「そういえば、今日が何の日か知ってるか?」
「え、も、もちろん知ってるわよ。ばかにしてるのっ!? 確認の為に聞くけど、何かあるの?」
「オレンジデーっつって、二人の愛情を確かめて深め合う日らしい」
「……日本の企業も色々と考え付くね」
「……そうだな。その言い草からして、やっぱりお前知らなかったろ」
「そ、そんな事は、無っ、びひー。ぶふー」
とうでー:君への扉
「お前、大丈夫か?」
「花粉症だから、この時期はしょうがないのよ」
「けど、今年は飛散量が少ないって話だし、ちょっとは楽になって良かったな」
「そうね。前の年よりつらくないかも。けど、あんたが窓なんて開けてたせいで私の鼻の粘膜はべちゃべちゃよ」
「まぁ、俺は花粉症じゃねーから、よく分かんないんだけどさ」
「分からないけど? カンケー無いって事かっ、つーかねっ、口ごもるなっ、言いたい事はさっさと、くっしゅっ」
「うおっ! ちょ、きたね、粘性の何かが俺の顔に!」
「あ、ごめ、いっくちょっ」
「ぬあっ! 顔面が汚染されてく! おま、ちょっ、おっ、おさえろ」
「ごめ、けど、鼻がむずむずして、くちゅっ」
「や、やめ、ほんと俺が悪かったから、ってちげー、俺何もわるくないよっ!」
「窓開けてたでしょっ、てか、喋るなっ、動くなっ、空気が動いて花粉が、ひ、ひっちゅくっ」
「……」
「そう、ムスっとしないで。ね? 機嫌直そうよ」
「お前さ、ほんとに、ひどいぞ」
「だからごめんなさいって。あの時ティシューがなかったから」
「ティシューってお前はアレか、英国貴族か。 お前な、手で押さえるとか、なんか他にあるだろ」
「けど、そんな事考えてる余裕なんてなかったのよっ! そんくらい察しなさいよ。大体なんで窓全開なのよ。外の空気が黄色いのが見えない?」
「開き直りか。……もういいよ、お前なんてコレでもつけて一生花粉と戦ってろよ!」
「なによその言い方っ、て……何これ? ……りっ、たい、マスク?」
「……いつも春は辛そうだから、俺どんくらい辛いのかは分からんけど、ちょっと位は効果あるかなって思って」
「あんたも、けっこう、ぶきっちょじゃない」
「だ、だまれ」
「ふふふ…………ありがと」
……あいつの住むマンションに行ったトコまでは良かったんだけどな。
どうしよう、あいつの部屋に入れない。このドアを開けるだけなのに。くそー何だコレは。顔が熱い。
今年こそと思っても結局大した事も起こらず、毎年ただ騒いで寝てるだけで、今日もどうせダメなんだろうけど、やっぱり期待しちゃうものだ。
だから、あいつと過ごすこの日は毎年ダイエットして(『すりむびゅーてぃー』が好きなんだ、あいつは)、……しょ、勝負下着も、付けていったり、する。
あいつは私のことどう思ってんのかな? ……やっぱり、なんとも思ってないのかな? けど、家に入れてくれるんだから嫌われてはないよね?
……だめだ!ネガティブな思考は良くない! それに、暗い顔はあいつに見せられないし。
すーはー。一回深呼吸して、高校時代からの親友 (そういえばあの子には最近初めての彼氏が出来て、ぶつぶつ不満を言っていたけど幸せそうだった) の言葉を思い出す。
大丈夫、きっと、うまくいく。そう一言呟いて、ドアノブを回し、扉を開いた。
――――君へと続く扉を。