「ぐず、みっ、みないでよっ」  
「わっ、ご、ごめ」  
「まったく、でりかしーってものが、えぐっ、ないんだから」  
「そんなぁ、ゆるしてよー」  
「そう、かんたんには、ひっ、ゆるさないん、だから」  
「ど、どーすれば、いいの?」  
「何でもしてくれる?」  
「うん、ぼくにできることなら」  
「ほんとだね? ……じゃーねぇ……」  
 
 
            内弁慶とみかんとかの汁  
 
 
朝。三月に入り徐々に暖かくなってきたとはいえ、まだ寒い。  
寝起きの辛さは寒さの所為だったのかもしれない。最近は目を開けた直後でも心なしかすっきりしている。  
ぐうーっ、と腕を上に伸ばしながら背中を反らし、いつもとは違う部屋を見渡しながら、いつもと同じように窓の傍まで歩く。  
よし、ゴミ一つない。綺麗に片付いている。昨日の晩に模様替えは済ませ、掃除機を二度もかけたのだから当然だけれど。  
……後は、彼に見てもらうだけだ。  
窓の外に目を向ける。朝の明るい風景とは対照的な、アスファルトの上に伸びた春の黒い影がとても綺麗だった。  
 
 
日曜の朝。休日も忙しなく働いている母が、今日は珍しく家でのんびりしていた。  
棒状のスナックを、じゃがりこじゃがりこ音を立てながら食べている。正直うるさい。  
ランニングから帰って来た俺はというと、日頃せっせと働く母親をねぎらう、  
なんて事はせず、隣の家に行く為に汗臭いウェアを脱ぎ捨て普段着へと着替えをしていた。  
 
なんでも、四月から大学に行くので心機一転する為に部屋の模様替えをするらしい。昨日の勉強の時にそれを繰り返し言っていた。  
要するに手伝えという事だろう。  
別に行かなくてもいいのだが、タンスや机を動かすのは大変だったとか後で言われるに決まっている。  
損ねてしまった彼女の機嫌を直すのは結構めんどくさい。アレが食べたいだのドコに行きたいだの駄々をこね始めると止まらないし。  
そんな事を考えていると、ダンボールを持った母が目の前に立っている。  
「あー、あんた。これ持っていってちょうだい。高橋さんによろしく言っといて」  
そう言って、みかんがいっぱい入った箱を持たされて俺は家を出た。  
 
「いらっしゃい。……ふふ」  
隣の家に行くと、いつもの如くおばさんに迎えられた俺は抱えた箱を渡し二階へと上る。  
二月の事は直ぐにばれてしまった。  
まぁ、娘が俺の家に行ったきり次の日の夕方まで帰ってこない(気を失って目が覚めたら夕方で、彼女はずっと付いていてくれた。  
けど、学校に連絡まではしてくれなかったので自由登校となっていた三年の彼女はともかく、俺は無断欠席してしまった事になり教師やら両親やらに怒られた。)  
のだから当然の結果とも言える。彼女の親は寛大な精神の持ち主で、後日彼女との事を言いに行った時には「娘をよろしく頼むよハハハ」と、  
そんな感じで歓迎された。殴られる位は覚悟していたのだけど。……寛大というよりも楽天的なだけかもしれない。  
それからおばさんは顔を合わせる度にニヤニヤしているし、  
そこに彼女が居合わせれば何も言わずに真っ赤になって俯いて、彼女と二人になった時に八つ当たりされるし、本当に大変だ。  
……それが嫌ではないと感じる所が一番大変だ。  
 
コン、コン、コン、コン。彼女の部屋のドアを叩く。  
彼女の部屋に行ってみると既に模様替えは終わっていたようで、部屋に置いてある物の配置が随分と変わっていた。  
「遅いっ! まったく、君は来てくれるのは良いけどもう少し早く来てくれないと。もう大体は片付いてしまったよ」  
名前で呼んでくれたのはあの朝の一度だけで、やっぱり普段は「君」がデフォルトみたいだ。  
もう一回名前で呼んでくれないか頼んでみた事があるけど、俺の耳に入ったのは名前を呼ぶ声ではなく拳だった。幸いな事に、鼓膜に異常は無かった。  
 
