの衝撃に声が出ない。  
平均的な体型をした成人女性の全体重を体の一点で受け止めた場合、それは当然の結果と  
いえた。  
「…っっおま、…ざけんなっ」  
「ほ、ほんとにごめんね、秋良!えーと、えーっと、そうだ、今日の夕飯、なんでも好き  
なの作ってあげるから!ね!」  
必死で謝罪する彼女は、常日頃から秋良の好きなメニューをふるまっていることに気づい  
ていない。  
ようやく痛みが引いた頃には、何故か腹を踏んづけた本人の方が涙目になっていた。  
なんでや、と秋良は少々怒りが萎んだ。  
痛かったのは本当だが、半分はフリでもあった。  
小さいときから体を鍛えてきて、今や日本のサッカー界を代表するプレイヤーにまでなった秋良の  
腹筋が、そうそう駄目になるはずがない。  
しかし、今はまったくに隙だらけの、起き抜けの状態で衝撃を受けたので、予想以上の痛み  
をこうむったのだ。  
だが秋良は、痛みよりむしろ、掴みかけていた記憶のしっぽを逃がしてしまったことの方が  
忌々しかった。手放してしまったシナプスをもう一度繋ぐのは容易なことではない。  
その上、女の攻撃でこうもみっともない醜態を曝してしまったという羞恥もあり、秋良は必  
要以上に怒った態度に出た。  
 
「そんなもんで許せるんやったらケーサツはいらんわい!」  
「だっていきなり雨降ってきそうだったから…」  
「雨ぇ!?こないに晴れとんのにんなわけ…」  
と、振り返った窓の向こうでは、むくむくと肥えきった雲が太陽を遮って白い領土を広げて  
いた。秋良が昨夜見たテレビでは、確か今日の降水確率はゼロと表記されていたように思う。  
(いい加減な予報すな、殴りこんだるぞ!)  
気象観測所と気象予報士に軽く殺意を抱きつつ、秋良は目の前で涙目で謝る幼馴染を横目で  
見やった。  
もやもやとして蒸し暑い気候のこの時期、彼女もその気温に合わせて、大柄の赤い花が彩る  
白のワンピースと、生成り色のニットカーディガンという薄着のコーディネートだ。  
そのふわふわとした白いスカートの裾からは、同じくらい白い足がチラと見えた。  
秋良の頭にピンと閃くものがあった。  
「おい、みどり。そしたら…」  
「え?」  
きょとんとした顔を向けたみどりの肩を素早く引き寄せて、耳元に口を寄せた。  
「ちっと付き合え」  
「…って、ちょっ、んぅ〜っ!」  
有無を言わさず唇を奪う。  
じたばたと、始めのうちは抵抗をしていたみどりの体も、次第に時折震える程度になり、  
やがては静かになった。  
ぱら、ぱらぱらっ、と窓の方から控えめな音が聞こえ始めていた。  
その音を耳にしながら、唇を離した二人は無言で見つめ…いや、睨み合い、最初に声を発した  
のはみどりだった。  
 
「雨」  
「ん?」  
秋良は睨みをきかせながらもみどりの薄い肩に引っかかっているカーディガンとワンピース  
の紐をはずした。  
「降ってきたから、洗濯物…」  
「あとにしとけ」  
その「あと」のことを全く考えていない秋良の物言いに、みどりは勿論腹を立てる。  
しかし、先ほどの失態の負い目からか、いつものように強気に出ることが出来ない。結果、  
顔を真っ赤にしながらも少しだけ唇を尖らせて睨みあげるという非常に些細な抗議の態度を  
取ることにしたようだ。  
しかし悲しいかな、それは男にとっては抗議のそれではなく、欲情を扇ぎ立てるためのそれ  
である。そして秋良もそれに煽られる男の例外ではない。  
自然と、彼女の抗議は有耶無耶に消されてしまうことと相成った。  
「ちょっ、夜中も…散々しといて、ん…っ。あ、秋…良」  
息もつけぬほどのキスの合間に、みどりがこれだけは、と意見した。  
「おねが……窓、閉め…あんっ」  
秋良の長い無骨な指先が彼女の乳首を布越しに刺激してしまい、最後までは聞き取れなかっ  
たものの、彼女の懇願は仕方なしに聞き入れられた。  
秋良としても、細かいことを気にして行為に集中できないようなことにはなりたくなかった。  
すでに顔が火照ってくたっとしているみどりでは役に立ちそうにないので、嫌々秋良が窓  
辺に立つことにする。  
曇天が彩る空を視界に入れて、窓を閉めようとサッシに手をかけたとき、風が頬を撫でた。  
 
