私は信じられない、信じたくない光景を目の当たりにしている。  
愛すべき私の恋人が、おぞましい者と一緒にいる。  
裸体で、抱き合っている。  
あり得ない。あってはならない。そんな光景が、今私の目の前で繰り広げられている。  
「うふふ……ほーら、気持ちいいんでしょ? いいのよ? 声を出しても」  
私をチラリとだけ見つめ、女は男に視線をすぐに戻した。  
意識している。間違いなく、私が見ているのを意識している。  
それを悟り、私は悔しさと悲しさで視界が滲みそうになる。  
男を絡めていた腕……ぬらぬらと光る二本の触手が、ぎゅっと男を抱きしめている。  
そして触手の先端は、肥大した男の物をうねうねと擦りあげている。  
嗚咽しそうになる。なんとおぞましく不快な光景だろうか。  
愛しい人は何故、こんなおぞましい者と抱き合えるのだろうか。  
それも、恍惚とした表情で……。  
「あが……き、きもち、いい……です……」  
締め付けられているためか、苦しげに、しかし間違いなく快楽の声が男からあがる。  
私は耳を塞ぎ目を閉じ、その場を立ち去りたかった。  
なのに、私はその場に立ち尽くしただその光景をじっと見つめていた。  
それは恐怖に身がすくんだためだろうか?  
いや、おそらくは嫉妬と失意、憎悪と意地がぐるぐると頭を巡り何かが麻痺しているためだろうか。  
こんな事を冷静に考えながら、しかし眼前の怪しげな痴態に気も狂わんばかりになっている。  
「いい顔だわ……もう逝きそうなの? ふふ、逝っていいのよ……そのまま、見られながら逝ってしまいなさい……」  
女は愉快げに口元をつり上げ、男に語りかけている。  
そして男は女に言われるまでもなく、快楽の頂点へと登り詰めようとしていた。  
「なんで……」  
私はこの場に来て、初めて声を出した。  
「なんで……こんな事するのよ」  
ようやく出た言葉がせき止めていた何かを打ち壊したのか、  
私は今まで押し黙っていたのが嘘であったかのように、次々と不快と不満を言葉にしていく。  
「なんで……ねえ、なんでよ! こんな、こんなこと、わざわざ私に見せつけるのよ!」  
瞳からあふれ出す涙を拭うことも忘れ、私は二人を睨み付けた。  
「どうしてよ……私のこと、愛してるって言ってくれたじゃない!」  
止まらないのは言葉や涙だけではなかった。私はいつの間にか、恋人の下へ歩み寄っていた。  
「ねえ、何とか言ってよ!」  
私の剣幕に驚いたのか、それとも私がここまで取り乱すのが予想外だったのか、  
恋人は一瞬きょとんと私を見つめていたが、すぐに慌て取り繕うように言葉を並べ始めた。  
 
「ちょっ、ちょっと待って。誤解よ。もぉ、そんなに怒らないで」  
誤解であることを証明するつもりなのか、恋人……彼女は締め付けていた触手を緩め、  
逝く手前まで登り詰めていた男をアッサリと床に落とした。  
「こいつ空き巣なの」  
彼女の弁明が始まった。私は怒りの形相のまま腕を組み、彼女の説明に耳を傾けている。  
「ほら、この部屋ってあなたが一人暮らしをしていることになってるじゃない?」  
彼女の言う通り、二人が住む愛の巣は、表向き私が一人で生活をしている事になっている。  
何故ならば、彼女は亜人。頭と胴は素敵な女性、腕と足は更に素敵な無数の触手という亜人。  
つまり人間ではない彼女に住民票などあるはずもなく、私が借りている部屋に隠れて同居している。  
「あなたが出かけたのを確かめてから、この部屋に入ってきたのよ。で、私はこの空き巣を懲らしめていたわけ」  
その証拠にと、彼女は男の物……本当は目を背けたいおぞましい物体を器用につまみ、  
根本をよく見てと私に促した。  
言われるままよく見てみると、汚物の根本は何重にも紐が結ばれていた。  
これでは男が逝くことなど出来ない、つまりお仕置きなのだと彼女は言った。  
「それならそれで、なんですぐに説明してくれないのよ! もう……あなたも結局男が良かったのかって、凄く悲しかったんだから……」  
私はまた、あふれ出るもので視界を滲ませていた。  
彼女は長い触手で私の頭を撫でながら、ごめんねごめんねと何度も謝罪してくれた。  
「あなたの男嫌いは判っていたつもりだったけど、お仕置きにはあなたに見られているというのもちょうど良いかなと思って……」  
「それにしたって、一言言ってくれれば……ううん、そもそもあんな汚らわしいのをあなたが抱いているのを見るのさえ我慢ならないんだから」  
私は彼女の胸元に顔を埋めるように抱きついた。彼女はまた私の頭を優しく撫でてくれた。  
「ごめんね……お詫びに、今日はいつも以上にたっぷりと……ね」  
言うやいなや、彼女のぬらぬらとした触手が衣服の下へと這いずり滑るように侵入し、  
胸元にある二つの突起、そして下半身にある一つの突起に触れてきた。  
「んっ……ホントに? もう、今日は5回くらいじゃ許してあげないんだから……」  
私は恋人の唇に自分の唇を重ね、そして舌を彼女の触手のようにぬるりと突入させる。  
二人の身体が色々な汁にまみれ溺れるまで、今日は抱き合おう。  
なんか、汚いのが床でもぞもぞ動いてなんか言ってるけど、私の耳には聞こえない。  
 

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