なあ由佳里。オレのこと忘れるなよ。  
 由佳里の両親が離婚すると聞いたのは、一週間程前のことだった。詳しい原  
因を、オレの親は教えてくれない。きっと不倫なのだろう。中学生のオレに男  
女の事情は悪影響と考えたのだろう。  
「涼太。あたしお母さんについて行くことにしたから、もうすぐサヨナラなん  
だ……ごめん」  
 オレの勝手な推測だが、父親に負い目があったのだろう。だから母に決めた  
のだ。そんな父親に引き取られるのは、嫌に決まっている。  
「謝るなよ。引越し先って遠いのか?」  
「お母さんの実家って言ってたから、ここからじゃ簡単には行けない場所。そ  
れほど田舎でもないんだけどね」  
 オレと由佳里は幼稚園の頃からの付き合いで、その当時は「結婚する」とか  
行っていたらしい。  
 でもそんなのは、子供の無知故の言動で。  
 
 中学に入ってからだろうか。自覚はないが思春期に突入して、周囲の目も気  
になり、自然と敬遠しあうようになった。  
 幼い男子女子がそのうち離れていく。当然の成長かもしれない。  
 互いの性別の違いを意識するのは決して悪くない。むしろある方が正しい。  
「最近一緒に話したこと、ないよな」  
「そうだね……涼太は野球バカだし。あたしもあたしで好きな人できたから。  
この年になってベタベタしてるのも変でしょ」  
 幼馴染みの限界を痛感した。漫画では片方もしくは双方が想い合い、いつし  
か結ばれていく物語が一般的だ。  
 でもオレ達の関係は、完全に区別されたもの。  
「……お前、可愛くなったよな」  
「何、突然。変な事言わないでよ」  
「オレよりはずっと大人っぽくなって、部活とか遊びばっかやってるオレとは  
違うんだなって」  
 女子は男子より早く成長する。よく言われることだ。  
 確かに女子の方が肉体的にも精神的にも、形成が早熟傾向だと思う。  
「あたしは……涼太が野球やってるのって、なんかイイと思ってる。一番活き  
活きて言うか、楽しそうだった」  
 オレのこと、見ていたんだな。  
 オレは無意識に由佳里を見ていて、由佳里もオレを見ていてくれた。  
「もう会えなくなるから言うけど、好きだよ。でももう……会えないんだね」  
 もう、会えない。  
「オレだって同じだよ。好きだから、余計に会えなくなるのが寂しい」  
 もう、会えない。  
「最後くらい、幼馴染みはやめて、男と女になりたい……」  
 もう会えないから、想い出を刻み付けよう。絶対に消えない想い出を。  
 由佳里の全てを知って、それを心に焼き付けたい。  
「あたしの……あげる。もらって欲しい」  
「これが終わったら幼馴染みに戻る。約束だぞ」  
 もし行為が終わって、オレが由佳里を忘れられなくなっても、絶対に会いに  
行ってはいけない。お互い、大人にならなければいけない。  
 反対に由佳里が訪ねて来ても、どうにかして身を隠そう。  
 何故こんなに割り切れるのかわからないし、本当に割り切れるかもわからな  
い。でも今は由佳里が欲しい。  
 