その瞬間、先ほどまで靄のかかっていた一部が、唐突に姿を現した。  
「…あ」  
思わず声に出してしまった秋良だった。  
「ど…したの?」  
少し喜びを含んだような声だったので、みどりは何か面白いものでも見つけたのだろうかと  
体を起こそうとした。  
しかし秋良はすぐにぴしゃりと窓を閉めて、しっかりと鍵までかけた。  
そして敷かれた布団の上のみどりの下へ戻って覆いかぶさり、愛撫を再開する。  
不思議そうな顔をしつつも従順に秋良に従う体を弄びながら、秋良は先ほどの風に含まれた  
記憶を手繰り寄せていた。  
秋良の奥底にあった、遠い昔の波間から顔を覗かせたのは、雨の香りという名の、淡く香る  
記憶だった。  
 
 
1、ファーストインパクト  
 
第一印象は、あまりよくないものだった。  
どこにでもいる普通のやつ、とか、あほっぽい顔、とか、鼻持ちならない、とか、その辺の  
いずれかだ。  
なにしろ、越した先のアパートが以前にも増してボロボロで不機嫌になった所に、隣に建つ  
立派過ぎるほど立派な家の子供が笑って話しかけてきたのだ。  
大人でも少しささくれ立った気分になるだろうなら、子供にしてみればなおさらだった。  
黄色と緑のチェック柄のシャツに灰色のジーンズといった、ボーイッシュな格好をした短髪  
の女の子は、玄関先に立ってあからさまに不機嫌な顔をしている少年ににっこりと笑いか  
けた。  
「わたし、七倉みどり。お母さんが、隣に越してきた子が同い年だから挨拶に行けって。  
だから、これからよろしくね。そっちはなんていうの?」  
本音を言うとまったくよろしくしたい気分ではなかったのだが、経験からキンジョヅキアイは  
初めが肝心だと分かっていたので、しぶしぶ答えることにした。  
「俺は秋良高馬。それほど仲良くする気もないけど、お隣さんやったらしゃーないし、  
ま、テキトーによろしゅうしたってや」  
ことさらテキトーを強調して言い放つと、相手は微妙に含ませた棘に気づいたのか、少しむ  
っとした。  
「うん…でもテキトーにするぐらいだったら、初めからよろしくなんてしない方がいいと思  
うよ」  
そう言って、彼女は背を向けるとスタスタと行ってしまった。  
秋良は少し呆気に取られながらも、予想以上に生意気そうな少女の態度に鼻白んだ。  
そして、行ってしまった背中を見送ることなくさっさと部屋に引き返した。  
ものの一分もかからない、これが幼い秋良とみどりの出会いだった。  
 
それから数日しても、秋良とみどりは、話したり一緒にいたりする機会を持つことはなか  
った。お互いに最初の出会いは印象が悪く、特に相手に興味を持つようなこともなかったので  
当然の結果かもしれなかった。  
ただ、通う小学校も学年もクラスも同じなので、朝方の登校する時間や、下校する時間帯が  
重なってしまい、顔を合わせないまでには至らなかった。  
そして、偶然鉢合わせなどしたときには互いに気まずげな顔をして、少し距離を置いて目的  
地までを歩くのだ。  
そんな時、秋良は決まって居心地の悪い思いを抱いた。  
彼にとってそれはとても以外で忌々しいことだった。  
秋良から見る同年代の者たちは、皆同様に低俗で、取るに足らない存在だった。  
幼い頃に父が母を捨ててから、ろくに定職に就かず酒を食らっている父と二人で暮らしてきた  
秋良は、その年で大人びた思考回路を強要された。  
それゆえ、些細な事で囃し立てたり馬鹿にしたりする同級の子供は何も分かっていない馬鹿  
で、更に徒党を組んでいじめなどを行う輩は虫以下と思っていた。  
だから、そんな奴らにどう思われようが気にしない。  
自分は暇な奴らと違って忙しいのだ。  
そういった思いで他人と接していた秋良にとって、隣の家に住む七倉みどりという存在は、  
どうにも位置づけに困った。  
 
彼女は、クラスの大半の者たちが持つ、異質な者を排除しよう、或いは無視しようという  
瞳で秋良に接しなかった。  
だがたまに目を合わせると、その視線には明らかに嫌悪の色が浮かんで、表情も仲の良い  
友達といる時と比べて硬くなる。  
それなのに、今まで転校先見てきたような好奇の目や畏怖の目とは違って、彼女のそれは  
不思議と秋良が馬鹿に出来ないような瞳であることだけは確かなのだ。  
だからといって秋良が話しかけたり、みどりの方から話しかけてきたりというようなことは  
ない。しかし、それだからこそ秋良は彼女の存在を必要以上に意識してしまい、たまに行動  
を共にするような事があれば、非常に気まずい思いを抱くはめになるのだった。  
それはみどりの方も同じだったのか、出会い頭に一瞬戸惑うような表情をするみどりは、気  
まずげに「おはよう」や「ばいばい」を口にするものの、決して挨拶以上の交流を図ろうと  
はしなかった。  
そんな日々を送り、いつのまにか一ヶ月が過ぎようとしていた。  
 
