きっかけはなかった。  
 ただ、朝起きてふと手元に目を向けたらにそれがいた。  
 俺の手元にだけじゃない。『それ』はいたるところに存在していた。  
 なんてことのない普通の独身の男の部屋が、一夜にしてミニチュア人形のハウスになっていた。  
 俺が望む、望まないにかかわらず。  
 
 
        妖精が見える!  
 
 
 『それ』の種族名は『妖精』 英語で言えばフェアリー。  
 ファンタジー小説の挿絵に出てくるみたいな、昆虫っぽい透明な羽を背中につけ、  
 それを羽ばたかせるだけで空を飛ぶ、寸詰まりな人間。  
 都合のいい小説のようにどれもこれも美男美女。  
 それも体つき顔つき十人十色の多種多様だが、顔つきが人間の平均水準の大幅上をマークしている  
 ということだけは共通している。  
 性格は、割と子どもっぽいのが多い。もちろん、一該にそうとは言い切れないが。  
 
 このゴキブリよりも遙かにたちの悪い小人達は、俺の部屋以外に存在していることを、  
 ファーストコンタクトを果たした日の六時二十五分に確認した。  
 古アパートのドアを開け、トランクスとランニングシャツのまま一歩踏み出すと、  
 「踏むなコラ」と部屋以外での接触した妖精第一号に怒られた。  
 
 まあ、その後、俺は自分が精神病にかかっているんじゃないかと悩んで、心理カウンセリングを受けに行ったり、  
 色々とごたごたがあったのだが、それは楽しくないし、俺だって決してその時期はいい思い出とは言えなく  
 思い出したくもないので割愛する。  
 
 今では、妖精達のことを普通に存在しているものと認知して、一般的社会人としての生活を過ごしている。  
 
 妖精達は、当たり前だが、俺以外の人間には見えない存在だ。  
 ひょっとしたら俺以外で見える人間がいるのかもしれないが、まだ会ったことがない。  
 会ったとしても、「私は妖精が見えます」なんて答える人間は、本当に俺の見える妖精が見えているかどうか疑わしい。  
 まあ、なんだ「真性」だっていう可能性だって捨て切れないわけだ。  
 
 ……言っておくが、俺は違うぞ。  
 妖精達が実在する証明として、彼ら、ないしは彼女らは物質に干渉することができている。  
 これは手品と称して同僚に、空飛ぶ十円玉を見せ、それ相応の反応を貰っているから確かなことだろう。  
 
 さて、妖精のことについて少し説明しようか。  
 実は、俺が読んでいる妖精が全て妖精と呼称するのには少し語弊がある。  
 彼ら、ないし彼女らの多くのものは単体で存在することが不可能らしい。  
 無機物有機物問わず、何かしら形のあるものとともに存在しているのだ。  
 
 例えば、俺が以前から世話をしていた、小さな鉢の赤い花……ふがいなくも名前は忘れてしまったが、その花の化身として、  
 一匹妖精が存在している。  
 更に例を出すなら、俺が秋葉原に行って昨年に買った液晶テレビ。それにも妖精が存在している。  
 CDケース、CD、パソコン、デスクに筆記用具の化身の妖精もいる。  
 俺の住んでいる部屋の妖精も、更に古アパート全体としての妖精もいる。  
 
 それならば妖精ではなく、精霊と言った方が正しいような気がしないでもないが、  
 彼女らと全く変わらぬ大きさや容姿のした、付随物のない独立した妖精も存在している。  
 それらをカテゴリー分けするのが、面倒臭くて、俺は全部まとめて妖精と呼んでいる。  
 どうせ俺にしか見えないし、やつらも妖精と呼んで文句を言ったり、機嫌を損ねるわけじゃないし。  
 
「ただいま」  
『おかえりなさーい』  
 
 俺が今日も仕事を終え、帰宅すると無数の「おかえりなさい」が帰ってきた。  
 俺の部屋は見るも無惨に妖精に埋め尽くされ、ひしめきあっている。  
 
 何、そんな光景は俺の部屋だけじゃない。  
 道路に出れば標識の化身、車の化身、アスファルトの化身、はぐれ妖精が蠢いている。  
 全部が全部のものに一匹ずつ化身がいるわけじゃないとは言え、  
 右を見ても左を見ても、視界には必ず小さな人間がいる。  
 今更、俺の部屋を見て、気持ち悪い、とかそういう感想はわき上がってこない。  
 