由佳里の家にはしばらく誰も帰ってこない。母親は手続きやらで多忙だと聞  
いた。  
 ベッドに由佳里を寝かした。見慣れてしまっていたのか、由佳里の色香を意  
識したことはない。魅力的な身体はオレの欲望を駆りたてた。  
「あんまり堅くなるなよ。力抜いて」  
「う、うん……優しくしてよ……」  
 優しくして。ありきたりな言葉なのに異常なほど響く言葉。  
「できるだけ苦しい思いはさせないように頑張るよ。だから、その、任せろ」  
 オレに安心して任せられる知識も技術もない。言動から察すれば由佳里も経  
験はないはずだ。処女喪失が苦痛を伴うのは知っていた。  
「由佳里」  
 唇を重ねた。全てが未知の体験。キスですら酔ってしまいそうだった。  
 短く、何度も口付けをした。  
 しばらくすると、由佳里が舌を絡ませてきた。申し訳ない事をしたのかもし  
れない。オレが手を引いてあげるのが最善だろう。  
 由佳里を抱き締めた。加減がわからなくて、少し不安だった。  
 抱擁すると由佳里の柔らかい感触が伝わってきた。甘い香りが気持ちを高ぶ  
らせる。  
「んっん……はぁ……ふぅ……ううん……ん……」  
 口内で唾液が混ざり合い官能的な音を立てる。隙間から由佳里の喘ぎが漏れて  
くる。  
 背中に合った右手を胸に移動させた。小ぶりだが年相応なのだろう。これく  
らいの大きさがむしろ可愛らしい。  
「やっ……恥ずかしい……だめ、だめ、ひゃっ」  
 唇が離れてしまい名残惜しいオレは、その舌を首筋に這わせた。声が跳ねた  
のはその所為だ。  
「首が感じるんだな。すげー可愛い」  
「やだぁ……んっ……あん……やっ」  
 歯を立てたり吸ってみたり、何か刺激を加えると正直に反応してくれる。  
 他の女も同じだろうか。頭に浮かんだ考えはすぐに消した。行為と途中で他  
の女の身体について考えるのは、由佳里に失礼だ。  
 柔らかい胸に直接触れたい。その欲求は即座に行動に出た。服の下に手を忍  
ばせ、腹を撫でながら上に手を滑らせる。  
「すべすべしてて気持ち良いな、由佳里の身体」  
「く、くすぐったいってば……やぁっ。えっと、前から外して……」  
「前? あ、そういうことな。わかった」  
 あまり女性の下着の構造に詳しくなく、指示の意味すら理解に時間を要する。  
しかし前後どちらが普通なのだろう。唯一残った疑問だった。  
 抱き合っているので外しづらかったが、試行錯誤した結果解除に成功した。  
 邪魔のなくなった乳房の感触を味わいながら可能な限り優しく愛撫する。た  
だ柔らかいだけでなく、指を弾くような弾力も持ち合わせている。  
 由佳里の吐息が熱い。胸への愛撫は強くないものの、感情的な刺激は十分に  
与えられるようだ。  
「由佳里、滅茶苦茶可愛い。顔真っ赤だぞ」  
「だって涼太がいっぱい弄るからぁ……変になっちゃうのぉ……」  
 気だるいと言うよりは甘い吐息混じりの声が色っぽく、瞳の潤みは純粋な輝  
きを発している。  
 
