夏樹は自分のベッドで仰向けになった唯の上に、覆い被さっていた。
あの後告げられた唯の希望で、続きはちゃんとした形で、ベッドの上ですることになったのだ。
自分で体を洗うからと説得したので唯が先に浴室を出たため、風呂の中から今までずっと、心臓が
苦しいほどに鳴りっぱなしである。
ちなみに唯は今、タンスの中からサイズの合った夏樹のパジャマを自分で引っ張り出して着ている
のだが、少しだけ窮屈そうな胸の辺りとかが特に、妙に扇情的に感じるのは秘密である。
「…じゃ、じゃあ、するから…」
…そして、今に至る。
唯の方から返事はないが、夏樹はその沈黙を了承と受け取った。
顔を少しだけ近付ける。
その意を解し、唯はすっと目を閉じる。
その表情に堪らなくなって、夏樹は心の求めるままに唇を重ねた。
「んんっ…」
唯がくぐもった声を上げたけれど、嫌悪から来るものではないことは分かっている。止める
必要はない。そのつもりもない。
マシュマロを唇に押し当てたような、初めて味わう極上の柔らかさを、二人は共有していた。
初めてと述べたが、二人とも知識は十分でも経験がほぼゼロなのだから、当たり前である。
だが、夏樹は知っていた。この行為にはまだ先があることを。そして今するべき愛情表現が、
そちらだということを。
夏樹は僅かに開いた上下の唇の隙間で自分の舌を踊らせ、そしてそれを、そこから熱い口腔の
中に滑らせる。
「!!」
突然の訪問者に唯は思わずピクリと反応し、驚きで目を見開いた。
(こ、こんな…!)
「んむ! ん、んー! …む…んぅ!」
目線と声にならない声で抗議の意を伝えるが、夏樹は無視して『それ』を続行した。という
よりも、もう、止められそうにない。唯とのディープキスは、完全に夏樹を虜にしていた。
「っ…んっ! …ぅん…ん…んむぅ……」
しばらくの間一方的に舌を遊ばせていると、次第に抵抗の意志も消えていったのか、声も
大人しくなる。そしておずおずと、自分のをも差し出し、絡め合わせ始めた。自分の行為に唯が
応えてくれたことが嬉しくて、夏樹は深く、より深く進もうとする。
二人分の唾液が混ざる。それにつれて、混濁してできた液がシロップのような甘い液体に変わ
ったような気がして、夏樹は即刻すぐに、唯は次第にゆっくりと、こくり、こくりと液体を飲む
音で喉を鳴らした。
思わず左手に力がこもり、焼けた痛みに顔をしかめそうになる。が、唯の手前、そんな姿は
見せられない。なんとか堪える。
それでも、吐息に吸気が追い付かなくなった。非常に残念ではあるが、ゆっくりと舌を引き
抜き、唇を離す。
かすかに妖しい光を放つ銀色の糸が生まれて、だんだん細くなり、プツリと切れ、そして
消えた。
「っは、……はっ、…こ、こんな、っ……いき、なり……」
「はぁ…は…ご、…ごめん……」
ようやく抗議する唯も、素直に謝る夏樹も、言葉に力が全くこもっていなかった。肩を大きく
揺らして荒い息をつき、未だに残る熱い余韻に浸る。それ以上に何も言うことができなくて、
二人はしばらく沈黙し、お互いの瞳を見入っていた。
だが、いつまでもこのままではいられない。唯は意を決し、思ったことを口にする。
「…夏樹…腕は、大丈夫なの…?」
「え?」
酔いが少し醒めたタイミングでかけられ、夏樹は思わず声を上げた。心配させまいとしていた
のだが気付かれてしまっていたことがわかり、悪いことをしたような気がした。ばつの悪い顔を
する。
「だ、大丈夫だよ。このとおr」
強い痛みに、最後まで言うことができない。唯を安心させようと左拳を軽快に握ったり開いたり
したが、それが裏目に出たのだ。
「…痛いの…?」
心配がつのった表情で、唯は尋ねる。確かにそうだ、だが今はそんなことを気にして欲しくない。
「えっと、その…でも、大丈夫だから…って、あっ、ちょ、ちょっと唯?」
突然の唯の抱擁に、夏樹は驚き慌てた。布越しに押し付けられた胸の感触を楽しむことが、でき
ないほどに。
振りほどく事など当然出来るわけがなく、夏樹はそのまま硬直した。すると、唯は夏樹の体を
一気に、しかし壊れ物を扱うかのように優しく気を使いながら、横に回転させる。