南には群青のカーテンが掛かった大きな窓、西には擦りガラスの小さな窓、北にはドアと押入れがある彼女の部屋。  
西側の壁にはどちらも黒が強い灰色のタンスと本棚が置かれていて、東側には高さは無いけれど横幅がある暗い緑の棚があり、その上に十四インチ位のテレビが乗せられている。  
彼女は「日本人なのだからやっぱり布団でないと。ベッドなんて使って、まったく、君は布団の良さを全然分かってない!」などと言って布団を敷いて寝ているのでベッドはない。  
しかし床はフローリングの上に青灰色の絨毯が敷かれてある。  
そして真ん中に据えられた正方形の、一辺に二人はギリギリ入れない位の大きさの薄い青色の布団の掛かった木製のこたつに彼女は入っている。  
三月も半分が過ぎたというのにこたつがあるのは彼女が寒がりだからだ。  
それなのに勉強を見るときだけ露出の多い服を着ていた彼女の心境を考えて、顔がにやけてしまうのはしょうがない事だと思う。  
そんな俺の顔を見て彼女はふぅ、とため息をついてしまうのもしょうがない事だ。  
「きみは何を考えているのよ。……まぁいいよ。どうぞこたつにでも入ってください」  
こたつを挟んで彼女と向かい合う形になる位置に座る。  
今日の彼女は使い慣らしてくたびれたジーンズに部屋着として使っている長袖Tシャツを着て、長い髪はポニーテールというのだろうか、後ろで一つに纏めている。  
「で、どうかな?変じゃないかな」  
部屋の構図を聞かれたって、専門家でも無いしセンスも無いし分からない。そんな事を彼女に言うと、  
「君に聞いてもそういう答えしか返ってこないと思っていたよ。こういう時は、良いねとかさすがだよとか、君はかわいいねとか、  
 こんな美しい貴方を彼女に出来て僕は世界一の幸せ者だよとか、そういう事を言っておくものだよ。」  
と言われたので、その通りに言ったらこたつの中の彼女の足が俺の足を抓ってきた。理不尽だ。  
時折、いや結構短い間隔で攻防をしつつ(といっても俺は防戦一方だけど)しばらく当たり障りの無い話をしていると、おばさんがお盆に入ったみかんを持って入ってきた。  
「これでもおやつに食べてなさいな。って言っても、さっきお隣さんが下さったものだけど」  
これは良い機会だと思い、俺は攻勢に出た。  
 
 
「ふふふ……朝からアツアツね」  
おかあさんがニタリと嫌な笑みを浮かべながらそんな事を言ってくる。  
「う、うるさい! 早くそのみかんを置いて出てってください」  
反射的に言葉が出てしまう。彼にも彼以外の人にも、もう少し柔らかい口調を使いたいのだけど上手くはいかなくて、私はどうしてこうなのだろうと心の中でうな垂れる。  
けれど、今回はしょうがないかもしれない。早く出て行ってほしい。まったく、彼には困ったものだ。  
「まぁ、昔はそんな事を言う子じゃなかったのに。  
 あなたが幼稚園生だった頃は、帰ってくれば春ちゃんの笑った顔が可愛かっただの、あの子とばっかり話していて悲しいだの、  
 素直に一日の事全部を喋る良い子だったのに、ドコで育て方を間違」  
「あー!あー!そっそんな、勝手に話を作らないでよ!まったく。んっ」  
わざわざこんな時に言わなくてもいいのに!顔に熱を帯びているのが分かる。多分真っ赤だ。  
ばれてないかな?と私は内心ひやひやしている。声が出ないように気をつけよう。  
「はいはい。恋する二人の邪魔は出来ませんからね、早く出ますよ。あ、春君。勉強はどう?頑張ってる?」  
「あ、はい。まー、ぼちぼちですよ」  
「君も普通に返事してないでっ、んっ、なんか、言いなさいっ」  
彼は何も関係なさそうな涼しい顔をしている。まったく、こっちの気も知らないで……。  
「あらあら、しかしまー、我慢の足りない子ね。そんな事で四月から大丈夫?」  
「大、丈夫よっ」  
そっぽを向き、目を瞑る。母は変な所で鋭いので、表情を見られていたら気付かれてしまうかもしれない。  
その後も母は部屋にいたのだけど、何とか堪えることが出来た。けれど、その後少しして、私は我慢の限界が来た。  
「早くっ、でっ出ていってよぉっ!」  
 
