薄暗い路地を、男が歩いていた。
男は何が気に入らないのか人相の悪い顔を更にしかめながら、面倒臭そうに辺りを見回し、時折抜き身の剣の刀身で弄ぶように肩を叩いている。良く見ると彼の着る安物の革鎧の肩部、それも上部だけが剥げている。抜き身の剣で肩を叩くのは彼の癖だった。
その凶悪な面構えや、行動を見ればただのチンピラか盗賊にしか見えないが、彼はれっきとした傭兵である。この街では最近『深夜に外出した住民が何者かに襲われ、精気を抜かれる』という事件が起きており、彼はその真相を探るべく街の領主から雇われた傭兵の一人だった。
だがする事といえば同僚達とローテーションを組んでひたすら街を巡回するだけ。寝静まった街には血気盛んな若者の嗜好を満足させるような娯楽は何も無い。前金は貰っているし、それを使って娼館にでも繰り出そうか、とすら思う。
その時。
「ちょっとっ、そこの逞しいお兄さんっ」
薄暗い路地の中、陽気な少女の声が響いた。
「あん?」
声を掛けられた男が振り向く。
声がした方向、家屋の屋根に一人の少女が座り込んでいる。
男は不審に思った。月が隠れた宵闇の中、足をぶらぶらと振っているのは十代半ば程の女の子に見えたのだ。いくら子供でも今この街で起きている事件の事は知っている筈、それなのにこんな夜中に子供一人というのはおかしい。
「ガキは寝る時間だぞ。ママに叱られる前にさっさと家に帰んな」
「えー? そんなのつまんないっ。夜はこれからじゃんっ」
「はあ?」
マセた言葉に男が呆けた声を上げる。同時に先ほどまで上空を覆っていた雲が流れた。
月光が少女を照らし、その姿を露にする。
癖の無い桃色の髪。くりくりとした真っ赤な目。悪戯を思いついたように歪ませた口元からは長めの犬歯が覗いている。デフォルメされた髑髏のイヤリングを、尖った耳の左側だけに付けていた。顔だけなら将来は有望である事を予想させる、なかなかの美少女だった。
だが問題はその少女の服装だ。
囚人に付けられる様な無骨な鎖を首に嵌め、僅かに膨らんだ胸を覆うように黒い革ベルトが巻きつけられている。幼い秘所を隠すのは子供には不釣合いな黒のハイレグだ。
幼い少女は、それだけしか身に着けていなかった。それ以外にも手には指の見えるグローブを、そしてラバー製のブーツも履いているがそれは服とは言えない。
ピンク色の髪がかかるうなじや胸元、それに可愛らしいお臍も丸見えだ。頬や脇腹辺りに肋骨をイメージさせる黒色のペインティングがされているが、健康的な肢体を隠す事の足しにもならない。
「…ひゅう」
際どい格好の少女に思わず男は口笛を吹く。女の子はそんな男の表情に満足したのか無邪気な笑みを浮かべると、屋根から飛び降りた。
男はその光景を見て、絶句する。
屋根から飛び降りた少女が、ばさり、とコウモリの翼を広げたのだ。そして何事も無く男の目前へと着地したその少女はあどけない顔に、不釣合いな淫靡な笑みを浮かべた。猛禽類のような縦長の瞳が男を見据える。
「お前、まさか」
「そうだよぉ」
再びあどけない笑みを浮かべると、その口には常人ではありえないほど長く伸びた八重歯が覗いている。
「アタシ、悪魔のコノット! お兄さん、気持ちイイことしよっ」
男を挑発するように、矢じり型の尻尾が振られた。
***
(にしししっ。このおにーさん。アタシに見とれてる! 男なんてみーんな単純なんだから!)
