女は網を背負い、村の通りを歩いていた。外海が時化ているせいか、漁師たちのほとんど  
が昼間から酒屋で飲んだくれている。女はそういう輩には目もくれず、港を目指した。漁師  
のくせに、昼間から酒をかっ食らい、赤ら顔でいるとは何事だ。口にこそ出さないが、女は  
内心でそう思っている。  
 
「千恵美さん。どこに行くんです?まさか、海?」  
顔見知りの漁師見習いの小僧が、女の姿を見て目を丸くしている。女はこの小僧をしばらく  
預かり、漁に連れて行った事があった。まだ可愛い十五やそこらの、ほんの子供である。  
「私が網を担いで行く所は、海しかないさ」  
女は名前を呼ばれた事が恥ずかしかった。千恵美という名は、漁師には似つかわしくない。  
いっそ、男らしい名が欲しい。女はずっと、そう思ってきた。  
 
「網、俺が持ちます」  
「いいよ。お前には、お前の仕事があるだろう」  
「実は今日、親方が居ないんで、俺、暇なんです。お供しますよ」  
小僧は嬉しそうに女の後をついていく。まるで金魚の糞だ。女は苦笑いを隠さなかった。  
「最近、お呼びがかかりませんね。俺、千恵美さんと海に出たいんだけど」  
「この頃の私は、ツキに見放されている。もう十日も(釣果が)上がらないんだ。助手を頼む  
ほど、忙しくない」  
天候不順で外海(そとうみ)だけでなく、内海(うちうみ)でも魚が取れない事は、良くある。  
そんな時は、海に出てはいけない。しかし、女は網を担いで、海に出る事にした。陸でじっと  
しているより、船に揺られている方が良い。それが、自分らしいと思ったからだ。  
 
港に着いた女は、小僧の手助けでもやいであった舟を出した。舟は大波でも被れば、一  
瞬で海の藻屑になりそうな小舟である。小僧は舟を押す女の尻を見ていた。むっちりと  
脂の乗った、すばらしい尻だった。  
 
「私を抱きたいか?」  
女は振り向きもせず、そう言った。小僧は顔を赤らめ、静かにうつむいた。  
「大物が上がったら、抱かれてやろう。それまで、待ってると良い」  
舟は帆に風をため、海の上を滑り出す。外海は荒れているのに、内海は凪いでいる。こ  
んな時は、何かが起こりやすい。女は怪しい予感に身震いしながら、ぽつぽつと網を落と  
していった。  
 
海に出て一時間も経った頃、網に手ごたえがあった。女は漁師仕事で傷まみれの手で  
網を手繰ってみる。  
「雑魚か」  
釣果は小魚が二匹。食せるが外道で、市場でも厄介者扱いの魚だった。女は網から小  
魚を外し、魚篭に放り込んだ。夕飯にでもするか。そんな事を考えつつ、残りの網を舟に  
引き上げようとした。と、その時である。  
「!」  
ぐっと、凄まじい手ごたえを、女は得た。網はまだそのほとんどが海中で、先の方は見え  
ない。さては大物かと、女は網を舟の帆に縛り付け、臨戦態勢を整えた。  
 
「来たな」  
網を食い破られぬよう、舟の先を風下に向ける。そうして獲物の動きに合わせて、操船する。  
相手が大物の時は、まず体力を奪う必要があるため、女は慎重に舵を取った。  
「これは、もしかしたら・・・抱かれてやらないと、いけないかな」  
女は小僧の事を思い出していた。こんな時に何を思うのかと自嘲するが、自然と頭に浮かぶ  
のでは仕方がないと、自分に言い聞かせる。  
 
「あの小僧・・・女を知ってる風には見えないが。私が、初めての女になるのか」  
女は今年、二十七歳。親から譲り受けたこの舟に乗って、一端の漁師にはなったが、やはり  
時々、女の部分が強く出る。化粧なんぞした事もないが、顔のつくりは悪くない。筋肉質な体  
だが、出るところはしっかりと出ている。女を知らぬ小僧を、喜ばせてやる事ぐらいは出来る  
だろう。そう思うと、しっとりと下着が湿り気を帯びてくるのであった。  
 
