夏休みが近づいた某日、俺、北園仁は照りつける日差しの中を、暑さにへこたれ  
ながら、てれてれと歩いている。どれくらいへこたれているかと言うと、道すがら  
立小便をしているおっさんを発見し、煙る小水を見て  
「ああ、エルニー尿現象だ・・・」  
などと、くだらない事を考えてしまうほどに、へこたれている。なにせ、今年の  
夏は暑いのだ。おかげで体力だけが自慢の俺も、少々バテ気味である。  
「アイスでも食いたいが、金は無いし・・・」  
俺は帰路の途中にある駄菓子屋、『金玉堂』を見て、そんな事を思う。ちなみに  
この店は『きんぎょくどう』と読む。これは将棋の好きな店主が、駒の名前から  
命名したものなのだが、誰も彼もが『きんたまどう』と呼んでいる。年頃の女性  
には、赤面もののネーミングだ。  
「暑い・・・」  
余計な思案をしたためか、俺のへこたれ度は限界に達した。足がもつれ、道の端  
へよろけて行く。が、その時  
「仁!しっかりしなさい!」  
と、いう声と共に、誰かが俺の体をがっちりと抱きかかえた。こ、この声は・・・  
「ああ、お姉ちゃんか・・・」  
「お姉ちゃんか、じゃ、ないでしょ!しっかりして!」  
声の主は我が姉、北園遼(はるか)。俺より三つ年上の高校一年生で、母さんの  
美しさと強さを受け継いだ女(ひと)である。俺は姉ちゃんに抱きつきながら、  
「お姉ちゃん、俺、アイス食いたい」  
と、さりげにおねだり。すると姉ちゃんは  
「今、買ってくるから!あッ、ちょうど『きんたま堂』があるわ!待ってなさい」  
そう言って、『きんぎょく堂』へ走っていった。俺は道の縁で座って待つ。やはり、  
姉ちゃんもきんたま堂と呼んでいるのか、などと思いながら・・・  
 
「はい、仁。ガリガリ君よ!さあ、元気を出して」  
姉ちゃんは『金玉堂』で買ってきたガリガリ君を差し出しながら、心配そうに  
俺を見据える。ガリガリ君を食いつつ、俺は言う。  
「ありがとう、お姉ちゃん。おかげで生き返ったよ」  
「全く、この子は、お姉ちゃんに心配させて・・・」  
姉ちゃんは、心底心配そうにそう答えた。ご覧の通り、我が姉は弟にちょっと  
甘い。俺はそこにつけ込んで、日頃から姉ちゃんに甘えっぱなしなのだ。  
「立てる?仁」  
「うん」  
姉ちゃんはそう言いながら、俺の手を取った。この時、しゃがんだ姉ちゃんの  
スカートの中が見えて、ちょっと萌え。白パンツなり。  
「よし、じゃあ、帰ろう。お姉ちゃんの肩につかまりなさい」  
「えっ!いいよ、恥ずかしいよ」  
「バカね。何が恥ずかしいっていうのよ。姉弟じゃないの。さあ・・・」  
姉ちゃんは、恥ずかしがる俺をひょいと担ぎ上げ、しっかりとした足運びで  
歩き出す。実は姉ちゃん、中国拳法を良くとし、恐ろしい程の功夫を積んで  
いる。それは、映画『少林寺』でもお馴染みの震脚(足を高く上げ、地面を  
踏み鳴らす基礎練習)で、コンクリートの床を踏み抜く力を持っているのだ。  
ある時などは、姉ちゃんの震脚を近所の人が地震と勘違いをして、大騒ぎに  
なったほど。しかし、母さんはそんな姉ちゃんを見て、  
「あの子なら、ライオンとも戦えるわね」  
と、目を細めていた。世界中どこをさがしても、我が娘がライオンと戦える  
事を喜ぶ母親など、我が家だけであろう。そんな母娘関係に、ちょっと萎え。  
 
