山田の手が自分の胸を揉みしだいて、初めて明日香の意識ははっきりと事態を理解した。
「山田!? 急になにすんのよ? ねぇ、落ち着いてよ」
「あんなことしといていまさらそんなこと……!」
明日香を見下ろす山田は瞳孔が開いていて、とても正気には思えない。
「なんか怖いって。ね? 怒らせちゃったのは謝るから、許して」
「ここまできたらもう遅いよ」
普段の様子からは想像できないほど、山田は興奮しきっている。
ひきつった顔で明日香が謝罪の言葉を口にしても、まったく届いていない。
「や……山田ぁ、こんなのやだよぉ」
明日香の瞳に涙が浮かぶ。
「ごめんなさい、お願いだから優しくなって。余計なことしてごめんなさい。バカでごめんなさい。嫌って言ったらすぐ止めるから元に戻って」
大きく盛り上がった涙は、限界を超え、ぽろぽろと大粒の雫となって零れ落ちた。
「吉崎さん?」
呆けた声で山田が恋人の名を呼んだ。そうしてから確かめるように明日香の顔を見つめた。
涙でマスカラが流れ落ちて目の回りが黒く汚れてしまっている。
唇は小さく動いて、自分の名前を呟き続けている。
怯え、かすかに震えている。
普段の、明るく元気な姿が欠片も無くなってしまっている。
「吉崎さん?」
もう一度、今度は先程よりしっかりした声で、恋人の名を呼ぶ。
「……山田?」
ぱちくりとまばたきをして、明日香は確かめるようにじっと山田を見上げた。
山田にとっては地獄のような時間だった。
自分のしでかしたことがとてつもなく明日香を傷付け、今まで犯した失敗とは比べものにならないものだという事実が腹の底にずっしりと沈みこんだ。
「ご、ごめん……」
消え入りそうな顔で山田が自分の行為を謝罪する。
「……良かった。もう怒ってないよね?」
明日香は深く息を吐いた。
「マジ怖かったって今の山田」
まだ完全には調子を取り戻していないのか、鼻をすする音が聞こえる。
自分が明日香の手を掴んだままということに気付き、山田が慌てて手を離す。
「本当にごめん。謝って取り返しがつくことじゃないけど……それでもごめん。こんなやつ、振ってくれていいよ」
「なんで?」
「へ? だって……」
「泣くほど怖かったけど、私も調子に乗りすぎたし。それに……あれよ。その、山田がいつもの山田だったら、私山田とするの嫌じゃないし」
まだ涙で濡れている頬をりんご色に染めて、はじらいを隠しきれない明日香が山田の手に触れた。
「で、でも」
「もういいよ。過ぎたことをいつまでもうだうだ言わないの」
「うん」
自分を励ましてくれる明日香に、心の底から感謝しながら山田は明日香の手を握り返した。
「じゃさ、山田んちのお風呂ってどこ?」
「ここの奥だけど、もしかして……今から」
ドアの一つを指差しながら、山田が明日香に尋ねた。
「当たり前じゃない。嫌じゃないって言っちゃったし、勢いでいっとかないと緊張しちゃいそーだし」
「で、でもまだ明るいし」
「時間なんて関係ないの。山田は私としたくないの」
「……したいけど」
「私もしたいの。山田とセックス」
そのものズバリと言われて、山田がおどおど周囲を見まわした。当然、いつもと変わり映えのしないリビングルームがそこにはあった。なにをしでかすかわからない自分の恋人がいることを除いては。
「そしたらさ……シャワー浴びてくるから待ってて」
ドアの奥へ消えた明日香を見送り、山田はソファに腰を下ろした。
自分の家にいるはずなのに、ひどく落ち着かない。これから自分がセックスをするのだと思うと、掌にじわりと汗がにじむ。
やっぱり、僕の部屋のベッドでするんだよね?
