細くて柔らかい詩織の身体。それを俺は腕の中でぎゅっと抱きしめている。  
 触れる詩織の肌は、すべすべでもっちりしててでもその内側には肉も  
脂肪もほんとについてんのか?ってくらい細くて。でもおっぱいはでかくて。  
どうしよう。そんな詩織が涙ぐみながら「……早く、しなさいよ!」って  
みえみえの虚勢を張りながら俺に言ってくる。怖くて、震えてるくせに。  
 
 そんな女の子が自分の腕の中にいる、ってことだけで俺の心臓はもう  
ミック・ハリスのドラムソロなんか目じゃないくらい超高速でビートを刻んでいる。  
てゆーか死ぬ。このままだと心臓が破裂して死ぬ。ヤバイ。  
 
 詩織を風呂場の床のマットに横たえると、激しく勃起しすぎてる  
俺の分身をあてがう。詩織の女の子の部分は汗なのか石鹸なのか、それとも  
別のなにかなのか、とにかく外からでもわかるくらいぬるぬるに濡れている。  
 
 ええええーと、確かこの辺に…先端を…えーと…  
 チンコの先が詩織の熱い粘膜をなぞり、くつろげ、また外れて、また広げる。  
 俺の先端が詩織を広げるたびに、コイツは甘い鼻声を上げる。困る。  
 てゆーか、この声を聞くだけで俺のチンコがよりもっとずっと激しくおっきどころか  
直立してしまうのだ。もっと入りにくくなっちまう。  
 
 ぬるぬるの量はたぶんココが一番多いからココで合ってる…ハズ。  
ええ。俺の脳内シミュレーションでは…ココに入れれば入るはず!  
あれ?ここでいいのか?いいはずなんだけど…  
 そう思い悩みながら腰を押したり引いたりしているうちに「ぬるっ」  
という感触とともに俺の肉棒が詩織の体内に入り込んだ。  
 
 せ、狭っ!  
 脳が直接擦られてるような感触。  
 詩織の内側の肉と擦れると、言葉にできないような快楽が俺の下半身に充満する。  
 詩織は俺の下で大きく目を見開かせてる。  
「バカバカバカバカ! 最低! な、なんでこんなに痛いことすんのよ!」  
「ご、ゴメン! 抜くからちょっと待っ」「ダメ!」  
 俺の言葉を遮って詩織が叫ぶ。  
「え?」  
「こ、こうなっちゃったんだから……さ、最後まで……しなさいよ」  
「……」  
 詩織は俺の顔から視線を背けながら、言った。  
「…最後まで、させてあげるって言ってんのよ」  
 痛いはずなのに。  
 血、出てるのに。  
 なんでコイツは……こんなに、可愛げのある言葉を言ってくるんだ?  
「でも痛いんじゃ 「痛くない!」  
「だって血 「痛くないのよ!…………痛くないんだってば!……だから……お願い、最後まで……して」  
 なんだよ。  
 なんでそんな顔すんだよ。切なそうな顔してコッチ見んなよ。  
 捨てられた子犬みたいな表情されても困るんだよ。  
 俺お前のそんな顔見たことないし。どうしたらいいかわかんなくなるじゃねえか。  
 
 でもどういうわけか、その表情を見ていると俺の男根はズキズキするほど  
よりいっそう固く張り詰めていってしまう。  
 繋がったまま、詩織の頬を両手で掴む。  
 ふっくらとしたそれは、火照っている熱と涙と汗に濡れた感触を掌に伝えてくる。  
「詩織」  
 顔を近づけながらもう一度名前を呼ぶ。ものすごく近くに詩織の顔がある。  
ドキドキする。  
「……詩織」  
 瞳の深い緑の色が涙で揺らぐ。詩織は瞼を閉じた。  
 
 柔らかい。  
 詩織の唇は、今まで口にしたどんなものよりも、柔らかかった。  
 しっとりとしてて、でも暖かくて。  
 無駄に気が強くて猛々しいこの女とキスしてる、と思うだけで脳がショートしそうになる。  
 
 ぷはぁっ。  
 息をするのを忘れるくらい、それくらいすごい感触。  
 唇を離すと、俺と詩織は荒く息を吸い込む。  
 俺の心臓は胸の中であいかわらずヘビメタを熱演じている。  
 
 詩織は涙をこぼしながら切なそうに眉を寄せ、でも悲しんでいるわけではない。  
 詩織は深い色の瞳を潤ませて俺の顔を真っ直ぐに見つめている。  
 上気した頬を緩めて、今まで見たこともないような優しい目で、そっと俺に囁いてくる。  
「拓海……大好き」  
 その言葉を聞いただけで、背筋をゾクゾクする何かが這い登ってくるみたいだ。  
 
