「シンペイ、朝だぞ。起きろ!」
微かに訛のある鈴を転がすような声が、進平にかけられる。が、その程度で退くほど睡魔は弱くはない。
「もう、日は昇っておるぞ!」
ガラガラガラ、ガタンガタン。ガラス窓と雨戸が開けられて朝日が刺し込む。
が、進平は眩しさに目をギュッと瞑り、布団を頭まで被ってしまう。
「ええい。起きろ。このネボスケが!」
バサッ。布団を引っぺがされて、進平はようやく目を開ける。
金色の朝日の中、ポニーテールの燃えるような赤髪に、滑らかな白磁のような肌、血色の瞳の美少女が仁王立ちに進平を見下ろしていた。
夜間の隠密行動にでも適したような黒い全身タイツの上から、進平の母の形見の飾り気のないエプロンを身に付けている。
「あ、おはよう。アンジェラ」
布団から起き上がり、眠い目をこすりこすり進平が挨拶する。
「ようやく起きたか。いい加減にせんと、学校に遅刻するぞ!」
アンジェラは、比喩ではなく牙の生えた口で進平を怒鳴りつける。
と、その目が見開かれ、白磁の頬が見る間に薔薇色に染まる。
「な、ななななななっ。朝っぱらから、何を考えておる」
アンジェラの視線は、進平の下半身に注がれていた。
「べ、別にやましい事はなくて……、こ、これは男の生理現象だよ」
背を向けたアンジェラに弁解の言葉を投げかける。
「いいから! とっとと着替えて顔を洗って、下に下りて来い。味噌汁が冷めてしまうぞ」
彼女はそう言いつつ、かつては進平の両親の部屋だった向いの自室に入る。
「朝日を浴びたので、気分が悪いので私は一度寝る。後で洗っておくから茶碗は流しにおいておけ」
「ふわぁ〜い」
進平の生返事を聞いて、ドアを閉める直前にアンジェラは振り向く。
「言っておくが、もし二度寝なんてしてみろ。ただじゃ済まさんからな」
「へ〜い」
彼はそう言いつつ、その場で着替えを始める。
「ば、馬鹿者! ドアくらい閉めろ! レディがいるのだぞ!」
バタン、と乱暴にドアを閉め、彼女は自室へと入った。