あの日…もし彼女に出会わなければ、何も知らずに済んだのかも知れない。  
 
太陽が輝く夏のある日に、僕は見慣れぬ少女をいつも利用している路面電車の中で見かけた。  
真っ白なドレスにネコミミという風変わりな格好をしたその子は、じっと絵本を読み続けていた。  
表紙には「ほしぞらのかがやくよる」と書かれている。  
ああ、聞いた事がある。  
確か絵本作家の人の実体験を基にしたとか、ネットで噂になってる絵本だ。  
僕自身は読んだ事は無いけど、同じクラスの子が「一度読んでみて」って言ってたっけ。  
 
次の駅で降りる為に僕は立ち上がると、その女の子は本を閉じて僕の方へ近づいてきた。  
そしてうっすらと桃色に染まった唇から言葉が放たれる。  
 
「見つけた、力を持った新しい子を。」  
 
その夜、僕は電車の中で見た女の子の事を思い出していた。  
確かに可愛かったけど、それ以上に彼女の言葉がすごく気になる。  
「あれはどういう意味なんだろうか…。」  
居ても立ってもいられない僕は、あの子が読んでいた絵本を調べることにした。  
調べていくと、様々な場所で絵本に関する噂が書かれていた。  
「この絵本の作者は、本の内容通りに邪神と呼ばれた者達と遭遇している。」  
「絵本の作者とその親しき者達は、力を合わせて大いなる脅威に打ち勝った。」  
「邪神達は今も人間の世界で暮らしているかもしれない。」  
という、とんでもない噂だった。  
 
全部を信じる訳じゃないけど…でもこれがもし本当の事なら  
数年前の大災害の日に体験した事も全てつじつまが合う。  
空が割れて、其処から不気味な怪物達が町にやってきて  
僕も怪物に襲われそうになった時、一人の女の子が僕を助けてくれた。  
助かった僕を見て、その子が嬉しそうに微笑んだのを今も覚えてる。  
「あの子も邪神達の一人なんだろうか…。」  
そう思ったとき、昼間の女の子の顔を思い出す。  
「そんなわけ無いよな…だってあれは何年も前の事だし。」  
でも確かに、似ていた。  
あの時は気のせいだと思ったけど、目が合った時にあの日の笑顔が  
重なって見えたんだ。  
 
次の日、僕は同じクラスの月山さんに絵本の話を聞いてみることにした。  
「あの絵本が実話かもしれないって噂をネットで見たんだけど…。」  
月山さんはう〜んと唸った後、口を開いた。  
「私はね、その噂を信じてるの…他の人に言ったら笑われちゃいそうだけど。」  
くすくすと笑いながら答える月山さん。  
「…翔一君は信じる?」  
彼女は眼鏡をくいっと持ち上げて僕に問いかける。  
「…信じるも何も、あの時似たような事を経験したことがあるから…。」  
月山さんは安心したような表情を見せた。  
 
「じゃあ、翔一君は自分よりとっても強いお嫁さんとか欲しいんだ。」  
「…は?」  
月山さんが変な事を聞いてくる。  
「だって…あのお話の途中で主人公と天使の女の子が結婚するでしょ?」  
ああ、そういえばそんな話聞いたことがあるな…。  
あれ?いま月山さん『天使』って…。  
「月山さん、あの本に出てくるのは旧支配者と呼ばれた邪神達…。」  
「私には彼女達が天使に見えたのよ。」  
言葉を出し切る前に、月山さんは指先で僕の口を塞ぐ。  
その自信に満ちた表情に、僕は何も言い返せなかった。  
 
放課後、僕は近所の古い本屋に寄ってみた。  
「いらっしゃいませ!」  
元気な声のする方を振り返ると、僕と同い年位の女の子が椅子に座っていた。  
店員さん…だよね、聞いてみよう。  
「あの、何年か前に出た絵本で『ほしぞらのかがやくよる』って言う題名なんですが。」  
「はいどうぞ、大切にしてくださいね。」  
題名を言ってすぐに、店員さんは絵本を出してくれた。  
…まるで僕がこの本を買いにくるのを知っていたかのように。  
「あの、お金は…。」  
「この本を大切にしてくれるなら、それで結構ですよ。」  
店員さんはそう言いながら、僕に本を手渡してくれた。  
 