だ、だったら部屋を片付けといたほうがいいかな。
でも、あがってきたときに僕がいなかったら困るよな。
それより……ちゃんとできるかな。
結局、山田は微動だにせず、悲壮感すら漂わせながらソファに座ったままでいた。
人生の一大事を前にして、若者らしい悩みが山田を襲っていた頃、明日香もまた胸の高鳴りを抑えきれないでいた。
一枚、一枚ゆっくりと丁寧に、制服を脱いでいく。下着に手をかけるときには、一瞬手が止まったものの、再び動き出したときにはあっという間に、明日香は生まれたままの姿になっていた。
脱衣所に据えつけられている姿見で自分の体をあらためて見る。
大きく、形の良い胸が息をするたびに上下する。
自分の体の中で三本の指に入るお気に入りの丸いラインをゆっくりとなぞり、両手で寄せた。
魅惑的な谷間に満足しながら、今度はお尻を突き出してみる。
これまた形の良い緩やかなカーブを描いている。
「よし!」
自分の体に満足したのか、明日香は風呂場のドアに手をかけた。
そこで小さく声をあげ、再び姿見の方を向く。
両手をまっすぐ上に伸ばすと、両わきを入念にチェックする。
「よし!」
初めて来た家で、いきなりシャワーを使っている自分をおかしく思いながら、暖かい湯で、泡まみれの体を入念に洗い流していく。
股間を他の部分よりも少し念入りに洗ったことは山田には絶対に秘密にしておこう。
わけのわからない決心を固める明日香の体から、名残惜しそうに張りついていた最後の泡が流れ落ちた。
排水溝をぼんやりと見つめながら、明日香は考えた。
とりあえず、体は洗ったけど……どうしよう。
山田もやっぱシャワー浴びるよね。
そのあいだ、ずっと一人で待ってるのは緊張しそうでやだし、山田呼ぼっかな。
そのほうが楽しいよね、山田も今ヒマだろうし。
それにまた、困った顔見れるかもしんないし。
あれいいんだよね。なんか意地悪したくなっちゃって。
うわー。私、小学生みたい。
とりあえず……。
極上の閃きが、自分の不安を押し隠すための行動とは気付かないまま、明日香は風呂場のドアに手をかけた。
眉間に皺を寄せて、様々なシミュレーションしていた山田の耳に、明日香の声が届いた。
どうも自分を呼んでいるらしい。あたふたとリビングを離れると、脱衣所に入る。
曇りガラスのドアを隔てて聞こえてくる水音が、嫌でも山田の興奮を煽る。
「ねぇ」
「なに」
突然かけられた声に、なんとか動揺を隠した返事を返す山田。
「一緒にお風呂にはいろうよ」
「なっ、え!?」
が、あっさりと上辺だけの平静は破られてしまう。
「な、なにを、いいよそんなこと……」
さらに言い募ろうとした山田をさえぎって、理性の壁とも言えるドアが軽い音をたてながら隙間をつくった。
そこから明日香が顔だけを覗かせる。
濡れた首筋がかすかに山田の目に入った。
「どーせこれから見るんだしいいじゃん」
湯気が脱衣所に流れ込んできた。
慌てて山田は視線を下げる。しかし、そこには明日香が着ていた服がたたんで置かれていた。ご丁寧にショーツが一番上に乗っかっている。
あたふたと視線をさまよわせ、結局自分が入ってきた扉にあわせた。それでもまだおちつかないのか、そわそわした様子でいる。
「そそそ、そうかもしれないけど」
「山田もシャワー浴びるでしょ? 私だって一人で待ってるとか寂しいしさ」
山田はもはやぱくぱくと口を動かすことしかできない。
そのうちに焦れた明日香が山田の手に触れた。びくりと体を震わせるが、山田にはそれ以上のことはできない。
「待ってるから、早く入ってきてね」
伏し目がちにそう言うと、明日香はドアを閉めた。再び、理性の壁が二人の間に挟まれた。