『お疲れ様ですー』  
 
 無数の妖精が、俺に向かって『お疲れ様ですー』と言って突撃してくる。  
 あっという間に俺の体は妖精だらけに。  
 妖精一匹の力はとても弱いが、十匹、二十匹とまとわりつかれると流石に体勢が崩れてしまう。  
 多分、俺が妖精を見たり、話を聞いたりできるせいか、俺の所有物にはやたら妖精の化身がいる。  
 この部屋に生息している妖精だけでも、数えたことはないがおそらくは百匹以上いるんじゃないかと思う。  
 やれやれだ。  
 
 彼らはスピリチュなんとか的存在で、物質に干渉することができるが、それと同時に透過することができる。  
 わかりやすく言うと、モノをすりぬけたり、触れたりすることを任意で行えるらしい。  
 まあ、俺という存在も半分そのスピなんとか的存在に近いものになっているらしく、俺の体は透過できないらしいが。  
 
『お料理できてますよ〜』  
 
 狭い部屋の台所に群がっていた妖精二十匹ほどが一斉に俺に声をかける。  
 数匹の妖精が料理の盛られた皿を持ち上げ、ちゃぶ台へと運んでいく。  
 妖精の給仕、か。  
 
 ここまでくるのに結構手間と時間がかかったものだ。  
 物語に出てくる妖精は、純粋でありそれと同時にわがままであることが多い。  
 俺の見える妖精は、それから純粋を差し引いた存在だった。  
 
 人間に気付かれるようなことはしてはいけないというのが妖精達の暗黙のルール。  
 しかし、俺が妖精達に自分から気付いてしまったので、そのルールは無効になり、  
 したい放題、やりたい放題、騒ぎたい放題。  
 寝ている最中、嫌がらせのためにがなりたてたり、ボールペンの先端でつついたり、  
 人の言うことは聞かないし、あと少しでノイローゼになるところだった。  
 案外、妖精が見える、と言って精神異常者になった過去の人間は、  
 俺と同じく精神異常者ではなく、本当に妖精が見えたのだが、  
 このいたずらに悩まされて、精神的に追いつめられてしまったのかも知れない、  
 なんて勝手に思ったりするほどだ。  
 
 しかし、俺は決して諦めず、妖精達と戦った。  
 鉛筆及びボールペンの化身は、その本体をへし折ってやり、セロハンテープで直して欲しかったら、  
 突き刺すのをやめろ、と訴え、ラジカセの化身は読経のカセットテープを延々と流してやって、黙らせた。  
 布団の化身には霧吹きで湿気を持たせ、そのまま黒いビニール袋に隙間無く包んで日中干してやったら、泣いて謝ってきた。  
 独身男の友のお気に入りAVの化身は、近所のオタク君に貸し……  
 
 それはもう、大変だった。  
 が、しかし、俺は戦い抜いて勝った。  
 妖精達を一匹残らず服従させ、物が増えるたびに増える妖精も、俺に忠誠を誓う同族に『教育』を施されて、  
 俺にいたずらをしかけてくることはない。  
 基本的には、人の持っているモノについている妖精や、はぐれ妖精は俺にいたずらはしてこない。  
 そこらへんも暗黙のルールとして成り立っているらしい。  
 
 妖精が見えるようになって、困ったこともあったが、逆にたすかったこともある。  
 今やらせているように妖精に家事をやらせるのもそうだが、  
 妖精は人の目が無いと思っている人間の行動も、しっかり見ている。  
 まあ、そういうことなんだ。  
 俺がこの能力をどう使っているのかは、察して頂ければ幸い。  
 そのおかげで、同僚よりずっこい方法で仕事を成功させている。  
 
 ふう、今日は少し疲れた。  
 
『どうぞー、ご主人様ー』  
「ああ、ありがとう」  
 
 座布団に腰掛け、箸を持って食事を始める。今は快適な暮らしだ。  
 家事はもちろん、細かいことも妖精達がやってくれる。  
 それでいて、人間と付き合うような気苦労もしなくてすむ。  
 いたずらで悩まされなくなってから、妖精達に愛嬌を覚えるようになり、  
 それなりにかわいがってやれば、人間とは違って裏切るようなことはしない。  
 