帰り道にある公園で、また白いドレスの女の子に出会った。  
ベンチに座ってじっとこっちを見つめている。  
今度こそ確かめないと…。  
「君はもしかして…。」  
 
近づいた次の瞬間、体がとても重くなったような感覚に陥る。  
だがその感覚もすぐに消え去った。  
 
「結界を張ったわ、誰も私達の事は見えないし声も聞こえない。」  
気が付くと彼女は目の前に立って、僕の目をじっと見つめていた。  
「久しぶりだね…覚えてる?」  
…やっぱり、あの時の女の子だったんだ…。  
 
「ホント言うと、ちょっと忘れかけてたんだけど…。」  
「…よく聞こえなかったにゃるら、もう一度言うにゃるら。」  
急に彼女が不機嫌そうな顔になる。  
「えーっと、今の話し方で完全に思い出したよ。」  
彼女は人間では無いのかもしれないという事をその時は…忘れていた。  
でも、それ以上にまた逢えた事が嬉しかった。  
「また会えたね、ニャルちゃん。」  
 
ニャルちゃんはあの時と全く変わっていなかった。  
…全く?おかしいな、初めて会ったのは僕が小さい頃で…今は高校生で…あれ?  
困った顔をする僕を見て、ニャルちゃんは答えた。  
「歳はとらないにゃるら。永遠の美少女にゃるら〜。」  
笑ってしまいそうになってる僕を、ニャルちゃんはじっと睨みつける。  
話題を変えないと…。  
「そういえば、電車の中で言ったあの言葉…あれはどういう意味なの?」  
「あれは言葉の通り。貴方も力を持った存在だって事にゃるら。」  
僕がニャルちゃんやあの絵本の人達みたいな力があるなんて思えない。  
「力はね、想いにゃるら。自分以外のものを傷つける事だけが力を持つということじゃないにゃるら。」  
「つまり僕がこうしてニャルちゃんと出会ったのも…その力のおかげなのかな?」  
ニャルちゃんは少し考えて答えた。  
「ま、そういう事にゃるら。翔一の力は心を結びつける力にゃるら。」  
 
僕ははっと気が付いて、絵本のページを開いていった。  
最初は一人ぼっちだった主人公。  
だけどページをめくるごとに、他の人物達も描かれていき、最後は…。  
「ね?その本の作者も想いの力で何よりも欲しかった『家族』を手に入れたにゃるら。」  
 
「…じゃあこの本には書かれていたのは全部本当の事なんだね。」  
そう言うとニャルちゃんはニコッと笑って頷いた。  
「不思議な事もある物なんだね。」  
「まあ、そういうものにゃるら。」  
…待てよ?じゃああれですか?  
僕もあの日のニャルちゃんみたいに、訳の解らない怪物と戦ったりしないといけないって事?  
だってこの絵本にも怪物と戦う場面が何度か…。  
 
「心配しなくても、もうこの世にはそんな連中はいないにゃるら〜。」  
それを聞いて安心したよ…。  
「でも、貴方自身が力を奪おうとする怪物になってしまう可能性もあるにゃるら。」  
え…何でだろう?  
僕は疑問に感じて聞いてみると…。  
「私達の力は大きすぎるにゃるら。精神が強い存在でも、  
いつかは影響を受けて壊れてしまう可能性もあるにゃるら。」  
うわあ…そんな大変な存在だったのね、ニャルちゃん。  
「ま、特訓すれば大丈夫にゃるら〜。」  
 
ニャルちゃんがそう言った瞬間、僕は意識を失った。  
 
「…起きて…特訓開始よ。」  
ニャルちゃんに起こされると、其処は公園ではなく自分の部屋だった。  
「と、特訓って…?」  
「精神を鍛え…煩悩を取り払う…かな?」  
言葉の意味が解らずに戸惑う僕のよそに、ニャルちゃんは突然服を脱ぎだした。  
「初めて…だよね。」  
ニャルちゃんはゆっくりと僕の服を脱がせてゆく…ま、まさか…。  
「…これでいいかな…『本体』でしちゃったら後で怒られちゃうから…。」  
そう言いながらニャルちゃんは真っ黒な仮面を顔に付けた。  
次の瞬間、僕はとんでもない物を目にするのだった…。  
 

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