きっかり十秒、山田はただ突っ立っていたが、突然ものすごい勢いで服を脱ぎ出した。
どこか吹っ切れたような様子で、ガラス製の理性の壁はもはや役に立たなかったらしい。
大きく深呼吸すると、勢い良く湯船へのドアを開けた。
湯気の中に、大きく目を開いている明日香が立っていた。驚いているせいか、体を隠すこともしていない。
山田がこんなにも素早く入ってくるとは思っていなかったのだろう。
山田は山田で、まさかいきなりの天国かとも思える光景を予想していたわけではないが、それでもチャンスを逃さず恋人の裸身を頭から爪先まで、あますところなく鑑賞した。
無言で自分を見詰める山田の股間が、むくむくと大きくなり、起き上がっていくのを明日香は、呆然としたまま見つめている。そして、山田のものが完全に勃起しきったとき、明日香は可愛らしい悲鳴をあげて、その場にしゃがみこんだ。
いまだに一言も発しない恋人に向かって明日香が問いかける。
「どっか変だった? おかしい?」
「なんか……上と下の毛の色が違うのって不思議な感じがするなと思って」
確かに、頭髪はほとんど金色なのに対し、陰毛は濡れているせいもあるのか、黒々としている。
直視するのはためらわれるのか、ちらちらと視線を下にやりながら山田は答えた。
羞恥からだろう、ぶんぶん手を振りながら、明日香が支離滅裂なことを言いだす。
「ち、違うんだって! いつもはもっとちゃんと手入れしてるから、もっと綺麗だし、て言うか、ちょっと最近してなかっただけだから。
でも別にサボってたとかじゃなくって、ちょっと忙しかったから。あ! もっと薄いほうが良かった? 他の娘と比べても濃いほうじゃないんだって。
な、なんだったら、そ……剃ってもいいしっ!」
いまひとつ噛み合わない会話になってしまったが、山田にそれを気にする余裕はなかった。
見事なボディラインの恋人が一糸纏わぬ姿でいるのだから当然といえば当然だろう。
腕だけでは隠しきれない胸が山田の視線を吸い寄せる。
「別に気に食わないとかじゃないよ。ちょっと不思議な感じがしただけだから。でも、すごく綺麗だと思う」
「……あ、ありがと。山田もシャワー浴びなよ。私お風呂に入ってるから」
最初に湯を張っていたのだろう。見ると浴槽からは湯気が立ち上っている。
そそくさと明日香は湯につかった。
「うん」
律儀な返事を返し、山田はシャワーを浴びはじめた。
奇妙な沈黙が風呂場を支配する。
「あ、山田もお風呂入ったら」
シャワーを浴び終えた山田に明日香が声をかけた。
「いいの?」
「ここって山田のうちじゃん」
「じゃあ……」
特別に広いこともない浴槽に二人で入ると、当然体が触れ合う。
柔らかい明日香の体の感触に、それだけで山田は快感を感じた。
明日香もまた、山田の体温を心地良く感じていた。
「よ、吉崎さん」
名前を呼ばれ、明日香の体が動いた。湯船に静かな波が起こる。
「なに」
「いや、その……本当にいいの?」
山田の質問は当然今からしようとしていることについてだろう。
「いいよ」
あっさりと明日香が答えた。
「だって、もうここまで来ちゃったし。それにもう山田のそんなになってるし」
明日香の視線が山田の下半身に向かう。
「ご、ごめん」
「あのさぁ」
「うん」
「胸、触ってもいいよ」
大きな水音と共に山田が立ち上がった。勢いで山田のものが揺れる。
目の前で存在を主張するものに、なにを思ったか明日香が舌を伸ばした。
ぴちゃり。
静かな浴室に、今までのものとはまったく違う淫らな水音が響いた。
「うわっ!」
「痛っ!」
驚いた山田が腰を動かしたせいで、明日香の鼻先が叩かれてしまった。当然、山田のものによって。
「ご、ごめん」
鼻先を抑える明日香を見て、元気な股間とは裏腹に山田が情けない声を出す。