「あっちも欲しい……すごく熱くなっちゃってる」  
「わかった。ちょっと足広げてくれ」  
 無言で頷いた由佳里は、おずおずと僅かに股に隙間を作った。  
 乳房を撫ででいた右手を、由佳里の核心に近付けていった。  
 身体を強張らせながら足を閉じなかった由佳里に、密かに感謝した。実は足  
を閉ざしてしまうのではと予想していた。  
 都合良く由佳里はスカートで、プリーツスカートなのも手伝い、窮屈な思い  
はせずに、秘部に到達した。  
「これって、濡れてるんだよな。下着越しでもわかるくらいだ」  
「やだ、こんなになってる……涼太。エッチなコだって思った?」  
 淫らな女だと思われるのは嫌に違いない。しかし気の利いた返答が出てこな  
い。  
「いや、オレなんかでも感じてくれたって考えると、少し嬉しい」  
 もちろんこの感想は正直なものだった。由佳里が恥ずかしそうに微笑む。  
 オレは陰部への愛撫を開始した。ショーツ越しに這わせてみると、由佳里は  
体を縮めてしまった。  
 恥部を触られる羞恥に耐えている様子が性欲をそそる。  
 更なる快感を与えるべく、大体の目星を付けて敏感な部分を擦る。  
「―――はぅん!い、あっ……気持ちいっ……あ……」  
 反応が強くなる箇所を把握した。そこを集中的に攻める。  
「あ、あ……やだ、んんっ……そこは、だめ、だめだよ……」  
 理性が欲望を止められない。抵抗する間を与えず、乱れた由佳里の下半身を  
露にした。  
――――優しくするって決めただろ。  
 呼びかける声がした。欲望が爆発しかけた刹那、制止の声がした。  
「急に脱がしてごめん。びっくりしたよな。もう大丈夫だからな」  
「う、うん。ちょっと驚いたけど、続けて」  
 指がゆっくりと入っていく。押し戻されたり飲みこまれたり、そこは複雑な  
動きをする。  
 破瓜の心配を考慮し、ある程度指を侵入させて止めた。どの辺りに処女膜が  
あるかは検討が付かないので、慎重にならざるを得ない。  
「痛くないか?」  
「痛くないよ。恥ずかしいけど……その、むしろ……気持ち……」  
 その先は言ってくれない。快楽を自覚することは嫌なのだろう。  
 静かに指を動かす。卑猥な音を立てて由佳里のなかは溶けていく。  
「や……はんっ……あ、だめ……あ……そこは、だめっ」  
「どこがイイんだよ。ここら辺か?」  
「あん、だめ、そこ、あ、だめ、あ、あ、あ」  
 溢れんばかりの体液で滑らかに動かせるので、つい調子に乗って激しく攻め  
てしまった。だが乱れていく由佳里を見たい欲は止まるところを知らない。  
 オレの顔は由佳里の股にあり、舌は陰部を執拗に舐めていた。  
「ふぁ、だめ、りょう、た、だめ、あ、りょうた!」  
 最も感度の良い部分を吸ったり舌で転がして、快楽を与え続ける。  
 由佳里の絶頂はすぐそこまで来ていた。  
「――――っ!」  
 幾度か体を痙攣させて由佳里は果てた。  
 
「由佳里。大丈夫か」  
 不規則な呼吸はなかなか落ち着かず、頷いてオレの呼びかけに応答するのも  
辛そうに見える。  
「続けてよ……途中で止めるなんてヤダから……」  
 由佳里の瞳には意志が灯っている。覚悟はできているようだ。  
「わかった。痛いと思うけど我慢しろよ」  
 ズボンを下ろすと陰茎が膨らんでいるのがよくわかる。その欲望を覆う布を  
下ろせば性器が外気に晒される。  
 多分オレのに怯えている。それでも由佳里は制止しようとはしない。  
 肉棒をあてがうと恐怖が増したのか、由佳里は本能的に足を閉じた。  
 抵抗は許さない。手で閉じるのを防いだ。  
「大丈夫だから、オレに全部預けてくれ」  
「……うん」  
 ガラス細工に触れるかのように慎重に、由佳里の膣へ押し込んでいく。奥へ  
進むと痛みが走ったのか、オレの背中に爪が食い込んだ。  
 由佳里は呻きながら破瓜に耐えている。本当なら今すぐにでも止めたい。止  
めれば由佳里を裏切ることになる。そう思うと続行しかない。  
「くぅ……りょ、う……た……!」  
 残り僅かな時間で由佳里と完全に繋がる。きっと向こうも同じ気持ちのはず。  
 微塵にも快感は与えられないとわかっていながら、終わりへと進む。  
「……全部入った、はず。頑張ったな」  
「ホントに? ……すごく嬉しい」  
――――そこから腰を動かしたりはせず、行為を終えた。  
 目的は肉欲を満たすことではなく、深く刻まれた何かを残す為だったから。  
 一生消えない痕を由佳里と分かち合い、一生消えない記憶を分かち合う。そ  
れだけで良かった。  
 

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