あの、結果オーライの恥ずかしい最悪の告白の後、アイツと一緒に家に帰った。家の前までずっと手をつないで、恥ずかしくて、嬉しくてほとんどなにも喋れなかった。  
 家に入るとき手を離すのが名残惜しかったけど仕方ない。明日になったらまた会える。そう諦めて別れた。  
 その夜、私は弟の部屋からエッチな本をこっそり持ってきた。隠し場所は前から知っていたから簡単だった。  
 アイツの言葉を聞いていて、どうやら私にはそういう方面の知識が全然ないということに気付いて、少し勉強しようと思ったのだ。……その、いつ、そういうことになるかわからないから。  
 そして今、私はベッドの上で取ってきた本とにらめっこしている。勉強しようと思ったのはいいが、恥ずかしくて見る勇気が出ないのだ。  
 私は表紙を見ただけで赤面してしまいその本を読むことができない。だって、おっぱいを出した女の人が大きく足を開いている。  
「……このままじゃだめだっ! 勇気を出せ美冬!!」  
 勢いに任せて本を手に取り、表紙をめくっていく。  
「うわぁ……。凄い……こんなことするんだ……」  
 知識としては知っていたが、写真でもろに目の前にあると違う。私は初めて見た他人の行為にショックを受け、声を洩らしていた。  
 それと同時に体の奥が熱くなるのを感じた。空手をやっているときの熱さとは違う熱さだ。  
 ぺらぺらとページを捲っていくうちに、ある写真が目に飛び込んでくる。  
「……フェラ……チオしてるとこだ」  
 写真の女の人みたいに自分がアレを舐めていたなんて、信じられなかった。こんなにいやらしく見えることをしてたなんて!  
 どきどきしながらその写真を眺めていた私は、いつのまにか指を口元に持ってきていた。  
 気がついて、慌てて自分に言い聞かせる。  
「うわっ! ちょっ、と。私なにしようとしてんだ」  
 
 指が勝手に迫ってくる。自分の体なのにいうことを聞かない。あの草むらでのことが思い出されて、頭がボーっとしている。  
 ぺろり。人差し指を一舐めしてしまったのがきっかけだった。そのまま咥えて舌を動かす。私は指がベトベトになるのもお構いなしに、しゃぶり続けた。  
「んむぅ。……あむ」  
 頭がじんじんして、なにも考えられない。  
 しばらくして私は我に返って、情けなさで一杯になった。いくら興奮したからと言って自分の指をうっとり舐めるはめになるとは思わなかった。  
 自分がそれほど自制の効かない人間だと言うことをはじめて知った。空手で身も心も鍛えられていると思っていたのに。  
 結局その夜は、引出しの中に本をしまい、いつのまにか濡れていた下着を替えると、むりやりふとんに潜り込んだ。  
 
 数日後、私は道場の更衣室前でドアノブを握ったまま固まっていた。  
「最近なんか美冬先輩おかしくない?」  
「やっぱりあんたもそう思う?」  
「じゃあ、早苗もそう思ってたんだー」  
「だってなんか練習中もボーっとしてるしさぁ。この前の組手のときなんか、いきなり嬉しそうに思い出し笑いしてんのよ。私びっくりしちゃってなにもできなかったって」  
「え! マジで。あの美冬先輩がそんな風なのって見たことないよね」  
「それに朝練終わりにみんなでバナナ食べんじゃない?」  
 
「ああ。監督の授業前に朝練で使った分の栄養補給をするんだー。とか言ってるやつ?私らがバナナ食ってんの見たいだけなんじゃないのって思うんだけど。あのエロオヤジ」  
「そう、それそれ。そんときさ、美冬先輩すごいエッチなんだって」  
「なにが?」  
「バナナの食べ方」  
「えー!? 本当にマジで!?」  
「なんかさ、すごいエロイ顔して、舐めるみたいに食べてんの。あれ絶対に口の中で舌動かしてるって。つーかフェラのこと想像してるよ。絶対そうだって」  
「なに言ってんのよ早苗!美冬先輩はそんなことしません!!」  
「ちょっ、叩かないでよ。もう、あんたの美冬先輩好きはわかったから。ちょっとあんたレズっけあるんじゃない?」  
「失礼なこと言わないでよ。私は純粋に尊敬してるんです!」  
「ほんとにぃー? でもさぁ、絶対に先輩男ができたよね」  
「美冬先輩は男なんかに興味ありません!」  
「うわっ! あんたやっぱレズなんじゃん!!」  
 私はドアの向こう、更衣室から漏れ聞こえてくる後輩達のかしましい会話を聞いていのだ。  
 盗み聞きをする気は全然なかったけど、後輩の会話に自分の名前が聞こえてきたら、どんな話をしているか、気になるのは仕方ないと思う。  
 ついつい聞いてしまったことには悪いと思うが、聞いてよかった。心の底からそう思った。  
 練習に臨む前の気合が消え失せて、変わりに妙な汗が浮かんでくる。そして、顔がものすごい勢いで赤くなっていくのが自分でもわかった。  
 
 自分がそんなことをしていたなんて、全然気付かなかった。しかも後輩に見られていたなんて。  
 確かに初めてアレを舐めてから、エッチな本を見てからというもの、なんだか棒状の口に入れるものがアレに見えて仕方ない。ぼんやりしているとつい、あのときのことが思い浮かんでしまう。  
 監督にも最近、注意力散漫だ。と怒られた。  
 あのバカのせいだ。いきなりあんなエッチなことさせるから、私はおかしくなってしまった。  
 あのうっとりする独特の匂いと、口に咥えたときの熱さのことを思うと、体が蕩けそうになる。  
 ガンッ。  
 口を半開きにして立っていた私は、いきなりおでこに衝撃を感じた。  
「痛っ」  
「あっ、美冬先輩! すいません、ドアの向こうにいるなんて気付かなくて。大丈夫ですか?」  
 後輩がドアの影から顔を出して謝っているのが見える。どうやら、ぼけっと立っていた私にドアが当たったらしい。  
「謝らなくてもいいから、私がぼんやりしてたのが悪いんだし」  
 少し赤くなっているおでこをさすりながら私は言う。  
「ほんとすいませんでした」  
 後輩達はぺこぺこ頭を下げながら道場の方に小走りで駆けて行った。  
 あんたが悪いのよ。なんでよ。二人が責任を押し付けあっている声が聞こえてくる。  
 しっかりしなきゃ。反省しながら開いたままのドアから、更衣室に入る。  
 