「いいよ、私もいきなりごめんね。あのね、山田」
「どうかした?」
「ここでしよ」
「よよよ吉崎さん?」
「なんかさ。山田の体があったかいなって思ったらもう、ここでがよくなっちゃったの」
思わず山田は風呂場を見まわした。洗い場にはマットが敷いてあるから、タイルが痛いことはないだろう。広さも、まあやってやれないことはない程度のスペースはある。だけど……。
まだ心の決まらない山田に明日香が声をかけた。
「山田。胸触って」
明日香の手を添えられて、山田は丸いふくらみに手を伸ばした。
山田は、吸いつくような明日香の胸に手を押し当てただけで、指を動かそうとしない。それでも明日香は自分の胸に触れられていると思うと、じんわりと暖かいものを感じた。
ようやく、山田の胸が、柔らかなふくらみの形を変えようとうごめきだした。
明日香は目を閉じ、じっとしている。が、呼吸が次第に早くなっていく。
山田の指が、ぷっくりと盛り上がったふくらみの頂点に触れた。
「あ……」
「痛くない?」
声をあげた明日香に山田が心配そうな声をかける。
「大丈夫、気持ち良かっただけだから」
帰ってきた言葉に、山田は胸を高鳴らせた。
きっと乳首が気持ちいいんだ。そんな感想を抱き、そこを重点的に攻める。
初めて触れる恋人の胸を、新しいおもちゃを与えられた子供のように夢中で弄りまわす。
「んっ……あ……」
明日香の唇がわずかに開かれ、そこからなまめかしい吐息が洩れた。
勢いづいて、山田は尖りだした先端を力を入れてつまんでみた。
「ひぁ!」
鋭い悲鳴があがり、それがさらに山田を興奮させる。
今までにない快感に、明日香はうろたえていた。
まさか胸だけでここまで翻弄されてしまうとは思わなかった。
「……や、山田……。お風呂から出よ」
確かにいつまでもこのまま湯船に入ったままで居るわけには行かない。
山田は名残惜しげに指を胸から離すと、かわりに明日香の手を取って二人で湯船からあがった。
「えっと……寝転がったほうがいいのかな?」
明日香は山田の見守るなか、洗い場に横になった。
これから何が起こるのか、期待と不安が揺れ動いていたようだが、未知の体験への期待のほうが勝ったようだ。きらきらした目で山田を見つめている。
山田がどうしていいのか悩んでいると明日香が吹きだした。
「うわー、下から見るおちんちんってなんか変」
「そうかな」
明日香の軽口に緊張がほぐれたのか、山田は明日香に覆い被さるようにしゃがみこんだ。
「胸……さわるね」
湯船の中での続きをしようと、山田が掌で明日香のふくらみを覆う。掌に余る大きさのそれは心地良い弾力を山田に返してくる。
薄くピンクに染まった乳首に指が当たるたびに、明日香の口から甘い溜息が洩れた。
「さっきみたいにつまんでみて。あれ気持ち良かったから」
明日香の要望にこたえるべく、すぐさま山田が指を滑らせる。今まで全体を揉むようにしていた愛撫が、ピンポイントの刺激に変わる。
「んっ、さっきの感じ……気持ちいい」
ぽそりと呟いた明日香の声が、山田にさらなる欲望を沸き起こさせる。
山田は我慢できずに、明日香の胸に吸いついた。
「あっ!……ふぅん……」
指とはまったく違うぬるぬるした舌の感触に思わず声が出る。
吉崎さんが感じてる?
おっぱいって凄く柔らかくて、気持ち良くて、最高だ。
初心な感想を山田が抱いているとき、明日香は明日香で初めての快感に軽く酔ったようになっていた。
すっっごい気持ちいい!
してることは同じなのにオナニーとは全然違う。
うわ、うわ、うわ、舐められてる。舐められてるよぉ。
あんなに必死に私のおっぱい舐めてる。
なんか可愛いけど、それどころじゃない。
勝手に声がでちゃう!