獲物の手応えを感じてから一時間ほどすると、舟の速度が落ちてきた。網はまだ半分以上、  
海の中にあるが、そろそろ上げても良かろうと、女は仕掛けていった。  
「こんな内海で大物か。私にもようやくツキが回ってきたかな。ふふふ・・・」  
網はずっしりと重く、中々、上がってこない。女は獲物が暴れぬよう、少しずつ、少しずつ網を  
手繰った。すると──  
「うッ?な、なんだ?」  
海中から水しぶきを上げて、『それ』はやって来た。赤黒い化け物。姿を現した獲物を見て、女  
は思わず身を仰け反らせていた。  
 
「大蛸か!ちッ、厄介なモンを引っ掛けちまった」  
なんと網にかかったのは、体長が三メートルもあろうかという大きな蛸。やはりついてない  
と、女は舌打ちをする。この小舟では、こんな大物を上げる事はかなわない。女の脳裏か  
ら、小僧の顔が消え去った。  
 
「網を捨てなきゃならんか」  
女はナイフを手にして、網を切りにかかった。蛸は足を網に絡ませており、少々、いなしたく  
らいじゃとても逃げてはくれそうにない。このままでは舟が沈むのは時間の問題だ。そうして  
女がナイフを振りかざした瞬間、蛸の足がびゅうと風を切った。  
「あうッ!」  
ビシン!と、肉を打つ音がして、女は体を九の字に折り曲げた。蛸の足で、背を打たれたのだ。  
その衝撃でナイフは空に舞い、海の中へ落ちていく。  
 
「く、くくッ・・・なんてこった」  
ジーンと体が痺れている。女は舟板の上に這い蹲った。  
「やばいな・・・」  
女の目の前に、数本の蛸の足が現れた。舟を包むように、前後左右からゆっくりと迫ってくる。  
舟を海中に引きずり込む気なのだ。  
「私の運命もここまでか・・・しかし」  
どうせ死ぬのであれば、漁師らしく死にたい。女は切ろうとしていた網を再び手繰り、力を込め  
た。  
 
「ただでは死なないよ」  
女はジーパンを脱ぎ、それで空の油缶を繋いで、己が体に結んだ。万が一、海に放り出  
されても、これで浮いていられる。今の気温は十五度前後で、多少、軽装になっても寒  
さによる体力の消失は考えなくても良い。そうしておいて、女は網を手繰る。それは、己の  
命を手繰り寄せるかのようであった。  
 
大蛸はまだ海中に潜んでいる。しかし、八本の足は舟に抱きつくような形で、女を虎視眈々  
と狙っていた。状況を一見すると、女の方が圧倒的に不利な形だった。  
「うッ!」  
不意に女の体が戦慄いた。船尾の辺りから伸びた蛸の足が、女の尻をなぞっている。その  
動きは、まるで弱きものを嬲るような動きだった。  
 
「く、くそ!離れろ、この・・・」  
女は尻をなぞる足に蹴りをくれたが、蛸にしてみればそれは、屁ほども感じない攻撃にしか  
ならない。すると蛸の足は図に乗って、どんどんと女の尻に迫ってくるのだ。  
「やめろ、この畜生!う、むむ・・・」  
蛸の足がパンティの中へ入ってきた。女は目を閉じ、歯噛みする。  
「ああ・・・やめるんだ・・ふうッ・・・」  
足が尻の割れ目、それも小さなすぼまりを狙ってきた。そこが人間の中で、もっとも匂う場所  
である事を知っているのか、蛸は足をくねらせ、女の尻穴めがけてふしだらな動きをする。  
 
「入ってくる・・・駄目・・・」  
無数の吸盤を持った足が尻穴を遡ってくると、女は腰砕けになってしまった。足は細い  
先端から次第に太くなり、女の尻穴は今、直径三センチくらいまで拡張されている。ぬ  
めりのせいか、蛸の足はずんずんと中を侵してくるので、女は這い蹲ったまま、尻だけ  
を高く上げて、いやいやと振った。  
 
「ああ、こんな事って・・・」  
女の部分が強く甦ってくる。漁師という荒くれ仕事をしているが、異性との経験が無い訳  
ではない。敏感な部分を悪戯されれば、やはり感じてしまうのだ。女はいっそ、これがあ  
の小僧の男根であればと、尻穴に蛸の足を呑み込みながら、切なげに喘ぐ。  
「いやあ・・・お尻が壊れちゃう」  
蛸の足が激しく尻穴を出入りし始めた。気がつくと、女は尻の中で足が何か粘っこい物を  
出している事に気がついた。  
 