 そういえば昔、現代社会に妖精が現れる短編小説を読んだことを思い出した。  
 たしか、空からカプセルのようなものの中に入ってやってきて、  
 瞬く間に繁殖、そして今の俺の状態のようにそこかしろに妖精の姿が見え……  
 食べるものは残飯。  
 何もできはしないが、おだてることだけはうまく、人間にこびを売って生きている。  
 聞こえのいい言葉を語る妖精を、人間達は気に入る。  
 争いも少なくなり、気性のゆるやかな人間が多くなったが、  
 段々と人間の付き合いを疎になり、文化的発展も遅くなっていく……。  
 それを、妖精を公平に分配するための会社に勤めている耳の遠い老人が、  
 その社会を見つめている、という小説だった。  
 俺の解釈だし、記憶もおぼろげだから細かいところが違うかもしれないが、  
 こんな感じだったような気がする。  
 
 ひょっとしたら、俺もその社会のように頽廃的な人間になるかもしれない。  
 が、俺一人社会の枠から外れたくらいでどうにかなるわけにも思えない。  
 それに、俺は日々の糧を得るために人間との付き合いが必要不可欠の仕事をしている。  
 とりあえず、今しばらくはそういった心配はしないですみそうだ。  
 
 まあ、それはそれとして。  
 
「ご主人様、あーん」  
 
 今は食事を楽しもう。  
 箸の化身の妖精が、更に盛られた料理を口に含み、俺に口移しで食べさせる。  
 箸はそういう役目だから、とは言え、少し気恥ずかしい気もするし、  
 第一、箸の化身が口一杯に食べ物を含んだとしても、俺が食べられる量はたかが知れている。  
 こいつは、俺がそれはやめろって言ってるのに何度も何度も食事のたびにやろうとする。  
 いわば恒例化してきた行為だが、俺は人差し指で箸の化身の頭を撫でてやって、  
 黙って普通に箸で料理を食べ始めた。  
 スプーンとフォークとナイフがこっちをちらちらと見てくるのが気になったが。  
 
「ご主人様ー、テレビ見ますー?」  
 
 テレビの化身が言ってきた。  
 俺が一端立ち上がってリモコンを取りに行かずとも、テレビ自身が次々とチャンネルを変えてくれる。  
 音声認識機能付きテレビ、みたいな感じだ。  
 そこまでおんぶにだっこで世話になっていると、典型的なダメ人間になっているように思えるだろう。  
 だが、妖精と付き合うには、立ち上がってリモコンを取ることよりも面倒なことが多い。  
 
「あっ、こら、クソテレビ!  
 あんたがチャンネル操作しちゃったら、僕がご主人様に使われなくなるだろっ!」  
「元々あんたはいらない子なのよ、リモコン。ご主人様に今度の燃えないゴミに出して貰えば?」  
 
 とまあ、子どものように自己主張の激しい妖精達の間では、諍いが絶えず、  
 中立として止めるような気の利いた性格の妖精も中々いないもんで、こういう喧嘩を止めるのは俺の仕事。  
 
「第一ねぇ、この狭い部屋でリモコンの必要ないでしょ?  
 リモコンを探すより、ご主人様が手を伸ばして直接操作する方が早いし楽なのよッ!  
 それに、あんたがいるせいでご主人様の熱いタッチが受けられなくてこっちは迷惑してるんだから」  
「い、言ったなぁ! わかった、お前がその気なら、こっちだってやってやる!  
 いいところで突然チャンネル変えて! 入力切り替え! 音量操作!  
 副電源の入り切れを滅茶苦茶繰り返してやるぅー!」  
「ちょっと待ちなさいよ、テレビ!  
 あたしが狭いですって? あ? あんた何様?  
 あんた達やご主人様が雨風防げるのはあたしがいるからなのよ!  
 あたしがいなかったらご主人様は路頭に迷うし、あんたたちだって雨に濡れて一発でショートして終わりよ。  
 家電製品ごときが、部屋のあたしに逆らわないことね」  
「や、やめなさいよ、リモコン。目、目が……目が回るぅぅ〜〜〜」  
「思い知ったか、テレビ! やめて欲しかったら、僕に謝れ!」  
「ちょ、ちょっと、私の負担を考えなさいよ、リモコン。  
 普段は使わないくせに、そんなに無茶苦茶に操作したら、乾電池の私がびっくりするじゃない」  
「うるさいわよ、テレビとリモコン!  
 折角私が懐かしの曲を流して、ご主人様をリラックスさせようと思っているのに、  
 こんなやかましかったら、ご主人様が困るじゃないのよ!」  
「ラジカセは黙ってろよ! なんだ、お前、今時ラジカセはないだろ。  
 チューナーが壊れていてラジオすら聞けないくせに!」  
「キーッ! リモコンなんて単体じゃ何の役にも立たないくせにぃぃーー!」  
「言ったな、この野郎ーッ」  
 