「……っん、あっ。ん、ぅあっ」
山田は夢中になって胸を吸い、固くなった先端を舌で弄んだ。明日香の胸を自分の唾液でべとべとにすることに夢中になっている。
明日香は胸から伝わってくる快感が、じわじわと全身に広がっていくのを感じた。
もちろん、尖りきった乳首から与えられる刺激が一番強いのだが、触れられていない部分までが、しだいに火照ってきたのだ。
それは当然下半身にも及んだ。
あそこからじんわりとなにかが染み出してくるのを感じて、明日香はしゃぶりつきたくなるような、むちむちのふとももを擦り合わせた。
しかし、そうすればするほど、中途半端な刺激がもどかしさを募らせる。
頬が上気して、桜のように色づいていく。そして同時に、じわりじわりと明日香の慎ましやかな割れ目から、露が溢れだしてくる。
「吉崎さんのおっぱい、すっごく柔らかくて、おいしい」
山田が喋りながらも、胸に吸いついてくる。
今の明日香には声による空気のふるえさえもが、甘い愛撫に感じられてしまう。
「私も……ふぁ、んっく、気持ちいい」
最後に、ちゅうちゅうと明日香が恥ずかしくなるぐらいに音をたてて、山田が胸を堪能し終えた。
「はぁ……、それじゃあ次は」
ゆるゆると、明日香のボディラインをなぞるようにして山田の視線が降りていく。
あぁ、見られちゃうんだ。アソコ。
変だって思われないかな、大丈夫だよね。
きっと、山田だって気にいってくれるよね。
自分の一番恥ずかしい部分を見られるのだと思うと、恥ずかしいはずなのに、明日香の体はさらに熱く、興奮していった。
「濡れてる」
ぽそりと山田がもらした。
明日香はその言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。素早く両手を動かし、秘部を覆う。
「そんなのいちいち言わなくていいの!」
恥ずかしさを隠すために、わざと大声で山田をたしなめる。
「うん。でも、すごくエッチだったから」
「ばかっ! エロいのは山田でしょ!」
「ごめん」
言い終えないうちに、山田が明日香の秘所に口をつける。
「やっ! あっ……いきなり、そ、そんなっ。 んんっ」
明日香の愛液をぺろりと舌をスプーンがわりにすくう山田。
舐めても舐めても後から湧き出す甘露を山田は夢中で舐め始めた。
「はぁっ、んぅ……。山田の舌すごいよぉ。ぁん、ん」
恥ずかしそうに閉じていた明日香の割れ目は、山田の舌によって押し広げられていった。
うねうねとうごめきながら、温かい明日香の中に舌を侵入させる。
明日香は身をよじり、唇を噛み締めて押し寄せる快感に耐えた。
な、中に舌が入ってきちゃったよ。
どうしよ、どうしよ。
動いてる、動いてる、凄い凄い、あっ、そんなとこまでダメだよぉ。
だめっ、あ、やばいってば。
クリトリス凄い! 痛いぐらい感じるっ。
うわぁ、うわぁ、そっちお尻だって。そんなとこまでうわぁ!
「山田ぁ、アソコが凄いよぉ」
舌足らずな調子で、明日香が山田に訴えかける。
「吉崎さんの、ひくひくしてて、どんどん濡れていくよ」
口の周りを愛液で汚して、山田が答えた。
「だって、気持ちいいんだもん」
明日香が甘えながら山田の頭を抱きかかえる。
「入れていいかな。僕もう……」
切羽詰った山田の様子に明日香は首をゆっくり上下に動かした。
「優しくしてね」
「うん。……できるだけ優しくする。あ……」
肝心な場面だというのに、山田が気の抜けた声をあげた。
「どうしたの」
「コンドーム」
「いいよ、ゴムなくても。初めてだから、間になにも挟みたくないし。えっ……と、前が……だから、うん、今日はたぶん大丈夫な日のはず」
「……もし、もしできちゃったら、きちんと責任とるよ。絶対に。吉崎さんが嫌じゃなかったらだけど」
「ありがと」
突拍子もない出来事がきっかけで付き合うことになった恋人の、バカがつくほどの生真面目さに、好きになって良かった、初めてが山田で良かった。そんなことを明日香は思った。