上下が逆転した。今度は夏樹が、唯に押し倒された形になる。
「じゃあ、そ、その…わ、私が…してあげる、から…」
あまりにも唐突な出来事に呆気に取られた夏樹に対してそう告げると、唯は夏樹のパジャマの
ボタンに手をかけた。
「ちょ、ちょっと唯!? 大丈夫、大丈夫だから!」
「ダメ! 私が怪我させちゃったんだから、…私が、してあげないと…」
「あ、あれは唯のせいじゃないし、それにこんな、一方的な…」
「何よそれ! さっきまで、その…あ、あんな…キ…キス…してきた、くせに……」
「あ……う…」
真っ当な言い分なだけに、反論できない。
だがそれ以上に、さっきまでの濃厚な愛情交換の行為を思い出して俯いた唯の、真っ赤になった
表情が凶悪と言えるほどに可愛くて。
犯罪だ、と思う。この表情を前にして、どうやって言い返せというのか。到底、できない。
そしてそうこうしている内に、ボタンは完全に外しきられ、夏樹の肌は露出した。クーラーの
効いた外気に晒されて、夏樹は自分が既にかなりの量の汗をかいていたことに気づく。
夏樹が何も言葉を発する事ができないまま、夏樹の側から体を起こした唯は、次いで自分
のパジャマに手を運ぶ。
一瞬だけ動きが止まるが、意を決したように上着のファスナーを一気に引き下ろした。
…目が眩んだ。
唯は上着の下に、何も付けていなかった。いわゆるノーブラというものである。
改めて夏樹は見入った。やはり大きさは小さすぎず、大きすぎずで、形は非常に整っている。
美乳という言葉がぴったりだ。
その先端に突き出た二つの可愛らしいピンク色の突起は既にツンと勃ち上がっており、控え目
ながらも、確かにその存在を主張していた。
とにかく、眩しい。吸い込まれそうだ。
じっとそれを見つめている夏樹の肩の直上に両手をつき、唯は体を再び、彼のほうに向けて傾け
ていった。
「…ど、どう…? あ、あの、ごめんね? 私の、そ、そんなに大きくないか…ひゃぁぅ!」
唯の発言は中断した。夏樹の右腕が伸びていたからだ。その目的地は、言うまでもない。
「ぁっ…んぁ! ちょ、っん! ちょっと、夏樹、…ぁっ、な、何してんのよぉ…っ」
「あ、ごめんその、つい…」
そう言いつつも、夏樹は手のひらの動きを止める事ができない。半自律的に手は動き、味わう
ように柔らかな丘を揉みしだく。
恋人の乳房に初めて触れる男の心情というものを、今、夏樹は理解した。もう、何だか、凄いと
いう言葉しか出てこない。あまりに柔らかくて、あまりに温かくて…はっきりいって、病み付きに
なりそうだ。麻薬のような依存性を持っているように、夏樹には思われた。
「ぁっ、こ…らぁっ! 私が、するからぁ…、じっと…っ…して、てよっ……っ!」
悶え悶えしながらも何とか言うと、唯はシーツの上についた腕を引き上体を起こし、夏樹の魔手
からかろうじて逃れる。
夏樹は不満そうな顔をしたが、気持ちいいのは、唯だって同じなのだ。
恥ずかしい気持ちの方がまだ少々強いが、自分を慰める時に想像したこともある状況の、正に
そのものなのだ。実際に、足りない、もっと欲しいと訴える声が、自信の内側からも響いている。
だが、自分のために怪我をしたから、夏樹は満足な行動ができないのだ。夏樹は気にしないでと
言ってくれているけれど、事実今さっき、夏樹は左腕を動かさなかった。動かすことができなかった
んだ。
…私が、夏樹を気持ちよくしてあげるんだ。
そんな決意に突き動かされ、唯は視線を感じながら、全身を少しずつ下の方へずらしていく。
(ま、まさか…)
唯の真意を悟り、夏樹は当惑した。もし、もしこの考えが正しいならば、夏樹は完全に唯の為すが
ままだ。
初めて『する』時は、自分が優しくリードして、唯を出来るだけ気持ちよくしてあげよう。痛い
思いをするのは、唯なのだから…そう、浴室を出るときに決めたのに。
舌を絡ませている間、陶酔しながらも、自分でもいい感じだと思っていたのに。
このままではいけない。
夏樹は口を開こうとする…が。
「…私が…き、気持ちよくしてあげるから…う…動かないで、じっとしてて…お願い…」