 私は自分のロッカーの前に立つといつものように制服から胴着に着替えだした。もう何回も繰り返した、体に染み付いた動きだから勝手に体が動く。そのせいで余計な考えが頭に浮かんでくる。  
 あれから今日まで、学校で喋ったり、一緒に下校したりするものの、アイツは手を握るぐらいでなにもしてこない。  
 ロマンチックなファーストキスと、それから……。  
 そんな期待を抱いていた私は肩透かしを食ってしまい、やっぱりこんな空手ばっかりやっている女なんかに、魅力を感じなくなってしまったのだろうか。と不安になっていた。  
 そして今日の昼休み。たった数日でおかしくなりそうだった私にアイツは言った。  
「今日の放課後、道場で待っていてくれ」  
 私は訳がわからなかったが、うん、わかった。と返事をした。  
 すると、アイツは嬉しそうに笑いながら食堂に行ってしまった。後姿を見送りながら、今度アイツにお弁当作ってあげたいな。そう思う私を残して。  
 そのことを思い出して、どんなお弁当にしようか考えていると気分が明るく、楽しくなった。いきなり持って行って脅かしてやろう。そう思うと、なんだかわくわくしてきた。  
「空手すんのがそんなに楽しいのかよ」  
 女子更衣室に響いた男の声に、私はぎょっとして振り向いた。すかさず構えを取り辺りを警戒する。  
 私は不埒な侵入者を探したがどこにもいない。きょろきょろと室内を見まわす。  
「こっち、こっち」  
 声のした方に振り向くと、くもりガラスの窓があった。少し開いた部分からひらひらと動く手が見える。  
 ゆっくりと、隙間からのぞいてみると、呑気な顔をしてアイツが立っていた。  
「な、な、なにしてんだよっ!」  
「なにって美冬、約束しただろ。今日の放課後に道場でって」  
「したけど! とっ、とりあえず中入って。そんなとこにいたら覗き扱いされる」  
 私は窓を開けると慌てて、中に入るように促した。  
 
「なんのつもり?こんなとこに忍びこんで」  
 腰に手をやり、少しでも、怒った態度を見せようとしたけれど、予想もしなかったときにアイツに会えたので、つい顔がほころんでしまう。  
「だから、約束しただろって」  
 窓から体を入れながらぶつくさ言っている。  
「約束もなにも、放課後はまだだろ。私は今から練習なんだぞ」  
 この胴着姿が目に入らぬか。とばかりに私は胸を反らせた。  
「普通は授業が終われば放課後なんだよ。美冬が特別なんだよ。まぁ、でも会えたから良かった。しかし……」  
 途中で話すのをやめると、ジロジロと不躾な視線を私の体に投げ掛けてきた。  
 こんなにも露骨に人に見られたことがなかったので、私はおろおろしてしまった。しかもこいつに見られていると思うと、なんだかどきどきして、胸が高鳴る。  
「しかし、なんだよ。男らしいとか言ったら殴るぞ」  
 アイツはぶるぶると首を振り、ニヤニヤ笑いながら言った。  
「まさか、そんなこと言うわけねぇだろ。胴着着てる美冬ってなんかエロいなぁ、と思ってさ」  
「なっ……」  
 思わず胸を両手で覆い、予想外の発言に私はうろたえてしまった。しかしよく考えてみると、胴着の下にはシャツを着ているし、さらにその下にはきちんとスポーツブラをつけている。それでも視線が気になってしょうがない。  
「み、見るなっ!」  
「別にいつも見てんだからいいだろ」  
「そうだけど目がなんかいやらしいじゃないか」  
「だって仕方ないって」  
「……なにが仕方ないんだよ?」  
 警戒しながらも、気になってしまった私はつい尋ねてしまった。  
「言っていいの?」  
「早く言えってば!」  
「……だってさぁ。この前、フェラされたばっかりだろ。思い浮かんできちゃうんだよ、エロいお前が」  
 
「こっ……このばかっ! 変態!!」  
 アイツは腕を振りまわす私から逃げ回っている。  
「お前が言えって言ったんだろ。怒るなって」  
「そんなこと考えてるって知らなかったからだ! スケベ!!」  
「いいだろ考えても、お前は少しも考えないのかよ」  
 その言葉は効果覿面だった。私の動きがぴたりと止まる。  
 それは、その……考えないどころか、ずっと頭から離れなくて困っているぐらいだ。とはいえ、そんなことを口にできるわけもない。  
 黙っている私を見て、なにかを察したのかあいつが近づいて来た。  
「ふぅん。どうやら考えないってことはないんだな?」  
「……それは、その。あれだよ、な?」  
 私はしどろもどろでごまかそうとしたが、通じるわけもなく。  
「へぇ。考えるんだ?そうだろ美冬?」  
「……」  
「み・ふ・ゆ?」  
 黙りこんでいる私に、ずいっと身を乗り出し、完全に勝ち誇った笑みでこちらの顔を覗きこんで迫って来る。仕方なく、私はできるだけ聞こえないように小さな声で言った。  
「……お前みたいに、ずっと考えてるわけじゃない……」  
 言ってしまって私は恥ずかしくてたまらなかった。なんてことを言わせるんだこのバカは。もう相手の顔を見ていられない。  
 ところがこの私の恋人はさらにとんでもないことを言い出した。  
「ていうことは、考えてたってことだよな。どんなこと想像してたんだよ。俺に教えてくれ」  
「にゃっ!?」  
 驚きのあまり私は、変な悲鳴を上げてしまった。  
 ただでさえ羞恥を覚えるようなことを言わせておいて、さらに私を追い詰めようとしている。私は泣きたくなってきた。  
 
