少年が一人、ベッドの上に横たわっている。彼は穏やかな顔で寝ていたが、やや血色が悪い。その脇には少女が二人、ひとりは不安げな表情、もうひとりは憮然とした表情で座っていた。
「全く、どうして道弥を倒れさせたりしたのよ」
髪の長い方の少女が咎めるように言う。
「私が倒れさせたんじゃないよ。道弥が勝手に倒れたんだよ」
とショートカットの少女が言い返す。
「またそんなこと言って。美代も道弥が体が弱いのはよく知ってるでしょう」
「ちょっと後ろから脅かしただけだもん。千代は過保護すぎるんだよ」
長髪の少女の名前は千代、ショートカットの少女の名前は美代といった。
二人の顔はとてもよく似ていた。彼女達は双子の姉妹で、姉が千代、妹が美代である。
そして現在、ベッドで眠っている少年、道弥が二人の弟だ。彼は元々貧血気味で、今日は美代に後ろから、わっと脅かされたのに驚いてくらりといってしまったのだった。
「過保護で結構よ。道弥のことが心配じゃないなら、私に任せて自分の部屋に行ってたら?」
と千代が言う。
「し、心配じゃないなんて言ってないじゃない。一応私のせいなんだからちゃんと見てないと気になるでしょ」
「あら、さっきは道弥が勝手に倒れたとか言ってたくせに」
「むーっ、いいでしょ別に! 千代こそ関係ないんだからどっか行ってなよ」
「関係ないことはないでしょ! 大体、美代に任せてたらちゃんと看病できるか怪しいものだわ」
「そんなことないもん!」
「あるわよ!」
二人の口げんかはヒートアップし、横で道弥が寝ていることを忘れて大きな声を出している。
「……ぅぅーん……」
とそのとき、道弥が小さくうめき声を上げた。千代と美代は、はっと彼に目を向け、慌てて口を閉じる。
「もう、大きな声を出さないで。道弥が起きちゃうでしょ」
「千代だってうるさくしてたじゃん」
千代の言葉に対し、美代も小声で言い返す。
「……ぅぅ、姉ちゃん……」
道弥が寝言を呟いた。それは小さな声だったが、二人の姉の耳はその言葉を聞き逃しはしなかった。静かに、だが素早い動作で道弥の側へ近づく。
「どうしたの? みーちゃん」
「なぁに? みーくん」
千代と美代は同時に道弥に声を掛けた。その言葉がぶつかり合い、二人はお互いを睨み付ける。
「さっきのは私を呼んだのよ」
と千代。
「私を呼んだんだもん」
と美代。
睨み合う二人の間で見えない火花が飛び散る。緊張に満ちた無言の空間を打ち破ったのはまたしても道弥の声だった。
「千代姉ちゃん……」
その言葉が聞こえた瞬間、千代の顔は輝き、美代は愕然とした表情を浮かべた。
「ほら、やっぱり道弥は私のことを呼んでいたのよ」
美代の顔が悔しそうに歪む。
「いいもん、別にっ!」
美代はそう言って部屋を出て行った。千代はやや心配げな顔でドアの方を見つめていたが、すぐに道弥に顔を向けた。
「一体どんな夢を見てるのかしら」
道弥が寝言で自分の名前を呼んでくれた。それだけで胸の奥をくすぐられるような甘酸っぱい気持ちが湧き上がってくる。美代の顔に自然と笑みが浮かんだ。そっと顔を近づけると、弟の頬は赤みがかり、顔色は先ほどより良くなっているように見受けられた。
ふと悪戯心が芽生え、指で彼のほっぺたを突いてみる。ふにっ、とまるでマシュマロのような感触が指先に伝わった。
女の子みたいに綺麗な肌……。千代の胸は高鳴り、頬が赤く染まっていった。
頬から指を滑らせ、ぷにぷにと唇を刺激する。軽く開いた道弥の唇を見て、千代は自分の体がかっと熱くなるのを感じた。そしてちらりと扉へ目をやり、ちゃんとと閉まっているのを確認すると、愛しい弟の体の上に自分の身体を重ねていった。
ぴちゃ……ぺちゃ……
道弥が目を覚ましたとき、耳慣れない音が聞こえていた。加えて口の中に何やら異物感がある。朦朧としたまま、それを舌で口外へ押し出そうとすると、ぐにゅり、と軟体動物のような感触が伝わった。
何だこれ――!? 道弥の意識が急速に覚醒する。彼がまず認識したのは、眼前いっぱいに広がった誰かの顔だった。耳元を長い髪の毛がくすぐっている。そして口の中のこの感覚は――!
