いつものように家に戻り、いつものように部屋に戻る。  
「ただいまぁ」  
「おかえりなさいませ」  
 
何度と無く繰り返された会話。  
その相手は、少し旧式のメイドアンドロイド。  
僕にとっての、大切な唯一の家族。  
「由木さん、ご飯は六時くらいでよろしいですか?」  
「う、うん、別にいいよ。」  
「そですか」  
いつもの会話。だけど今日はそれより大事な事がある。  
部屋に急がないと。  
「あら?どうしたんですか。そんなに急いで」  
「な、何でもないよ!アリサっ!」  
「?」  
 
彼女を無視して自室のドアに飛び込む。  
アレは、アレは無事だろうか?  
 
「……ない」  
 
うっかり今日の朝ベッドの上に置きわすれたエロ本。  
それが、ない。  
ない。  
どこにも。  
捨てられたんだろうか。  
それならそれでもう……。  
いや。  
まさかとは思うけど……。  
普段の隠し場所のベッドの下をのぞき込む。  
 
……それはいつもの様に綺麗に積まれていた。  
 
 
「どうしました?柚木さん?」  
今日のおかずはコロッケ。  
「……味、変でしたか?」  
いや、おいしい。  
おいしいよ。  
おいしいけど。  
「……味覚センサー、調整必要でしょうか」  
そんな事ないよ。そう言いたかったけど、アリサと言葉を交わせない。  
僕は俯いたまま、飯を口に運び続ける。  
「柚木さん、なんだか変ですよ。……頭でも痛いんですか?」  
「……大丈夫だよ」  
ごちそうさま、と呟いて風呂に歩いていく。  
アリサの表情は見えなかったけど、小さく「あっ」と呟くのが  
聞こえた。  
 
 
風呂桶の中で膝を抱えて考え込む。  
三年ほど前、僕の両親は事故で死んだ。  
まだ小学生だった僕と、メイドアンドロイドのアリサを残して。  
元々、忙しくて子守はアリサにまかせっきりの両親だったから、  
思ったほど寂しくはならなかった。  
むしろ、アリサがいなくなった方がショックが大きかったんじゃないか  
と思う。  
あの時も彼女は下手をすれば施設に引き取られることになりそうだった僕の  
面倒をみる、と断言し僕もそれを望んだ。  
アリサ。  
僕にとって母であり、姉であり、そして……。  
 
ああ、でも。  
見られちゃった……。  
 
マセガキだと思ってるかなあ。  
大きくなって、とか思ってるかな。  
 
でも、しょうがないじゃないか。  
僕も健全な男子であるからして。  
そういう事に興味を持つのは仕方ない。  
 
……そうだ。  
そもそも。  
 
アリサって。  
 
できるのかな。そういう事。  
 
子供の頃は一緒にお風呂にいれてもらったけど、誠に残念ながら  
肝心の部分のディティールは覚えていない。  
胸にちゃんと桜色の突起物があるのは覚えているけど。  
体中の間接の継ぎ目やマーキングを「かっこいい」とか言って  
よく見せてもらってたっけ。  
 
うわ、考えてたらますます健康な部分が収まりつかなくなってきた。  
とっととあがろう。  
平常心、平常心。  
 
体を拭いてから着替え、自室のドアを開ける。  
 
絶句。  
 
「アリサぁ……」  
 
ベッドの上にはご丁寧に、学校に行く前の朝と寸分変わらぬ状態で  
本が投げ散らかしてあった。  
 
ふぅ、とため息ついて本を片づけ始めた。  
まったく、なんかずれてるなあ。今更元に戻してどうするんだ。  
……って、僕が憂鬱になってる原因に気がついたのか。  
はぁああ。  
ため息をついて憂鬱の元を片づけようとすると、グラビアと目が合った。  
……。  
裸でこちらを誘う姿が、風呂の中で想像していたアリサの体と重なる。  
僕の想像の中で、写真の女の顔は大きなカチューシャの様なセンサー  
ユニットをつけた黒髪の女性に、その胸にはマーキングとメンテハッチの  
開閉スイッチがつけられて二周り程大きくなっていく。  
そして、股間には……。  
 
う……。  
こ、こりゃダメだ。  
素直に処理しちゃおう。  
えーと、ティッシュどこだったかな……。  
「あ……」  
ほら、幻聴まで聞こえてきた。  
「ご、ごめんなさいっ!!」  
あれ?  
 