「早く教えてくれよ。あっ! 先に言うのが嫌だったら俺から言ってやるよ」  
「そんなの」  
 言わなくていいから。という部分を私が言い始める前に、勝手に話し出してしまった。  
「俺の場合は、美冬が恥ずかしそうに舌で舐めてくれたのが一番印象に残ってて頭から離れないんだよ。で、次が俺の匂いを嗅いでる美冬の顔のエロさ! 昨日なんか夢に出てきちゃったよ」  
 興奮気味に捲くし立ててくる、とてもじゃないがまともに聞いていられない。顔が熱くなって、湯気が出そうになっている。  
 夢に私が出たという言葉は凄く嬉しい。でも、それ意外の部分が聞いていられないほど恥ずかし過ぎる。コイツは絶対に私を恥ずかしがらせて喜んでる。  
「バカっ! 変態! やめろ! もうなにも言うなっ!」  
 私は大慌てで、目の前で人の恥ずかしい思い出を語り続ける口をふさいだ。  
「お願いだから。これ以上この前の事は言わないで」  
「むがった」  
 恋人が口を押さえられたまま喋ろうとして変な声を出している。  
「ひゃっ!」  
 私は指先に刺激を感じて思わず声を出した。いつまでたっても手を離さない私への抵抗か、舌で私の指先をぺろりと舐められのだ。  
「なっ、なななにするんだ!」  
 思わず声が上ずってしまう。舐められた部分から電気が走ったような気がする。なんだか指先が熱い。  
「お前が手どかさねぇんだもん。仕方ないだろ」  
「ほ、他にもやり方あるだろ!」  
「いいだろ。彼女の指を舐めたって」  
 彼女。その言葉に今の幸せを実感し、頬が緩んでしまう。  
 そんな私の隙をついて、話を元に戻されてしまった。  
「俺の話したから、次は美冬の番だぞ」  
 
 私は猛烈な勢いで首を左右に振る。  
「そ、そっ、そんな恥ずかしい話できるわけないだろ!」  
「人の話は聞いたくせに」  
「お前が勝手に話したんじゃないか!」  
「わかったよ」  
 思いがけずあっさり引き下がられて、私は拍子抜けしてしまった。  
「いいの?」  
「ああ、お前がそんなに嫌ならいいよ」  
 さらに、ごめん。と謝られてしまった。がっかりした顔でこっちを見ている。こいつは私がそんな風に言われて、そんな顔をされて、断らない、いや、断れないのを知っていてやっているのだろうか。  
「……別に言ってもいい」  
 ポツリと私は呟いた。  
 私の言葉にコイツは驚いた顔をして、なんで。と突然の変わりようを疑っている。  
 どんな願いでも、コイツの頼みなら引き受けてしまう。好きな男に頼まれては断ることはできない。最初は嫌と言っても、結局私にはそれをかなえることしかできないのだ。  
 惚れた弱みという、甘く、苦い気持ちを噛み締めていると、うきうきとした顔で  
「じゃあ、気が変わらないうちに早くしよう」  
 手近にあったパイプ椅子を二つ動かして向かい合わせに並べると、片方に座った。  
 どうやら私にも座れということらしい。  
「さ、腰も落ち着けたところで。お願いします」  
「……」  
「早く」  
 そうあらたまられるとよけいに恥ずかしい。私は最後の抵抗を試みた。  
「……その、やっぱりなしってのは?」  
「いまさらダメ」  
 あっさりと拒否されて、私はこれから処刑される罪人のような気持ちになった。  
「早く、美冬」  
 
「私の場合は……」  
 仕方なく口を開くと、アイツが満面の笑みで私を見詰めている。ただでさえ恥ずかしい告白をしようとしているのに、さらに羞恥心を煽られてしまう。  
「私は、その……こ、この前の夜……」  
「夜?」  
「弟の部屋から」  
「部屋から?」  
「いちいち私の言ったこと繰り返すなっ!」  
 パイプ椅子を揺らして立ちあがると、私は照れ隠しもあって、怒鳴った。  
「だって美冬、お前が悪いんだぜ。いちいち間を開けるからさ、ついつい相槌を入れちゃうんだって」  
 私は肩を押さえられ、宥められながら再び、椅子に座らされた。  
「もう繰り返さないから。続き、続き」  
 こいつの顔に正拳突きを入れてこの場から逃げ出したい気持ちをなんとかこらえ、再び口を開く。  
「弟の部屋から、その、なんていうか……な本を取って来て」  
「え?なんて言う本?ちょっと聞こえなかった」  
 聞こえないように言ったんだバカ! 叫びたいのを我慢して、私は同じ言葉を繰り返した。  
「……な本」  
「だから……聞こえないって」  
 絶対にコイツは私が何を言いたいかわかってる! それをわかって私をいじめて喜んでるんだ!  
「エッチな本持ってきたの!」  
 やけくそになって、とうとう私は爆発した。  
「これでいいだろっ! なんで私を苛めるんだよ! 私はこんなにお前のことが好きなのに、お前は全然じゃないか! 嫌いならそう言ってくれればもうなにもしない、お願いだから……」  
 最後の方は悲しくなってしまって、涙がこぼれて、鼻声になってしまった。  
 
