春うららかな日。
今日は家の大掃除。
使わなくなった両親の部屋、それをこの際整理してしまおう
と思ったのだ。
僕の仕事は本の整理。
紐で縛った大量の本に占拠された居間に、またガタゴトと
音をたてて本棚が運ばれてくる。
「あとはタンスもこっちにおろしちゃいますね、柚木さん」
「うん、でもさあアリサ」
「何ですか?」
「今更なんだけど、普通は本おろしてから持ってこない?
そういうのは」
「いいじゃないですか、こっちでやった方が広くて」
「そうだけどさあ。なんかメイドなのに横着だなあ」
「失敬な!効率的と言ってください!」
そういって僕の目の前に本棚をおろす。
もちろん、並の人間じゃ持ち上がらない重さだ。
本気になればアリサにはそのぐらいの腕力は備わってる。
「あ、ちょっとがんばり過ぎちゃいましたか、もうバッテリー
が切れかかってるんで、タンス卸したら一休みして充電してきますね」
そのかわり、それ相応に電力は消費するみたいだけど。
「うん。後は僕がやっとくよ」
「はい、急速充電終わったら戻りますから。それまでお願いします。
んじゃいってきます」
「タンスは重いから気をつけてね」
「は〜い」
さぁて、ちゃっちゃと仕事を終わらせよう。
ああ、早く夜にならないかなあ
四ヶ月前のある夜。
アリサはいつになく厳しい顔をして僕の目の前に座った。
「柚木さん」
「なに?」
別に怒られるような事した覚えはないんだけどなあ。
「あともう少しで柚木さんは高校受験ですね」
「そうだね」
「毎日、遅くまでお勉強してらっしゃるのはよくわかります。
ですがっ!」
……。
「ここの所、毎日毎日お勉強の後に私の部屋にいらっしゃって
ますよね」
……だ、だって。
ストレスたまるし……。
「むしろ、最近の柚木さんは「早く勉強終わらせてアリサの
所にいこう」と思ってらっしゃいませんか?」
……。
「いえ、そう思ってくださるのは私としては幸せです。本懐です。
でも!これでは柚木さんの為になりません」
そ、そうかなあ。
「求められるままに与えてしまった私にも落ち度があります。
そこで!」
キッ!とこちらを凝視してくる。
「これから四ヶ月、柚木さんが高校に合格するまではお相手、いたしません!」
「えええええええええっー!!!」
「ええー、じゃありません!それくらい我慢して下さい!」
お、女の体を覚えてしまった若い身にそれは辛すぎる試練ですよ、
アリサさんっ!!
「無論、えっちな本も購入禁止ですよ!いえ、そっちの方が問題……、
じゃなくて!ともかくあと四ヶ月間は勉強に専念です!」
「ありさぁ……」
「そ、そんな声だしてもダメですっ!……その代わり」
「え?」
「合格したら……一晩中。いろいろしてあげます。我慢しろとか
言わないで」
「……僕、頑張る」
「はい、柚木さん。いい子です」
で、今日がその約束の日な訳だ。
ああ……時の流れが遅く感じる。
さーて、本の整理を先に片づけちゃおう。
そう思って数冊、手に取ったとき。
「きゃあああああっ!!」
ガタンッ!!