ズボンとトランクスの両方を握られ、そう告げられた。
夏樹は口をつぐむ事しかできなかった。そんなの卑怯だよ唯。その顔に、その眼に、敵うわけ
なんて、ないじゃないか。
そんなことを考える夏樹のズボンを、唯は下着ごと、容赦なくずり下ろした。
解放された硬い肉の剣が、勢いよく反り返った。
「っ!」
情けない声が漏れそうになり、夏樹はなんとか堪え、飲み込んだ。
そして夏樹はまた、好きな女の子の為すがままにされる少年の心情をも、理解することができた。
…出来ることなら、したくもなかったが。
そうさせた張本人である唯は、出現したそれを熱心に、まじまじと見つめていた。
(こ、こんなに、おっきいんだ…)
夏樹のそれは、知識も精神も、そして体も未熟な頃――小学校に入る前か後か、それすらはっきり
とは思い出せないが――に見て残ったかすかな記憶の中のそれとは、当然のことながら、似ても
似つかないほどの変化を遂げていた。
唯と同じく無垢であることを証明するかのように、ピンク色をしたその先端。鬼とも異形ともつか
ない形状。そして何よりも、そのサイズ。日本人男性の平均など唯が知るはずもなかったが、実際
夏樹のそれは、平均を確実に上回っている。
異性を悦ばせるのに必要な条件は、ほぼ満たされていると言ってよかった。…経験という
カテゴリーを除けば、ではあるが。
「じゃあ、す、するから…う、動かないでよっ!」
と言われても、すみません動けといわれても動けそうにないんです。
律儀に宣言し、釘を刺したあと、唯は夏樹の無垢な逸物に手を伸ばす。
その細くて柔らかな指が触れると、夏樹は熱く吐息をついた。
ちょっとだけ冷たい。冷涼な感覚。だが夏樹は逆に、温かさを与えられたような気がした。
手の冷たい人は、心が暖かい…誰が言った言葉だったか、それとも小説で読んだのかはわからない
が、それを思い出したからだ。実際、自分を気持ちよくしようとする唯の意思が、触れられただけで
伝わったような気がして、嬉しかった。
女の子に例のブツを握られて、そんなことを思い出すのもどうかとは思うけれども。
まあ、それはそれとして。
ふと夏樹は、当然と言えば当然の疑問を持った。心配になり、尋ねる。
「ゆ、唯? やり方、知って……っ!」
今度は夏樹の言葉が中断される番だった。唯がいきなり、優しくそれを握ったまま、ゆっくり
上下させ始めたのだ。
「これで…いいん、でしょ…?」
「う、うん……っき、気持ち…いい…」
ゆったりとした感覚に、率直な感想が漏れる。マラソンで言えばいつまでも走っていられそうな、
そんなローペースの動きではあるが、それはそれで逆にいい。
そしてさらに、精神的な快感は感覚を十二分に増幅していた。好きな女の子が、自分の股の間に
座り込んで、自分に、自分の肉棒に奉仕している。目の前にあるそんな光景が夢でない現実だと思う
と、実際に与えられる快楽の量よりも、多くが感じられてしょうがない。
一方与える側の唯もまた、非肉体的な快楽を享受していた。恥ずかしさがあるのも事実だが、彼が
くれる言葉が嬉しくて、与え続ける快感がまるで逆流しているような錯覚に襲われた。
夏樹の肉棒に、奉仕をしている…そのことを改めて認識するたびに、身の内がとろけそうだった。
「じゃあ…ちょっと…速く、するね…」
「え? ちょ、ゆ、唯、待っ…ぅッ!」
もっと、気持ちよくしてあげなきゃ。
そんな思いに駆られた唯は、それが性的刺激を自身にももたらすことを意識してかしないでか、
返事も待たずして、動きをより速めた。
ジョギングで走っていたところを突如として中距離ペースに変えさせられ、夏樹は大いに慌てた。
柔らかな指が自分の分身を擦る。それだけでも十分なのに、――知っていてやっているとは――
思えないが、唯は度々、雁首に触れるように手を動かしていた。その度に、夏樹の背中を得体の知れ
ない何かが這い上っていく。中距離ペースどころではなかった。それはもはや、限りなく全力疾走に
近い。
このままでは、直ぐに果ててしまう。直感的にそう悟った夏樹は、何とか危機を脱しようと、唯に
声をかける。
