こんな風に彼女と学校からの帰り道を歩くのは何回目だろう。  
『そいでね、そいでね・・』彼女は楽しそうに今日、学校であったことを俺に話す。  
『もう、ちゃんと聞いてるか?翼。』少しムスッとした顔で彼女が俺の顔を覗き込む。  
『ちゃんと聞いてるがな。真夢』こんな極々普通の学校の帰り道。俺はこんななんともない日常が大好きだった。  
 
我が家橋元家と隣家である大塚家の、長男坊である俺と一人っ子である彼女は典型的な『幼馴染』という奴だった。  
近所に一軒しかない保育所に共に通い、小学校、中学校も一緒だった。  
さらに高校まで一緒とくればもう腐れ縁と言ってもいいのかもしれない。  
更に二人とも吹奏楽部とくれば彼女の顔を見ない日など有り得なかった。  
勿論、恋愛感情なんて産まれるはずがない・・・はずだった。  
 
 
 
 
ピンポ〜ン・・早朝の我が家にインターホンの音が響く。勿論、真夢だ。  
『おはよ〜、おばさん!』  
聞きなれた真夢の声は最早俺にとって目覚し代わりになっているのかもしれない。  
『おはよ〜、今日も早起きやね〜、真夢ちゃん』  
これまた聞きなれた母親の声が俺の耳に入ってくる。眠い目を擦りながらカッターシャツを着る。  
着替えながらトーストを齧る。ようやく準備が終わり玄関で待つ真夢のもとへ向かう。  
『待ちなさい〜、お弁当忘れてるで〜』毎度毎度の声が、後ろから聞こえてくる。  
さあ今度こそ本当に出発だ。  
 
 
『もう少しでコンクールやな〜』真夢が言う。  
もう7月も10日を過ぎている。27日のコンクールまであと2週間ほどしかない。2年生を俺たちからすれば  
お世話になった3年生に少しでも恩返ししたい。ということで真夢や数人の友人と朝練をしているわけだ。  
『ほ〜やなぁ・・・絶対先輩らに関西大会の舞台を味わってもらわななぁ・・』  
去年は俺達の実力不足で足を引っ張ってしまった。『今年こそは・・』そんな話をしてるうちに学校に到着する。  
音楽室に1番乗りでついた俺達は自分の楽器を取りいく。サックスの彼女はトランペットの俺よりも奥に楽器がある。  
光が差し込む楽器庫。彼女の方向を不図向いた。急に真夢が神々しく見える。  
(あ、あれ?コイツってこんなに・・・・あ、あれ?)俺は少し戸惑う。少し変な気分になる。  
このとき、俺は自分の『好き』と言う感情を肯定できるほど器用じゃなかったようだ。  
 
 
『おはよ〜。今日も二人とも早いなぁ。ようやらんでぇ(笑』駅で待ち合わせしていたのだろうか。  
友人である、森本慎一、高知義彦、林千里、高町千鶴が入ってくる。  
『もう慣れたわ(笑』欠伸をしながらそういう彼女はもう曲の練習を始めている。  
『おいおい翼。まだ基礎練してんかいな?はよ済ませろよ(笑』義彦が言う。  
そういえば今日は自分でも驚くほど練習ペースが遅い。楽器庫でのことをずっと考えてたからか?  
まあいい練習を続けよう。  
後輩たちも続々と音楽室に入ってくる。(この調子なら関西大会も夢やないな)  
そう思いつつ、始業10分まえのベルまで練習を続ける。勿論授業は爆睡するわけだが。  
 
 
今日も暇な授業・・というより自習が続く。なんてったって7月なのだ。総体の予選で先生達も忙しいのだろう。  
(あ〜楽器吹きたいなぁ)思いつつも寝たり、起きたりを繰り返していた。  
そんなとき、クラブの男で唯一クラスが同じ義彦が、話しかけてくる。  
『オマエ、最近がんばってんな!あんなに朝練苦手やったのにな。』そう元々、おれは低血圧なせいか  
朝練は1年・・いや中学から苦手だった。  
『あ〜、まあなぁ・・やっぱ先輩に関西行って欲しいし・・』相槌を打つ。  
『それに真夢ちゃんも一緒やもんな!』  
『いやいや関係ないで!』  
『冗談や冗談(笑』  
こんな他愛のない話だが、俺の中で(なんでドキッとしたんやろ)という疑念が俺の心の中で浮かぶ。  
(あいつは単なる幼馴染のはず。仲のいい友達の筈だ・・・それなのに・・・なのに・・)  
この感情は恋愛感情なのか?でもあいつは幼馴染だ・・・でもなんなんだこの気持ちは・・・  
今まで熟睡できてた筈なのに・・胸が昂ぶって眠れない・・・  
このままじゃクラブも集中して出来ないようになる。俺は眠れない目を無理やり閉じた。  
何とか体力回復ぐらいは出来そうだ。  
 