「これは・・・精液だ。私、今・・・蛸の精液を出されてるんだ」  
蛸の雄は雌の肛門に精子を放ち、子孫を残す。女は今、大蛸に我が子を産めと強要され  
ているのだ。  
「ああッ!す、凄く・・・一杯、出てる・・・いやあ・・・こんなの・・」  
女は息も絶え絶えに身悶えた。人として、異種の畜生に子種を捻じ込まれる。これほどの  
辱めが世にあろうかと、己の身の悲運を嘆くのである。しかし、それと同時に起こる、被虐  
の愉悦を女は感じていた。  
 
一瞬のような、永遠のような時間が過ぎていく。蛸の足はまだ、女の尻の穴を犯し足らぬ  
のか、出入りを繰り返していた。そして女は自ら尻の割れ目を目一杯開き、蛸を受け入れ  
ていた。  
「すッ、凄いッ!ああ・・・」  
今まで禁欲的な生活をしてきた分、女の情欲は激しく燃え盛る。気がつけば女は、最も敏  
感な肉真珠の皮を剥き、指で激しく啄ばんでいた・・・  
 
 
夕刻。海は凪いでいた。外海の時化もなりを潜め、明日は漁に出られそうだと漁師たちは  
酒を早めに切り上げ、酒場を出て行った。  
「千恵美さん、早く帰って来ないかな」  
港には女の帰りを待つ小僧が居る。彼はあれからずっと、ここに居た。ここで待っていれば、  
笑顔の女に出会えそうだと思っている。たとえ、大物が上がらなくても、だ。  
 
「あれは・・・」  
小僧の目に舟の帆が映る。今日、海に出たのはあの女だけだ。小僧は着ているシャツを脱  
ぎ、それを旗に見立てて大げさに振った。  
「千恵美さーん!」  
叫ぶと、舟の上に居る女が手を振った。まだ顔は見えないが、手ぶらではないらしい。小僧  
は女の仕草で、それが分かった。  
 
「待ってたのか、馬鹿だな」  
女は開口一番、そう言った。もっとも、目は笑っている。馬鹿だと言いながら、その実、待  
っていて貰った事が、嬉しいようだった。  
「釣果は?」  
小僧が尋ねると、女は親指で舟を指差した。しかし、獲物らしき物は見当たらない。  
 
「ボウズだったの?」  
「良く見るんだ」  
女は船尾の方に目を遣った。小僧もつられて視線を重ねると、そこには大きな蛸の足があ  
った。  
「スゲエ!あれ、蛸?あんな大きな足、見た事ないよ!」  
「陸に揚げるぞ、手伝ってくれ」  
女の口調は先輩漁師のそれになっていた。どうもこの小僧の前では、そんな風に振舞って  
しまう癖がある。女は心の中で自分を笑った。  
 
「うわあ、化け物みたいに大きな蛸だな。これ、美味しいのかな?」  
「味は分からないが、市場に持っていけばかなりの値で引き取ってもらえる。まだ、生きて  
るから、物好きが大枚はたいて、買っていくかもしれん」  
女は小僧と共に大蛸を引き揚げた。さすがに重い。百キロはありそうだった。  
「俺、組合に行って、荷車借りてくるよ」  
「世話をかけるな。頼むよ」  
女は小僧を見送ってから、大蛸を見た。さすがに化け物じみた蛸でも、陸に揚がってしまえ  
ば大人しいものである。  
 
「疲れた」  
女は大蛸の横に座り込んだ。犯された尻穴が疼くが、疲労感がそれを和らげていた。  
「一時はどうなる事かと思ったが」  
命すら危ぶまれた大蛸との死闘に、女は勝っていた。尻穴は激しく犯されたものの、こう  
やって港に帰って来る事が出来ていれば、それは女の勝利なのである。  
 
「おかげで、あの小僧に抱かれてやらなきゃならなくなったな。まあ、いいけど」  
言い訳がましく女は呟いた。きっと、今夜にでもあの小僧はお祝いなどと理由をつけて、家  
へやって来るに違いない。その時は軽く酒でも煽って、小僧に抱かれてやろう。女は大蛸  
を市場に放り込んだら、商店で新しい下着と化粧品を買おうと思った。柄では無いかもしれ  
ないが、小僧はきっと喜んでくれるだろう。そう思うと、何だか楽しくなってくる。  
 
「どれ、あいつが戻ってくるまで、少し眠るかな」  
女は大蛸の隣で横になった。海風が心地よくて、すぐさま眠りに入った。女は今夜、千恵美  
と呼ばれて、小僧に激しく抱かれる夢を見ていた。  
 
おしまい  
 

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