 とまあ、こんな風に喧嘩がしばしば起こるでありんす。  
 
「あー、お前ら。いい加減にしないと、捨てるぞ」  
 
 俺は冷静さを持って、なるべく威圧的に言った。  
 喧嘩をしていた妖精達はもちろん、はやし立てたり、無関心だった妖精達も一気に静まる。  
 
「わかるか? 喧嘩する電化製品は俺には必要ないんだ。  
 部屋もそうだ。  
 そろそろ引っ越してもいい頃合いだが、お前がいるからという理由でここにとどまっているのに、  
 家電製品と喧嘩したり、見下しているような態度を取るんだったら、他に引っ越す。  
 おい、カレンダー。粗大ゴミの日がいつか教えてくれ」  
「ごめんなさいー」  
「捨てないでー」  
「引っ越さないでー」  
 
 テレビとリモコンとラジカセと部屋と……えーと、色々な妖精が飛びかかってくる。  
 どさくさにまぎれて、関係のない妖精まで。  
 服の上から擦り寄ってくるやつがいれば、俺の素肌に触れたり、服の隙間から潜り込んできたり。  
 
 やれやれ、俺の体にこうやってすがりつきたいがために喧嘩してるんじゃないだろうな、とか思えてきてしまった。  
 
 
 俺がこいつらに好かれているのには一つの理由がある。  
 何を隠そう、初めのころ俺が妖精達の手に余るいたずらに対し抗戦していた最中の切り札としてもそれを用いていた。  
 
「ああ、わかった。わかったから……もう離れろ」  
 
 服の隙間から潜り込んできた妖精達は、ある一点を目指しもぞもぞと動き出した。  
 
 くそっ、やっぱり、わざと喧嘩していたのか。  
 
「ああ、おい。それは飯を食い終わってからだ。お手つきした奴にはあおずけを喰らわせるぞ」  
 
 俺がそう言うや否や、俺の服の隙間に入り込んでいた妖精達が一気に外に出た。  
 くすぐったいような感じで、やられるとあまり気分はよくないが、  
 それでも食事を終わらせてない現段階で、あのことをさせられるよりかはマシだ。  
 
 それに、今日は俺、少し疲れているんだ。  
 無駄な体力を消費していては、明日の朝に疲労が直撃する。  
 
 妖精にエサを与える必要はない。そりゃそうだろう。  
 人間がエサを与えなければならないということなら、俺の部屋にいない妖精はとっくに死んでいる。  
 ただ、人間が食べるお菓子のように、妖精達にも嗜好品が存在している。  
 妖精達の話によると、滅多に手に入らない珍しいもので、多くの妖精達はそれを手に入れることができないらしい。  
 そして一端その味を覚えてしまうと、その後、その嗜好品への渇望が一生消えることがないほど、妖精達にとって甘露だそうだ。  
 
 全く、あんなもんのどこが甘露なのか度し難い……。  
 
 ここがどこだかわかっている人間なら、それがなんだかわかるだろう? 男の精液だ。  
 しかし、それは妖精の姿を知覚している人間のもののみしか妖精達の手に入らない。  
 暗黙のルール……よりも一段上の自然の摂理としてこれはきまっているらしい。  
 
 手早に食事を済ませ、妖精達のはやし立てる声を聞きながら、服を脱ぐ。  
 すかさず妖精達が群れとなって押し入れから布団を引っ張り出し、そのままひいた。  
 まったく……こういう連携は、恐らく妖精世界一じゃないかと思うほど手際がいい。  
 瞬く間に準備が整って、妖精達の渇きを求める視線が俺に注がれる。  
 
「いいぞ」  
 
 そう言った瞬間、部屋の中の妖精全部が俺の体に群がってきた。  
 まさに妖精ずくめ。  
 もし俺以外の妖精を可視できる人間がこの光景を見たら、腰を抜かすだろう。  
 自分だって最初のころはその行為に怖気を覚えた。  
 だが、今となってはもう慣れっこだ。  
 体中に舌が這う感覚がある。  
 俺の垢や、汗などの体液も、俺の精液ほどではないがそれなりに妖精達の舌に叶うものらしい。  
 