昼休みになりいつもの6人組で中庭へ向かう。母親の手作り弁当は俺だけのようだ。  
『オマエのオカンは優しいなぁ・・もういい加減パンは飽きたわ・・』  
『まぁ俺ら朝早いしな・・』  
そんな会話に真夢が口を挟む。  
『あんたら私らより、30分以上遅いやん!早よない早よない。』  
『そやなぁ・・真夢と翼はめちゃくちゃ早いもんな。ようやってられるわ・・』  
『お前ら怪しいな・・なんぞ怪しいことでもやってんちゃうんか?』  
慎一が冗談にもならない冗談を言う。  
『え、ばれた?』真夢の一言にその場が凍りつく。勿論、冗談なわけだが・・  
『冗談、冗談!本気にしなやぁ』一同爆笑。しかしその中で俺一人だけは胸が高鳴っていた。  
 
 
最近翼の身長が高くなってきたような気がする。声変わりで殆ど声が変わらなかった翼の  
成長を、会話のしにくさから認識するようになっていた。  
そもそも、翼は背が高いほうではなかった。クラスの標準より少し低いくらいの身長の言えば、  
大体わかってもらえるだろう。  
その翼と最近、会話するには上を見上げないといけない。首が痛くなる程だ。  
こんなことに気付くぐらい翼とは長い付き合いだ。学び舎もずっと同じ。  
中学からはクラブさえ一緒なのだ。  
私にとって翼は大切な友人だ。失ってはいけない友人だ。  
 
さあ、今日もいい朝だ。今日も暑くなりそうだ。低血圧の母はまだ起きていない。  
よし、翼の家に行こうかな。まあ家、横なんだけど(笑  
インターホンを押しておばさんに挨拶する。相変わらずドタバタしている。  
1度出てきた翼が弁当を取りに戻って行った。早く練習したいのに・・・  
さあ急げ!・・といっても翼の歩くペースは速い。むしろ私が足を引っ張っているくらいだ。  
電車に乗るまでは我慢しよう。  
 
 
電車の中で他愛のない話をする。それでもやはり話題の中心はコンクールの話だ。  
去年先輩を関西大会に連れて行けなかった悔しさといえば無かった。  
翼もその悔しさを覚えているからこんな早くからの早朝練習に付き合ってくれているのだろう。  
後2週間少しとなったコンクール。今やっている練習さえ無駄になるかもしれない。  
それでも練習をやめることは無い。可能性は私達の眼前に広がっている。  
 
学校に着き楽器を出す。さあ練習を始めよう。グダグダしてる暇はない。  
なぜなら、このごろ壁みたいなモノを感じているからだ。  
勿論、技術は中学からやっているので上手くないにしろ不満はない。もっと音楽的なことだ。  
顧問は『色っぽさ、感情が足りない!』というのだが、どうしろというのか?  
まだ高校2年生の私に曲想である色っぽさを求めるほうが間違っている。  
恋をしてきた人間にならともかく、恋愛経験のない私にはどだい無理な話だ。  
それとも私達の年齢なら恋愛経験があるのは普通なのだろうか。私は友人だけで充分だと思うが。  
悩んでいても仕方がない。練習を開始しよう。  
 
