☆「科学の進歩は必ずしも人を幸せにするとは限らないって事だな」
主「そうかなあ。まあ☆君の言うことも一理あるけどね。なんか違うと――あ、百合さーん」
メイドを呼び止める主人。すこし困った表情をしながら答えるのは百合と呼ばれたメイド。
百「なんでございましょう、旦那様」
主「お茶のおかわりを持ってきて貰えますか?」
百「かしこまりました。――それと、申し上げにくいのですが」
主「なんですか?」
百「百合、と呼び捨てにしてください、とお願い申し上げた筈ですが。
それと、命令する際には「持ってきなさい」と言って下すって構いません」
整った顔に固い表情を浮かべたまま、百合はそう言った。
主「百合さんは固いなあ」
百「それが主従というものです」
主「・・・あ、そうだ。百合さん、ちょっと手を貸してくれる?」
百「なんでしょう? こうですか?」
いぶかしげに両手を差し出す百合。
それをぎゅ、っと両手で握る主人。
途端に百合の顔が真っ赤になる。
百「なッ、なッ、な、ナニを、な、なさるのですかっ!」
百合はどもりながら目を白黒させて叫ぶ。でも、どういうわけか
その手を振り払ったりはしない。どこかしら嬉しそうな色がその表情の中にはある。
主「☆君、百合さんのこの手なんだけどね、先月まではあかぎれだらけだったんだ」
☆「ほう」
主「でも、今はこんなにスベスベなんだよね」
☆「どうしてだい?」
主「この家に給湯器を入れたんだよ。瓦斯を燃やしてお湯を作るカラクリさ」
☆「冬場の水仕事はきついからねえ」
主「女の子の手がこんなふうにスベスベにできるなら」
そう言って百合の手を頬に当てる主人。百合は上気した顔で自分の手に頬ずりしている
主人を見つめている。
主「どんな科学の害毒だって我慢できると思うんだ、僕は」
・・・・・・メイドさんを蕩かしたまま終わる。