気がついた時には開きっぱなしのドアから走り去るアリサの後ろ姿が  
見えるだけだった。  
 
 
死にたい。  
今すぐ。  
速攻で。  
睡眠薬って高いのかな。  
飛び降りは地面につく前に気絶するから楽だって聞いたな。  
でも誰が確かめたんだ、それは。  
舌かむのは痛そうだなあ。  
「アリサぁ……」  
僕は、ベッドの中で涙をこらえるだけで精一杯だった。  
……こんなはずじゃなかったのに。  
そうだ。  
エロ本使う時も本当は、アリサとする事を想像していた。  
いつも、いつも。  
 
アリサ、大好きだ。  
 
いつの日か、ちゃんと告白するつもりだった。  
もちろん彼女がどう答えるかは解らないけど、今の時代人間と  
ロボットが結ばれることもないことじゃない。、  
多少の奇異の目にはさらされるだろうけど、そんな事気にしない。  
法的に結婚できる事はないだろうけど、それでも二人でずっと  
幸せに暮らしたかった。  
それなのに。  
それなのに。  
ダメだ。涙がこぼれてきた。  
 
 
「柚木さん……」  
 
いないよ。  
 
「柚木さん……開けてぇ……」  
 
いないってば。  
 
「ゆうきさ……ん。ごめん……なさい……ひっく」  
え?  
何でアリサが泣いてるんだ?  
「ごめんなさい……。余計なことして……。許してください……」  
慌てて飛び起きてドアを開く。  
「アリサ……」  
「ゆうき……さん」  
なんで、なんで泣いてるんだよ。  
悪いのは僕なのに。  
「ごめんなさい、ごめんなさい……。もうしませんから……。  
勝手に部屋に入ったりしませんから……。ゆるして……。  
嫌いにならないで……。やだ……やです……」  
そう言って彼女は後はただ、すすり泣くだけだった。  
 
違う。  
違うよ。  
嫌いな訳ないじゃないか。  
そう言おうとしてるのに、こわばった喉は声を出せなかった。  
「本当の事を言うと……そういった本があるのはずっと前から知ってました」  
ああやっぱり。  
「それは……柚木さんも男の子ですし気にしていませんでしたけど……  
でも……今日……柚木さんの部屋をお掃除しようと思って……あの本を  
見たとき……私、わたし……悔しかった……」  
え?  
「柚木さんがそういう事を想像するのに使うのが、あの知らない  
女の人……そう思うと……悔しかったんです。それで、気がついたら  
見ないように、しまってました……」  
それって……。  
「柚木さん……貴方のことが好きです。だから……だから。嫌いに  
ならないで……。お願い……」  
アリサ……。  
僕も、僕もアリサが……。  
君のことが……。  
そう言えばいいのに。  
すっかり動転した僕の脳味噌は信じられない言葉を吐き出した。  
「アリサ……」  
「はい……」  
「アリサって……。ああいう事……できるのかな……」  
 
バカだ。  
本当のバカだ僕は。  
アリサ、僕を殺してもいい。  
というか殺して。  
意識の欠片もなく消え去りたい。  
 
だが彼女は一瞬きょとんとすると、真顔で答えた。  
「ああいう事とは……せ、セックス……でしょうか?」  
そうです。  
そうですけど。  
何て事を聞くんだ、僕は。  
愛する人が向こうから告白してくれてるのに、あなたはセックスできますか  
ってどういうキチガイだ。  
でも頷く。もう他に道がないから。  
「ええと……できるといえばできる。できないといえばできない、  
という所なんですが」  
 
そう言ってちょっと恥ずかしそうに俯く。  
 
「説明しますと……私のここには、女性器ユニットが装着されてます」  
スカートの上から股間を指さすアリサ。  
「ですが、私は快楽中枢回路も、女性器の制御デバイスもついてないんです。  
ですから、ここは只の穴にしかなりません。私は性的快感は感じられませんし、  
本来ある筈の締め付け動作も行われません。入れて射精するだけなら問題は  
ありませんが……そんなに気持ちよくもないかとは思います」  
 
