俺の眠気は、頭部を襲う痛烈な一撃によって吹き飛んだ。  
「モウアサダゾ、ハヤクオキヤガレ、コンチクショウ」  
「っつー!!、いてぇな、このやろう!!」  
ふた昔前の据え置き型ファンヒーターに履帯とマニュピレーターをつけただけの、超安物。  
そんな家事手伝いのロボットと一緒に暮らしている俺は、ご想像のとおり冴えない万年平社員だ。  
今日は休日だが、あいにくいっしょにデートしてくれるカワイコちゃんもいない。  
「コーヒーデキタゾ、ノミヤガレ」  
いつだったか、間違ってボンゴレスパゲッティと大量のタバスコをコイツにぶっかけちまってから、  
言語回路がいかれちまったようだ。  
修理するのも高く付くし、とりあえず放置している。  
どうせなら、ボーナスまで待って、カワイコちゃん型の中古モデルでも探してみるか、と考えたからだ。  
俺のスズメの涙ほどのボーナスでも、中古ならば何とかなるだろ、と、あえてカタログは見ない方向で。  
今、中古カタログを見ちまうと、そんな夢もあっさり崩れそうでいやだったからな。  
「セッカクノヤスミナンダカラ、『バーチャルシアター』ニデモイッテキタラドウダ、コノゴクツブシ」  
こいつの作る、不味いけどなんだか懐かしい味のするコーヒーを飲み干した後、俺は家を出た。  
『バーチャルシアター』に向かうためだ。  
昔の映画みたいに目で映像を見て耳で音を聞くタイプじゃなく、脳に直接ストーリーの記憶を植え付けるタイプの娯楽施設だ。  
ここでは、ある程度なら個人が望むストーリーを組み立てて楽しませてくれる。  
俺みたいな、現実世界に夢も希望も無い安月給が幸せな夢を見れる、ゴキゲンな娯楽って訳だ。  
 
 
「いらっしゃいませ。今日はどのようなストーリーをお望みですか?」  
オペレーターの女の子が、俺のリクエストを取りに来た。  
「そうだなぁ、君みたいな可愛い女の子とのラブシーンがあるやつを頼むよ」  
俺の、半ば習慣と化した口説き文句を、完璧な営業スマイルでさらりと受け流した彼女は、  
我侭な俺のリクエストから、適当なものを見繕ってくれた。  
・  
・  
・  
「っておい、こりゃどーゆーことだよ!!」  
俺は追われていた。  
銃を持った大勢の荒くれ者に追いまわされて、ただひたすら逃げ回っている。  
おかしいぞ、おれ、スーパーマンって設定のはずなのに!!  
女の子にモテモテの、ラブロマンスだったはずなのに!!!  
銃も持たない丸腰のまんまで逃げるのも、とうとう限界がやってきた。  
断崖絶壁に追い詰められた俺に、荒くれ者の一人が言う。  
「そろそろ観念して、『伝説のアンドロイド』の情報を渡すんだ!!」  
なんだ? その『伝説のアンドロイド』ってのは!!  
そんなものは知らん!! 聞いたことも無い!!!  
エリスのことは、もう諦めたんだ!!  
・・・・って、おい、おれ、何でこんなことを知ってる!?  
3体のアンドロイド・・・彼女たちの・・・・  
そこまで考えたところで、俺の意識は途絶えた。  
どうやら殺されたらしい。  
・  
・  
・  
「やれやれ、ひどい目にあった」  
寝起き最悪の俺が装置から起き上がると、さっきのオペレーターが、にこやかに出迎えた。  
「いかがですか、お楽しみいただけましたか?」  
最悪だよ、とだけ答えて立ち去る俺に耳に、彼女のつぶやきが聞こえた。  
「おかしいですねぇ、無敵のスーパーマンがハーレムで女の子といちゃいちゃするだけの話なのに・・・」  
 
 
俺は、いやな予感がした。胸騒ぎ、虫の知らせ、とにかく悪い予感だ。  
案の定、帰ってみると部屋が荒らされていた。  
「ロビー・・・」  
俺が愛用していた無愛想なロボットは、ボディに大きな風穴を開けて横たわっていた。  
いったい、これはどういうことだ。  
ただの空き巣なのか?  
・・・いや、そうじゃない、何かが違う。  
俺の頭の中、本能のようなものが、俺に警鐘を鳴らす。  
そのとき。  
背後で物音がした。  
振り返った俺は、まだ残っていた襲撃者を見つけると、  
いつもの動作で、  
左手に仕込まれた銃を抜き、  
頭の中で、  
引き金を引いた。  
 
ズキュゥン!!  
 
その襲撃者は、胸を撃ち抜かれて、驚きの表情のまま倒れた。  
だが、一番驚いているのはこの俺だ。  
俺の左手、その肘から先が、銃になっている。  
いったい何なんだ、どうなってやがるんだ!!  
俺は、そのとき襲った激しい頭痛に倒れそうになった。  
そのとき。  
「ご主人様、あぶない!!」  
ごあん!!  
鈍い金属の音、それと何より、可愛らしい少女の声に、俺は頭痛をこらえて背後を見た。  
そこには、倒れているもう一人に襲撃者がいた。  
頭から派手に血を吹き流している。  
そいつの隣には、無残に壊れた手伝いロボット。  
そして、そのロボットから抜け出した、でっかい中華鍋を持った、ブルマと体操服の美少女。  
「大丈夫でしたか、ご主人様!」  
俺は、彼女の姿を見たときに、自分の記憶が蘇ってくるのを感じた。  
記憶を封印していた幾重もの厳重な鎖が、彼女の姿を鍵にして、一瞬で消し飛ぶ。  
「ああ、問題ない、メイファ」  
自分の名前を呼ばれた彼女が、ぱぁっと輝く笑顔で俺に飛びついてくる。  
「全部思い出したんですね!!」  
そうだ、おれは思い出した。  
おれは、宇宙海賊。  
誰にもなびかない、一匹狼。  
高性能アンドロイド、メイファを連れて、広い宇宙を気ままに生きる男。  
 
おれは、殺伐とした生活に嫌気が差し、少しの間だけ休息を取ろうと、記憶を封印した。  
そしてメイファは家事ロボットに潜んで、おれの復活を待った。  
おそらく、バーチャルシアターの刺激がきっかけになって、記憶復活のタイマーが前後したのだろう。  
 
 
「これからどうなさるんですか?」  
死体を片付け、律儀に部屋の掃除をはじめたメイファが聞いてくる。  
「そうだなぁ、平和だけど退屈な生活にも、そろそろ飽きてきたところだ。よし、海賊家業に復帰といくか!」  
やったぁ、とブルマ体操服のメイファが、ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶ。  
 
よし、それじゃあさっそく、『伝説のアンドロイド』を探しにいくか。  
そのためにはまず、謎の鍵を握る3体のアンドロイド姉妹と接触しないといけない。  
くーっ、腕がなるぜ!  
 
・・・っと、その前に、物欲しそうにしてるメイファを可愛がってやるか。  
久しぶりに、こってりと、たっぷりと、な♪  
 
 
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