 
2、バッドコミュニケーション  
近所の商店街でバイトを頼み込んできたものの、全て空振りに終わって腐っていた秋良は、  
父が家に戻るまでの間、アパートの空き地でヘディングして時間を潰していた。  
サッカーボールは秋良にとって優秀な遊び相手であり、唯一の充実感を与えてくれる物だ  
った。  
物心ついた頃からサッカーボールに慣れ親しんできた秋良は、テクニックをみがいてはいる  
ものの、それを誰かに披露するようなことはしなかった。まして、サッカークラブや、  
サッカーで遊んでいる少年たちの輪に加わるなどしようとも思わなかった。  
何故なら、どこにいようと秋良を受け入れる輪がないことを直感で悟っていたからだ。  
同年代の子供たちと秋良のサッカーに対する思い入れは微妙に食い違っていて、それにより  
人と楽しもうとは思えなくなっていた。  
暗闇が町を覆い、ボールの影が地面に濃く浮かぶ頃、そろそろ引き上げようと思った秋良は  
ボールを一際高くあげて、右ひざでキャッチし、更にワンバウンドさせて軽く前方に蹴った。  
すると、ボールは向かいのアパートの開いていた窓に見事に吸い込まれて、畳の上を5、6  
回跳ねたあと、静かに転がって壁際に収まった。自分もその後に続こうと窓枠に手をかけよう  
としたとき。  
ガサッ。  
後方から、気配の動く音がした。  
秋良は咄嗟に振り返った。  
後方に積まれている木材の向こう側に、誰かの影が見える。  
秋良は不気味に思って、それを振り払うように声をかけた。  
「誰や」  
不安からかつい声が荒っぽくなる。  
木材の隙間から微かに見える影は、びくっと反応して小さく声をあげた。  
 
「あ、あの」  
聞き覚えのある声だが、誰かまでは特定できない。だが、知り合いだということが分かると  
不安が取り除かれ、逆に誰なのか確かめたいという重いが湧いてきた。けれど、声の主は動  
こうとせず、仕方なしに秋良木材の裏に歩いていくと、そこには予想外の人物が立ちすくん  
でいた。  
「お前…こないなとこでなにしてんねん」  
秋良の驚いたような声に、所在なげな瞳をよこしたのは、隣の家に住む七倉みどりであった。  
塾かなにかの帰りなのか、両手で抱きしめるように平べったい茶色の鞄を持っている。  
「ごめん、あの、覗き見するつもりはなかったんだけどね、話しかけるタイミング逃しちゃ  
って、結果的には覗き見てたんだけど…」  
強張った笑みを浮かべたみどりは、まくしたてるようにしゃべり始めた。  
「今日、ピアノ教室に行くはずだったんだけど、どうしても行きたくなくてね、でもどこに  
行けばいいのかも思い付かなくて、家のまわりぶらぶらしてたら高馬くんがボールで遊んで  
るの見かけて、なんか意外だなって思って見てたら、ボールがずっと地面に落ちないからいつ  
落ちるんだろうって思って見てたらそのまま…」  
別にそれほど後ろめたい行動でもなかったはずだが、彼女にとって覗き見るという行為はま  
れなことだったらしく、やたらと申し訳なさそうに状況を説明していた。  
秋良はみどりが自分に対して挨拶以上の言葉を話しているのが珍しく、なんとなく見守って  
しまった。それからみどりは、ピアノが好きじゃないことや、その原因がピアノの先生にあ  
ることなど、しなくてもいい話まで全て語って聞かせた。その長い説明が終わる頃には、  
既に日が暮れていた。  
 