おばさんが出て行った後、困った。彼女が泣き出してしまったからだ。  
取り合えず足の指先の湿りをこたつの上のティッシュで拭いて、窓を開け、後始末をし始めた。  
おばさんが部屋に来て、これはチャンスだと思って、こたつの中の足を彼女の下腹部へと伸ばし、指先で刺激し続けていた。  
そのせいで彼女は、その、おもらしをしていまい、泣き出してしまったのだ。  
「えぐっ、ずずーっ、ごめんねっ」  
鼻をすすったり、メガネをずらして目をこする彼女を宥めつつ、布にシュシュッと消臭剤を吹きかけて行く。  
床の絨毯はクリーニングに出さなければならないので端に畳んでいき、途中で絨毯に落ちていた物を見て驚き、それもそうだなとポケットにしまう。  
こたつの布団は被害が少ないので消臭剤で済ませる事にした。これなら除菌も出来るので衛生面も安心できる。  
こんな事態にはうろたえずに手際よく片付けられる自分は一体何なのだろうと思いつつ手を進めていく。  
「こんな歳にもなって、ぐしゅっ、おしっこもらすなんて、はるちゃんイヤだよね?きらいになっちゃったよね」  
下を穿き代えさせた後、彼女はまだ泣き続けてしかも、いつになく弱気になっていた。  
大丈夫だよ、そんなこと無いよ、と声を掛けつつ、鼻が出ていたのでティッシュを彼女の鼻へ持っていく。ちーん、と素直に彼女はかんだ。  
「いつもは年上ぶって、えらそうにしてるくせに、ほんとに、ダメな子でごめんね」  
なかなか治まらない。こんないじらしいというか、幼い彼女は見た事が無く、新鮮でこれはこれで良いけど調子が狂う。  
「あっ、そーだ!」  
ぽんと彼女は手をたたき、  
「お詫びに何かしてあげるっ」  
と、言い出した。一応考えてみたけど何も浮かばなくて、部屋がしんとする。  
そのうち彼女が覚悟を決めたような顔をしてこう言った。  
「よしっ、胸でしてあげようじゃないかっ」  
 
 
「いや、いいよ、やらなくて。というか、やらないで。やめて下さい」  
「やるのっ、大丈夫なのっ」  
意気込む彼女と、逃げ腰になる自分。普通は逆では無いかと思う。  
こうやって拒むのも理由があって、彼女が中学生のあの時にやらされたのがソレなのだそうだ。  
 
――僕だから、僕だけは大丈夫とか。そういった都合のいい話は、ある訳が無くて。  
 
前にソレをしてもらおうとお願いした事がある。その時は、彼女が僕の物を胸で挟んだ瞬間に、彼女は胃の中の物を全て吐きだした。  
二月のあの後、彼女と行為に及ぼうとした事もあった。  
彼女は大丈夫だと言うけれどその身体の震えは止まらなくて、僕は何も出来なかった。  
わざわざ傷口を抉るマネはするべきではない。そんな荒療治する事はない。  
先程のこたつの一件も迂闊すぎた。少しずつ慣れていけばいいのに、欲望に駆られてあんな事をしてしまって。  
そんな風に頭の中がどんどん後ろ向きな思考で埋まっていく。と、視界が揺れた。彼女が僕にのしかかってきたのだ。  
 