「ねえ、仁。ここ・・・誰か引っ越して来たんだね」  
家まであと少し、という所で、姉ちゃんが俺に問い掛ける。それは、つい先日  
まで空き家だった場所。  
「そうらしいね。でも、なんか妙な雰囲気だなあ・・・」  
俺は姉ちゃんに相槌を打ちつつ、その家を観察した。真新しい表札には『蚊藤』  
とある。『かとう』って読むのかな?  
「・・・仁。お姉ちゃん、この家から何かただならぬ気を感じるわ。いい?絶対  
ここに入っちゃ駄目よ」  
「うん」  
姉ちゃんは気を読むことも出来るので、きっとこの家には何かある。君子危うき  
に近寄らずの言葉もあるので、この言いつけは守ろう。  
「いい子ね。うふふ、仁はお姉ちゃんの言うことは、何でも聞く子だもんね。  
もしかして、お姉ちゃん子かしら?」  
「違うよ!」  
「あら、お顔が真っ赤よ」  
姉ちゃんは何故か満足げに頬を緩め、俺を見遣る。そして何か恥ずかしい姉弟は  
再び歩き始めたのだが、俺はここで気づくべきであった。『蚊藤』という家の窓  
から、俺たちに注がれる熱い視線を・・・・・  
 
 
「仁、小麦粉を買ってきて頂戴。コンビニまで行かなくても、『きんたま堂』さん  
にあるはずだから、ひとっ走り行って来て」  
「うん」  
その夜、俺は母さんにそう言われ家を出た。やはり、母さんもきんたま堂と呼んで  
いるのか、などと思いつつ・・・  
「♪母さんも、姉ちゃんも、きんたま、きんたま〜♪・・・ん?」  
即興で俺ソングを口ずさみながら、金玉堂へ向かう途中、件の家の前に差し掛か  
った俺は、そこで一人の少女を発見する。  
「・・・・・」  
年齢は俺と同じくらいか、そう変わらないって感じ。目鼻立ちはくっきりとして  
おり、何か外人モデルさんのような雰囲気である。  
「・・・・・」  
彼女は何か言いたげな表情で俺を見ている。もしかして、一目惚れってやつかな?  
・・・・・いや、まずそんな物好きは、いないよな・・・。  
「こんばんは。君、新しく引っ越して来た人?」  
「・・・うん」  
俺が問い掛けると、彼女はそれこそ蚊の鳴くような声で答える。なるほど、それで  
『蚊藤』さん、か!などと思う。  
「そう。俺、北園仁っていうんだ。すぐ近所だよ。実は昼間ここを通ったんだけど」  
「・・・うん、知ってる。見てたから。女の人と一緒にいた・・・」  
自己紹介をすると、意外な答えが返ってきた。どうやら彼女は、俺と姉ちゃんの姿  
を家のどこかから見ていたらしい。  
「そうか。あれは俺の姉ちゃんなんだ。今度、紹介するよ」  
「・・・うん」  
俺はなるべくにこやかに振舞ったのだが、彼女の反応はイマイチである。照れ屋  
さんと見た。  
 
「仁君って言ったよね。あたし、ソアラっていうの。・・・ねえ、お友達になって  
くれる?」  
彼女は俯きながら、そう呟いた。少し寂しげな横顔に、ちょっと萌え。  
「ソアラちゃん?いい名前だね。ようし、今から俺たちは友達だ」  
「本当?」  
「ああ、よろしく」  
俺がそう言うと、彼女の顔がぱあっと明るくなった。うん、可愛い。  
「じゃあ、うちに遊びに来て!今すぐ!」  
「ええ?あ、う、うん・・・」  
彼女は言いながら俺の手を取る。母さんのおつかいが気になったが、美少女の  
お誘いも拒みにくい。  
「さあ!仁君」  
ぐい、と俺の手を引っ張るソアラちゃん。彼女の手には意外にも力が込められて  
いて、拒否を許さないといった加減である。  
「ああ、引っ張らなくてもいいよ。それじゃあ、お邪魔します」  
ソアラちゃんに誘われ、玄関へ向かう俺。その時、誰が触れる訳でもないのに、  
ドアがすうっと音も無く開いた。  
「!!」  
俺はここで昼間に姉ちゃんから聞いた言葉を思い出し、身震いする。  
「この家から、ただならぬ雰囲気を感じるわ。近づいては駄目」  
しかし、時すでに遅し。俺は蚊藤さん宅の玄関へ、無抵抗のまま吸い込まれて  
行ったのである・・・・・。  
 