「………」  
「………」  
いったん話が途切れると、いつもの気まずい空気が二人を包んだ。  
秋良にとって、みどりが自分を覗き見ていたことは別に怒るようなことではなく、どうで  
もいい事だった。邪魔したり五月蝿くしないのなら居ないのと同じだ。  
みどりがどういう経緯で、どういった考えで見ていたかなどは関係ない。興味もなかった。  
「そろそろ父ちゃん帰ってくる頃や。ほな」  
本当は父がいつ帰ってくるかなどは知れたことじゃないのだが、秋良はそれを口実にして  
帰ってしまおうと思った。  
これ以上ここにいる理由もないし、覗かれていたからといって特に言うべきこともない。  
再び背を向けると焦ったように「待って」という声が聞こえてきた。  
「なんや、まだしゃべることあるんか」  
面倒そうに振り向けば、逡巡したような表情のみどりが立っていた。  
「あの、…その」  
はっきりしないみどりの声に、秋良は苛立った。  
「はよう言うたってくれへんか。俺ははっきりせんのが一番腹立つねん」  
すると、みどりはごくんとつばを飲み込んで、意を決して言った。  
「あのさっ、みんなと一緒にやってみたらどうかな?」  
「はあ?なんのこっちゃ」  
「だから、サッカー!」  
興奮したようなみどりの声に、秋良はぴくりと眉を跳ね上げて目を細めた。  
みどりはそんな秋良の様子には気づかず、興奮を抑えきれないのか早口でまくし立て始  
める。  
「私、サッカーのことなんてよく分からないけど、でもそれでもすごいよ、高馬くん。  
どうやったら一回も地面に落とさないでボール上げられるの?それってさ、みんなに  
見せたら絶対びっくりするよ。好きなんでしょ、サッカー?だったら、こんなとこで一人  
でやってないで、みんなでやればいいじゃん。きっともっと楽しいよ。私、サッカークラ  
ブの子に友達いるから、紹介してあげるよ」  
みどりは、それを、まるで自分が楽しくなることのように話して聞かせた。  
秋良は急激に怒りと軽蔑が湧いてくるのを感じた。  
「そんなん俺の勝手やろが。よう分からんのやったら余計な口出しすんな。迷惑やぜ」  
冷たい秋良の一言がよほどショックだったのか、みどりはそれまでのはしゃいだ様子を  
ぴたりとやめて凍りついた。  
「え、で、でも、だってさ…」  
不自然な微苦笑を貼り付けさせるみどりに、秋良は容赦なく畳み掛ける。  
「大体な、何を基準に楽しいと思えるんや。こん町のサッカークラブの試合は越してき  
た日に見さしてもろたが、あんなんサッカーにもなってへん、ただの玉蹴り遊びやないか。  
あんなしょうもないチームに混ざれやと?冗談やない。寝言は寝てから言うてくれ。ほなな」  
にこりともせずに早口で言い切って、踵を返す。  
罪悪感は微塵もなかった。秋良の事情など何一つ知らない癖に興味半分に面白がっている少女  
の鼻を明かした爽快感でいっぱいだった。  
 
言いたいことを全部言えてすっきりした。  
だが何故か妙に胸がざわついているような気もした。  
「なによ、えばりんぼ!」  
数歩もいかない内に少女の高い大きな声が背中に叩き付けられた。  
「なんやと」  
振り向いて牙を剥く秋良に、みどりは怯むことなく詰め寄った。  
「あんたって何様のつもりなの?そんなにサッカーが上手いのが偉いわけ?そんなに、  
お母さんがいないのが特別なワケ?二人暮らしで大変って周りに言いふらしたいわけ、自慢  
したいわけ!?あんたがそんな風だったら、いつまでたっても友達なんか出来ないんだから!」  
その言葉で、秋良は完全に頭に血が上った。  
みどりの白いセーターの襟ぐりを掴むと、乱暴にぐいっと引き寄せた。  
「やかましいわい!俺が友達出来ようが出来まいが、サッカーやろうがやらまいが、お前には  
一切関係ないんじゃボケ!目障りなんやったら近寄ってこんかったらエエやろが!俺かて  
そっちのがせいせいするわ!分かったら、二度と俺に知った口きくんやないでっ」  
そこまで言うと、秋良は突き飛ばすようにしてみどりの襟元から手を離した。  
よろめいたみどりは、目にいっぱいの涙を浮かべて、悔しそうに言い返してきた。  
「なによ…っ。確かに関係ないわよっ、口もききたくないし顔も見たくないわよ!だけど、  
私はあんたのクラスメートで、お隣さんで、嫌でも一緒にいなくちゃいけないのよ。  
それなのに、高馬くんがそんなだったら、あたしは、みんなだって嫌いなままじゃない。  
そんなの、なんだか…。高馬くんだって嫌でしょ?だからっ…」  
秋良は遮るように言った。  
「でっかいお世話や。いい子ぶりたいんやったら他あたってくれ」  
憎々しげな一瞥をやると、みどりは眉間に深く皺を刻んで睨んだ。  
「分からず屋!高馬くんなんて…」  
「それと!軽々しく人の名前呼ぶんもやめろや。吐きそうになる」またも遮って、いかにも気持ち悪そうな顔で言い捨てると、秋良はもう振り返ることなく窓を跨いで部屋の中に  
入った。窓を閉めるとき「バカ秋良!二度と名前なんか呼ぶか!」という罵声が聞こえてきたが  
聞こえないフリをしてぴしゃりと窓を閉めた。  
第二印象は、最悪のものとなった。  
 