彼女は既に上着を脱ぎ、ブラを外しており、僕の物はその豊かな胸を見て反応してしまう。  
そちらに気をとられている間に彼女は手際よく僕の物をズボンから取り出し、ソレに胸を押し付けた。  
乳房を手に持ってソレに擦り付ける様に動かしていく。  
彼女の胸は温かくて、柔らかくて、気持ちよかった。その感触に意識がトびそうになる。  
そして、いつの間にか僕のソレは彼女の二つの胸の間に持っていかれ、挟まれた。  
彼女の胸と胸がぶつかり合ってその形をむにゅむにゅと変えていく様は、感覚と視覚の両方を刺激していく。  
僕のソレはぷよぷよと歪み続ける乳房の間からたまに顔を覗かせていた。  
そして今度はたわわな胸に挟みつつ僕のソレに桃色の唇を近づけた。  
 
「んっ、んうっ、はうっ、じゅるっ、れろっ」  
ぺろぺろと舐めた後、けして大きくは無い口を最大限に開けて僕のソレを咥える彼女。メガネの奥の瞳はまた涙を滲ませている。  
「んんっ、じゅぽっ、ふうっ、んっ、んっ」  
吐き気を堪えているのかもしれない。眉間に皺を寄せながら、それでも口に含み続ける彼女が健気で、愛しくて。  
気付けば僕は手を彼女の頭に持っていき、艶やかな髪を撫でていた。  
ゴムで一つに縛られた髪は、これだけ長いと傷みそうなものだけどとてもなめらかで、とても触り心地が良かった。  
「えへへっ、んっ、んっ、あんっ、」  
髪を撫でられるのが気に入ったようで、彼女は苦しそうだけど微笑んでいるように見えた。  
「ごめっ、口離して、もうっ」  
耐え切れなくなって、僕はそう言ったのだけど、彼女は離してはくれない。むしろ激しく動き出して、  
「んっ、んんんんうっ、ふあっ!」  
僕は彼女の口の中で精を吐き出し、そのあまりの勢いにびっくりした彼女はようやくソレを口から離した。  
そして、射精は止めようと思っても止められるものではなく、白濁の液体が彼女の綺麗な顔や白くてキメ細かい胸を汚していった。  
 
「え゛ほっ、げふぅっ」  
口に絡まった精子にむせ返る彼女。そんな姿を見て、やっと自分を取り戻した。  
「大丈夫っ? ごっ、ごめん。ここに口の中の物吐き出して」  
彼女の口元に左の手の平を差し出して、右手はこたつの上のティッシュを2,3枚取り、彼女の体や顔を拭いていく。  
メガネのレンズも擦るのだけど、なかなか上手く行かずレンズに薄く白く残ってしまった。濡れタオルを持ってこなければ駄目だろう。  
メガネは一先ず頭の隅にやり、他の彼女の体にかかった所を拭いていく。すると、  
「んんっ、」  
ごくっ、と文字通り喉が鳴り、彼女が目尻を下げながらこう言った。  
「ふー。おいしくないね。  
 けど、きみのだから、のめたよ」  
彼女は褒めてくれと言わんばかりなのに、それでいて、凄く嬉しそうな顔をしている。  
そんな彼女を見て。  
「えへへ…。って、ふあっ」  
戻って来た理性は、またどこかへ旅立っていった。  
 
 
畳んだ絨毯の上に彼女を押し倒した僕は、彼女の足の間に体を押し入り秘所に指をかける。  
「ふぅんっ、あっ、んっ、」  
彼女の口から漏れる吐息を聞きながら彼女の入り口を撫でていく。  
「んんっ、えぅ、はぁっ」  
そして、先程のお礼とばかりに秘部に顔を近づける。くんくんと臭いを嗅いでみる。少しアンモニアの臭いがした。  
「いやっ、やめ、におい、ん、かいでは、だめ、ひぅっ! なのっ」  
顔を真っ赤にして首を左右に振り、甘い声を交えながら制止の声を上げる彼女を無視し、今度は舌を這わせていく。  
「ああんっ、や、そこ、ふぅっ、きたな、」  
顔を手で覆う彼女。普段では見れない反応に気を良くし、どんどんと舐めていく。  
「ひぃっ、ああんっ、ふぅーっ、ふぅーっ」  
秘部に舌を挿し込み上へ下へ右へ左へ動かし、次に淫核を口で器用に皮から出して舐めていく。  
「そ、そこっ、ふああっ、ひぅうっ、だめっ」  
周りを舐め、舌で弾き、遊ぶように転がして続ける。  
「ほんとっ、んあっだ、だめなのっ、むぅんっ、ねぇっ、おねがいっ、やめっ」  
なおも舐める。ベチョべチョしているのは唾液だけでは決してない。  
「ふぅんっ、ふぁっ、だめなのっ、だめっ、だめっ、だめっ」  
そしてトドメに淫核を歯で軽く噛んだ。  
「ぁああああーー!」  
ちょろちょろ……と水の滴る音がした。  
 