悪魔の娘、コノット=シュトリは呆然とする男を見てそう核心した。昨日襲った傭兵の男も、その前に襲った男もそうだった。
ちょっと――いや、かなりエッチな格好をするだけで、発情した動物みたいに興奮する。すぐに理性を無くし、交尾へと縺れ込む。そうなれば最早こっちのもの。気絶するまで精気を搾りに搾り取ってやるのだ。
今回もきっと変わらない。剥き身の若い果実を前に男は理性を無くすしかない。
「ああ、背伸びしたい年頃なんだな」
「……何よその達観したセリフ」
「悪魔かなんだかしらねえがそういう格好はもっと成長してからすればどうだ? ボンテージってのはなこう、ボンッ、キュッ、ボンッ! なネーちゃんがしないと意味無いだろう? な?」
「それはアタシの体に魅力が無いってコト!?」
「ガキが色仕掛けなんて十年早いって事さ」
(むっかあっ! 何よコイツ! さっきはアタシの体をジロジロ舐めるように見てたクセに!)
悪魔としてのプライドを傷付けられたコノットは、怒りで顔と体を真っ赤にする。コケにされて黙っているほど彼女は人間――もとい、悪魔出来ていない。
怒りと入れ替わるように暗い感情が溢れ出して来る。冷水を浴びせられたように思考が冴え渡る。悪魔として狡猾に、人を堕落させる方法を本能で構築していく。
悪魔は人の心の隙を見つけ、そこに付け入るプロフェッショナルだ。そしてそれはコノットも例外ではない。
「フン。何が『十年早い』よ。本当はおにーさん、こんな小さな女の子一人押し倒す事も出来ないチキンなんじゃないの?」
「てめえ今なんつった?」
男の反応にコノットは不敵な笑みを浮かべた。
「臆病者チキン甲斐性無しインポって言ったの」
「ああ!? ぶっ殺されたいのか!?」
「あははッ、『ぶっ殺す』だって。こんなか弱い女の子に剣を向けるんだ? 犯すより殺す、ってコト? ふーん?
それって結局、アタシを組み敷く勇気も度胸も、無いってコト? ――あ、分かったぁ! 分かっちゃった!
おに−さん、実は童貞なんでしょ!? はーい、チェリー君♪ おねーさんが優しくしてあげるねー♪」
「さっきから言いたい放題言いやがって!」
とうとうキレた傭兵の男はその場で剣を投げ捨てる。甲高い音を立てて抜き身の剣が遠ざかった。
(たーんじゅん♪)
思い通りに事を運べた自分に酔いしれると、キレた男が獣のように飛び掛ってきた。
「きゃんっ♪」
ちゃりちゃりと、首に嵌められた鎖が鳴る。
「泣いて謝っても絶対許さないからな! ヒイヒイよがらせてやる!」
「へー? おにーさんに出来る? ちなみにね、昨日アタシとエッチしたおにーさんのお仲間もね、すぐにへばっちゃたの! アタシもっとやりたかったんだけどなー」
「……お前、まさか」
「そう♪ 最近この辺りで手当たり次第精気を搾り取ってるの、実はア・タ・シ♪」
「てめえ!」
「おにーさんはどれだけ持つかな? それとも早漏だったりして?」
押し倒されているというのにコノット表情には余裕すら伺える。こうなれば彼女のペースだ。
「その減らず口を黙らせてやる!」
暴力は返って自尊心を傷つけられる事に気付いたのか、男はコノットの口封じには直接手を上げずに、
キスを使う。ただし、それは恋人同士が行うような甘いものではない。舌を突き入れ、犯すように口内を蹂躙する。
(んんっ! やるぅ…豪快なチューだぁ…♪)
口内の粘膜を舌でこそぎ取られ、唾液を音を立てて吸い取られる。唾液で塗れた唇をついばまれると、
頭の中がぼうとなり、胸が淫らな気持ちで高鳴ってくる。精気を糧とする淫らな悪魔は、
すぐに股を濡らし小さな股布を湿らせた。少女のものとは思えない、濃厚なメスの性臭が辺りに漂い始める。
それは人間を、そして自らをより淫らに堕とす作用がある。臭いだけではない。
先ほど男が大量に吸い込んだコノットの唾液も、当然愛液にも、理性を削り生殖本能を剥き出しにする
催淫効果がある。コノットは口姦の激しさに陶酔しながらも、男の鼻息がどんどん荒くなっている事を冷静に感じていた。
「ちゅっ、ちゅむっ、じゅるるるーっ! ――んぱぁっ!」
強引なキスから開放される。お互い口の周りが涎でベトベトだったがそれを拭う事もせず、次の段階へと――
セックスへと移る。
「俺のチンポ無しじゃ生きていられない体にしてやる!」
(あははっ! ばっかじゃない。アンタがアタシ無しじゃ生きてけない体になんのよ!)