 
3、マフラー  
 
いつものことではあったが、秋吉は半ばうんざりしていた。  
朱に交われない者をいたぶろうとするのが人間の本能なのだとしたら、人間とはなんと  
おろかで馬鹿な生き物なのだろう。  
幼いながらそんな風なことを思った秋良は、だから軽蔑というよりはむしろ憐れみに  
近い眼差しでもって、取り囲む者達を見回した。  
「お前、いい加減にしろよ。こっちが優しくしてやりゃつけあがりやがって」  
「お前みたいな貧乏人相手に俺たちが相手してやるなんざめったにないことなんだぞ」  
「ほら、さっさと金出せよ。そしたら帰してやるから」  
なんとも支離滅裂な要求を差し出したそいつらは、秋良より一学年上の、近所でも有名  
な問題児三人だった。  
ケンカに勝つことが強く、負けるものは皆弱虫で、逆らった者は痛めつけられて当然と  
思っているような奴らだった。  
秋良はそんな奴ら関わるのは時間の無駄とばかりに、なるべく避けようとしていたのだが  
クラスでも異質な秋良は傍から見ればそれ以上に目立つ存在だった。  
それ故、目をつけられるのは当然の結果といえた。  
そして運悪く下校中に、それも周りに誰も見かけないような道で問題児達と出会って  
しまったのだ。  
己の不運を嘆きつつも、秋良は深い溜息を吐き出して睨んだ。  
「貧乏人と分かってる様な奴相手に金たかるんが、そないに優しいことやったとはな。  
なんとも親切な話しや」  
「なんだと、このヤクザ野郎!」  
「いいから早く金出せよ!じゃねえとひでえぞ!」  
「自分の立場分かってんのかよ!」  
脅しや罵声にしても酷いものだ。どうやらヤクザ野郎というのは、やくざ=大阪弁という  
安易なイメージから吐き出されたものらしい。  
もっとうまい言い回しは出ないものかと、これだから東京モンはという蔑みの眼差しを  
投げた。  
「分からんお人らやな。貧乏人言うんは金ない奴のこっちゃ。日本語も分からんような  
奴らに出す金なんぞ1円もない言うてんねん」  
「なんだとー!」  
「もう許さねぇ!」  
「半殺しにしてやる」  
案の定襲い掛かってきた三人の上級生を、秋良はひらひらと軽いステップで避けた。  
彼らは虚しく空を切る腕の音にさらに腹をたて、血走った目で避けた秋良の後を追った。  
秋良は走り出した。  
どうせ誰もついてはこれまいと、高をくくっていた。  
その通り、三人の問題児たちは、腕力はあるかもしれないが、秋良の足には敵わない  
ようだった。  
これで平穏無事に家に帰れると、三人の足の遅さに感謝しているときだった。  
するり。  
身につけていたマフラーが、解けて舞った。  
 
「あっ」  
まずい。  
すーすーする首元の肌寒さに青ざめながら、秋良はあずき色のマフラーを横目で追った。  
足を止め、マフラーの落ちている後方まで急いで戻り、拾い上げた。  
だが、それをジャンパーのポケットに無理やり押し込めようとした時、秋良より一回り  
太い腕が、無情にもそれを阻んだのだった。  
「おっと、なんだそりゃ」  
はっとして上を見上げた秋良の視界には、汗だくになりながらも厭らしい(あるいは  
彼らにとっては余裕の)笑みを貼り付けた問題児の顔が映った。  
追いつかれてしまったのだ。  
「チッ」  
逃げようと踵を返したが、既にもう一人が回りこんで退路は塞がれていた。  
形勢逆転したと思ったリーダー格の少年が、嘲笑して秋良の足を引っ掛けた。  
「うぁ」  
背中を見せていた秋良は為す術もなく転がされる。  
ぎゃはははという馬鹿笑いが起こった。  
カスが、と心の中で罵倒しながら、秋良は逃げ出す隙を見計らっていた。  
「おいおい、なんだこのきったねぇマフラー!」  
秋良は、はっとしてポケットの中を探った。  
薄い科学繊毛の感触はない。  
焦って視線をさまよわせると、数歩先の地面に、それはくたっと力なく横たわっている。  
掴もうとした矢先、マフラーは自分ではないものの手によって掬い上げられた。  
秋良はかっとして言った。  
「汚い手ェで触るなやボケェ!」  
叫んだ秋良の顔を、リーダー格の少年が容赦なく蹴った。  
「ぐあぁっ」  
物凄い衝撃と痛みが顔面を襲い、秋良は再びその場に転がった。  
ぼとりと血の塊が鼻から垂れた。  
だが秋良にはそれを気にしている余裕はない。  
何故なら、あのマフラーは、カスに触らせていいものではないからだ。  
「か、返せやっ…」  
必死に足にしがみつく秋良を嘲笑って、マフラーを手にした少年は秋良の体を踏みつけた。  
「おいおい、貧乏人はこんなぼろっちぃマフラーにも必死になんなきゃいけねぇのか?」  
「かわいそうだから、今日は金の代わりにこのぼろっちぃマフラーで許してやろうぜ」  
「しかたねぇな、貧乏は」  
そう口々に言って笑い合うと、少年たちはマフラーを持っていこうとした。  
どうやら、問題児達は金が欲しいというより嫌がらせをしたいだけらしかった。  
秋良はしかし、それで引き下がるわけにはいかなかった。  
勝ち目も意味もないケンカをしてでも、マフラーだけは譲れない。  
じり、と起き上がって、秋良は啖呵を切った。  
「待てや、クズどもがぁっ!貧乏人にまで金たからなアカンほど飢えてるんやったら、  
ワイが相手したるわ!はよこんかカスっ!!」  
子供とは思えぬほどの迫力がこもった啖呵に、三人はすぐさま振り返った。  
 
