春だよ。
なんかモモの足の裏みたいな色したお花がいっぱいさいてるよ。
きれい。モモの足の裏の。きれい。
どっか行こうって。モモが手ぇひっぱってもクロ寝てばかり。
春だよ。
モモの2回目の春だよ。もっと花いっぱいのとこ行こうよ。
……いいもん。
モモ一人で行くんだから。クロなんかもう知らない。
お花いっぱいのとこ。おひさまあたるあったかいとこみっけ。
クロも寝るんだったらこういうとこ来ればいいのに。
のびして。毛づくろいして。さあ。お花見ながら寝るの。
しやわせ。
夢、見た。
よくわかんない夢。なんかもぞもぞしてる夢。
目を覚ましたらもう暗くなってて、モモ怖くなったよ。
なんか変な感じ。からだが熱いよ。
はやくおうち帰らなきゃ。
はやくクロのとこかえらなきゃ。
からだ、あつい。
なんか、へん。
急いでるのにうまく歩けないのよ。
知らないひとが見てる。モモを見てる。
こっちくるよ。やだ。
くっつかないでよ。においかがないで。やだ。やだ。
すごくいやなのに。モモ、動けない。力はいんない。
舐めちゃやだ。だめ。そんなとこ。
足のあいだ。やだ。顔つっこまないで。やめて。
いやなのに。からだ、溶けちゃいそう。
クロ。クロ。たすけて。
クロじゃなきゃやだ。そういうのクロじゃなきゃだめなの。
モモはクロじゃなきゃ、いやなの。
「クロ!」
やっと声が出た。
「クロ! クロ! クロ!」
さけんだ。いっぱいさけんだ。
「おまえな、そんなやらしい匂いだしてたらこのへんのオトコ全部寄ってくるぞ」
クロだ。クロだよ。クロきたよ。
知らないひとは逃げてった。
クロ強いから。このへんで、モモが知ってるひとの中でいちばん強いから。
飛びつきたいけど、モモ立てないの。
だからクロがおんぶしてくれたよ。
モモがもっとちっちゃかったときみたいに。
クロの背中、あったかい。クロの匂い。
クロのうしろあたまにモモ、ほっぺたこすりつけちゃう。
クロの匂い。クロの匂いだ。
クロの耳、舐めた。
短くてやわらかい毛が生えてるクロのとがった耳。
モモ、へん。どんどん、へん。
クロの匂い。あれ。ちょっといつもと違う匂い。
「やばいな」
って、クロ。声もいつもと違うよ。
息、荒い。モモ、重かったかな。
「モモ、ちょっと下りろ」
柔らかい草の上。
クロはちょっと離れて大きく息をしてる。
モモ、ちょっと確かめる。
うん。大丈夫。もう立てる。
クロのとこ、行く。
「バカ! こっちくるな!」
クロは怒るけど、やだもん。クロにくっつきたいの。
クロ、ちょっと泣きそうな顔?
「我慢できないだろ」
「モモは、クロがいいの」
背伸びして、クロの鼻を舐めた。
クロが泣きそうな顔のままモモの鼻舐め返す。
モモ、調子に乗っていろんなとこ舐めちゃうよ。
首も、耳も、腕も、胸も、おなかも。
クロのいつもと違う匂いのとこ。みっけた。
匂い、かぐ。モモ、へんになりそう。
ここ。匂い、かぐ。舐める。固い。
クロも、へんに、なってる。
「モモ……」
固いとこの先から出てるの舐める。ちょっとしょっぱい。
舐める。とまんないの。
クロ、モモの匂いでへんになっちゃってる。
へんになっちゃったクロの匂いで、モモ、もっとへんになる。
モモ、また力抜けちゃった。ひざ、かくんって。
モモの足のあいだ、なんか。へんなの。すごくへん。
固いとこ、届かない。舐められない。
クロがかがみこんで、モモの鼻舐めた。
もう泣きそうな顔じゃないね。
クロ、モモのからだ舐めてる。匂いかいでる。
クロの舌。ざらざらできもちよくてしやわせ。
さっき、やらしい匂いだって言ってた。
へんになっちゃったモモの、たぶんいちばんへんになっちゃってるとこの匂い。
足のあいだ。
クロが匂いかいでる。
舐める。
え? え? え?
モモ、体中がびくんって。あたま、いきなりまっしろ。
なんか叫んじゃったかもしんない。
たぶん、叫んでる。
でもわかんない。
ものすごくわかんない。
わかんないの。モモ、死んじゃう?
「ちょっと痛いの我慢しろよ」
わかんなくなってるモモの耳に、クロの声。
わかんないまま、モモうなずいたよ。
いっぱいうなずいた。
足のあいだに、固いの。あたってる。
クロの。固いの。
モモに入って……!
痛い! 痛い!
痛いのクロ、ねえ痛いよ。
逃げようとしたら、抱きしめられた。
ぎゅーって。
頭なでられた。涙舐められた。
痛いけど。
痛いけど、しやわせ。
クロの匂いに包まれて。
モモの外にも中にもクロがいて。
痛いのがおさまったら、今度はまたわかんなくなっちゃって。
モモの中のクロが大きく、速く動いて。
モモ、何回も何回もまっしろになっちゃって。
おひさま。
寝てるクロにだっこされたまま、おひさま見上げる。
足の裏のお花、こんどお庭に植えよう。
今度の春も。その次の春も。
モモがへんになっちゃうときは、クロと一緒にへんになるの。
もう決めたの。絶対なの。