俺たちが玄関を抜けると、これまた誰が触れるわけでもないのに、すうっと  
ドアが閉まった。奇怪なり。家の中を見回すと、調度の取れた家具が見える。  
何か、中世のヨーロピア〜ンって感じだ。すると、俺の背後から  
「ソアラ、お客さんかね?」  
と、いう言葉とともに、身の丈が二メートルはあろうかという、細身のおっさん  
が現れた。  
「ええ、パパ。こちらは仁君っていうの。お友達になったの!」  
「それは、良かった。よろしく、仁君」  
ソアラちゃんとおっさんの会話から、二人が親子である事に疑いは無い。が、  
問題はこのおっさんの出で立ちである。顔つきはどこか外人っぽく、目つきが  
鋭い。そして、夜とはいえ、くそ暑い真夏の今にマントを羽織っているのだ。  
しかもそんな服装であっても、顔には汗ひとつかいていない。更には・・・  
(何時の間に俺たちの背後へ?しかも、まったく気配を感じなかった!)  
そんな疑問が、俺の脳裏を掠める。  
「仁君、あたしのお部屋へ来て。一緒に遊びましょう」  
「う・・・うん」  
おっさんを怪しむ俺から何かを感じ取ったのか、ソアラちゃんが急かしつける。  
すると、おっさんは、  
「仁君・・・ソアラと仲良くしてやってくれたまえよ。ははは・・・」  
そう言って乾いた笑いを俺に向かって浴びせた。何か危険な予感・・・・・。  
 
「待ってて、今、お茶を淹れてくるから」  
俺を部屋に案内したソアラちゃんは、そう言いながら廊下へと消えていく。  
それを好機とばかりに、彼女の部屋の中を見回す俺。  
「あっ!あれは・・・」  
ついっと視線を窓に向けると、そこには可愛らしい下着が干してある・・・。  
なんだか、子供用のパンツとキャミって感じの下着だ。当然、手にとって  
見る。勿論、臭いも嗅ぐ!  
「くんくん・・・なんか、血の匂い・・・?」  
お子ちゃまパンツとはいえ、ソアラちゃんが穿いたとなれば、萌え度は高い。  
血の匂いは、女の子の日によるものだろうか、などとトンチンカンな事を  
考えつつ、俺は机の上にある日記帳と思しき物に目を遣った。ぺらっと表紙を  
めくり、ちょっと拝見。ページはちょうど昨日の日付けの所。  
「きれいな字だな」  
人さまのプライバシーを勝手に盗み知る、などという事はいけないと思いつつも、  
美少女の日記を読みたいという好奇心が俺の背中を押す。どれどれ・・・  
 
O月X日  
今日、初潮が始まった。あたしもとうとう、吸血鬼になってしまう。  
ああ、男の人の精が欲しい!どうしたら、いいの・・・  
 
えーと・・・この文章から察すると、ソアラちゃんは電波系の女の子?  
ではなく・・・きゅ、吸血鬼?何かのギャグでしょうか・・・?と、その時  
俺の背後から、凄まじい怒気が沸き起こった。  
 
「!?」  
部屋の中であるにも関わらず、何故か恐ろしいほどの風が吹き始める。そして、  
その中心にはティーポットを手にしたソアラちゃんがいた。  
「見たんだね、仁君・・・」  
彼女の髪は逆立ち、少女とは思えない迫力を醸し出す。その姿はまさに吸血鬼。  
「ソアラちゃん、君は・・・」  
俺は後ずさりしながら、脱出口を探した。隙あらばトンズラを決め込もうと  
いう訳だ。が、しかし。  
「どこへ行こうとしているのかね?仁君」  
うわあ!と、思わず叫びそうになった俺。何時、どうやってかは分からないが、  
玄関で会ったおっさん、すなわちソアラちゃんのパパが、俺の背後に回って  
おり、行く手を阻んでいたのである。  
「お、お前たちは・・・もしかして、吸血鬼の方々ですか・・・?」  
「ご名答。仁君。勘がいいね」  
俺の問いにおっさんはにこやかに答える。その時、笑みのこぼれた口元から  
二本のキバを発見し、背中に冷たい汗が流れる。そして、対面に立つソアラ  
ちゃんんがティーポットを床に置き、  
「仁君、ごめんなさい。でも、どうしようもないの・・・」  
と、言いつつ、着ている物を脱ぎ始めた。  
「!!!」  
ぱさっ、とソアラちゃんが着ている服が床に落ちる。ブラジャーなどは  
着けておらず、いきなり生乳がお目見えした。微乳ではあるが、真っ白い  
肌の上にこんもりと小山を作っている。更には、乳房の頂点にあるピンクの  
イチゴちゃんが完全勃起中!萌え!そして、おへそ近くまであるお子ちゃま  
パンツの股布部分を凝視すると、なんと!そこには大きなシミが!激萌え!  
 
