膝小僧をすりむいた。
子供の頃のようだとみずきは悪態をつきつつ保健室へ向かった。
ずきずきと滲む血はティッシュで時折押えないとすぐに脛へ垂れてくる。
「ああくそ、痛いな」
唇を噛んでハーフパンツで汚れた手の甲をごしごし拭いた。
梅雨明けのせいで夏は間近、陽射しが凶悪に眩しい。
校庭から、石畳の道を横切って校舎の影へまわる。
煙草のにおいがしたのでちらと草の陰へ首をやった。
壁に寄りかかりくわえ煙草で、金色の髪が不自然に目を引いてくる。
軽く肩を竦め、足を引き摺って彼女は不良の名を呼んだ。
「省吾。またさぼってんのか」
「ん。…おめーこそ、さぼり?」
佐原省吾は、幼稚園からの昔馴染みだった。
眼鏡で緩和しないと笑ってしまうほどに目が垂れている。
だるそうな唇で煙草を放り捨てて省吾がみずきを横目で見、
それから逆方向をつまらなそうに見ていた。
暑いな。
とみずきは校舎の影から青空を仰いだ。
肩くらいの髪を後ろで縛ったのがじっとりと首に張り付いている。
「省吾と一緒にするなよなー…
あたしは、保健室行き。怪我人なんだよ」
「何。どこ」
膝を指差すとうわーひでー。ありえねー。どんな転びかたしてんよー。
とへらへらと金髪が笑って頭を下げた。
風が僅かに吹く。
金色の重みが、ハーフパンツから出た膝小僧に乗っかってきた。
濁った息がすりむいた傷に滲みる。
頭を、膝に乗っけられて彼女は重さで顔を歪めた。
「おいこら省吾」
「日焼け止めのにおいって微妙だよなぁ」
「何…やってるんだよ、変態、」
軽く火照るのは暑さのせいかもしれず、金髪に手をやろうとして地面の
濡れた土に生えた雑草を握った。
傷口を濡れた弾力のあるものが押し込むというよりも、なぞっていく。
広い傷口はじくじくと滲みる。
なになめてんだ、ばか。
溜息でそれを押し殺して右側の屈んだ背中に右手を添える。
こつん、と後ろのコンクリートに後頭部が当たった。
みずきは恥ずかしいのかなんなのかもよく分からず、ぼうっと口を半分開いて空を見た。
ひどく青い。
遠くでチャイムが鳴る。
省吾が唾まみれの膝小僧で唇を拭いた。
それから、子供の頃のようだと妙に嬉しそうに笑ってなぜか持っていた絆創膏を貼ってくれた。