 アイツはなにも言わずに私を黙って見ている。  
 短い付き合いだったなぁ。家に帰ったら思いきり泣いて、終わりにしよう。そう思っていると突然、手を力いっぱい引っ張られた。そのままあいつの腕の中で抱きしめられてしまう。  
 呆然としてそのままになっている私を、ぎゅぅ、と抱きしめながら優しく語り掛けてきた。  
「なんでそうなるんだよ」  
「……?」  
「俺もお前のことが好きだって、この前言っただろ」  
「でも、でも私を苛めて喜んでるじゃないか」  
 気を抜くとまた涙が零れそうなので、私は必死で我慢しながら言った。  
「ごめん。顔真っ赤にして照れてる美冬が可愛すぎて、ついつい苛めちゃったんだ。ほんと悪かった。そういえば……この前もこんなことあったよな。ようするに、可愛過ぎる美冬がいけないんだ」  
「バカ」  
 悪態をついたものの、私は恋人の温もりを感じながら、幸せに包まれていた。一言一言で一喜一憂して、ほんとにバカみたいなのは私だ。  
 少しでも私の気持ちを伝えようと、優しく抱きしめてくれている腕に頬擦りをした。  
「少しも、嫌ってなんかいない。俺は美冬が大好きだ」  
「……私も」  
 私の目が潤んでいるけれど、今度は悲しみの涙ではない。  
「よし! 誤解が解けたところで続きだ」  
「えっ?」  
 事態に対応できない私をほうって、笑いながらアイツが言う。  
「続きだよ、続き。エッチな本を取って来てからの続き」  
「なんで? もういいだろ!?」  
「それとこれとは話が別だからな。早く」  
「じゃ、じゃあ離してよ」  
 
「ダメだ。逃げられるかもしれないし、なにより俺が美冬を抱っこしていたい」  
 さっきまでは、いつでも席を立って逃げられたけど、今からは自由に動くこともできない。私は柔らかい檻に捕えられてしまった。  
「さ、続き」  
 「……本を取って来てから、ベッドの上でそれを読み始めた」  
 有無を言わさぬその口調に、諦めて話を続ける。相手の顔を見ながらでないだけ、少しはましだと諦めて。  
「それから?」  
「それから、パラパラと眺めているうちに、あの……フェラチオのページになって。なんだか変な気分になってきて」  
「どんな気分?」  
「あの、だから、この前のことを思い出しちゃって……」  
「で、どうした?」  
「……頭がボーっとしてきて……いろいろ想像しながら指を。……自分の指を舐めたんだ」  
 とうとう言ってしまった。全身が熱くてたまらない。  
「そのときはどんな気分だった?」  
「わからない。なんだかぼんやりしてたから」  
 普段なら口篭もってしまうような質問にも、なぜか答えてしまう。アイツの声が耳から入って私をおかしくさせる。  
「よし、じゃあ……もう一回やってみよう。今度は俺の指で」  
 荒く息をして、だらしなく開いていた私の唇に、後ろからまわされた指が触れた。そこから体中に私を溶かす熱が広がっていく。  
「舐めて」  
 
 命じられるままに、舌を伸ばし、指に触れた。体温が舌先から伝わってくる。自分の指を舐めたときとは全然違う。あのときより私は遥かに興奮している。  
「それだけ? ちょっと舐めてみただけなんだ?」  
 問い掛けられて、私は返事をしようと思ったけれど、私の口はすでに私のものではなかった。  
 勝手に舌が動いてピチャピチャと音をたてる。私は自分をこんなエッチなことができる人間だとは思っていなかったけれど、私の口を犯している指がいけないのだ。  
 こんなに甘く、切ない味は今まで感じたことがない。  
 いや、一つだけあった。指ではなく……。  
「お前って、普段は空手命って感じでこんなことしそうにないけど、スイッチ入ると凄えよな」  
 アイツがごくりとつばを飲み込む音が聞こえる。いや、私が飲み込んだのだろうか?  
「で、舐めただけなのか?」  
 質問なのか、命令なのか。私はもう、どうでもよくなってしまった。舌が指を這いまわるたびに体の奥から熱くなってくる。  
 先ほど想像したように、あの夜想像したように、私は指を咥えた。固い爪と、皮膚の舌触りの違いが交互に襲ってきて、私を酔わせる。爪の先が頬の内側を引っ掻いたと思ったら、指の腹で優しく撫でられる。  
 口の中の空気を洩らし、くぷくぷ音を立てながら、頭を振り、指を唇で締め付ける。続けて、できるだけ深く咥えこむと、ちゅうちゅう吸いついた。  
「んふー、ふぅー」  
 私は指を片時も離そうとしないので、どうしても口で息ができない。そのせいで、ふーふーと情けない鼻息を洩らすはめになる。下品なことだとわかっているが、それでも口を離して息をするなんて考えられない。  
 舐めているのか、舐めさせられているのか。最初は仕方なく始めたはずなのに。  
 いつのまにかアイツの手首にまで私のよだれが流れ、垂れてしまっている。しかし、それにかまわず私は舌を動かし続けた。舌を指に絡ませて、できるだけ離隙間ができないように密着しながら、ずるずると舐めしゃぶる。  
 
 愛撫しているのは私のほうなのに、その私が感じてしまっている。うっとりしていると舌を指で摘ままれてしまった。  
「んんっ!」  
「美冬さぁ、なんか俺の指舐めて気持ち良くなってないか?」  
 なぁ。と言いながら、私の舌先をくにくにと揉んでくる。本来なら苦しいはずなのに、その苦痛さえも微かな快感と共にやってくる。  
「んんん……んあんん」  
 私は舌を引っ張られているので、口を閉じることもできずに、たらたらとよだれを零してしまう。  
「ま、いいか。俺も気持ちいいからお互い様ってことで」  
 舌を挟みこんだまま、指を口の中へ押しこんでくる。私は口腔で解放された舌を使って、つい今まで私を苛めていた舌を愛撫する。  
「こんな風に咥えたんだ」  
「ふぁい」  
 指が邪魔をして、気の抜けた返事しかできない。そのことが私をさらに興奮させる。  
 私は咥えこんだ指に舌を絡ませていく。  
「一人でこんなことしてたんだ。なにを想像して?」  
「……色々」  
「色々ってなに?」  
 優しい、期待に満ちた声がためらう私の背を押す。  
「お前のを、想像して」  
「俺の? 俺のなにを想像してたんだよ?」  
「……お前のアレ」  
 答えた私の口から指が引き抜かれてしまった。私はぬらぬらと濡れて光っているそれが欲しくて、はしたなく舌を突き出した。けれど、後少しというところで届かない。  
「アレじゃわからないんだけど。名前、知ってるだろ?」  
「……」  
 