だがそれを言ってしまうと折角高まった男の性感が沈下するかもしれない。だからコノットは、媚を売る。
男の自尊心を一時的にも充足させる為、より多くの精気を得る為。
「いやぁん、許してぇ…」
「今更謝って済むかよ!」
激怒した男がコノットの股布に手を掛ける。乱暴に捕まれた黒い布地は悪魔の陰液を吸って、
すでに湿り気を帯びており、男の手を汚した。
「ドロドロじゃねえか! この淫乱悪魔!」
「あぅん…っ」
挿入の邪魔にならぬよう股布を横へとずらされた際、男の指や布地が秘部に擦れ、甘い電流が走る。
「……ガキのクセにエッロいマンコしやがって!」
男が布地の下から現れた幼い悪魔の秘裂を目にして声を荒げる。
そこには、幼い顔には似合わない、熟れた果実のような雌器官が隠れていた。そして恥毛が生えていないそこは、雄を誘うようにぴくぴくと開閉を繰り返している。
「そんなに欲しけりゃくれてやる!」
男は息を荒げながら自慢の一物を取り出す。そして、愛撫もろく似せずに少女の中心へと突き立てた。
「はうんっ!」
(あはっ、入った! チンコ入った!)
コノットは自分の膣洞を埋める肉棒の感触に体をふるふると震えさせる。
全く知らない男に襲われていると言うのに、彼女は嫌悪の表情を浮かべるどころか喜悦に頬を緩ませている。
悪魔の中でも性欲を司る彼女は、相手が誰であるかはあまり問題ではない。いかに快楽を、精気を得るか、それが重要なのだ。
「おら、おら、おら!」
「あ!? はうっ! きゃうんっ」
男が腰を使い始める。
催淫効果によって急速に血を集めた男根が、外見通りに狭い肉のトンネルを何度も往復する。
コノットは肉ヒダと肉棒が擦れる快感に体と心を蕩けさせ、待ち望んだ性交に歓喜の表情を浮かべる。
すでに多量に溢れていた雌汁が二種類の粘膜に挟まれ、揉まれ、空気と交わりグチュグチュ、
と卑猥な音を生み出し、辺りに濃厚なセックス臭を撒き散らし始めた。
(あー、いい! セックスさいこーっ! 気持ちいいーっ!)
卑猥な音とすえた臭いがコノットを更に昂ぶらせる。彼女は更なる快楽を得るべく、自らも腰を使い始めた。
「はあ! はあ! ――うっ!? くそ! ガキのクセにスケベだな! 生意気に腰を振りやがって!」
「だってぇ、あんっ! はぁ、はぁっ…もっと、気持ちよくなりたいんだもんっ――んぁ…っ!」
ピストンしていた腐肉がたまたまコノットの敏感な部分を捉えた。背筋を甘い電流が駆け抜け、
甘い声を上げてしまう。反射的に膣壁に力が入り、肉棒を締め付けた。
「おうっ!?」
男が苦悶の声を上げる。
「――ん、はぁ…っ――なに、おにーさん――あん――アタシの中、そんなにイイの?」
「このくらい――ふっ!? ――屁でもねえよっ――くっ!? くそ、食いついてきやがる…!」
喘ぎ声を交えながら、二人は互いを牽制し合う。イニシアチブを取っているのはコノットだった。
「あはっ♪ おにーさん、気持ち良さそう。――あんっ――アタシもイイよぉ…おにーさんのチンチン、
おっきくて、硬くて、びくびくしてるから♪ ね、アタシのアソコは――あん♪ ――どぉ?
