【A SLIGHT DISPUTE IN MARKET epilogue】  
 
 
 
「坊ちゃま……」  
ティムが振り向くと、ガス灯のうす青い明かりに照らされたゆかりが、微笑んで立っていた。  
 
犯人二人は、マーロットたちと一緒に住むことになった。  
するとジョンは「初仕事だ」と言って、二人分の家具を運ばせようと、店まで行ってしまった。  
ティムとゆかりは、先に家まで帰っていいと言われたのだった。  
 
「ユカリ、ねぇ、これで、よかったんだよね」  
「ええ……とても、立派でした」  
「そうかい、うん、まあ、よかったよ、あのふたりも、パパにゆるしてもらえて」  
「ええ、そうですね……」  
 
不意に、背後から抱きすくめられた。  
「すごく、御立派、でした」  
気温がすっかり落ちている分、お互いのあたたかな体温がよく伝わる。  
ゆかりはおなかが、ティムは背中が、とても暖かい。  
ティムは自分の前面に重ねられたゆかりの両手に自分の手を重ね、頭を後ろに預けて、  
下からゆかりの顔を覗き込んだ。  
 
「ふふ……あったかいね、ユカリは」  
そう言って愛らしく笑った。それを見てゆかりも目を細め、微笑んだ。  
静かな寒空の下で、ふたりだけがこの世界の生き物であるかのように、あたたかかった。  
 
 
自宅の鍵を自分が持っていると気付いたジョンは慌てて家に戻った。  
隣人のベルが預かってくれていたようで、ベル宅に招きいれられると、そこには  
仲良く丸まって眠る二人の姿があった。  
こうしてみると二人ともまだまだ子供だ。  
 
「今日は二人ともよく頑張ったもんなあ……お疲れ様」  
といって、ジョンは二人のひたいにそっと唇をあてた。  
ぴくり、とティムのまぶたが動いた。  
「まったく……お前の成長には、驚かされたよ」  
 
ジョンは、父としてこの上なく幸せな気持ちとティムとゆかりを抱きながら、  
自分の家に帰った。  
父としての本質ってのは、子供の成長に驚かされるものかもしれんな――そんなことを思いながら、  
ジョンは短い眠りに落ちた。  
ロンドンの夜は意外に静かだ――。  
 
 
 
 
 
 
 

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