大きな物が倒れる音がして、家が揺らぐ。
「アリサぁっ!!」
慌ててアリサがいる物置部屋へ駆けていく。
ドアを開くと、予想通りタンスが倒れている。
でも、アリサの姿がない。
何処、何処だ……。
ま、まさか……。
「うわぁあああ、アリサぁああああっ!!」
彼女は、大きなタンスの下敷きになって機能停止していた。
「ふう……。何とか落ち着いたね」
「ご、ごめんなさいぃ……。面目ないです」
そういって俯くアリサ。
「しょうがないよ。予想外ってヤツだし。でもまあ、片づけは
また改めてやらないとね」
「そうですねぇ……」
しかし。
……落ち着かないなあ。
「あ、あんまり見ないでください……。恥ずかしいです、この格好」
そうは言っても目に入っちゃうし。
「何だか置物になったみたいで……」
そう。
今の彼女は上半身、腰から上だけの姿だった。
それがテーブルの上に鎮座している。
下半身はといえば、その横でスカートをつけて足を投げ出していた。
昼間、タンスを持とうとアリサが最大出力をかけようとした時。
彼女の腰のジョイントが音をたてて砕けた。
どうも、劣化してヒビが入っていた所にトドメをさしてしまったらしい。
……しばらく前から腰を使いすぎていたのが原因、とかじゃないと思う。多分。
で、業者に電話してみたが部品調達には数日かかる、との事でこの通り
のあられもない姿になっている訳だ。
「まあ、何にせよ大事じゃなくて安心したよ。タンスの下敷きになってるの
を見たときには……」
「ごめんなさい……。本当に」
「いや、いいんだ。いいんだけど……。まさかぎっくり腰ってねえ」
「!!ひ、ひどいです柚木さん!ぎっくり腰なんて!お婆ちゃんみたいじゃないですか!」
「えー、だってそうじゃん」
「……そうですね。もう私、そろそろガタが来てるの自覚をしないと……」
「……ち、違う、そんな意味で言ったんじゃ……。ゴメンよぉ……」
「うふ。冗談です」
……。
「えーと、ごめんなさい。さすがにこれじゃご飯の支度は出来ませんので……」
「うん。適当に何か食べるからいいよ」
「はい、あと今日の約束ですけども……」
あ、そうか。
「い、いいって!気にしないでよ。部品が来たらお願いするから」
「いいえっ!柚木さんが約束を守ったのに、そんな訳にはまいりません!
今日、お相手させていただきますとも!」
ベッドの上に置かれたメイドの上半身。
えらくシュールな光景。
どうしようか、と戸惑っていると、アリサは自分で服のボタンを
外しはじめた。
「こんな格好じゃ、ムードも何もないですからねえ。ちゃっちゃと
脱いじゃいますね」
器用に腕を回して体を持ち上げながら、シャツを床に脱ぎ捨てると、
腰のジョイントと、むき出しになったコードの類が露わになる。
「あ……」
ちょっと、見てはいけない物を見たような気分になった。
いや、グロテスクだとかそういうんじゃなくて。
アリサが気にするんじゃないかと思った。
が。
「柚木さん。今更こんなの気にしませんって。別に人間と
違うのなんて当たり前ですから。人間は人間、ロボットはロボット。
人間がこんなになってたら大変ですけど、私は機械なんですから
当然ですよ」
……何で、僕の考えてる事はすぐ解るのかなあ。アリサは。
「……でも。そういう風に考えられる様になったのって。
快楽中枢回路がない私を、柚木さんが受け入れてくれて、この
メンテハッチがある胸を「かっこいい」って言ってくれた。
あの時からなんですよ。柚木さん……」
アリサが目を閉じる。
「キスして」
黙って彼女の言葉に従った。
「ん……」
さて。
これからどうしよう。
「アリサ……」
このまま口でやってもらう、というのはダメ。
アリサは物を飲み込めるようにできていない。
舌はついているけど、それは音声の制御が主な目的。
ちなみに、料理用の味覚センサーは指先についている。
「ええと……、元々今日やらせて頂こうと思っていた事があるんです。
それはこの状態でもできますから。じゃ……」
アリサは仰向けになると、自分の胸に手をかけてその谷間を目で指す。
「ここにどうぞ」
わ。
そっちかぁ!
アリサ、最高っ!!