山田は明日香の上に覆い被さり、腰を合わせようとした。
足の付け根から、滑るように指を這わせ、明日香のふとももを掴み左右に開いていく。
そうして、明日香の頭の横に手をついた。
二、三度頼りなく腰をふらつかせたものの、明日香の潤みきった部分に、なんとか照準を合わせる。
ゆっくりと、それないように、腰を下ろす。明日香の柔らかく包み込もうとするような、桃色のヴァギナに山田のものが触れ、先端が濡れた。
「は、初めてって痛いんだよね」
やはり怖いのか、明日香が山田の体を強く掴んだ。
ためらうような表情を見せた山田に、強ばった笑みを向ける明日香。
「だ、大丈夫、我慢できるから。き……気持ち良くなりたいし、したげたいし」
「吉崎さん」
「ごめん、変なこと言って。怖いけど頑張るから。きて」
恋人の言葉に、込み上げる気持ちを抑えきれず、山田は明日香の唇を奪った。優しく、しかし強く。思いを込めてくちづけを交わす。
唇でひとつになったまま、山田が腰をおろした。
くちゅ。淫らな水音がして、二人の粘膜が触れ合う。
「……あ」
かすかに、吐息ともとれるような声を明日香が洩らした。
「うぁ……」
山田も、熱く潤んだそこの感触に悦楽の溜息をつく。
そのまま、さらにその快感を味わおうと腰を下ろし、うねうねと絡みつく柔肉の中に自身を沈めていく。
「んっ!」
明日香の眉がぴくりと跳ねあがった。
処女膜にペニスが触れたのだ。
今までの山田を迎え入れてくれた明日香とは違い、それはかたくなな抵抗の意思をみせている。
「いくよ」
静かに息を吐き、山田が勢い良く明日香を突いた。
肉の裂ける音が伝わってくる。
「い……っ、い、たい」
明日香が絞り出したような悲鳴をあげた。固く閉じられた瞳の端には涙が溜まっている。
「大丈夫?」
「だい、じょうぶ……じゃない。痛い、痛い、凄く痛いっ!」
目が開かれ、山田を見つめるのと同時に、明日香は大粒の涙をぼろぼろと零しだした。
「痛いよぉ、山田ぁ。さっきまでは気持ち良かったのに、痛いよ」
痛みを堪えるため、山田の背に回された明日香の指に力が入る。山田の背中に明日香の爪が突き刺さり、赤い引っ掻き傷ができる。
「痛いよぉ」
掠れる声で泣いている明日香を見て、山田が言った。
「抜くよ」
「でも山田がイってない」
「痛いんでしょ?」
「……マジでやばいぐらい」
「だったら。抜くときも痛いかもしれないけど一瞬だから、我慢して」
「でも」
「こんなに痛がってるのにこれ以上できないよ。抜くよ」
できるだけそっと、山田は固いままのペニスを明日香から引き抜こうとした。
「いっ!」
明日香の目が大きく開かれ、血と愛液にまみれた山田のものが明日香の中から姿を現した。
「どう、痛かった?」
「ちょっと」
言葉とは裏腹に、明日香の表情は激しい痛みを雄弁に物語っている。
「しばらくそのままにしとけば、ちょっとはましになるんじゃないかな」
「うん、ごめん。偉そうなこと言ってたくせにこんなになっちゃって」
山田は、明日香に泣きながら謝られ、逆にひどく申し訳ない気分になった。
「仕方ないよ、痛いんでしょ」
「うん」
申し訳なさそうに明日香が頷く。
「僕だけ気持ち良くなっても仕方ないし」
「でも、さっきは私だけ気持ち良くしてもらったし」
「そんなことないよ。僕だって吉崎さんを舐めたりしてすごい興奮したし」
「な、舐めたとかいわなくていいから! ……でもおっきいままだし」
明日香がそっと山田のペニスに触れた。
「この前みたいにフェラしてあげる。そうすれば山田もイケるし、アソコじゃなくて悪いんだけど、それでもいい?」
明日香がぱっくりと口を開けて見せる。
そこは秘所以上に、いやらしい部分に山田には感じられた。
「吉崎さんがつらくないなら」
明日香の体を気遣いつつも、昨日味わったあの快感を思いだし、山田は返事をした。
「うん。まだ痛いけど、さっきに比べたらだいぶましになったし。それじゃあ山田のおちんちんぺろぺろしたげる」