暫く練習をしていると、千里達が入ってくる。相変わらず遅い。  
まぁ私達が早すぎるだけなんだろうケド・・・  
授業まであと1時間半、頑張ろう。  
 
 
キーンコーンカーンコーン・・・ベルが鳴る。  
この時間も自習のようだ。外でも見ていようか。毎度鬱になるのはわかっているのだが。  
元々私は、外で遊ぶのが好きなほうなのだ。昔は翼とよく日が暮れるまで遊んだものだ。  
特に夏は裏山で遊び、返ってこず親を困らしたものだ。  
しかし吹奏楽部なんて言うものは専ら、室内でやるものだ。  
こんな季節に室内に篭っていたらどうかなりそうなもんだと思いながら、やはり  
コンクールのことを考えているとそんなこともいってられない。  
まぁ、つぎは体育だし我慢しよう。  
外では蝉がまるで短い一生を燃やすかのように鳴いている。  
 
 
もう昼だ・・・蝉の声が鳴り響く中、中庭へ向かう。ちょっと暑いけどね。  
なんだかみんなといると安心する。ただ私の悩みに気付いてる人はいないだろうな。  
他愛のない話に耳を傾けながらパンを食べる。もう充分かな。  
そんな時に朝練の話題が出る。  
『そやなぁ・・真夢と翼はめちゃくちゃ早いもんな。ようやってられるわ・・』  
『お前ら怪しいな・・なんぞ怪しいことでもやってんちゃうんか?』  
・・このアホ。と思いながらも言い返す。  
『え、ばれた?』これで馬鹿な台詞に仕返しできる。みんなビビってるし。  
こんなことをいわれりゃ普通の子はドキドキするのかな?  
お生憎様。私はこんなことぐらいではドキドキしない。お化け屋敷よりもドキドキしない。  
だからこそ私は曲想には色っぽさがないのかもね(笑  
さぁ、教室に戻って寝よう。もうクタクタだ。朝も早かったし。  
もうちょっとみんなと話したかったけど仕方がないもんね。  
 
午後からもずっと暇だ・・もうやった範囲の問題演習。つまらなさ過ぎる。  
練習のために寝よう。今、私にとっては勉強より音楽のほうがずっと大事なのだから。  
そんなことも来年の今頃は言ってられないんだろうか?  
それならいっそ歳月は進まないほうがいいなと思う。ずっとこのままがいい。  
でもいつか私も大人になる。いろんなことを知ることになるのだろう。  
現実を知り、そして良くも悪くも大人になる。  
それならばいっそ友人や家族と共にこの、今一瞬を生きていたい。  
このままで・・・というかこのまま眠りについてしまいそう。  
 
『オイ、起きろ翼。終礼やぞ。』義彦の起こす声で目が覚めた。いや覚ましたふりをした。  
頭は起きていた。目だけが寝てたのだろうか。目ヤニが溜まっている。  
少なくとも頭は朝からの変な感情について考えている。動きは10年前ぐらいの  
パソコン位トロイが。それでも精一杯考える。しかし俺のポンコツCPUでは  
処理できないようだ。今からのクラブが鬱になるがやらずには居れまい。  
体は楽器を吹くことを楽しみにしてる。頭は完璧に拒否してる。  
それだけは間違いないようだ。  
 
音楽室。他の部活に比べればクーラーも効いてて楽かもしれない。  
ただここはあと1時間もしたら戦場と化す。クーラーでは冷やしきれない熱が  
俺達を襲う。今日も指揮の大勝先生と俺達の真剣勝負が始まる。  
それに俺は今朝の例の感情を引きずってる俺にとっては当に死刑台への  
13階段になりそうな感じがして怖かった。実際はなんともない部屋なのだが。  
早く楽器を取り出して吹こう。そうすれば少しはましになるかもしれない。  
 
 
 
合奏が始まる。なんともない普通の合奏ではある。  
しかし集中力を欠いている俺にとっては皆の集中力は異常とも取れるほど  
だった。  
早く終わってくれ・・・練習中にこんなことを考えるのは初めてだ。  
体は指を動かす。しかし頭といえばまだ完璧に音楽を拒否しているようだ。  
今日の居残り練は中止だな・・そう思っていた時千里が声を掛けてくる。  
『アンタ、今日集中力無かったな。どうしたん?』  
前からコイツは結構鋭いところがある。しらばっくれても無駄だろう。  
『後でちょっと相談乗ってくれるか?』下手に一人で悩むよりそっちのほうが  
楽になれそうだし相談してみよう。いまはお前だけが頼りだ。頼むぜ。千里。  
 