「んんっ!」
それに思い至った瞬間、思わず道弥は声を上げていた。ようやく覆い被さっていた人物が顔を上げ、口が解放される。
「ぷはっ」
涎で口元はべとべとだ。
「ち、千代姉ちゃん?」
信じがたい思いで道弥が声を掛ける。
「ごめんね、みーちゃん。我慢できなくなっちゃった」
千代は妖しい手つきで髪をかき上げた。彼女の瞳は艶やかに光っている。
「ね、もう一回しよ」
「ちょ、姉ちゃ――」
有無を言わさず唇を塞ぐ。舌を入れられ歯茎から口蓋まで道弥の口内はくまなく蹂躙された。はね除けようにも腹の上に跨られていては思うように力が出せない。そもそも普段から道弥は姉よりも力が弱いのだ。
自分の舌で姉の舌を押し戻そうとしたが、逆に絡め取られてしまう。縦横無尽に動き回る舌先に翻弄されて、いつしか道弥は抵抗を忘れていった。
「ねぇ、気持ちいい?」
千代が尋ねると、道弥がこくりと頷く。美代は嬉しそうに顔をほころばせた。
「もっと気持ちいいことしてあげる」
彼女は道弥の着ているシャツのボタンに手を掛けた。道弥がぼぉっとしているうちに、あっと言う間に彼の上半身は裸にされてしまった。
綺麗な身体……、そう思いながら千代がじっと彼の裸体を見つめていると、道弥は恥ずかしそうに身をよじった。
「くぅーっ、可愛いわぁ」
がばっ、と千代が抱きついてくる。
「わ、わっ、ちょっと千代姉さ――んっ!」
彼の言葉は途中で嬌声に変わってしまった。千代が彼の乳首にむしゃぶりついたからだ。
「ちょっ、そん、な、とこっ」
こり、こり、ちゅぱ
舌で舐め上げ、歯でやさしく甘噛みし、口に含んで激しく吸い上げる。道弥の小さな乳首は竜巻に巻き込まれたかのように徹底的に蹂躙された。
「みーちゃんの乳首勃ってるよ」
千代が笑いながら軽く指を這わす。
「あんっ」
と道弥はまるで女の子のような声を上げてしまう。
「こっちも勃ってるね」
千代は後ろに手を伸ばし、道弥の股間を撫でた。
「あっ、そこは駄目っ」
そう言うものの、猫を思わせる敏捷さで千代が動き、瞬く間にズボンと下着をはぎ取られてしまった。
「大っきい」
恍惚とした目でペニスを見つめながら、千代はその手を幹に這わす。
「ね、姉ちゃん、駄目だって」
「千代って呼んで」
え、と道弥が聞き返す。
「千代って呼んでくれないと、みーちゃんのここ食べちゃうよ」
「ち、千代ねぇ」
「それじゃダーメ」
にんまりと笑って千代はペニスを口に含んだ。
ちゅぱ、ちゅぱ、れろっ
舌でペニスの先端を舐め回す。千代にとって初めての経験であるためその性戯は拙いものだったが、同様に経験のない道弥にとっては十分過ぎる刺激だった。
「うっ、出る、出ちゃうよっ」
千代は先を吸い上げながら、幹を手で包み上下にしごいた。
「ち、千代っ、千代っ! よ、呼んだからっ。あっ、もう出るっ――」
びゅく、びゅく
道弥は千代の口内に濃い性を放った。彼女は始めそれを飲み込もうとしたが、初心者にとっては荷が重く、大部分を口から零す結果となった。
「あぁん、もったいない。ごめんね、みーちゃん。全部飲めなくて」
はぁはぁ、と荒い息を吐きながら放心している道弥の上に再び千代がのしかかってきた。口元の白い精液を指先で拭いさる仕草が色っぽい。道弥はそんな彼女の様子をぼんやりと見つめていた。
「ねぇ、みーちゃん。最後までしちゃおっか」
と千代が尋ねる。
「え、最後って……」
「セックスしちゃおうかってこと」
「だ、駄目だよ」
道弥が慌てて否定すると、千代は不満げに口を尖らせた。
「どうして? 私はみーちゃんのことこんなに好きなのに」
「い、いや、僕も姉ちゃんのことは、好きだけど、それとこれとは――」
そもそもなんでこんなことになってるんだ、と道弥は心の中で嘆息する。
「ほんと? 嬉しいっ」
“好き”というその一語だけに反応して千代が抱きついてくる。
「ちょっと、姉ちゃん。僕たち兄弟だし」
「道弥まだ戸籍とか見たことないでしょ。DNA鑑定とかもやったことないし、ひょっとしたら血が繋がってないかもしれないじゃない」
いやそれはない、と道弥は思う。姉のあまりの強引さに、彼は冷静な思考を取り戻しつつあった。
その時、
「千代ー、道弥起きたー? もうすぐご飯できるわよー」
階下から母親の声が響いてきた。
ふぅっ、と千代が溜息を吐く。
「残念。今日はここまでね」
「今日は、って……」
千代は道弥の頬にそっと口づけをすると、唖然としたままの道弥を残して颯爽と部屋を出て行った。
――千代姉ちゃんはもっとおしとやかな人だと思ってたのに。これから僕、どうなっちゃうんだろう。
二人の姉に愛される少年はベッドの上で悶々と悩み続けるのであった。