「なんだとコラァ!」  
「そんなに殺されてぇかよ!」  
「顔変形するまで殴ってやる!」  
秋良の啖呵に得体の知れない怖気を感じながら、三人はその怖気にすら怒りを覚えて襲い掛かる。  
秋良も、すでに後のことなど考えていられなかった。  
とりあえずマフラーさえ取り返せればいい。  
保身など頭になかった。  
「来いや、コラ!」  
しかし、次の瞬間全員が動きをとめることになった。  
「せんせぇーっ!高岡先生、こっちです、早く!!」  
少女のものと思われる金切り声が秋良の後方から響いてきた。  
振り返ってみると、30mほど先に七倉みどりの姿があり、こちらと後ろを交互に見ながら、  
大きく手を振ってもう片方の手でこっちを指差していた。  
「やっべ、高岡!?バレたら今度こそ…!」  
「おい、早く逃げろ!」  
「あ、待って!」  
少年たちはクモの子を散らしたように逃げ去った。  
秋良はその間、ピクリとも動かずに、走ってくるみどりを見ていた。  
後ろから来るはずの高岡教諭の長身は、しかしいつまで経っても来る様子がない。  
「はぁっ、はあ…っ。よかった…間に合った」  
みどりは、腰を曲げ、膝に両手をついて息を整えると、顔を上げて秋良に向き直った。  
「…偶然見つけてさ。あいつら高岡先生の名前出すと逃げるんだよ」  
要するに、みどりが機転を利かせたらしかった。  
「あ、血。すごい出てる」  
呆然としていた秋良は、みどりがポケットからハンカチを取り出して自分の鼻の周辺を拭こうと  
しているのに気づいて、とっさに手で払った。  
「あっ」  
水色のハンカチは、ふわりと地面に落とされた。  
みどりはそれを見送ると、無言で秋良を睨んだ。  
「……」  
「……」  
秋良も静かに睨み返す。  
だが、みどりは怒りを抑えるように素早くしゃがんでハンカチを拾い……  
そしてその視線の先に、あずき色のマフラーが落ちているのを見つけた。  
秋良もそれに気づいて、みどりが手を伸ばして触れようとする寸前に  
それをかすめ取るように拾い上げた。  
しゃがんだままその素早い動作を見たみどりは、非難の色を浮かべた目で頭上を睨んだ。  
秋良はそんなみどりの目から隠すかのように、くしゃくしゃにまとめたマフラーと一気に  
ポケットに押し込んだ。  
 
「余計なことしやがって…。イイことしたつもりか?」  
秋良は、ことさら視線を険しくすると、子供とは思えないほど低い声をみどりに投げた。  
「礼なんぞ言わんからな」  
すると、みどりはばっと立ち上がって、堪りかねたように詰め寄った。  
「あんたからお礼言われたくてしたわけじゃない!あんたが痛めつけられてるのを  
見捨てたくなかっただけだよっ。そんなマフラーの為にあんな奴ら相手にするなんて、  
何考えてんの?」  
次の瞬間、秋良は目いっぱい腕を振り上げていた。  
無意識だった。  
―――パンッ。  
乾いた音が二人の周りに響いた。  
強いようで、それほどでもないような音だった。  
みどりは、左頬を押さえて呆然と秋良を見詰めていた。  
「お前なんぞに…お前みたいなお嬢に、何が分かるんや!」  
ぎりっと噛み締めた歯の隙間から、憎しみとも悲しみともつかない感情に濡れた声が  
漏れた。  
その声を受けたみどりは、大きな黒目がちな目から、ぽろと涙を溢れさせた。  
きらりと光った軌跡が頬を押さえている手の中に消える。  
秋良は、その光から逃げるようにして、だっと走り出した。  
おもむろにポケットに突っ込んで握り締めたら、マフラーはくしゃりと悲鳴をあげた。  
秋良はそれこそ、こちらが悲鳴を上げたい気分だった。  
 