なるほど。  
って納得してどうする。  
そんな恥ずかしいこと彼女に説明させてるんだぞ。  
 
「まあ、その辺のオプションパーツをつければセクサロイドとして普通に  
機能する事もできるんですけど……問題がないこともないですね。  
一つは……ちょっと高いこと。私が発注されるときに最初に外された  
らしいですし。そりゃそうですよね」  
 
子育てロボットにはいらないだろうしなあ。  
……できればつけておいて欲しかったが。  
 
「もう一つは……あれつけるとセクサロイド認証されるんで、18歳以上  
じゃないと機能がつかえなくなるんですよ。私は試したこと無いですけど、  
聞いた話ですと、年齢認証が通らないとがっちり閉じていれられなくなる  
らしいです」  
 
ありゃまあ。そりゃ残念。  
 
「で。柚木さん」  
 
はい。  
 
「そういう事を聞かれると言うことは」  
 
と言うことは。  
 
「私と」  
 
アリサさんと。  
 
「そういう事を」  
 
ああいう事を。  
 
「したいのですか?」  
 
したいです。  
したいのです。  
もの凄く。  
 
全身の動脈が脈打つのがはっきりわかる。  
胴体全部が心臓になったみたい。  
頭に血が上りすぎて、視界が赤くなるんじゃなかろうかと思う。  
「じゃ……どうぞ……」  
そう言ってアリサはベッドの上に静かに座る。  
ど、どうぞって言われても……。  
僕は息を荒くしたまま横にすわった……だけ。  
「もう……どうしたんですか。さっき、したいって言ってたのに。  
早くしないと私から脱いじゃいますよ?」  
そ、そりゃなんかもったいない。  
たどたどしい手つきで胸のボタンを一つずつ外していく。  
半分ほどに辿り着いた所で、大きな乳房がメイド服からこぼれ落ちた。  
 
そして、そこには昔に見慣れたマーキングと、スイッチと、胸腺にそった  
継ぎ目。  
 
「……やっぱ。目立っちゃいますよね。新型の娘はこの辺もだいぶ  
目立たない処理になってるみたいですけど……」  
ちょっと寂しげに俯く。  
そんな彼女を僕はできるだけ、優しく抱き留めて。  
「……アリサ。かっこいい」  
そう囁くと、彼女の顔は今まで見た事がないほど嬉しそうな笑みを浮かべた。  
ああ、今日初めて言葉の選択を誤らなかった様な気がする。  
 
でも、これからどうしようか。  
いろいろ僕も知識では知ってることはあるけど……。  
さっきの話じゃ前戯ってのをしてもあんまり意味はないだろうし。  
「ん……よくできました」  
ちぇ。なんかなあ。  
「それじゃ、これ塗りますから……。パンツ脱いでください」  
へ?  
そう言った彼女の手には小さなビンが。  
「何それ?」  
「私、残念ながら性器の制御ユニットがないと愛液の分泌も  
できないんです。で、これを塗ってあげますから……、  
ああ、もうじれったいですね」  
「ひゃっ!!」  
急にアリサは僕を押さえつけてひんむき始める。  
「わーっ!やめて、アリサ、アリサあ!!  
えっちぃいいい!」  
「はいっ!おとなしくするっ!」  
綺麗な手が油にまみれて僕の股間に伸びてくる。  
「わ、わ、わぁああ!!」  
 
「う、うう……」  
な、泣きたい……。  
「もう、しっかりしてください。男の子でしょ」  
そうですけど。  
そうですけど。  
って言うか。  
さっきのだけで出そうだったのが……。  
 
「さて……」  
ああ、運命の瞬間。  
「準備はいいですか?」  
うん。  
まさか、こんな時がこんな風にくるなんて。  
三十分前には思いもしなかった。  
「それじゃ、仰向けで……」  
らじゃ。  
ベッドの上に横になった僕と、そびえ立つ若さの象徴。  
「じゃ……いきますね……」  
アリサが僕の上にまたがり。  
先端が、彼女を押し広げる。  
 
ちゅく。  
 
そのまま、ゆっくりとアリサは腰を下ろしていく。  
 
 
嘘つき。  
アリサの嘘つきロボット。  
何が「そんなに気持ちよくはないかと」だよ。  
確かに締め付けられたりはしなかったけど。  
元々人と交わる為だけに作られたであろう、アリサの中は  
じっとしていても僕のモノにからみついてくる様だった。  
 