 わかっているくせに、私に言わせたいのだコイツは。腹が立つ。けれど、もう私は逆らえない。きっと私がそれを言わないと、もう指を、私を蕩かしていく指を舐めることができないだろう。  
 それは嫌だ。  
「……お、おちんちん、だ」  
 言ってしまった。けれど恥ずかしさよりも、与えられるであろうご褒美への期待のほうが大きい。  
「そうなんだ。美冬ってエッチだよな。キスもしたことないのにフェラのこと想像してたんだ」  
 あらためて指摘されて、忘れかけていた恥ずかしさが蘇る。  
 羞恥で顔が熱くなった。それでも、私は唇を開き、舌を伸ばした。これではエッチと言われてもしょうがない。  
 が、いつまでたっても私の舌に指が触れない。  
 焦れた私が、情けないおねだりをする。  
「なぁ、言ったんだから……指、指舐めさせて」  
 自分で口にした言葉に煽られて、私はさらに淫らな気持ちになった。一度口にしてしまえばもう歯止めはきかない。  
「お願いだから、私にお前の指を……」  
 はしたないおねだりは想像以上の効果があった。  
「そろそろ、指じゃなくて、また俺の舐めてくれよ。もうお前のお尻の下でたまんないんだ」  
 腰を動かしてぐりぐりとお尻に押しつけてくる。  
 そのとき初めて気付いたが、私のお尻の下に硬いものが当たっている。なんだろう、そう思った瞬間、私はそれがなにか気付いた。  
「それとも指の方がいいのか?」  
「……アレの方がいい」  
「美冬はエッチを通り越して淫乱だよな」  
「お前のせいだ変態」  
 私の返事はにやにや笑いで返された。  
 
「それじゃあ、まずは変態のひざからどかないとな」  
 アイツは言いながら、私を持ち上げ床に降ろす。  
 私はぺたりと床に座りこんだ。目の前にベルトが見える。  
 そのまま、次を待ったがなにも起こらない。怪訝に思って見上げると、私が今まで乗っていたひざをじっと見ている。  
「どうしたんだ?」  
 私の問い掛けを無視して、これは。とか、へぇ。とか言っている。  
「なぁ」  
「いやいや、俺のことを変態って言ったけど、そしたら美冬はなんなんだろうと思ってさ」  
「なにがだよ」  
 アイツが笑いながら自分のひざを指差した。  
 その動きにつられて、視線を動かすと、ズボンの一部が濡れて、色が濃くなっているのが見えた。  
「これなんだろうな?」  
 その問い掛けに、私はなんの返事もできなかった。どう考えても私の……。慌てて自分の胴着の股部分に手をやる。  
 そこは私の恥ずかしい部分から出た、あのエッチな露で濡れそぼっていた。しかも、あの分厚い胴着の生地から染み出るほどに溢れている。  
「これなんだろうな?」  
 同じ問いが繰り返される。  
 さっき、もうこれ以上恥ずかしいことはないと思ったのに、こんなことがあるなんて。私は相手の顔を見ることができずに、俯いてしまった。このまま消えて無くなってしまいたい。  
「どう考えても、俺の指を舐めて感じちゃった美冬の……」  
「ばかっ! もうなにも言うなっ!」  
 私は私を苛めることを楽しみにしているとしか思えない男に飛びついて、なんとか口をふさごうとした。けれど、その行動は空しく終わってしまう。  
 
「愛液だよな」  
「!!」  
 あまりに直接的な言葉で指摘されて、私はずるずると力無くへたり込んでしまった。  
「俺が変態だったら、美冬も十分変態だよな」  
 声に反応して、のろのろと顔を上げた私は、恋人の目を見詰めた。  
「……こんな女はダメ、だよな?」  
「まさか! もう可愛くて、可愛くて仕方ないに決まってるだろ!」  
 心底嬉しそうに言うと、ベルトに手をかけ、ジッパーを降ろす。  
「エッチな恋人にプレゼントをあげよう」  
 そうして、固くそそり勃ったアレを、私の目の前に取り出して見せる。  
「これを想像してたんだろ?」  
「……うん」  
 私は二回目に目にした男のモノに釘付けになった。もう見るのは初めてではない、けれどもドキドキと心臓が音をたてる。  
「見てるだけでいいのか?」  
「よく……ない」  
 挑発するように言われて、私は待ち望んでいたそれに恐る恐る顔を近づけた。あの独特の匂いが鼻を刺激する。  
「あぁ……」  
 知らず、声が洩れてしまった。大きく息を吸い込み、匂いを堪能する。それだけで私の体の奥が、アソコが熱くなる。  
 口を開け、ゆっくりと、舌を伸ばす。  
「ん」  
 舌の先端がアレの先に触れる。その行為が私のどこかのスイッチを押した。恥も外聞も無く、私は舌を大きく動かして、ぺろぺろと舐めだした。  
 先っぽを、亀頭を、弟のエッチな本を読んだときに名前を知ったのだ。できるだけゆっくりと舐める。我慢しないと、私は自分でもどうなってしまうかわからなかったから。  
 ちろちろと小刻みに舌を動かしてみる。私の舌が這いまわるたびにぴくぴくとアレが動く。なんだか可愛く思えてしまう。  
 
「はぁ、ん、ぴちゃ……れろ」  
 舌を激しく動かすと、自然と甘い声がでる。普段の私なら、恥ずかしくて、舐めるのを止めてしまっているだろう。でも、今は気にならない。  
「ひゃん!」  
 なんの前触れも無く、耳に触れられて、私は甲高い声を出し、顔を跳ね上げてしまった。  
「お前の耳可愛いよな。耳たぶ柔らかいし」  
 くにくにと耳たぶを弄られて、アイツの指が動くたびに身をよじって耐える。  
「あっ、そ、んっなこと……されたら、舐められな、いっ、んっ」  
 耳から伝わるむず痒いような快感に、私は翻弄されて、顔がアレから離れてしまう。もっと愛したいのに。  
「俺だけ舐めてもらうのも悪いなと思って。ヒマだったし、ちょうどいいとこにあったからさ。気にしないで舐めてくれよ」  
 人の悪い笑みを浮かべながら、その表情どおりの意地悪を言う。  
「ひ、んっ、ひどい」  
「お前敏感だな……」  
 呆れた声を出すものの、私の耳を弄ぶのを止めようとしない。私はなんとか続きをしようと必死に顔を下ろしていった。  
 後少しで舌先が届くというところで、耳朶を巧みに刺激され、そのたびに体が仰け反る。  
「はぁぁん。届かないよぉ」  
 泣き声をあげながら、口を開け舌を突き出している自分が、浅ましい。  
 何度目かのチャレンジの末に、ようやく舌に熱い肌が触れた。  
「あぁ」  
 喜びに溜息をついて私は思う存分、それを味わった。痺れるような熱を感じながら、ぴちゃぴちゃと音をたてて舐めしゃぶる。  
 
