「だって、神楽先生も心配じゃない? イーシャ先生ってば、『赤い足』の大元締めみたいなもんなのよ?」
拾った落ち物を迎えに、地上階の診療所へ向かう途中。
普段、あたしに勉強とか歌とか教えてくれてる神楽先生が引き止めに来た。話がある、って。
・・・・話の内容、聞かなくても判るけどね。勉強ほっぽりだして外へ出たから、お説教でしょ?
まぁ、アタシの言葉を聞いて、あっさり診療所へ付いていく事になったんだけど。
どーも、『アタシの許婚』ってよりも『白羽の追っかけ』って感じなのよね、この人。
授業中とか、気が付いたら白羽の方を見てる。白羽の方は、神楽先生の視線を無視してる事の方が多いけどね。
ちょっと会話すれば、角突き合いのいがみ合い。まさに天敵、って感じ。
里の地上階にあるのは、それなりに大きな港と発着場。それと形だけ作ってある迎賓館と、それなりに良く使われてる診療所。
迎賓館はスッカスカで、診療所にはそれなりに人が詰めている。
診療所は、里の南側だったっけ? 今居る港の方からだと、ぐるっと回っていかなきゃならない。
里の中央にそびえる・・・・、というか、里の面積の殆どを占める金剛樹。
里や里を治める王の姓の由来にもなった大木の、幹の中央を貫く大空洞の東側。
ぽっかりと口を開けた洞の中に、ちらっとコウモリのような翼が見えた。
アレは、大空洞の中で荷物を運んだりするのに使う、竜の翼。
アタシは、アレがあんまり好きじゃない。
金剛樹の内部、大空洞を外と隔てる壁の中をくりぬいて部屋を作って、
アタシ達、金剛樹の一族は暮らしている。
ずっと昔に、何かのきっかけで逃げ延びてきた先祖が、金剛石で出来た木を見つけて、
その木が生えた浮島に住み着いたのが、この里の始まり。
・・・・大陸から逃げ出すきっかけが何だったのか、それについてはアタシは覚えてない。
こう言ったら、白羽や神楽先生は怒るだろうけど。
そんな事をつらつら考えながら歩いても、診療所までは結構遠い。
大空洞、突っ切ったら良かったかな。そんな事を思ったり思わなかったり。
ふと。押し殺した悲鳴のような声が聞こえた。診療所の方かな。
聞き覚えのあるような声・・・・、って、白羽?!
小言を言いながら隣を歩いていた神楽も、その声に気付いたみたい。
走っていく神楽の、伸ばし気味の黒髪と緑の翼が揺れる。
アタシは翼を広げてひとっ飛び。神楽を追い越して、
ストレッチャーを押したまま入るのに丁度良い広いスロープを飛び越えて、
イーシャ先生の診察室の引き戸を開けた。
・・・・その途端に飛んできたのは、思いもよらない物だったけど。
はて、どうしたものでしょう。
なりいき、とは恐ろしい物で。
「シロちゃん、見てるだけって退屈じゃない?」
いえ、ちっとも。それよりも、服をいい加減返して下さいませんか?
さすがに、この姿では帰れないのですが。
「検査があるから待ってて」と言われ、ネコの様式の寝巻きに着替えたまでは宜しいのですが。
・・・・翼のおかげで、襟ぐりを大きく開けなくてはならず、落ち着かない事この上も無く。
ほ、殆ど着てないのと一緒ですよ?! コレ。
「遠慮しなくて良いってば!」
いえ、遠慮では無くて、ですね。この後もまだ、仕事があるのですが。
「シロちゃんも、一応『赤い足』でしょ?」
いや、それはまぁ、そうなのですが。まだ、ほとんどそっちの仕事はしてないですが。
「だから、コレも勉強だと思ってぇ」
ソレとコレとは話が違・・・・。
って、何か、妖しげな色の薬をあおってらっしゃるのは何故ですか?