「ふぇぇぇ。だから、もう、やめてって、ふぐっ、いってるのにっ」  
高ぶって、また漏らしてしまった彼女は今度は泣きながら拗ね始めた。  
「まったく、ぐすっ、きみは、ほんとに、ずずっ、もう、きらいなんだからっ」  
そんな彼女を見て、なぜか異様に欲情してしまい、僕のソレは今までに無い位にいきり立った。  
さっき後始末をした時に見つけたモノをジーンズのポケットから取り、ソレに着けて彼女の秘部へと突き入れた。  
 
「ふああっ、ちょっ、はなし、きいてないでしょっ、ふぅっ」  
彼女の中へ入るのは二度目で、やはりというか、まだ動きにくい。  
「あんっ、もうすこし、ゆっくり、んぷっ!? んんー!」  
動きを緩めながら、彼女の唇を奪う。精液をもろに受けたそこは独特の臭いと味が残っている。  
彼女の口内を掃除するように、歯茎から歯の裏まで、まんべんなく舐めていく。  
舌と舌を絡ませながら、こんなの良く飲めたなぁと思っていると、さっきの彼女の言葉が頭によぎる。  
――けど、きみのだから、のめたよ。  
彼女の言った事を反芻して、一度自分のソレが大きく反応してしまった。  
「ぷふぁっ、いま、なかで、きみのが、びくんっ、て、んむぅっ」  
その事を指摘されて、なんだか恥ずかしくなり彼女の口を塞ぐ。  
「んふぅ、んむっ、ぺちゃ、ふぅっ、だめ、いきが、んっ、もたな」  
口を離し、今度は彼女の大きな胸を両手で揉む。パリパリした、角質のような物が少し付いている。  
ティッシュのみでは拭ききれなかったようだ。けれど、彼女の肌はすべすべとしていて、柔らかいけど弾力性もあって、すごく気持ちいい。  
「んっ、はぅっ、きもちいいよ。んあっ、」  
満足するまで揉んだ後、彼女の屹立した乳首をつまむ。  
「きゃっ、ふぅんっ、やっ! つっ、つまんじゃ」  
大きな乳房に反して小さいそれは感度が良いようで、軽く引っ張ってみたり、こねてみたり色々として、彼女の表情を楽しんだ。  
 
彼女の胸を弄りながら、腰を少しだけ早く動かす。  
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」  
彼女の膣内は、挿し込む時は侵入を拒むかのようにきついけれど、引き抜く時は纏わり付いて離さない。  
こんな所まで彼女は意地っ張りで、なんだか微笑ましい。  
「んっ、な、なによ、ひぃっ、いきなり、はぁっ、にやにやして」  
何でもないよと言いながら腰を彼女へ打ちつけていく。  
「ふぅんっ、ひぅっ、んあっ」  
そろそろ限界だ。まだ彼女の中にいたいのに、体の動きは速くなる。  
そしてもう一度彼女に口付ける。べちゃべちゃと音を立てながら口内を犯していく。  
彼女の舌は柔らかくて、彼女の半分はむにゅむにゅした柔らかい何かで出来ているのではないかと思った。  
「んんっ、あぷっ、えぅっ、れろっ、ぷはっ、も、もっと、」  
鼻で吸えば良いのに、息が続かなくなった彼女は一旦顔を離し一息呼吸をした後、今度は彼女が僕の口を貪る様に舌を入れていく。  
「キス、好きなの?」  
「ぅんっ、すきぃっ、んんっ、ぇろっ、ぴちゃっ、ちゅっ、ぁうっ、」  
口内を撫ぜていく彼女の舌の感触を味わいながら、絶頂が近い事を悟っていた。  
「ふぁっ、ふぁっ、いっちゃうの?」  
彼女の問いかけには答えず、胸を両手で握りながら、前後に大きく腰を動かし続ける。  
「はんっ、いって、っいいよっ、ふあっ、あああっ!」  
深く突き入れ、彼女の奥で僕は果てた。  
 