 
4、アイデンティティー  
問題児に絡まれた日から数日後、秋良は非常事態に陥っていた。  
マフラーが、なくなったのだ。  
絶対に無くしてはならず、絶対に手放してはならないものだった。  
あれから、秋良はまた問題児達に絡まれたときのために、マフラーをつけないように  
していたのだが、冬の木枯らしが身に染みるこの時期、食料もままならない生活を送っている  
秋良が、他の防寒具を買い求められるはずがなかった。  
その上、父親があてにならないのは分かりきったことだ。  
仕方なしにその日はマフラーを身につけて登校したのだが、体育を終えて教室に戻り、  
着替えていると、マフラーがないことに気づいた。  
秋良は探し回り、クラスの全員に知らないかと聞きまわった。  
終いには先生にまで訴えたが、とうとう見つからなかった。  
クラスメイトたちは、マフラーがなくなったぐらいで取り乱す秋良を物珍しげに見ていたが、  
誰も探すのを手伝おうとはしなかった。  
みどりも、そんな秋良をじっと見ているだけだった。  
アパートに帰った秋良は、座り込んだままじっとしていた。  
どこをどう探してもマフラーは出てこなかった。  
諦めるという選択肢はないものの、ここまで探して見つからないとなるとさすがに疲れが出た。  
次第にどうでもいいような気もしてきて、家に帰った。  
すると、人気のないがらんとした部屋にさらに嫌気が差して何をする気も起きなくなった。  
座り込んで数十分後、窓の向こう側から、いつの間にかしとしとという音が聞こえてきた。  
気づけば、すえた様な、生臭い様な匂いが、どこからか部屋に侵入している。  
うんざりとした。  
雨の日は大嫌いだった。  
洗濯物は乾かないし、サッカーだって思うようにできなくなる。  
何より、気分を最悪にさせるような湿気た空気が堪らない。  
「今日は厄日かい」  
ははっと笑って、呟くとさらに気分が落ち込んだ。  
父が大事にしている秘蔵の酒を割って憂さ晴らしでもするか、と立ち上がったとき、  
ドンドン、と扉を叩く音が狭い部屋に響いた。  
それほど強くもない調子だったのだが、期限の悪い秋良には途方もなく耳障りな音となって  
聞こえてきた。  
「誰や!」  
自然と口調が乱暴になるが、構わなかった。  
今日は誰とも話したくない。  
怒って帰ってくれるのならそっちのほうが秋良にとって万々歳だった。  
「私。…七倉」  
小さな声だったが、薄い扉越しには十分聞こえる声が届いた。  
相手を知るなり気分が最低に達した。  
秋良は、これ以上があるか知らないが、それでももう気分を滅入らせたくはなかったので、  
無視を決め込むことにした。  
みどりと会ってしまえば更に最悪なことになるのは目に見えていた。七倉みどりは、秋良と  
どうあっても馬が合わない人間だと、これまで嫌というほど思い知らされているのだ。  
 
