「フユキ、なにをしているのですか」
「ああ、これはこいのぼりって言ってね」
「こい……のぼり?」
「鯉っていう魚には滝を登って龍になるっていう言い伝え……正確には迷信だけど……があって。それで、向こうの世界ではこの季節には鯉の姿を描いたのぼり……筒みたいな旗を掲げて、子供の成長を願うんだ」
「そうなのですか」
「鯉のように、この子達も大きくなって龍のように天を駆けるような大きな人間になるようにって言う親たちの願いが込められているんだ」
「せんせー、こっちかけたよー」
「ん? あぁ、すごいすごい。綺麗に描けたじゃないか」
「この子達も、いつかは……」
「ん?」
「いえ、いつかはこの子たちも、大きくなる……」
「うん。大きくなって、いつか滝を登り、もっと大きくなって旅立ってゆく」
「……フユキは」
「なに?」
「フユキは、さびしくはありませんか」
「……そうだな。そのときが来ると、きっとさびしくなるかもしれない。でも」
「でも?」
「たとえ離れる日が来ても、俺たちとこの子たちとの絆は、きっと……いや、絶対に消えない」
「……」
「そうだろ。だって、俺たちがそうだったじゃないか」
「!?」
「だから、さびしいかもしれないけど、きっと悲しくはないと思う」
「……そうですね」
「せんせー、なにはなしてんのー?」
「ん? ああ、ごめんごめん」
「せんせー、ぼくきれいにかけたんだよー」
「あら、本当に。よく描けたわね」
「えへへー、しゅなせんせーにほめられたー」
「よし、それじゃあ全部出来たら少し乾かして、いよいよ揚げるぞぉ」
「わーーいっっ」
「みんなで作ったこいのぼりだからな、きっと綺麗だぞぉ」
「うんっ」
「ねえ、フユキ」
「ん?」
「わたくしも……筆を加えてよろしいですか?」
「え?」
「『みんなで作った』こいのぼりでしょう?」
「ああ、そうだな。じゃあ……おーい、朱奈先生に手伝ってもらいたいやつ、みんな手を挙げろー!」
「「「「はーい!!」」」」
「おいおい、いくらなんでも多すぎないか?」
「いいのですよ、フユキ。私も、少しでもたくさんこの子たちと同じ時間を持ちたいのですから」
「……そっか」