 
「ごめん!本当にっ、ごめんなさい!」  
「もう、いいよ、最初から、別に怒ってなどはいないのだし」  
俺達は後始末を終え、こたつに入っていた。彼女はみかんの白いすじを一つ一つ丁寧に取ってぱくぱくと食べている。  
俺はというと、こたつに手と頭をつけていた。  
前回は色々と流されてもしょうがない原因があったけれど、今回はただ欲望に身を任せてしまっただけなので本気で謝る。  
彼女はそう言いながら絶対に怒っているし。あー、そっぽ向かないでください。  
「こんな誤りは二度と起こさないから」  
誠心誠意をもって頭をヘコヘコ下げる。すると彼女はやっぱり怒っているようで、顔を赤くして、  
「あー、……誤りなら、もっと起こしてくれたって……構わないのだけど……私、頑張るから……」  
小声でぼそぼそと言った。小さい上に聞き取りづらく喋るものだから、  
『あやまり』『もっと』『してくれ』しか分からなくて、かなり怒ってるんじゃないかと思い、  
すみませんでした、もう勘弁してくださいなんて事を言いながら謝り続けたけど、  
謝罪の気持ちは届かなかったようで「もういいよ!まったく!」という具合に火に油を注いでしまったようで、とても話しかけられる空気ではなかった。  
 
 
みかんの房の中の小さな粒々を一つ一つ歯で潰していく。ぷちぷちと、酸味と甘味が口の中に広がる。  
最近のみかんは甘いだけで酸味が足りないと嘆いていた彼女の不満もこれなら解消されるだろう。  
みかんマジおいしい。口にすると苦味しかない皮でさえ、お風呂に入れてあったまればポカポカだし。みかんに死角は存在しないんじゃないだろうか。  
しかし、これは本当にうちから持ってきたみかんなのか?この、すっぱさと甘さの絶妙なバランス。こんなの家では食べた記憶がない。  
というか、そもそも、みかんを見た覚えがない。そういえば、菓子類は勿論の事、果物類まで一切見たことない。  
あれ、おかしいな、今朝は母親が菓子を食っているのを見たじゃないか、どういうことだ?  
……そんな、どうでもいい家の事情を考えてしまうくらい、しばらく無言でみかんと食べ続けた。  
 
「けど、その、……できたね。私達」  
沈黙を破って、彼女が体をもじもじさせながら言った。そうだねと返しつつみかんをほうばる。  
今回は、彼女の状態がいつもとは違ったのでその所為だろうと思った。  
――きっと、また拒絶反応を起こしてしまうだろうと。  
そういった事は、嬉しそうな彼女に向かっては、口に出来ないから。頭の中だけで留めておく。  
「……後で気付いたのだけど、君、こ、こんっ、こんどーむなんてモノを持って。……そういう事ちゃんと考えていてくれたんだね……」  
飛び出た単語に口の中のみかんを吹き出しそうになる。どこかおかしい気がしたけど……まぁいいか。  
「……別に私は、構わないのだけど、……君の気遣いは、すごく、うれしい、よ」  
最初の方はもごもごと不明瞭に言われ、何を発したのか分からなかった。  
いつもはハキハキと喋るのに今日の彼女はおかしいな。  
「なんだか暑いね。……あっ、窓開けてないじゃないか。まったく、空気も入れ替えておくべきだよ」  
彼女は窓を開けるためにこたつから出る。  
手にみかんの皮を持っているのは立ち上がったついでにゴミ箱に捨てるのだろう。効率のいい人だ。  
 