含み笑いをしながら近づいてくるのは何故でっ・・・・。
んうっ・・・・。
そして後は、桃色の、闇。
目の前でいきなり繰り広げられる濃厚なキスシーンに、俺はただただ目を奪われるばかりだった。
繰り返されるキスの合い間に、猫耳の医者らしい女性が、肩に付くか付かないかくらいの銀髪の少女を、手際良く脱がせていく。
たけの短いバスローブのような服の腰紐を解くと、それだけで、おざなりにしか体を隠していなかった布地が、するりと滑り落ちる。
白い翼を背負った少女の、片手ですっぽり覆えそうな、小振りだけどそれなりに形の良い胸に、真っ赤な花が張り付いているのが見えた。
「この痕、ちゃんと消せば良いのにぃ。綺麗な肌なのに、もったいないよぉ?」
ぷはっと音を立てて唇を離した猫耳が、少女に話しかけた。
対する少女は、話を聞いているのか居ないのか。
目元を桜色に染めて、ぽーっとした表情で医者にもたれるように座っている。
乱れた前髪が、顔の半分を覆い隠しているのがちょっと残念だ。
つつっと、胸元の『花』を医者の指がなぞった。周りの肌よりも敏感なのか、少女の肩がピクリと震えた。
「け〜っこう、この子もビンカンなのよね〜」
そんな事を呟く猫耳の手が、縦横無尽に白い肌と赤い『花』の上を這い回る。首筋、脇腹、二の腕、腰。
そのたびに、翼のはえた少女は体をよじって悩ましげな吐息をつく。とっ、やべっ!
股間に不穏な気配を感じた俺は、座り込んで後ろ手にまわして体を支えていた手を、慌てて前に回して、隠す。
「あはぁ」
猫耳が俺のほうにちらりと目をやり、嬉しそうな声を上げた。・・・・そんなにじっくり見ないで下さい、お願いします。
「けっこう立派じゃなーい」
そんな事を言いながら伸ばしてきた手が、立ち上がったナニを下からすすっと撫で上げる。
・・・・伝わってきた感触に、なんか変な声出たけど、それどころじゃ無い。
目の前で、微妙に尖った耳と青味がかって見えるほど白い羽根が、フルフルと震えている。
当然ながら、それらにくっついた華奢な体も。
手をちょっと伸ばせば届きそうな位置で小刻みに揺れる、
ピンク色に染まった大きくは無いがやわらかそうなバストに、自然と視線が釘付けになる。
そっと手を伸ばしたその時。
「シロちゃん? 自分ばっかり楽しんでちゃダメよ?」
ぐいっと、勢い良く翼のはえた少女の体が押し出される。少女の頬が、モノに擦れて、ざらっとした感触を伝えてきた。
ん? ざらざら?
良く見ると、顔の右半分・・・・右目の辺りを覆うように白い包帯が巻かれている。
日焼けとかが見当たらない真っ白な肌を背景に、溶け込むように馴染んでいて気が付かなかった。
「は〜い、それつかんでぇ・・・・。あ、力入れすぎちゃダメよ? 痛がるから」
白い、ほっそりとした、だけど所々に硬い感触のある指が、痛いくらいに立ち上がったソレに絡む。
少しひんやりとした手が、すぐに俺の体温が移って暖かくなった。
ふわふわとした、現実感の希薄な感覚。
目の前に立つ棒状の物をつかむと、びくびくと手の中で震えるのが面白い。
思っていたより熱を持っているようで、少し驚いた。
「‥‥‥‥力入れすぎちゃダメよ? 痛が‥‥‥‥」
遠くの方から、断片的に言葉が流れてくる。
良く判らないけど、とりあえず少しだけ力を緩めた。
もっと良くソレを見ようと体を起こしかけて、後ろから伸びてきた誰かの手に止められる。
両膝と両手で体を支える体勢を取らされて、抗おうにも抗えない自分が居る。
体に、思うように力が入らない。
触らなくても、時折思い出したようにビクビクと震えるソレを、とりあえず片手でいじってみる。
先の方から、なにやらぬらぬらとした液体が垂れてきて、ソレ自体と私の手を濡らした。
その液体が滑りを増して、手の動きがスムーズになる。
見上げると、眉をしかめて、気持ちいいんだかその逆なんだか、
一見わからないような表情をしているヒトの顔が見えた。
‥‥なんだか、かわいい。
すこし、手の動きを早くしてみた。
うめき声を上げて身をよじるヒトの少年を眺めているうちに、
ますます頭がぼーっとしてきて、だんだんワケがわからなくなってくる。
「よ〜く、回ってるみたいねぇ?」
へたり込んだ俺の、広げた足の間に這う少女の姿を見ながらだろう。
猫のおねーさんが呟いた。‥‥俺には、何の事だかさっぱりだが。
少女の体を撫で回していた手を休めて、俺達の様子を観察しているらしい。
少女の動きは、はっきり言って下手クソだ。
じーっとモノを見つめたり、俺の反応を見るのに忙しくて、度々手が止まる。
その度に、俺のボルテージは多少下がる訳だが。
イケそうでイケない、そんな生殺しが続く。
「しばらく、そうやって練習相手になってあげてて?