「美冬はほんとに美味しそうに舐めるよな。そんなに美味しいのか?」  
「ふぁん……幸せな味がする」  
「これが?」  
「これが」  
 私が頷くと、アイツがいたずらを思いついたような顔になった。  
「おい、美冬。さっきはきちんと名前で言えただろ? これじゃなくて、なんて言うんだ」  
 私が口篭もると、頭をグッと鷲掴みにしてニヤリと笑った。それから私の顔をゆっくりとアレから引き離す。  
「ちゃんと言うまで、あげないからな」  
 いまやそれの虜になっている私はあっさりと白旗を揚げた。頭ではそんな言葉口にしてはいけないと思っているのに、唇が、舌が勝手に動いてしまう。  
「……おちんちん」  
「よし」  
 私は頭から手をどけられるとそれに、……おちんちんに頬擦りし、胸いっぱいにその匂いを吸いこんだ。  
「はふぅぅん。……幸せ」  
「すげぇな」  
 小さな感嘆の声が頭上から降ってくる。  
 顔中をおちんちんに擦り付けて、その熱を感じる。触れた部分からじんじんと熱い刺激が伝わる。  
 先の部分から出ている、透明の粘液で顔がベトベトになるが、まったく気にならない。むしろ、心地良い。  
 そのまま、先から、下の柔らかい袋の方に顔を下ろしていく。ふにふにと柔らかくて、触り心地がいい。おちんちんの根元から生えている毛が鼻先をくすぐってくる。その感触に、なぜか嬉しくなってしまう。  
「……はむ」  
 吸い込むようにして、口に含む。よだれが溢れそうになっている私の穴の中で、その皺の一筋一筋に丁寧に舌を這わせる。  
「ふぁ……ん。お前の、おひんひん」  
 顔に、棒の部分をぐにぐに押し付けながら、上目遣いにアイツの様子を窺うと、気持ち良さそうな顔をしてこちらを見詰め返してくれた。頭に手が置かれると、優しく撫でてくれた。どうやら私に対するお礼のようだ。  
 
 私は嬉しくなって、もっと大きく口を開けて、もごもごと袋を口の中に入れる。そうすると、柔らかいはずの袋の中に固い、しこりのようなものを舌で感じた。  
 これはもしかして、あの、キン……タマというやつではないか? 非日常の行為の中で、練習中に男子部員が股間を押さえうずくまっているときに、周りの男子部員が顔を歪めて呟いている言葉が出てきて、私はうろたえた。  
「おい、どうかしたのか?」  
 私の動きが止まったのを不審に思ったのか、頭を撫でていた手が、するすると頬に降りてきた。心配してくれているのがわかって、嬉しくなる。  
 けれど、まさかキンタマに驚いたとは言えない。おちんちんはなんとか口にしたけれど、それを言うよりも遥かに恥ずかしいことのような気がする  
「らんでもなひ」  
 なんでもない。そう言おうとしたのに、口の中がいっぱいで上手く喋れない。が、言いたいことは通じたのか、アイツが安心した顔になる。  
 その顔を見て私も安心して、欲張って頬張りすぎた口のモノを解放する。口の周りが滴り落ちたよだれまみれになってしまった。けれど、今はそんなことはまったく気にならなくなっている。むしろ、もっとコイツにぐちょぐちょに私を汚してもらいたい。  
 もう一度、袋を口に含み、ちゅうちゅうと吸いついた。そのまま引っ張りながら、口の力を緩めていくと、ちゅぽんという淫靡な行為に似つかわしくない明るい音がした。それがおもしろくて幾度か繰り返す。  
 私は思う存分袋を堪能すると、今度は舌を突き出して、下から上へ、輪郭をなぞるようにして触れていった。  
 微妙な刺激にアイツの眉がしかめられるのが見える。  
「おい、美冬そろそろ咥えてくれよ」  
 私がいつまでたってもゆっくりと刺激を与えていくので、焦れたのか、次の指示がきた。  
「あ……ん」  
 待ちに待ったご馳走を前にして私は親に、はしたない。と怒られそうなほど大きく口を開いて、ゆっくりと、顔を近づけていく。  
 口腔内に迎え入れたものの、内側のどこにも触れないようにして、自分自身を焦らす。  
「はぁん、むっ……」  
 