ソアラちゃんは足をもじもじとさせ、目もうつろ。どうやら女性としての官能に  
目覚め始めているらしく、しきりに指をお股の辺りへ這わせている。  
「ああ・・・パパ、あたしどうすればいいの・・・?」  
「仁君のおちんちんを吸いなさい。それで渇きは癒される」  
吸血鬼親子の間に流れる珍妙な会話。お、俺のポコチン君を吸う?待ってました!  
ではなく・・・何のつもりだ!  
「すまんな、仁君。ちょっと協力して頂くよ」  
吸血鬼のおっさんがそう言うと、突然、俺の服が破れ飛んだ。ああ!ユニOロで  
980円で買ったポロシャツが!  
「ごめんね、仁君。おちんちん、ちょっとだけ、吸わせて・・・」  
ソアラちゃんが俺の前に跪き、ポコチン君を手に取った。そして、  
「あむ・・・」  
と、舌を絡ませながら、ちゅうちゅうとMY・ポコチンを吸い出し始める。  
「ううっ!」  
ソアラちゃんにポコチン君を吸われた途端、俺の腰に強烈な快感が走った。何か  
理性を丸ごと持っていかれそうな、そんな快感。うう、気持ち良い!  
「ソアラ、美味しいかい?」  
「うん!最高!ああ、仁君のおちんちん、美味しいよう・・・」  
おっさんが問い掛けると、ソアラちゃんは口の周りを唾液でべとつかせながら、  
にこやかに答える。それは、長らく砂漠を歩いた旅人がオアシスを発見し、芳醇  
な純水にありついたような表情だった。  
 
「んん〜・・・んっ、んっ・・・」  
俺のポコチン君を掴み、一心不乱に唇でしごくソアラちゃん。萌え。  
「ああ、ソアラちゃん・・・そんなに強く吸っちゃあ・・・駄目だ・・・」  
愛らしい少女の唇によるご奉仕に、俺は腰砕け気味。  
「ゆっくり味わうんだよ、ソアラ。なに、仁君は逃げやしないさ」  
おっさんは愛娘にそう囁き、ソアラちゃんはこくこくと頭を上下させる。その  
動きがポコチン君のカリ首を刺激して、これが何とも・・・イイ!  
「仁君。ソアラの食事が終わるまで、私が訳を話そう。実は私たち親子は吸血鬼  
なのだ。ヨーロッパのある地方で迫害から逃れて、この日本に来た。もう、百年  
近くになるか」  
食事?おっさんは確かに、食事、と言った。俺のポコチン君が、ソアラちゃんの  
ご飯なんですか?あっ!ソアラちゃん、やんわりと玉を掴んだ!いいぞ!  
「私は日本へ来てから、日本人女性との間にソアラをもうけた。可愛い一粒種だ。  
ちなみにその女性は、私が吸血鬼と知って、ソアラを置いて逃げてしまったがね」  
この時、ソアラちゃんの顔が一瞬、曇った。しかし、ポコチン君は咥えたまま。  
「通常、吸血鬼といえば、血を吸うものだが、私は女性からちょいと精気を吸う  
だけで、命を永らえる事が出来るようになった。それは、ソアラも同様だ。勿論、  
精気を吸う相手は、異性と決まっているがね」  
ここでソアラちゃんが、上目遣いに俺を見る。気持ちいい?とでも聞いている様  
だ。そして、再び唇で俺のポコチン君をしごく。きゅっ、きゅっと。  
 