彼女は西側の、本棚とタンスに挟まれた小さな窓を開けた。気付けばもう夕方で、黄色い太陽が空を燈色に染めている。  
「やっぱり、暗くなってくると風が冷たいね。  
 ……まったく。君が動いてくれたら私はこたつでぬくぬくと出来たのに」  
不満を言う彼女の声。  
だけど。それとは反対に。  
夕日に逆光となって彼女の顔は見えないけれど、彼女が微笑んでいるように、思えた。  
だから、無意識のうちに、  
「綺麗だ」  
と、呟いてしまうのもしょうがない事で。  
「へ? ……きゃっ」  
そのまま彼女に抱きついてしまうのも、しょうがない事で。  
 
――彼女の方から、ぷしゃっという音が聞こえてきてしまったのも、しょうがない事だ。  
 
(内弁慶とみかんとかの汁/了)  
 
 
 
 
抱きつかれた彼女は「きゃっ」と声を上げて驚きの表情を作る。が、その顔は一瞬で見えなくなってしまう。  
彼女の手が、俺と彼女の間に入ったからだ。その手には、みかんの皮。その皮を彼女は指で折り曲げた。  
燈色の表皮を外に出されて歪んだみかんの皮はそこから汁を飛ばしていく。  
気付いた時には遅かった。放出された酸性の液体が目蓋を閉じる前に角膜へと辿り着く。  
……ムスカの気持ちが分かった。  
 
 
「まったく、君は油断も隙もない男だな」  
彼女はこたつに戻りみかんを食べているのを細目で見た。  
目が沁みるので洗面所に行って来ると告げると、  
「き、君が、悪いんだからなっ。はやく目を洗ってきなさい」  
心配そうな声で言われた。  
彼女の部屋を出て廊下の突き当たりの洗面所へと向かう。蛇口のハンドルをひねり水を出し顔を洗う。  
「はいどうぞ」  
と、タオルを差し出され、それで顔を拭かせてもらった。  
ありがとうと言って顔を上げると、そこに居たのはおばさんだった。てっきり彼女かと思ったんだけど。  
おばさんはいつもの様にニヤニヤしながら俺に話しかける。  
「お節介かと思ったんだけど、やっぱり使ったみたいね。置いておいて良かったわー」  
よく意味が分からなかったので詳細を訊くと、  
「だから、コンドむうっ」  
おばさんの口を慌てて手で塞いだ。何を言い出すんだあなたは。つーかアレ、あなたの仕業ですか。  
「はぁっ、はあっ、春ちゃんったら、大胆ね」  
うっとりした表情でそんな事をほざくおばさんを冷たい目で睨み付ける、  
「そうそう、あんまり激しくしちゃダメよ?」  
が、その一言に凍りつく。  
 
「ねー、なんか音がしたけど大丈、夫……」  
そこに彼女が部屋からやって来てしまった。何故かとろんとした目のおばさんが彼女に喋りかける。  
「あら六花ちゃん。春ちゃんにね、いじめられてたのぉ」  
猫撫で声というのだろうか、そんな声で喋るおばさん。  
「……ふーん、そういうこと。いいよ別に。そんなにお母さんが良いのなら、そこでいつまでも見つめ合ってなさい」  
「いやいや、確かにおばさんを見ていたけど、見つめ合っていたわけじゃ」  
「う、うるさい! ……君は言い訳なんてする子になってしまったのか。  
 まったく、小さな頃の素直な君はどこへ行ってしまったのだろうか。幼い君を知る近所のお姉さんとしては悲しい限りだよ」  
「お母さんは素直な六花ちゃんの行方を知りた」  
「う、うるさいなお母さんはっ! ちょっと黙っててよっ」  
 
へそを曲げた彼女の機嫌が直すのに、それから三日かかった。  
 
(本当に終わり)  
 

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