「ねぇ、開けてよ」  
図々しい言葉が、独り言のようにくぐもって聞こえてきた。  
誰が入れたるか。  
心の中で毒づいて秋良は座りなおす。  
みどりは何の反応も返ってこない様子に観念したのか、「分かった」と言って、  
「じゃああんたの探してたもの、私がもらうから」  
それを捨て台詞に、みどりは帰ろうとした。  
「なんやと」  
秋良は聞き捨てならないと、すぐさま追いかけようと腰を浮かせた。  
がしかし、もしかしたら自分と顔を合わす為の方便かもしれないと立ち止まる。  
けれど、みどりが立ち去ろうとしていることを表すぎしぎしという廊下の軋みが耳に届くと、  
秋良は反射的に部屋を飛び出していた。  
「おい!」  
秋良はすぐにみどりに追いついて呼びかけたが、みどりは気づかないかのように  
すたすたと外へ出ようとしている。  
「ちょお、待てや!」  
憤慨して、肩に手をかけて強引に振り返らせた。  
憮然とした表情のみどりは、そこでようやく立ち止まった。  
「なによ」  
挑戦的な声だった。  
秋良はさらにむかっときて声を荒げた。  
「ほんまに見つけたんやろなっ」  
するとみどりは、すっと通った鼻筋の付け根に皺を寄せて、水色の小さな紙袋を  
秋良の胸に強く押し付けた。  
「本・当・に、見つけたわよっ、はい!じゃあね!」  
そうして、みどりはさっきよりもさらに肩をいからせて早足で行ってしまった。  
秋良は、苦虫を噛み潰したような顔になって、上下に激しく揺れる背中を見送った。  
受け取った紙袋を見下ろすと、中から安っぽいあずき色のマフラーがのぞいていた。  
取り出して確認すると、確かに自分のものだった。  
端の方に、白い糸で小さく名前が縫い付けてあるからだ。  
秋良はそれを見るとほっとして、思わず表情を緩めた。  
胸の中に、表現し難い様々な感情が溢れて、さっきまでぽっかりと穴が開いていた心が  
急激に満たされていくのを感じた。  
中でも一番大きいのは、深い安心感だった。  
それが分かると同時に、ふとみどりの顔が思い浮かんだ。  
秋良が声をかけたとき、みどりは怒りの表情を顕わにしたが、秋良はそれだけでは  
なかったような気がしていた。  
目の奥で、傷ついたような悲しみの光が宿っていたようにも見えた。  
そこまで考えて、秋良は、くそっ、と毒づいて急いで消えた背中を追った。  
 
アパートを出ると、そぼ降る雨の中、みどりはすぐに見つかった。  
彼女は何故か、傘も差さずに道の途中で立ち止まっていて、目の前に見える家に入ろうともせずに  
雨に打たれていた。  
秋良はなんとなく声をかけづらい雰囲気に躊躇いを覚えて、自分も何分か背中を見続けていた。  
「……どこに、あったんや」  
ようやく声をかける決心がついたのは、水に飛び込んだように全身ずぶ濡れになった頃だった。  
みどりはびくっと肩を震わせると、ゆっくりと秋良の方に向き直った。  
驚いたように目を見開かせているので、どうやら秋良がいたことに気づいていなかったことが  
窺われた。  
みどりは濡れて張り付いた髪の毛を気にもせず、僅かに唇を震わせている。  
そのまま何も言わないので、秋良もさすがに居心地が悪くなったとき、みどりは口を開いた。  
「その…マフラーさ、なんでそんなに大切にしてるの?」  
それは質問の答えではない。  
秋良は横を向いて視線を逸らす。  
みどりはその様子に、軽く溜息をついた。  
「また無視?…いいけどさ」  
嫌われていることを知っている者特有の、投げやりな声だった。  
「秋良くんて、自分がどれだけ目立つか分かってる?そうやって、自分のことは誰にも  
分からせないって態度がどれほど悪目立ちするか。…それが秋良くんのやり方だって  
いうなら仕方ないけど、大切にしたいものがあるならもう少しうまくした方がいいよ」  
「…なんやそれ、説教か」  
「そうじゃないって!ただじれったくて見てられなかったから…」  
もどかしそうに告げるみどりの瞳には諦観の眼差しがあった。  
「まあ、確かに私が口出しすることじゃないけどね。…それ、早引きした松田くんが  
間違って持ってっちゃったんだって。今度はランドセルの中にでも入れておいたら」  
秋良は、すっかり水を含んで黒い色になったマフラーを見下ろした。  
松田という奴がどういう顔の奴かは、おぼろげにしか思い出せない。  
けれど、あずき色なんて趣味の悪いマフラーをしている人間がクラス内にいるとは、  
秋良には思えなかった。  
だがそれもまた推測に過ぎないのだ。  
するとみどりの言ったことが、染み入るようにじわりと秋良の心に入り込んできた。  
『大切にしたいものがあるならもう少しうまくした方がいいよ』  
認めたくない。  
こんな奴の言うこと。  
しかしそれは、どう否定しても正論だった。  
「…七倉」  
寒さに震え、かすれた声は、数歩先に進んだみどりにかろうじて届いたようだった。  
「なに?」  
みどりが振り返ったのかどうかは、俯いているため分からない。  
それでも、秋良は口にした。  
「おおきに」  
ザー。と音をたてる雨は、秋良の声を遮ったかのように思われた。  
だが、陰鬱な空気を晴らすような「うん」という澄んだ声が聞こえてきて、  
それきりあたりは雨音に包まれた。  
秋良は結局、みどりの顔を見送ることができなかった。  
何故かそれが、どうしようもないほど悔しかった。悔しくて堪らなかった。  
まるで痛いしっぺ返しを食ったような気がした。  
その思いを噛み締めて、重い足取りで震える体を引きずり、アパートに戻った。  
気分は、みどりが来訪した時よりも最低に達していた。  
 

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