 唇を閉じ、今か今かと待ち構えていた粘膜でおちんちんを包み込む。火傷しそうなぐらい熱い塊が口の中で暴れまわっている。ぐにぐにと頬の内側に擦り付けるようにして先っぽを刺激する。  
「ふぅ……むぐぅ、ん」  
「ああ、やっぱ美冬の口って最高だ」  
 褒められた私は、それを励みにさらにフェラチオを続ける。  
 こんなことの練習なんかしたことないのに、私の口は、舌はアイツを気持ち良くする方法を知っている。おちんちんを咥えているとき、私が口を操っているのではなく、口が私を操っているような気持ちになる。  
 歯を立てないように細心の注意を払いながら、口をすぼめ、唇でおちんちんを咥えると頭を動かし始めた。  
「はぐ、う……むぅ」  
 うめき声を出しながら頭を動かし、亀頭の張り出した部分に舌を擦りつける。  
 私の動きに合わせて、アイツも腰を動かしてくる。喉の一番奥までおちんちんを突き入れられると、苦しさでえづきそうになるが、相手が気持ち良くなっている証拠だと思うと気にならなくなってしまう。  
 それに、深いところまで迎え入れると、今まさに私達は繋がっているのだという気がして嬉しい。  
「ぅえっ、んっむんっんっ。じゅぷ、じゅぷ」  
 溜まったよだれがおちんちんに掻き回されて口の端で卑猥な音を立てる。それが恥ずかしいので溜まった液体を苦労して飲み込むのだが、その液体が私をダメにしてしまう。  
 男は先走り液というものが出ると前のときに教わったが、それが混ざっているせいなのか全身に甘く染み渡る。最初は音を立てないようにしていたのだが、だんだんわざと喉を鳴らし、飲み下しすようになっている。  
「すげぇな美冬。美味しいか」  
「んぁむ……んぃ、おいひいよぉ」  
 舌先でおちんちんの先っぽの割れ目にちょっかいをだす。あぁ、と快感のうめき声が頭上に落ちてくる。  
 
 アイツの声が切羽詰ってきたので、私はアレを試すことにした。  
 あの夜、本で見たように口でおちんちんを咥えながら、手を袋の方に伸ばす。手のひらで包み込むと、なるべく力を抜いてマッサージするように揉みしだいた。  
「うわっ。美冬が自分からこんなことやってくれるとは思わなかったな」  
「喜んでもあおうと思っれ、本れ勉強しらの」  
 質問に答えながらも、舌で浮き上がっている血管を舐める。ドクドクと脈打って力強い。  
「そうか、偉いぞ美冬」  
 頭を撫でるその手の暖かさのせいで心の底から喜びがこみ上げてくる。褒めてもらって嬉しいなんてまるでペットだ。でも、このご褒美のためならなんでもできる気がする。  
「もっろ撫でて。わらひ頑張るから」  
 全身に痺れが走ってまともに言葉にならない。  
「なんか、こうまでフェラ好きだともう完全に変態だな」  
「それれもいいから」  
 アイツが快感を露わにした表情で言うので、変態という言葉も褒め言葉に聞こえてしまう。  
 今なら何を言われても構わない。私は精一杯心をこめて奉仕する。  
 がぽがぽ、じゅぷじゅぷ、淫らな音を奏で、顔中をベトベトにしながら私の頭が動く。  
「そろそろ、イキそうだ」  
 その言葉を聞いて私はさらに深く、喉で擦るほどおちんちんを飲み込む。苦しみなのか、快感なのか、どちらを感じているのか混乱しながら愛撫を続けた。  
「んむ、あっ……むぅっ。えぅっ、んっんっ」  
 今まで以上によだれが唇から溢れ、零れる。濃くなっているのだろうか、すぐには垂れずに糸を引いて落ちる。胴着の襟元はもうとっくの昔にぐちょぐちょになっているので、どれほどよだれが零れても気にならない。  
「美冬、イクぞ!」  
 押さえた叫びとほぼ同時に、私は今までで一番深くまで喉の奥までおちんちんを迎え入れた。びくびくと激しく私の中で暴れまわって、一段と大きく膨れたかと思うと、勢い良く射精し始めた。  
「美冬っ!」  
 私の名前を呼びながら、間断無くびゅくびゅくと喉に直接粘液が放出される。洩らさないように耐えていたが、とうとう我慢しきれなくなった。  
 
 私の口から、熱い粘液を噴き出しながらおちんちんが飛び出してしまう。  
「……ぅえっ! けほっ! うっ、くぁ……」  
 咳き込む私の顔に、燃えるように熱い白濁した粘液が降りかかる。その瞬間、私の頭のてっぺんから爪先までを、激しい稲妻のような快感が貫いた。  
「ひあっ! ひやぁん! はぁぁぁぁ。んぅ、あぁん……」  
 放心し、だらしない声で喘ぎながら、がくがく痙攣する。その間も次々と精液を浴びせ掛けられる。  
 私の顔だけでなく、胴着までベトベトにしてようやくそれは治まった。  
 まだ、ふわふわとした感覚のまま、ぼんやりと目の前のおちんちんを私は見詰める。それはまだ、発射したりないのか、時々ぴくんと大きく跳ねている。  
 なんだか、いとおしくなった私はそれを咥え、まだ先っぽに残っている雫をちゅうちゅう吸い出した。  
 私の口の中で徐々に小さく、柔らかくなっていく感触が不思議だった。あれほど固く私の喉を突いていたのに。  
 おちんちんに舌を絡めると、舌に痺れるような快感が走る。舌が先っぽに触れるたびに、口の中をぴくぴく跳ねまわる。  
「おい、美冬っ! もういいから、出したばっかりでそんなに吸いつくなって。敏感になってるんだよ」  
 身をよじりながら懇願されて、私は渋々口を離した。  
「……はぁ」  
 溜息が精液まみれの口から洩れた。私を襲った快感は、いまだに体のいたるところで燻っている。  
 大きく息を吸い、自分に降り掛かった粘液の匂いを吸いこむ。すると、優しい快感が私を刺激した。  
 コイツの匂い。そう思うだけで幸福感に満たされる。これは私が恋人を気持ち良くしたという証拠であり、私がコイツの彼女だという証拠だ。マーキングされた。そんな考えが頭をよぎる。  
 ぺろりと舌で口の周りの精液を舐め取る。前のときも思ったが、変な味だ。でも幸せな味。  
「なんだ? また顔についた精液まで舐めるのか?」  
「ふぁん。らってもったいない。せっかく出してくれたんだし」  
 ぺろぺろ舌を動かして舐め取っていく。口の中はもうドロドロだ。  
「んむっ、ふぅぅ」  
 顔についた分を全部掬い、舐め取ると私は深く息を吐いた。  
 