むに。
そんな擬音が聞こえたような気がした。
僕のモノが大きな、白い乳房に挟まれている。
「どうですか?気持ちいい?」
はい。
とっても。
いつもとは違う刺激。
「そうですか……じゃ、今日は約束通りもっとサービスです」
そう言うと、彼女は自分の胸を掴んで両側からマッサージを始める。
「あ、ありさぁ……」
うわわわわ。
「感じますか?」
うん。
凄く。
幸せ……。
うっとりとして目を閉じる。
全ての感覚が、僕自身に集中していく。
ああ……もうどうなってもいい……。
と、その時。
無防備で敏感なその先端に張り付く感覚。
慌てて目を開けると、アリサが舌を伸ばして先っぽを舐めている。
「ア、アリサっ!駄目だよっ!!そんな事したら!」
僕が駄目なんじゃない、アリサが間違って精液を飲み込んだりしたら
故障してしまう。
「ん……だいじょうぶ……飲まないように……ん、しますから……。
それに……ん、ゆうきさん……なめてる間くらい……ん。がまん、
できますよ、ね?」
い、いや……。
その……。
「ね?」
うん。頑張る。
「ん……」
ぴちゃ、ぴちゃ。
むに。むに。
頑張ります。
むに。
……やっぱ駄目。
「ごめん……出そう」
アリサはこくん。と頷くと舌を放して口を閉じる。
おっけー。
柚木、いっきまーす!!
「うわー。さすがにいっぱいでましたねえ……」
顔をべたべたにしてアリサが感心したように言う。
「そ、そりゃ溜まってたから……」
「んじゃ、もう一回くらいはいけますよね?」
いけますいけます。
一回と言わず何回でも。
んじゃさっそく。
「あ、ちょっと待って下さい」
「え?」
「今度は違うことしましょ。私の下半身、持ってきてもらえますか?
あとついでにUSB-6ケーブルとドライバーも」
「いいけど……何してくれるの?」
「ないしょ」
そう言って意味ありげに微笑むアリサ。
け、結構重いなあ……。
むっちりとした足を生やしたアリサの下半身は、見た目よりも
かなりの重量があった。
メインバッテリーとかはこっちについてるからなあ。
手がふさがっているので足でけっ飛ばしてドアを開ける。
「まあ、お行儀悪いですよ。柚木さん」
「はいはい」
どさっと下半身をベッドの上に投げ出す。
「もうちょっと丁寧にあつかってくださいよぉ」
「だって重いんだもん」
「あ、ひどいなあ」
「で、どうしたらいいの」
「んー、とりあえずドライバー貸してください」
「うん」
ドライバーを手渡すと彼女は、スカートの中に潜り込みはじめた。
さっきにもましてシュールな光景だなあ。
しばらくかちゃかちゃという音をさせてから、アリサは自分の
スカートから這い出てきた。
そして。
その手には外された女性器ユニット。
……ぶっちゃけて言うと。大人のおもちゃにしか見えない。
「それ、どうするの?」
そのままここで、それに入れさせてもらってもなあ。
「えーと。今日のは「体験版」って所でしょうか」
「何それ?」
「まあまあ。んじゃ次はケーブルください」
「?……はい」
アリサは、女性器ユニットの端にある端子にそれをつなぐ。
「それで、ですね……、今度は」
人間ならへそがある部分の小さなハッチを開ける。彼女はその中の端子に、
ケーブルを差し込んだ。
「これで、準備完了です」
「って、それがどしたの?」
「えーと。知っての通り私は普通に女性器ユニットのコントロール
はできないんですけど……。こうやって外部接続して、人造筋肉を
只のモーターとして無理矢理デバイス認識すれば収縮させる事くらいなら
できるんです」
「え。つまり……」
「そういう事です。細かいコントロールは出来ませんから、
やっぱりちゃんとしたユニットつけた方が気持ちいいはずですけど」
な、なるほど。
「で、これを使わせてあげましょうかと。……でも、あんまりこれやると、
女性器ユニットの方の回路に負担がかかっちゃいますから。今回だけの
特別サービスですよ。それでよろしければ始めましょ」
よろしいです。
とっても。
うーむ。
やっぱり大人のおもちゃ使ってるみたいだなあ。
でも。
あそこの感覚は当然いつもアリサを抱いてるときのモノ、そのまんまだけど。
当然。
「……やっぱ気持ちいいなあ」
久しぶりだし。
「何だか複雑な気分ですねえ。この眺めだと」
「……ほっといて」
「はいはい。じゃ、いきますよ」
きゅっ。
中が強く締め付けられる。
くぉおおおっ!!