「ソアラも先日、初潮を迎えて、一人前の吸血鬼になった。そこで、どうしても  
異性の精気を欲してしまう。そこで、君の出番だ」  
そうなんですか、と俺は心の中で答えた。いや、なにせ、ソアラちゃんのおフェラ  
があまりにも気持ち良くて、思考能力が欠落しかけてるんで・・・。ああ、ソアラ  
ちゃん、夢中で俺のポコチン君を吸ってる・・・。  
「そこで、君にも吸血鬼になって貰おうと思ってね。なあに、ちょっと太陽の日差  
しには弱くなるが、吸血鬼の生活も悪くはないよ。ちょっと夜型の生活になるけど、  
夜は墓場で運動会。そして、試験もなんにもな〜い♪・・・」  
この、古今東西に及ぶ、吸血鬼映画の設定をパクリにパクッた様なおっさんの存在  
が腹立たしいものの、精気を吸われているせいか、俺に抗いの気持ちは無い・・・。  
ああ、俺もとうとう、吸血鬼の仲間入りか・・・などと思っていると・・・  
ガシャン!  
という、ガラスの割れる音が室内に響き、どこかで見たようなお人が現れた。  
「仁!」  
その人は俺の名を呼び、ぷるぷるとおっぱいを揺らしながら、こっちへやって  
来る。あ、あれは!姉ちゃん!いや、姉ちゃんは高校生でありながら、Hカップ  
のスーパー爆乳を持つ、グラマラス・レディ!それを見た俺は、当然、激萌え!  
「ファ、ファイヤーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」  
俺はソアラちゃんの唇からポコチン君を抜き、姉ちゃんに向かって射精!しかし、  
「キャーーーーーーーーーーーッ!仁、お姉ちゃんにナニを向けてるの!バカ!」  
姉ちゃんは、俺の子種をスウェイで避けた。うーん、やはり母さんより素早い。  
 
「仁から、離れろ!」  
姉ちゃんはそう言って、吸血鬼親子を睨み付ける。すると、おっさんが、  
「処女・・・処女の匂いがする」  
と、姉ちゃんを、いやらしい視線で見据えた。途端、姉ちゃんの頬が紅に染まる。  
「下衆なやつね・・・許せないわ・・・」  
それは、おっさんの言葉を肯定した怒りの反駁。そんな緊張した場面という  
のに、俺といえば姉が処女だと聞いて萌えていた。もう、馬鹿かと!阿呆かと!  
「ふふふ、飛んで火にいるなんとやらだ。処女の精気・・・吸わせてもらおうか」  
おっさんが姉ちゃんのほうへ向き直った。あ、危ない!俺は直感的に叫ぶ。  
「お姉ちゃん!俺に構わず、逃げてくれ!」  
しかし、姉ちゃんは不敵にも微笑みを返し、  
「この化け物たちに、武術(うーしゅう)の真髄を見せてあげるわ」  
と、静かに構えを取った。あれは、武檀の最高技、八卦掌!  
「姉ちゃん、こいつらは吸血鬼なんだ!姉ちゃんも、精気を吸われちゃうよう!  
俺に構わずに、逃げてくれ〜!」  
俺はポコチン君を丸出しにしたまま、半泣き。いくら拳法の達人でも、妖怪  
相手では敵う訳が無いと思ったのだ。しかし!  
「しゃッ!」  
吸血鬼のおっさんが姉ちゃんに飛び掛る。そこで我が姉は身を翻し、拳を突き  
出した。  
「せいッ!」  
その一瞬の攻防の中で、俺は見た。姉ちゃんの体から螺旋状に立ち上る気の  
流れを!あ、あれは発剄!  
 
「うおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーッ!」  
姉ちゃんの打撃を食らったおっさんは、五メートルくらい吹き飛んで壁に  
張り付いた。その姿はまるで破れたコウモリ傘のよう。  
「見たか!化け物め!」  
姉ちゃんは拳を引いて、気を静める動作をしつつ、そう叫んだ。ふと見ると、  
姉ちゃんの足元から、煙がくすぶっている。これは、踏む込みの強さを表す  
ものだ。しかも、床を踏み抜く事無く、瞬拳力を全ておっさんに叩き込んで  
いる。この時、俺は助けてもらって何だが、どっちが化け物か分からない、  
などと思っていた。  
「パパ!」  
父親を心配したソアラちゃんが、泣きながらおっさんに近寄って行く。その涙  
はどう見ても、普通の人間と変わらない。同じ涙がキラリ。  
「・・・・・仁、帰るわよ。この化け物も、しばらくは動く事も出来ないから」  
姉ちゃんがそう言って、俺をこの家から連れ出そうとする。姉ちゃん!俺、裸  
なんだよ!何か着る物を!  
「・・・・・ごめんなさい、仁君」  
俺と姉ちゃんがソアラちゃんの脇を抜け、部屋を出る時、彼女は小さく呟いた。  
「あたし、お友達が欲しかったの・・・本当よ・・・」  
ソアラちゃんは背中を向けていたが、肩の震えで泣いてる事が分かる。俺は  
彼女に何か言葉を掛けてやりたかったが、  
「仁!」  
と、いう姉ちゃんの声に一喝され、無言で部屋を出たのであった・・・・・。  
 
帰り道、俺は蚊藤さん宅の庭に咲いていた蓮の花をちょいと失敬して、お股に  
装着。うん、なんかセクシー。そして、姉ちゃんの手に引かれ、とぼとぼと歩き  
出す。なんか、惨め。  
「お姉ちゃん、助けてくれてありがとう。でも、よく俺があそこにいるって、  
分かったね」  
ようやく冷静になり、姉ちゃんに俺を見つけた経緯を問う。すると、  
「姉ちゃんはね、仁の気を追ってきたの。うふふ、姉ちゃんからは逃げられない  
ぞ!仁」  
と、頬を緩める妙な姉ちゃん。ちょっと、ブラコンの気があるな、この人。  
「仁、『きんたま堂』で、母さんのお使いを済まそう。ホームランバーも買って  
あげるね」  
「うん。お姉ちゃん」  
「うふふ。お返事だけはいいんだから、仁ったら!」  
そうして、俺たちはそんな会話を交わしつつ、買い物を済ませ、家路についたの  
であった・・・・・。  
 
翌朝、蚊藤さん宅の前を通った俺は、ふとソアラちゃんの部屋を見た。すると、  
カーテンがちょっとだけ開いており、そこから少女の顔が見えた。ソアラちゃんだ。  
やっぱり吸血鬼だけあって、太陽光の下には出られないらしい。彼女は何か  
言いたげな表情をしている。そこで俺はおどけたように手を振り、  
「今度、日傘をプレゼントするから、どこかに遊びに行こう!友達だろう?  
俺たち!」  
と、叫んだ。途端、何か泣いたような笑顔を見せるソアラちゃん。彼女にして  
みれば、好き好んで吸血鬼になった訳ではないのだ。男、北園仁、些細な事は  
気にしないのである。  
 
「それに、ちょっとだけ、あの濃厚なおフェラが名残惜しい」  
などと、本音もポロリ。すると、背後から恐ろしいほどのオーラが・・・  
「ひ〜と〜し〜・・・・・」  
俺は振り向かない。いや、振り向いてはいけない。こんなオーラを身に纏う事が  
出来るのは、この町おいてはただ一人。そう、我が姉、北園遼。その人である。  
「ダッシュ!」  
俺は振り向きもせず、走り出した。そして、姉ちゃんの叫び声が響く。  
「こら!仁!あんたって子は、お姉ちゃんが命がけで戦ったというのにも関わらず、  
あの吸血鬼と、またデレデレして・・・許さないわよ!」  
逃げ足自慢の俺と、五間の間合いを一瞬で詰める姉ちゃんとの追いかけっこ。  
これも、姉弟のコミュニケーションのひとつ。・・・と思いたい。  
「ごめんよう!お姉ちゃん!」  
「こら、待ちなさい!仁!」  
走る俺たちの前に小さな陽炎が沸き、夏本番を知らせてくれた。そして、塀の  
上にいる猫があざ笑うかのように、あくびをしている。ああ、平和だなっと・・・。  
 
おちまい。  
 

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