「しかし、今回は凄かったな。顔射された途端悲鳴を上げて……あれイッてたよな」  
「顔射ってなんだよ?」  
「……美冬ってほんとエロイのに、自分のしたことがなにかって全然知らないんだよな」  
「エロイって言うなっ!」  
 否定したものの、我ながらこれほど説得力のない発言は初めてだ。  
「顔射っていうのは、今みたいに顔に精液をかけること」  
「そうなんだ。……私はイッたのかな? なんだかわけがわからなくなって……気持ち良すぎておかしくなりそうだったけど」  
「イクってことの意味は知ってるんだ」  
「うるさいっ!」  
 赤面しながらニヤニヤ私を見下ろしている恋人に怒鳴った。  
「フェラしただけであんなに気持ち良さそうになるなんて、俺初めて見たぜ」   
「そうなんだ」  
 呟いた私は、急に恥ずかしくなった。コイツにはみっともないところばかり見せている気がしたのだ。  
 突然もじもじし始めた私を見て目を細めていたアイツが、私のあごに手を掛けて自分を見詰めさせた。  
「な、なんだよ」  
 珍しく真面目な顔をしているので、緊張してしまう。  
「なぁ、美冬」  
「……」  
「キス、しようぜ」  
「きゅ、急にそんなこと言われても」  
 いきなりの提案に声が裏返ってしまう。  
「嫌か?」  
 わたわたとうろたえる私を気にせずに、真剣な表情だ。  
「嫌じゃないけど、顔ベトベトだし。前もそれでしなかったし」  
「ベトベトでも別にいいよ。俺はすぐにしたい」  
 そこまで言われて私は覚悟を決めた。おちんちんを舐めておいて、こんな風になるのはおかしいのだろうか。もの凄く緊張する。  
「……うん。わかった」  
 
 耳まで赤くなっているのが自分でわかる。私は驚くほど小さな声しかだせなかった。  
 手をぎゅっと握り締めて、ゆっくりと目を閉じた。  
 少しだけ唇を開いて、じっと待つ。  
 私の背中に手が回された。  
 見えなくても、アイツの顔が近づいてくるのがわかる。  
 がちゃん! ばん!  
 鋭い音と共に、誰かが更衣室に入ってきた。  
「先輩ー? いますかー? もうすぐ一回目の休憩になっちゃいますよー、先生怒ってますよー」  
 お互いにびくりとして体が離れてしまう。  
「せんぱーい!?」  
 すっかり忘れていた!  
 私は練習の準備として着替えるために更衣室にやって来ていたのだ。決して、いやらしいことをするためではない。  
 幸い、この部屋はロッカーが並んで、区切られるようになっているので、入り口からは今いる場所は見えない。  
 どうしよう、そんな目でアイツを見ると同じように焦ってうろたえていた。  
「と、とりあえず、追い返せって」  
 小声で私に指示を出してくる。  
 確かに、この有様を見られてはいいわけのしようがない。  
「ご、ごめん! ちょちょっと貧血起こしちゃって」  
「大丈夫ですか!すぐ行きます」  
 私のいいわけは思いっきり逆効果になってしまった。  
「ばっ、ばか! 何てこと言うんだよ。追い返すんだろ!」  
 アイツががくがくと私を揺さぶった。  
「いい! 来なくていいから! 私大丈夫だから。先生に今日はもう帰るって伝えてくれればいいから!」  
 必死で追い返そうと言葉の限りを尽くす。  
 こちらの気迫が伝わったのか、納得した気配は無いものの、わかりました。という返事が帰ってくる。  
 私達は顔を見合わせると、胸を撫で下ろした。  
「じゃあ、伝えときます。ところで先輩?」  
 安心したのも束の間だった。まだなにかあるのか? 
 
「な、なに?」  
 喉が引き攣って妙に甲高い声になってしまった。  
「なんか変な匂いしません?」  
 私は心臓の音が相手に聞こえるのでは無いかというほど驚いた。間違い無く、先ほどまで私を虜にしていた精液の匂いに違いない。多少は舐め取ったものの、胴着に染み込んでしまっている。  
「さささぁ? べっ、別にそんな、匂いなんかしないと思うけど」  
 私のうろたえぶりに、横にいる恋人が顔を真っ青にしている。  
「そうですか? なんか匂うとおもうけど……。先輩? なんかおかしいですよ、やっぱり私そっちに行った方が……」  
「だめだっ! 来るなっ!」  
「わ、わかりました。それじゃ体、気をつけてください」  
 焦った声の後、ドアが閉まる音が聞こえ、室内に二人きりになった。  
「は、早くここから出ていかないと、もう休憩って言ってたから、人が来る!」  
「おう。でもお前どうすんだよ。そんな格好じゃどうにもならないだろ?」  
 そう言うと、私の格好を見下ろした。確かに精液まみれの胴着を着ている今の私では心配されるのは当たり前だ。  
「大丈夫、シャワー室あるから。更衣室の奥にあるんだ。だから早く出ていかないと」  
「わかった、じゃあな。フェラしてる美冬すげぇ可愛かったぜ」  
 アイツは私を恥ずかしがらせる捨てゼリフを残して、やって来たときと同じように窓から出て行ってしまった。  
 
 一人になった私は、制服を抱えて全速力ででシャワー室に飛びこんだ。  
 私がドアを閉めるのと同時に、休憩になった部員達が更衣室に入ってきた。  
「はぁー。危なかった」  
 私は冷たいシャワーで体の火照りを冷ましていた。  
 まだ、胸がどきどきしている。フェラチオをして感じてしまったこともあるが、それよりも、キスを迫られたせいだ。  
 夢にまで見たファーストキス。  
 せっかくファーストキスができそうだったのに。私は、どうして鍵を閉めなかったのか。あんなに真剣でかっこいいアイツなんて初めて見たのに。  
 後悔しながらも、恋人の顔を思い出して頬が緩む。キスしていいか。なんて言わなくても私が断るわけないのに。そんなことを考えていると一人で有頂天になってしまう。  
 そんな幸せを感じるからこそ、せめて、今回こそは。  
「キスしたかったー!」  
 私はシャワーに打たれながらやけくそ気味に叫んだ。  
一方、彼氏は彼女のそんな思いを知らずに、フェラチオの感触を思い出して元気に勃起しながら家路についていた。  
 

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