その子、『赤い足』なのにあんまり経験積んでないから」
耳慣れない言葉に少女の体を良く見ると、薄黄色の鳥の足の足首に、
赤い染料だか塗料だかで描かれた蔦の模様が巻き付いているのが見えた。
色の薄い鱗の上に、複雑に絡み合った毒々しい赤の線は良く目立つ。
『赤い足』ってのは、この線を指しているらしい。
猫のおねーさんの白衣の裾のすぐ下にも、似たような模様が見えた。
彼女の方は足首だけじゃなくて、ふくらはぎや白衣に隠れた太ももの方まで続いている。
ただし、模様のパターンはずっと単純に見える。
立ち上がってくるりと背を向けた拍子に、猫のおねーさんの足の裏まで、
真っ赤に塗られているのが見えた。
俺のモノを間近で覗き込む体勢を取った翼の少女の鈎爪が付いた足の裏は、
何も塗られてない、まっさらに見えるけど。
猫のおねーさんが椅子に座ってこっちを見ている。
少女は、片手だけでしごくのがもどかしくなったのか、体を起こして本格的に両手を使い始めた。
指の所々にタコが出来た手が、先走りを纏わりつかせて微妙な刺激を与えてくる。
やっぱり、微妙にイケそうでいけない感じがもどかしい。
そんな俺の気持ちが顔に出ていたのか、
猫のおねーさんが面白がっているとしか思えない調子であれこれと指示を出す。
「ほらほらぁ、手だけじゃイケないってよ? もっとこう、舐めるとか咥えるとかぁ」
その指示に、また何も考えて居ないみたいに素直に従うのが、また困りモノだ。
モノの先、割れ目がある辺りにちろちろっと、今までとは違う感触がはしる。
「んっ‥‥」
と、思っていたら、いきなりぱっくり咥えられた。
小さな声と共に、カリの部分が少女の口の中に消える。手とは違って、口の中は暖かい。
‥‥さんざん生殺し状態が続いて、敏感になっているだけかも知れないが。
「もっと、こう!」
いつの間にか近づいてきていたおねーさんが、俺のモノを咥えた少女の頭をぐっと押し下げた。
口の奥だか咽喉の奥だか知らないが、歯茎とはまた違う感触がカリを包み込む。
当然、それだけ奥に一気に押し込めば、むせて吐き出されるわけで。
床に手を突っ張って何とか逃れた少女が、けほけほと盛大に咳き込んだ。
「おい、大丈夫なのか?」
話しかけてみるが、落ち着いたらしい少女はとろんとした視線をこちらに向けるだけで、
意味が取れるような返事を返さない。
「今の所、話しかけてもムダよ? 理性すっとばしてあるから」
けらけらと笑いながら言う猫と、やっぱり意味が良く判らない俺の視線の中で、
少女が上気した顔で体をくねらせる。ちょっと顔をしかめて、泣き出しそうな表情だ。
「そろそろ、イカせてあげないと辛そーね。シロちゃんもあんたも」
はいはいこっち、とばかりに少女を俺の方へ誘導する。
今度はぺたんと腰を下ろした姿勢で、俺のモノに触らせる。
猫自身は、少女の後ろから手を体に回して傍若無人に撫で回している。
猫の手にあちこち触られるたびに、モノに伸ばした少女の手の力加減が変わる。
手の動きに反応して、一々声を上げるのが騒がしい。
「ここはどーかなー?」
「あんっ‥‥」
「下はー?」
「ひゃぁっ!」
‥‥訂正、耳の毒だ。
コンコン。
「イーシャ先生? 入るわよ?」
部屋のドアを誰かが叩いた。中の人間の返事を待たず、大きくドアが開け放たれる。
問題は、ちょうどソレがクライマックスと同時だったあたりだ。
「そろそろ、いっちゃえ!」
だんだん前のめりになって、結局四つんばい状態に戻った少女に覆いかぶさるようにして、猫が指を動かす。
と言うか、動かした、らしい。俺の位置からじゃ、少女の体や翼自体が邪魔になって良く見えない。
それがトドメになったのか、少女が一瞬だけ体を強張らせた。
次の瞬間には、ぐったりと体から力が抜けていく。
‥‥俺自身も、その瞬間にぎゅっと握り締められて、限界を迎えたわけ、だが。
問題は、その時にモノの先がドアの方を向いてたって事だ。
入ってきた人物――俺が落ちてた時に見つけたって言うあの黄色い羽根の少女だ――の顔に、
ぺしゃりと音を立てて着地する。そして、白い筋を描いてどろりと流れた。
「いやー、良く飛んだねぇ!」
猫のおねーさんのそんな声を聞きながら、俺は部屋の雰囲気が凍り付いていくのを確かに感じた、気がする。