 ゆ、ゆっくり…動かないと……  
 のるっ  
 ぬるっ  
 俺の肉棒が詩織の内壁で擦られるたび、そんな擬音と脳が真っ白になりそうなほどの快楽が  
俺を襲う。  
 あ、っ、だ、だめだっ  
 
 背筋を駆け登ってくる純粋な快楽。  
 腰が持っていかれそうなほど濃密なその快楽は、俺の全身の細胞を一色に塗りつぶしてしまう。  
純粋な白い奔流が俺の脳内を洗う。  
 変な音。気がつけば俺の唇からは情けない声が漏れている。  
「く、くうぅっ……」  
 腰の奥から噴出するような射精が詩織の体内にぶちまけられている。  
 びゅくっ、と脈動するたびに目の奥が白くなる。  
 陰茎を駆け下る精液が、脳の裏側を焼くような快楽を産む。  
 詩織のきつくて柔らかい肉の中で、俺は今まで感じたことのない熱い迸りをぶちまけ、  
詩織の肩に顔を埋めたまま、荒い喘ぎを噛み殺すことしかできない。  
 
 
 
 
 
 
 
 息を整える。  
 
 
 
 
 
 詩織の肩から顔を離すと、潤んだでっかい目が俺を見つめている。  
 
 俺はさっき詩織が言ってくれた言葉を思い出す。  
 詩織が吐露してくれた、自分の気持ち。その気持ちに答えてやらなくちゃいけない。  
 
「詩織……その……俺、お、お、お前の、こと…が…………………  
……………ス、ス、すす好きだ」  
 搾り出すように、俺がそう言った瞬間。  
 詩織の大きな瞳が丸く開かれ、そして涙でうるうると歪み、そして閉じられた。  
 俺の背中に廻された腕に力が込められる。  
 
 俺の肩に顔を埋めて「くふぅ」とか「はふぅ」とかいう喘ぎを漏らし続ける詩織。  
 
 ぐちゅ。  
 狭い詩織の肉の中で、どろどろになった体液が音を立てる。  
「タク……すきぃ、たくみ……だいすきぃ」  
 抱きしめた俺の耳元でそんな声がする。  
 可愛い。  
 詩織はものすげー、可愛い。  
 なんでこんな可愛いのに、今まで気づかなかったんだろう?  
 
 
 洗い場に座り込んだ俺。その俺の胸に顔を埋めてグスグス泣いてる詩織。  
 押し付けられたおっぱいの感触がステキですが、そんな感触よりも、俺は  
詩織が俺の名前を呼んでくれてることのほうがずっともっとすげえ嬉しい。  
 
 しばらくして、詩織は泣き止んだ。  
「…優しくしてくれるって言ったじゃないの、ホント痛かったんだからね?」  
 あ、よかった。  
 いつもの詩織だ。目、ちょっと赤いけど。  
「あ、うん……ごめん」  
「……次は優しくしてよね」  
 ぽそっと詩織が言う。次、って……  
「いいのか……?」  
「あ、当たり前でしょ! 痛いままで終われないわよ! だからその……  
したくなったら言いなさいよ? 他の女に手を出したら……コロスからね」  
 やたらハイテンションだ。  
――ああ。そうか。  
 なんだか可笑しくなった。詩織の体に手を回してぎゅっと抱きしめる。  
 俺はホントにコイツが好きなんだな、と思う。  
 そして、コイツも俺のことが好きなんだ。だから、こうして俺のことを……  
今にして思えばわかりやすいヤツだ。  
「……なっ!! い、今すぐ?   
 …………あ、アンタがし、したいっていうなら…」  
 抱きしめた詩織は狼狽している。俺は赤くなってる詩織の耳に囁きかける。  
「バカ」  
「…な、なにがバカなのよ」  
「別に今ヤリたいわけじゃねえっての。こうしたかったからしただけだ」  
 詩織の背中とか肩甲骨の辺りとか、首筋とか後頭部とか。  
 手触りのいい肌を掌で撫でながら、  
「お前痛そうだったし。今日はもうしねえよ」  
「え……うん……」  
 なんかまた赤くなって黙り込んでしまった詩織。  
「だいたいお前な、痛いとか言って泣いてる女の子にエロいことなんかできるわけねーっての」  
「い、痛くて泣いてたわけじゃないわよっっ!!!」  
 なんとなくわかってる。痛くて泣いてたわけじゃないってのは。  
 でも、だって、なあ? 認めちゃったらなんか恥ずかしいじゃん。  
 
 
 しばらくして、「アンタはもうちょっと暖まってなさい」と言われて風呂場に  
一人取り残される俺。  
 再びとっぷりと湯船に浸かりながら「なんでこうなったんだろ?」と  
しみじみと考えてしまう。雨に半分濡れながら詩織んちに着いたときには  
こんなことになるなんて思いもしなかったのになあ。  
 