ニンゲンの女とどっちがイイ?」
「んなこと聞くな!」
「えー? 言わないと止めちゃうぞー?」
「分かった! 分かったよ! お前のマンコ気持ちいいよ! 狭くて、絡み付いてくる!
それに、奥の方がザラザラしてて、先っぽがめっちゃ気持ちいい! 最高だ!」
男の自尊心を傷付けた上で、自分の自尊心が満たされる。調子に乗ったコノットは、
腰の動きを早めながら男を更に堕落させようと上ずった声で囁く。
「そうでしょ? そうでしょっ? アタシの中、気持ちいいでしょ!? あはっ♪ いいよ、
このままアタシの中に精液出してもっ」
「ほんとーにスケベだな! いいぜ! 出してやる! お前の中に人間様の精液たっぷりだしてやる!」
ラストスパートとばかりに男がピストンのペースを上げる。
「はあ! はあ! はあっ!」
「んはっ!? あ…っ! は! あうん! あ! あぁん! あん!」
ぐちゅぐちゅぐちゅっ! 淫らな水音と共に、汗と性液に濡れた恥骨同士がパツパツとぶつかる。
余り上手とは言えない男の腰使いはコノットの体を大きく前後に揺らし、首に嵌められた鎖を鳴らす。
(は、はげし――あん♪ チンコ、びくびくしてるっ、もうすぐセーエキ出そう!)
「早くぅっ、ちょうだぁいっ、おにーさんのドロドロチンポ汁、早くちょうだぁいっ」
媚びた声で猥語を喋り、男の興奮を煽る。淫靡な、人外の瞳に見据えられた男は、それで絶頂に達した。
悪魔娘の子宮口に亀頭を押し付けて、その奥に煽りに煽られた欲望をぶつける。
「うおおおおおぉぉっっ!」
どぷっ! どぷっ! どぷっ!
「ふあぁぁぁ…っ!?」
(あは…! セーエキ、マンコの奥に注がれてる! あっつい汁が、ビシュビシュ当たってる!)
媚粘膜に白濁液を撃たれる感触に、コノットは体を震わせて、口の端から涎を垂らして喜んだ。
快楽と同時に彼女のエネルギー元となる精気を、男から大量に奪い取って充足感に満たされる。
「――ぜぇっ! ぜえ! …ぐっ…」
一方男は、退院直後の寝たきり患者が全力疾走した時のように、肩で息を荒げていた。
コノットに覆い被さるように倒れた彼は、精気を吸われ若干やつれたようにも見え、冷や汗も掻いている。
もう動けそうにも無かった。
だが幼い悪魔は容赦しない。
「あれー? おにーさんもうダウン? まだ一発目だよぉ?」
コノットはそのあどけない顔に、文字通り悪魔の笑みを浮かべた。
「一発って、――ぜえっ――まだやるのか…勘弁、してくれ…」
「えーっ、やだぁ。だってアタシまだイってないもん♪」
(それに、まだまだ食い足りないしね♪)
「とゆーわけでぇ――よいしょっ」
力を得たコノットが倒れこんだ男の体を楽々と押し返す。その拍子にペニスが抜け、
ずらされたハイレグの向こうで大きな口を空けた陰裂が、精液をこぼしている。白濁液は彼女の股を汚し、
太股へと垂れ落ちていった。
「…ゴクっ」
無様に仰向けに倒された男は、その様子を見て、再び下半身を膨らませた。
それを目ざとく見つけた悪魔はぺろりと唇を舐め、男に囁きかける。
「フフっ。ダイジョウブ。疲れてるならおにーさんは動かなくていいから」
コノットが男の体を跨ぎ、真上を向いた肉マラに腰を落としていく。