『それってさ、ただ単に真夢が好きなだけなんじゃないん?』  
千里は俺が思ったよりも遥かに早く結論を出してきた。  
『でもアイツは単なる幼馴染やもん。そんなはずないで・・』  
反論する。ただこの台詞に自信はない。今まで恋をしてきたことなんて一度もない  
から。というよりもこの時のオレはその気持ちを肯定できるほどの強さが無かった  
のかも知れない。  
『だってさ、さっきからアンタの話聞いてるとそうとしか聞こえへんねんもん。  
大体、人を好きになるのに幼馴染やとかは関係ないやろ。落ち着いて考えてみ。』  
落ち着いて・・・考えてるつもりだった。しかし頭のどこかでそんなことを考えないように  
していたのかもしれない。いや、考えれなかったという方が正確かも知れない。  
真夢とずっと歩んできたこの長い間、誰かを好きになることなんてなかったし、  
勿論、真夢を好きと思ったこともない。  
これが俺の初恋と思うと、恥ずかしくもありどうしようかという気持ちに駆られる。  
恥ずかしい感情というのは恋をしたということ。しかも真夢に。  
今まで、男友達以上に気を遣わず相手してきた真夢に恋をしてしまったというのだから  
滑稽としか言い様がない。  
そして、どうしようかという思い。これは、俺と真夢の関係だからこそ発生する問題  
だろう。今まで兄妹同然の付き合いをしてきた真夢に対しどの様に自らの感情を発露  
するのか。というよりも発露できるのか?それが俺の初恋の障壁にもなるだろう。  
しかし、それは同時にパズルのように俺に楽しみを与えてくれるかもしれない。  
とりあえず今は、まるで絡まりあったかのような俺の気持ちの糸を綺麗に  
してやることが必要だろう。とりあえず自分の気持ちの整理がつくまで何も  
しないでおこう。それからでも事は遅くない。  
『またいつでも相談してや。でもアタシにもそんなことがあった時にはよろしくね』  
『ありがとう。またよろしくな。』  
言葉だけの表面的な『ありがとう』ではない心からの『ありがとう』。  
久しぶりにいえたような気がする。  
 
 
『なんか最近、翼と千里、仲ええよな』慎一が言った。不意な一言だった。  
そう言えば最近二人でコソコソしてる。練習が終わるなり何処かへ行ってしまう。  
しばらくして帰ってくるので心配はしていなかったがなにをしているのかは  
確かに気になる。  
『やっぱ二人は・・・なんかなぁ』普段なら流し聞きできるであろうこの台詞  
に今日の私は過敏に反応してしまう。  
『そんなはずないやろ!なにアホ言うてんねん!』・・・・なぜ?なんで  
こんなしょうもないことに反応しているんだろう。慎一も  
それを見透かしたように言う。  
『冗談!冗談やって。真夢もちゃんとこんなことに反応できるようになったんやな(笑』  
顔に血が上ってくるのがわかる。怒りからか恥ずかしさかは知らないケド。  
『こ・・このアホタレェェぇ!殺すでアンタ!』  
『うわ!そっちこそやめんかい!ギャ〜〜』  
これが素の私。気が短くて、怒りに身を任せる。いつもの私に戻れたようだ。  
しかしなんだか胸につっかえるものがある。それが何であるかに気付くのは  
少しばかり後のことだった。  
 
 
時計の針が7時半を示している。練習自体は7時に終わったが、受験を控えた  
3年生と塾のある人間以外は全員残っているように見える。  
しかしやはり体力の限界なのか何人かが帰り支度を始めている。  
二人はまだ帰ってこない。いつもにまして長い。  
勿論、二人の間に何があろうと私には関係ない。それはわかっているが  
なぜか気になる。  
・・・二人は付き合っているんだろうか。そう考えると少し羨ましいような気がする。  
・・・・・いやいやなに言ってんの、私。そんなこと思うはずないじゃん。  
だって今までそんなこと気にしたことさえなかった。  
ただもしこの気持ちが事実であるとするならば、少し成長した証拠。  
少し大人になれたのかな。さっきキレたのはおちょくられたからむかついただけ。  
そこらへんはまだ子供のようだ。  
 