「お口、開けて〜」  
 
 何匹かの妖精が俺の唇を舐めながら言ってきた。口腔内にある俺の唾液が目当てなんだろう。  
 身長が大体八センチくらいしかなく、丸まれば手の平に入ってしまう彼女らならば、一匹くらいなら口の中に入れる。  
 俺はゆっくりと焦らすように口を開いた。  
 あまり急に口を開けると、頭より上にいる妖精達が驚くし、唇のところで待機している妖精が一気になだれ込んでくるからだ。  
 一度だけ、妖精達が次々となだれ込もうとして、一匹飲み込んでしまったことがある。  
 そいつはぴーぴー泣きながら、食道から這い出てきて、  
 俺の胃液に溶かされることはなかったが、あのときは俺も肝を冷やした。  
 
「あっ……んふっ……おいしぃ」  
 
 もぞもぞと骨伝導しているように、口の中にいる妖精の声が聞こえてくる。  
 それと同時に耳元で俺の耳の穴を舐めたくっている妖精の舌使いの音も同時に聞こえてきている。  
 
 こうなると口を閉じることもできず、俺はぼーっと突っ立っているままになる。  
 あと少しで終わる。  
 妖精達のおかげで、俺の体は常に清潔だ。  
 ちゃんと風呂にもはいっているが、やはりこうやってなめ回されて綺麗にされているせいか、肌の荒れもない。  
 
 それに……。  
 
「ん……ぁ……おっきくなったぁ……」  
 
 睾丸をなめ回され、ゆっくりと俺も俺自身を大きくさせていく。  
 妖精達は集中的にそこへ集まり、俺のモノを舐めていく。  
 幾多もの小さな舌が、縦横無尽に這いずる感覚に思わずうめき声をあげそうになる。  
 
「も、もう、透明な……蜜がでてきたぁ。ん、ぁぁ、おいしい」  
 
 恥垢を奪い合うように舐め取っていた妖精達が、突然先端に集まってくる。  
 尿道からでるカウパー線液を、砂漠の中の泉の水のように舐めたくってくる。  
 
「あぁん、ずるいー! あたしにも舐めさせてよー」  
「ダメっ、これは私のッ!」  
 
 体の各部に散っていた妖精達も、俺のナニに向かって突撃を開始する。  
 俺の口の中にいるやつは、飽くまで俺の口の中に閉じこもり、唾液を採取することにご執心だが、  
 その他の妖精はほとんどナニへといってしまった。  
 
「んっ……そろそろ、イくぞ……」  
 
 妖精の中で最も人気があるものがやはり精液。  
 一回の射精で出るのには限りがあり、いくら体が小さいからと言って全員に十分な量が行き渡るわけじゃない。  
 だから、競って俺のナニを舐めまくる。特に、ナニの斜線上。そこが激戦区だ。  
 
「う……あぁ……あっ!」  
 
 俺のナニが上下に揺れる。  
 妖精達はナニに捕まり、きゃーきゃーと黄色い声を上げて辺りに散る。  
 運良く俺の精液を全身にぶっかけられた妖精は……。  
 青い髪の毛の先から足まで精液をかけられ、恍惚とした表情をしている。  
 すかさず周りの妖精達が、彼女の体をなめ回しはじめる。  
 
「あっ……あっ、だめぇ! 私のとっちゃらめぇ!」  
 
 大勢の妖精達になめ回されて、妖精団子のようになっているのを見ながら、  
 俺はゆっくり布団に寝転がった。  
 頭のいい妖精は、尿道に残っている精液を吸い出そうとまだ俺のナニに執心している。  
 だが、口が小さく、更に中に入る量もたかがしれているのですぐに他の妖精に突き飛ばされる。  
 
 妖精達がワーワーキャーキャー叫んでいるのを見ながら、  
 俺はゆっくりと目を閉じて、眠りについた。  
 
 妖精が見えるようになってどのくらいの時間が経ったか。  
 長かったような短かったような……最初のときは絶望したり、  
 妖精達が暴れて絶望してられなくなったり、しばらくして馴れてあいつらを利用する便利さに驚嘆したり、  
 今では、妖精達が現れる前と同じような安定した精神状態を保てている。  
 ごくごく自然な形で共生できている。  
 この平穏な日常が、いつまでも続きますように……。  
 
 
 きっかけはなかった。  
 ただ、朝起きてふと部屋の隅に目を向けたらにそれがいた。  
 部屋の隅にだけじゃない。『それ』はいたるところに存在していた。  
 なんてことのない、というにはいささか妖精がいすぎる普通の独身の男の部屋が、  
 一夜にしてホラーハウスになっていた。  
 俺が望む、望まないにかかわらず。  
 
 
「うらめしや〜」  
 
 
       幽霊が見える!  
 
 

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