粘液に濡れ、生き物のように蠢く淫裂が勃起した生殖器を貪欲に飲み込んでいく。
「ん…っ、あ…! ふぅっ――はあっ♪」
(入ったぁ♪ ああ、やっぱり、このおにーさんのチンコ、ちょっと大きい♪ マンコがキツキツだぁ♪)
「ふっ、んっ、んっ、んっ」
今度は騎乗位でセックスを始める。だが今回は精気を得るのが目的ではない。快楽を得る為に性交するのだ。
だからコノットは男に必要以上に媚びる必要も無く、思う存分快楽に耽る事が出来る。
男の腹に両手を添えて、結合が解けないように腰を上下にピストンさせた。
「あん、あん……あぁ…っ、イイっ、チンポ、イイよぉ♪」
可愛らしい口から卑猥な言葉と、甘ったるい喘ぎ声が飛び出す。繋がった股間からは、
『ちゅぷ、ちゅぷ、ちゅぷ』とリズミカルに水音が鳴り、首の鎖が大きく揺れて高い音を生み出す。
(マンコ、びりびりきちゃうっ――あん…!? あはぁ、チクビも勃ってきちゃった♪)
官能に全身を痺れさせていたコノットが発展途上の膨らみで新たな刺激を感じた。
苦しいようなもどかしいような刺激に我慢できずに、たくし上げるようにベルトを上にずらす。
「あん!」
なめし革が敏感な二つの突起を擦れると、上半身が甘い愉悦で満たされる。ベルトの下から現れた桜色の頂点は、 血が集まり、はしたないくらいに勃起していた。
「チクビも、チクビもイイのぉ」
自分の指を輪乳に沿ってなぞらせる。性感ぎりぎりの場所を絶妙なタッチで触り自らを高めると、
ゆっくりとピンク色の蕾を扱き上げる。胸からジーンとした愉悦が溢れて酔いが回るように、
あっと言う間に頭が快楽で痺れる。
「はぁ…はぁ…んん…! ――キャンっ」
「くおっ!?」
不意打ちのように勃起乳首を抓り上げると。男が呻き声を上げる。胸を弄り回す快感にコノットが、
思わず膣を締め付けたのだ。今度は彼女は胸全体に手を這わせると――不意に乳首を爪弾く。
膣が締まり、男が快楽に呻いた。
(顔真っ赤にして、可愛いじゃん♪)
だが、自分も余り余裕は無い。徐々に高まってきた性感はもう少しで限界を超えそうだ。
コノットは止めとばかりに腰を滅茶苦茶に動かした。
「はあっ! はっ! はんっ! はっ…! ――アンっ♪」
引き続き小さな胸を弄りながら、上下にしか動かしていなかったピストンに前後左右の動きを加える。
膣内の肉ヒダ全てに熱い肉棒が押し付けられ、脊髄と脳が快楽で火花を散らす。
「あっ、あ、あっ! あんっ! アン♪ アン♪ アァンっ♪」
(ふぁぁっ…! 頭トロけそー…っ♪ 超イイ♪)
腰を上下に叩きつけるように動かすと逞しい男根が子宮の入り口をぐりぐりと抉ってくる。
淫らな悪魔にとってはそこすらも性感であり、体の真芯を小突かれる度に、じゅぽじゅぽと、
淫裂から泡だった性の混合液を吐き出す。大きく音を立てる鎖に肌を軽く打たれるとゾクゾクした。
「あ!? イキそう! アタシもうちょっとでイク!」
待ち望んだ瞬間に胸が高鳴る。ちかちかと明滅し始めた視界の中で男が、
口の端から唾液の泡を漏らしているのが見えたが腰は止まらない。セックスと言う名の自慰を完結させようと、
コノットは更に腰の動きを早め――
「そこで何をしている!?」
「んーっ?」
(なんだよ、うるさいなあ!)