 
 あれ。コレって、オレの着替え?  
 下着と……なんで甚平が置いてあるかな。  
 まあ制服が乾くまでの間だけとはいえ、詩織のお父さんのってのはちょっとさすがに  
気が引けるっていうかなんていうか。  
 ごめんなさい健一おじさん。娘さんの初めてを先ほど頂いてしまいました。  
 心の中で謝りながら袖を通す。  
 
 詩織は台所でなんかやってる。てゆーかダイニングキッチンとゆうのだこれは。  
「詩織ー、コレ着てよかったのかー?」  
 Tシャツにホットパンツというなかなかステキな室内着の詩織。  
 やっぱ足の長い子が穿くとカッコいいな。あと白いフリフリのエプロンが可愛いと思った。  
いや、マジで可愛いです。……なんか、俺の目がおかしいのか、詩織がいつもの七倍増しくらい  
可愛く見えます。どうしたことでしょう。いやそんな他人事みたいに。  
「……」  
 一方こちらもなんかオレのことをヘンな目で見てる詩織。  
「え? コレ着ちゃダメだった? なら脱ぐけど」  
「ぬ、脱がなくていいわよ!」  
「そうか? いや、詩織がヘンな目で見てたから」  
「……お父さんに似てるなって、思っただけ」  
 複雑です。それって喜んでいいのか。いや詩織のお父さんの健一おじさんは  
ウチの親父とは違ってナイスミドルな渋いダンディさんだけどでもそれって  
高校生にはあんま褒め言葉にはなってないっていうかなんちゅーか。  
 
「ゆ、夕飯…食べてくでしょ」  
「え? いいのか?」  
「ご飯沢山炊いちゃったのよ! アンタが食べてくれないと勿体無いじゃない!」  
 なんで切れるかな。  
「あ、うん。食べる食べる」  
「そこに座ってなさい」  
 命令なんだけどなんか物腰柔らかいっていうか嬉しそうですよ詩織さん。  
 
 
 豚肉の炒め物とお味噌汁とサラダときんぴら。  
「ありあわせだけど」って詩織は言うけど、ありあわせでこんなん作れるなんて、  
……コイツ結構出来るな!?  
 あ、きんぴら美味え。  
 つーか料理はみんな美味い。  
「美味いな」  
 そう言うと、詩織の目が嬉しそうに細められる。ヤバイ。この表情ヤバい。  
見てるとなんかゾクゾクしてくる。腹の底から力が抜けていくような、そんな微笑。  
そんな瞳の色。  
 これ以上褒めるとなんかおかしなことになってきそうで、黙々と食べる。  
 何を話せばいいんだろう?  
 数時間前までの幼なじみって関係じゃ、もうないし。  
 もしゃもしゃと俺が炒め物を喰う音。  
 カチコチという時計の秒針の音。  
 それだけがダイニングに響いてる。ああ。なんか、言わなきゃ。  
「……そういえば」  
「なに?」  
「健一おじさんていつごろ帰ってくんの?」  
 もう八時近いし。  
 やはりなんと言うか、不在の間に上がりこんであまつさえ娘の処女を頂いた挙句その上  
自分の甚平着てご飯まで食べてるのは抵抗があるって言うかなんていうか、オレなら殴る。  
 なるべくなら顔を合わさずに帰りたい。  
「来週」  
「……へ?」  
「今週一杯は海外出張だから」  
……香織おばさんは旅行で不在。  
…つまり今夜は。  
 
 俺から視線を逸らしながら、詩織は言ってくる。  
「た、たく……み……アンタ、きょ、今日……は…泊まって…」  
 詩織の声は小さくてよく聞こえなかった。  
 頬を真っ赤に染めつつ、俺から視線を背けながら。  
 そして一瞬だけちらりと俺の顔を見る。  
 恥ずかしそうな表情の中に、明らかな不安の色が透けて見える。  
――ホント、わかりやすいヤツだ。  
 
『泊まってく?』『泊まってって?』『泊まっていきなさいよ』  
 どっちなんだ。いやどっちでも同じことだけど。  
 
「詩織、今日俺泊まってっていいか?」  
「………しょ、しょうがないわね、いいわよ」  
「しょうがない?」  
「だ、だって最近物騒だし、あたし一人のとこに強盗でも入ったらどうすんのよ!」  
 つーかこの家セコムも綜警も両方入ってんじゃんか。  
……まあ、でもいいか。  
「あー、わかったわかった。お前が心配だからな。そんときゃ守ってやるよ」  
「……フン、どうせ役には立たないと思うけど。……ま、あんたも一応男だし」  
 詩織、お前犬だったら尻尾をブンブン振ってそうな顔だぞそれ。  
 
 
「デザート、食べるでしょ?」  
 食器を片付けながら、背中越しの、隠し切れない嬉しそうな声。  
「ああ」  
 詩織が出してきたのはキツネ色の美味しそうなワッフル。  
「ねえ、覚えてる?」  
 詩織とワッフル……あの時のことか?  
 