ちょ、ちょっと動いてみようか……。  
 
だ、ダメ。  
 
でちゃう。  
 
動いたら、絶対出る。  
 
ここは一つ、収まるまで少しじっとして……。  
 
「ん……。ちょっと動きますよ……」  
「だ、ダメだよぉお!じっとしててっ!!」  
「え?」  
 
ぞわっ。  
 
彼女の腰が一往復。  
 
粘膜とシリコンで作られた人造性器がからみつく。  
 
脳天を駆け抜ける快感。  
 
というか。  
 
もうダメ。  
 
勢いよく発射。  
 
「……っ!!」  
 
も、もったいない……。  
 
意気消沈して顔を上げると、とろんとした、という  
形容詞しか思い浮かばないような目が僕を見つめていた。  
 
「ん……あったかい……」  
 
アリサ。  
感じてないのに。  
熱いだけなのに……。  
そんなに幸せそうな顔……。  
僕でよかったの。  
嬉しい。  
「アリサぁ……」  
愛してる。そう言おうとしたときに。  
 
「でも、早かったですねえ」  
 
 
死にたい。  
今度こそ本気で死にたい。  
う、うう……。  
涙が。  
あ、やば。  
ほんとに、ほんとに泣いちゃいそう。  
 
「ゆ、柚木さんっ!!そ、そんな冗談ですって!  
ほ、ほら。別に私は早くても、かわんないですから!  
すぐ出してもらってかまいせんよっ!  
なんなら入れたとたんに、こう、ぴゅっと!  
我慢できなくなったらすぐ出してくださいっ!」  
 
エチケット袋じゃないんだからさあ。  
 
 
「でも……そんなに気持ちよかったですか」  
 
うん。  
凄く。  
無言で頷く。  
 
「よかったぁ……。それが一番、幸せです」  
 
僕も……。幸せです。  
 
「さて、それじゃもう一回してみましょ」  
 
へ?  
そう言うと彼女は少し腰を揺さぶり始める。  
 
ちょ、ちょ……。  
なんか、中がこすれて、こすれて……。  
お、おわ……また、立ってきた……。  
 
「ん……、さて、んじゃこのまま……」  
 
うわああああああああああ。  
きもちいいっ!  
きもちいいですぅうう!  
だ、出していいですかっ!  
 
「今度はすぐ出しちゃダメですよ?頑張りましょ」  
「な、なんでえ!さっき、いつ出してもいいって言ったじゃないかぁ!」  
「あれは一回目限定っ!二回目からはもっと我慢ですっ!  
やっぱり、もうちょっと鍛えないとセクサロイド機能が付いた  
ときつまらないじゃないですか。」  
「え、ええええ!?」  
「はーい。あと三十秒くらいは頑張りましょ。そうしないと  
朝御飯抜きですよぉ」  
「無理無理無理ぃいいい!でちゃう、でちゃうよぉおおお!  
アリサぁあああ!!やめてぇええ!!」  
「ダメですよぉ……。さ、もうちょっ……」  
 
ぴゅ。  
 
「あ」  
 
そんな、冷たい目で僕を見ないで。  
 
 
「柚木さん……」  
「は、初めてなんだから仕方ないじゃないかぁあ!」  
「私も初めてですよ?」  
「前提条件が違いすぎるよぉ!!」  
「……もう一回、いきましょ」  
「だ、だれか助けてぇえええ!アリサのえっちロボットぉおおお!!!」  
 
 
 
ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ。  
小気味よいアラームで目が覚める。  
気がつくと自分の部屋のベッドの上。  
横には……。  
誰もいない。僕の寝相の悪さで少し乱れた毛布のみ。  
 
「ゆ、夢……かぁ」  
 
 
しかし、壮絶な夢だったなあ。  
溜まってるのかな。  
……アリサ。  
ふぅ。  
 
 
……待てよ。  
ベッドの下のエロ本を確認……ない。  
どこにも。  
もちろんベッドの上にも。  
 
恐る恐る、台所に顔を出す。  
机の上には……。何もない。  
 
そして。代わりに。  
 
「朝御飯は無いですよ」  
 
旧型メイドアンドロイドの満面の笑み。  
 
 
−おしまい−  
 

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