 
千里は考えていた。翼からの相談についてだ。今、このことを真夢に伝えるべきか、否か。  
単なるお節介かもしれない。でも、動かない二人の距離を近づけれるのは私だけだ。  
翼に相談を持ちかけられたのは私だけだし、真夢と小学生のころからの友人なのは  
私だけだ・・・どうすればいい?私はどうすればいい?  
今の真夢に言ったって軽くあしらわれるだろう。だけど翼は本気で真夢に惚れてる  
ように思う。  
いくら考えても答えが出ない。と言うよりも私の考えることではないのかもしれない。  
でも、翼の真剣な顔は悲壮ささえも醸し出していた。あんなつらそうな顔は  
親友としても、クラブの仲間としても見たくない。  
 
 
『決めた・・』千里は口に出して己の決意を決めた。『真夢と翼をどうにかしてつなげてあげる』  
コンクール前にやることではないかも知れない。真夢は傷つくかもしれない。  
でも、いま動かなければ翼と真夢は結ばれない。そんな気がした。  
私の勘なんてあてにはならないかも知れないけど・・・それでももう決めたことだ。  
私が動かなきゃ何も動かない。きっとそうだろう。  
 
 
今日も真夢と一緒に朝練に行く。でももう真夢を真っ直ぐに見つめることは出来ない。  
少し悲しい。真夢と幼馴染みであった時の楽しい気持ちはもう無い。  
でも、それ以上に真夢を女として見れるようになったことは嬉しかった。  
今日、その気持ちはさらに大きくなるのか?それとも絶望しなければならないのか?  
それは今日の午後、いや練習後にわかることだ。千里が告白のセッテイングをしてくれたからだ。  
今日俺は、真夢に告白する。  
 
 
千里から電話があったのは昨日の晩だった。『明日の練習の後用事ある?』  
勿論ない。家に帰るだけだ。何があるかは知らないが千里のことだから  
宿題を手伝ってだとか、そういう部類の話だと思ってた。  
でも今私はいま屋上にいる。こんなところで宿題は出来ない。  
何で屋上で待ってろなんて言われたのか?私が、その訳を知るまでそう長く時間はかからなかった。  
 
 
『真夢〜。お待たせ』千里の声だ。相変わらずよく通る声。千里の方を向いた。  
千里がいた。でもその隣にはもう見飽きた顔、翼がいた。  
『どうしたん?翼。』思わず聞いてしまう。その時千里が言う。  
『え〜っと・・今日真夢に用事があるのは私やのうて翼やねん・・まっそういうことで・・』  
千里はそのまま帰ってしまった。  
『なんなん?翼?はよ帰りたいんやけど・・・』  
翼は黙りこくってしまう。そのまま10秒近く経っただろうか。翼が重い口を開いた。  
『俺、お前のことが・・お前の事が好きになってもうてん・・その・・・なんか上手く言われへんけど  
幼馴染みとしてじゃ無くて・・友達としてじゃ無くて・・一人の女として・・・』  
は?何言ってんのコイツ?気が狂ったのか?でもそんな気持ちとは裏腹に脈動はどんどん早くなっていた。  
 
ついに言ってしまった。好きであると。真夢は固まっている。そして顔はどんどん赤くなっていっていた。  
『でも、、私ら幼馴染みやし・・・』真夢が言う。予想外の反応だ。アホとでも言ってくると思った。  
これは脈があるのか?俺は言う  
『勿論そうや。でも、俺の気持ちはそんなことで崩れるようなやわなもんやない。』  
あ〜あ・・言ってもうた。ベタ惚れ決定やん・・・あ〜恥ずかしい・・・・  
でも、気持ちは清々しい。言いたいことは全て言ったからだ。後は返事を待つだけだ。  
 
 
固まった空気が動いたのは何分後だったろうか?ようやく真夢が重い口を開いた。  
『関西・・関西に行くことが出来たら・・・こんなうぶな私でええんなら・・・』  
真夢はこう告げてきた。俺の気持ちは汲み取ってくれたようだ。  
『ホンマ?ホンマに?真夢』思わず言ってしまう。  
『うん・・・もし関西大会に行けたら、私の最初の彼氏になって下さい・・』  
 
 
あれから1年以上経った。そして俺はいま全国大会の会場にいる。勿論、真夢も・・・  
みんなとは最後の演奏。楽しかった高校生活最後の演奏。  
でも、俺と真夢の奏でるメロディはいつまでも響き続ける。  
 
〜終わり〜  
 

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