 
  「おばあちゃんのワッフル、おいしいね」  
  「うん!すごく甘いの」  
  「そうかいそうかい。もっとお食べ」  
  「あまくておくちがとけちゃいそう」  
  「お店のより、お菓子屋さんのよりもおいしいよ」  
  「それはね、秘密があるんだよ」  
  「どんな秘密?」  
  「どんなー?」  
  「愛情を込めて作るから美味しいのさ。かわいい詩織と拓海に  
   たっぷり愛情を込めてるから、どんなお店のよりも美味しく焼けるんだよ。  
   詩織」  
  「なあに?」  
  「お前も好きな男の子ができたら、ワッフルを焼いておあげ」  
  「じゃあ、あたし今度拓海にワッフル焼いてあげる!」  
  「やったー」  
  「ほう。詩織は拓海が好きなのかい」  
  「うん。だいすき!」  
  「やったー」  
 
 
 詩織の婆ちゃんが元気だった頃、詩織と婆ちゃんと三人でそんなやりとりをした記憶が  
蘇ってくる。  
 思い出した。あんときは詩織に好きだ、って言われたことじゃなくてワッフルが  
食えることだけを喜んでた覚えがある。俺は昔からアホだったのか……  
 
 
「……愛情」  
「…!」  
「愛情、こもってんだな」  
 
 詩織は答えない。  
 ただ一心に、ワッフル焼器をコンロの上で揺すっている。  
 その耳が真っ赤になってるのだけが見えた。  
 
 
 さて。  
 その晩、なにがあったかを書くのはこの際さておく。  
 さすがに恥ずかしいしな。  
 二度目なのに詩織が漏らしながらイっちゃったり、お口でしてもらったり、  
お返しに口でしてやったり、噛んだり、噛まれたり、キスマークをつけたり、  
つけられたり、背中に爪あとの勲章を頂いたり、肩に歯型つけられたり……  
まあそんなことがあったりなかったりした。いやあったんだけど。  
 
 
 
 
 翌朝はさすがに照れくさいと思ったけど、詩織は普通に俺に接してくれてる。  
 でも、なんか声のトーンがとげとげしくないって言うか、どっか優しいっていうか。  
 そして俺もその口調が嫌いじゃない。  
 
 で、うれしはずかしの二人の朝食を頂こうとしたわけだが。  
 
 
 
 
――ああ、確かに「美味い」とは言ったさ。  
――実際美味かったし。  
 でもな!  
 いくらなんでも、こんなにダダ甘いワッフルばっか何個も何個も食えるかッ!!!  
 っていうか、おやつであって主食じゃないだろワッフル!  
 ワッフル!ワッフルワッフル!!ワッフルワッフルワッフル!!!  
 もう六個目だぞ。おまけに目の前の皿にはそれ以上のワッフルが!!  
しかもボウルにはまだ焼いてない生地もたっぷりあるし。殺す気かッ!?  
「美味しい?」  
「あ、ああ。この、甘いのが……すげー、甘いのな」  
「うふふ……今日のはね、生地に練乳が練りこんであるの」  
 乳を練るのは詩織さんあなたのおっぱいだけで結構ですホントです。  
「えへへへ」  
 詩織は大きな目を細めて、ものすごく嬉しそうな顔で俺のことを見つめてくる。  
 この笑顔が「食べないの?」という怪訝な表情に変わってしまうのがイヤで。  
 ああっ。どうしてもコイツの笑顔を見続けたいという切なる俺の欲求がっ!俺の  
体内血糖値のオーバーロード警報を無視してもしゃもしゃと甘い甘いワッフル生地を  
咀嚼させる。  
 あ、だんだん脳の前頭葉あたりががチリチリしてきた。  
 きっと脳液が半分くらいメープルシロップに置換されてしまったのだろう。  
 
「もっと食べるでしょ?」  
 当然のように訊いて来る詩織。もうだめです。ボスケテ……  
 どうすれば。どうすれば俺は生き延びることができる?  
 
 !  
 
 眉間に電光が走り、ニュータイプ音が俺の脳裏に鳴り響く。  
 
「詩織」  
 俺は急に立ち上がると、きょとんとしている詩織の両肩を掴む。  
……いややっぱちっこいな。詩織は。  
「詩織……もっと食べたいのは……お前だあっ」  
「ええっ? あ、だって、こ、こんな朝からっ」  
 抵抗してみせる詩織だけど、心なしかその抵抗も力がない気がする。  
 
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おしまい  
 

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