「ゆ…唯、ちょっと…」
「え? …あぁっ!」
突然声をかけられた唯は、奉仕を続けられながらも顔を上げる。
夏樹は、一瞬だけ生まれたその隙を見逃さなかった。僅かに上がった唯の左肩をがっちりと掴み、
先程とは逆回転で体を入れ換える。結果、最初と同じように夏樹が上、唯が下になった。
「気持ちよく、なかったの…?」
唯が、傷ついたような、がっかりしたような、心底申し訳なさそうな声を上げる。
勘違いさせそうになり、夏樹はすぐに否定した。
「ち、違うよ、何ていうかその…気持ちよすぎて…」
「本当……?」
ぱぁっと、唯の表情が明るくなる。その顔がたまらなく愛しかった。
自分も、してあげたい。
「うん、だからその、今度は、俺が…」
そう言うと、自分の時と全く同じに、唯の身に付けた自分のズボンと、そして初めて触れる
女性用の下着に手をかけた。その行為でようやく意を悟ったのか、唯は声をあげる。
「あ、なつ…ゃっ、やだ、止めなさ、ぅ…」
唯は両手で夏樹の頭を押さえつける。だが、その言葉にも腕にも、いつものような力は
こもらなかった。そして当然夏樹は、止めようとはしない。
膝下まで一気に引き下ろす。
「! …や、やだぁっ……み、見ないでっ……!」
脱がせた下着との間に、粘液が橋を架けた。
もうそこは既に、十分過ぎるほどに濡れそぼっていたのだ。視線や恥ずかしさから逃れるように
太股をぴっちりと閉じ合わせているが、じりじりという僅かな動きに対しても、にちゅ、くちゅ、
と水音がする。それを隠すことなど、できていなかった。
本でも画像でもない現実の光景に、夏樹は思わず唾液をごくりと飲み込んだ。これが『濡れる』
ということなのか。鳥肌が立ちそうになる。
もっと、見てみたい。夏樹は閉じ合わされた膝に、肘を割り込ませる。
「やだ…ゃ……ぁっ」
言葉では最後の抵抗をしてみせるがもうその意志は薄れたのか、膝にこもる力は皆無だった。
ゆっくりと、堅牢な扉を開いていく。
「……」
初めて目にする神秘的とも言える光景に、夏樹は無言にして深く溜め息をついた。
ひくひくと妖しく動く、桃色の花びらも。
肉の皮に包まれた、かわいらしい小さな突起も。
分泌された蜜の反射するきらきらとした光と共に、何もかもが一度に視界の中に飛込んできて、
網膜を灼かれるような眩しさを感じた。
…触りたい。
早く、触ってみたい。
(違う…触って、いいんだ…)
次なる欲求に襲われて、夏樹は迷わずに右腕を伸ばした。
「やっ…はぁっ、んぁっ……ひあ! ぁ、ぁ、ぁっ…」
さすがに広げて中を覗く勇気はなかったが、指で縦筋を上下になぞり、十分に粘液を絡ませて
から、ゆっくりと花の内部に埋めていく。
ず、ず、ず、と音が聞こえるような錯覚と共に、唯はリズムよく声をたて、指は膣内に飲み
込まれていった。
(うわ…熱い…)
世界観を変えるような未會有の感覚の連続に、夏樹の心臓の鼓動は更に速まった。
人肌を遥かに超える熱を持った、灼熱の底無し沼。入れた中指をきゅぅぅっと強烈に締め
つけた上に、肉塊が絡みついてくる。
あたかも、くわえこんだまま離すまいとしているようで…ようやく出会うことができた恋人へ
の、もう離すまいとする抱擁にも思えた。
「ぁ…んぁっ……ぁ、ぁ…ふっ……ふぅん、ぅっ…」
(あ…)
可愛い鳴き声が聞こえて、夏樹は視線を上にずらす。ぎゅっと閉じた双眸にうっすらと涙を溜め、
唯は押さえきれない嬌声を漏らしていた。
甘美な歌声がもっと聞きたくなって、夏樹は中指を曲げ伸ばしし、そして小さく前後に抜き差しし
始めた。
「はあっ、ゃっ、やぁっ…ひっ……なっ、なつッ、なつきっ! ずっ、んッ…こんなの、ん…ず、
ずるいっ…!」
途端に、唯の反応は目に見えて変化した。息はさらに短く荒くなり、時々ぴくん、ぴくんと体が
跳ねる。そしてそれに連動するかのように、性器がきゅっ、きゅっと夏樹の指を締めた。
嬌声をあげ始めた唯により一層いとおしさが募り、夏樹はある種の、サディスティックな欲望を
感じた。
男ならきっと誰しもが経験したことがあるだろう。
好きな女の子をいじめてみたいという願望である。