突如路地裏に大声が響いた。凛とした女の声はあまりに耳障りでコノットは思わず動きを止めた。
垂れる涎を拭わずに乱入者を見る。
表通りから現れたその女は赤髪をポニーテールで結った、二十歳くらいの女剣士だった。真っ赤な鎧を着込み、
夜色のマントをなびかせている。手には女に好んで使われる細身の剣を、抜き身で持っていた。
「見て分からない!? アタシ今このおにーさんとエッチの真っ最中なの!」
「エっ――!? ……なんとふしだらな…!」
女剣士がコノットの現状――つまり裸同然の格好で、男の上に跨りながら体の中心で繋がっている、
という事に気付く。彼女は顔を真っ赤にした。
「分かったんなら邪魔すんな!」
きしゃー! 尻尾を立て、歯をむき出しにして女剣士を威嚇する。
それを見た女剣士は羞恥に染まっていた顔を、強張らせた。
「――貴様、まさか悪魔かっ?」
「んっ、んっ、あんっ――だったらナンなのよ?」
腰を再び動かしながら、コノットは億劫に応えた。
「殺す!」
殺意を纏いながら女剣士が突っ込んできた。
「げっ!?」
月光を反射する白刃に顔面を蒼白にさせたコノットは、慌てて男の上から飛び退く。
一瞬遅れて先ほどまでコノットが居た空間で剣が閃いた。
(あっぶなー!)
「あんたねえ! 人の愉しみを邪魔するどころかいきなり切りかかってくるなんてどーいう教育受けたのよ!?」
「悪魔に教育云々を言われる筋合いは無い!」
再びコノットに突進を掛ける女剣士。翼を使って距離を取ってもあっと言う間に追いつかれる。
(うわ足早!)
「悪魔など、全て滅びてしまえ!」
「ひっ!? わたっ!? うわぉ!?」
次々と繰り出される剣を、かろうじて避ける。コノットは戦闘をする為の能力は備えていない。
精気を吸収した直後は人並み以上の身体能力を発揮する事が出来るが、限度がある。
魅了の魔術を使う事も考えたが、頭に血が上っているらしい女剣士には効き目は期待出来なかった。
(なんかプッツンいってるぞこの女! さてはアタシのお仲間がナンかやらかしたかな?)
だが頭に来てるのはコノットも同じだ。後もうちょっとというところで、寸止めされてしまったのだから。
だが、この状態ではどうしようもない。
「ニンゲンの女! 名前は!?」
「冥土の土産が欲しいか!? ならば教えてやる! 私の名はファシス! 貴様ら悪魔に家族を奪われたファシス=ガライアだ!」
想像通り、どうやら悪魔に手痛い目を遭わされた可哀想な人間だった。
「ファシス! アンタの名前と顔、覚えたからね!」
次の瞬間、悪魔娘の姿が背景に溶けるように掻き消える。コノットが不可視の魔術を発動させたのだ。
彼女に戦闘用の魔術は使えないが、このような逃走や幻惑に向いた魔術なら使う事が出来る。
「待て! 逃げるのか!?」
『アンタみたいな物騒な女、まともに相手するわけないでしょ!?』
別の魔術で音声を乱反射させる。ファシスが困惑している間に姿を消したコノットは民家の屋根へと飛び上がった。
『でも覚えておきなさい! アタシはねエッチを邪魔されるが一番キライなの! この恨み、百倍にしてアンタに返してやるんだから!』
「やれるものならやってみろ! 返り討ちにしてやる!」
『ふんっ。後悔しても知らないんだから! せいぜい首を洗って待ってなさい!』
コノットは民家の屋根から飛び立つ。
(アイツ…! 絶対泣かせてやる!)
心の奥から怒りと共にドロドロした感情が溢れてくる。あの女にはとびっきり狡猾でいやらしい手段で復讐してやる。だが具体的な考えは思いつかない。女の名前は聞き出せたが、罠を張るには情報が少な過ぎた。
(少し、様子を見る必要があるわね)
まだ見ぬ淫猥なプランに胸を高鳴らせながら、悪魔は自分の根城へと向かった。