これが、これがアリサの本当の力っ!
きっもちいいっ!!
そうとしか表現できないけどっ!!
うおおおおおっ!!
「ほんとに今日だけですよぉ、こんな事するの……。それに、恥ずかしいんだから」
そ、それでは頑張らねばっ!
一秒でも長くっ!
「あらら……結構頑張りますねえ」
そ、そりゃもったいないもの。
「んじゃ……」
とてとてと両手を使って、上半身が僕の顔の方に歩いてくる。
「な、何?」
僕の視界が、意地悪そうな笑みを浮かべたアリサの顔で
一杯になる。
「うふふ……こうしちゃいます」
アリサの手が僕の後頭部に伸びて。
ぺと。
顔が乳房に挟まれる。
柔らかい。
「柚木さん、どですか?」
もう。
死んでもいい。
我慢、やめっ!!
意識が弾ける。
ふううー……。
アリサ、最高……。
「ほらほらー、もっとしちゃいますよー」
あ、あれ?アリサさん?僕もう果てちゃったんですけど。
そうか、女性器ユニットに感覚があるわけじゃないからわかんないのか!
「むくく……」
口が塞がれて意味がある言葉がだせない。
「今日は頑張りますねえ、んじゃもっとご褒美ですよっ!!」
ぐきゅきゅきゅ。い、痛いっ!
締め付けすぎっ!!
「む、むううううっっ!!」
「あ、気持ちいいですかぁ……よかった」
いい、いいですっ!気持ちは、いいんですけどっ!
「むぅうううぉおおおっ!!!」
そのまま、続けて三回搾り取られました。
あれから二週間後の夜。
僕は、修理の終わったアリサといたって普通に体を交わしていた。
「……」
「柚木さん。なーんか不満そうですねえ」
「……」
物欲しそうな顔をしてアリサを見つめてみる。
「そ、そんな顔しても駄目ですよっ!あれは一回だけ!次は大人に
なってからですっ!」
「ありさぁ……」
「そ、それにこの前柚木さんだって大変な事になってたじゃないですか!」
「あ、あれはアリサが口塞ぐから……」
「と、ともかく駄目っ!」
はぁ。
やっぱり駄目かあ。いや、ここはもう少しごねてみよう。
「どうしても、駄目?」
「だめっ!」
「……じゃいいよ。店いくから」
「え?」
「アリサとちがって世間の店はそんなにきっちり年齢確認なんてしないもんなあ」
「し、仕方ないじゃないですかっ!私の場合はシステムがそうなってるんですから!」
「それとも彼女でもつくろうかなあ……」
「そ、そんなあ……」
ああ、困った顔も可愛いなあ。
「わ、わかりましたぁ……。違法パッチでも何でもあてて、セクサロイド機能、年齢認証
なんとかして使えるようにしますよぉ……」
い、いや、そこまでやれなんて誰も……。
「だから、だからぁ……う、浮気なんか……しちゃ……だめ、だめですよぉ……ふぇえええ……」
あ。やば。
「ひっく、ひっく、うぁあああああああん!!ゆうきさぁあああん!やだぁ、やだよぉおお!!
わたし以外としちゃだめぇええええ!!うああああああん!!」
し、しまった。
本気で泣かせてしまった。
「ご、ごめん、嘘、嘘!我慢するっ!大人になるまで我慢しますっ!!」
「ひっうう……。ほんとですかぁ……?」
「うん、うん。本当。ごめんね……」
「はい……」
「んじゃ……今はとりあえず普通にもう一回、やらせて?」
こくん。
くっそー、どこまで可愛いんだろう。
「あ、あと」
「?」
「おっぱいでの方は……たまにはいいよね?」
「……柚木さんのえっち」
−第二話おしまい