昼休み。
いつものようにあたし達仲良し4人組は、ぺちゃくちゃとお喋りをしている。
あたしの名前は渋沢ゆり。みんなには「ゆりっぺ」って呼ばれてる。
あたしの机の前にしゃがみ込んで話しているのはカンナ。
左に立っているのはミカで、右に立っているのはショウコ。
あたし達4人は学校ではちょっと有名。
問題ばかり起こすし、化粧も濃いとよく言われて、
いっつも先生に注意ばかりされてる。
あと一部の男子とかには「ヤリマン4人組」とか影で言われてるらしい。
ま、そんな事あたし達は全然気にしてないけど。
確かにカンナとミカはよく彼氏が代わるし、
ショウコに至っては、複数の人数とHした事もある強者だ。
でも・・・あたしは違う。
なぜなら・・・あたしはまだちゃんと男の人と付き合った事無いから。
もちろんHなんてした事無いし、キスだってまだだ。
けど・・・あたしは仲間はずれになりたくないから、
この3人、そしてみんなには2股かけてると嘘をついてる。
だから、男の話題が出てきた時はウザくて仕方ないんだよね。
もちろん自分が悪いって分かってるんだけどさ・・・。
「ねーねー。ゆりっぺの二股どうなったの?まだバレてない?」
カンナが嬉しそうにあたしに聞く。答えるの面倒くさいなぁ。
「あ、うん。全然平気だよ。どっちも単純だし、余裕で騙せてる」
「ショウゴ君に、ユウイチ君だっけ?いや〜可哀想だねぇ」
ミカはそう言いながら笑った。
もちろんショウゴとユウイチなんて架空の人物だ。
「ね−ね−。何話してるの?」
一人の男があたし達の輪に入って来ようとした。
彼の名前は佐藤賢一。クラスではお笑い担当みたいな奴だ。
黙っていれば、結構カッコイイ奴だとあたしは思うんだけどな。
「うるせーな。ドーテー君にはまだ早い話題なんだよ」
ショウコが笑いながら賢一の太ももを蹴る。
「おいおい、同じ中学のよしみじゃん。仲間に入れてくれよー」
そう、賢一とショウコは同じ中学の出身だ。昔から結構仲が良いらしい。
だからこそ、こんな冗談が飛ばせる。
「駄目だっつーの。あっち行け、あっち」
ショウコはそう言うと、手でシッシッと追い払うマネをする。
それでも賢一は笑いながらあたし達の輪に入ろうとしていた。
「行こ」
あたしはみんなにそう言うと、早歩きで廊下に出て行った。
3人も笑いながらあたしについて来る。
「ゆりっぺって、佐藤の事かなり嫌ってるよねー」
「ゆりっぺってあーゆータイプ嫌いなのよ。調子乗ってるしね」
カンナとミカはあたしの後ろでそんな事を喋ってる。
馬鹿言ってんじゃない。
あたしは・・・賢一の事・・・好きなのに。
あたしはそう思いながら、ふてくされた顔で廊下をずかずかと歩いていた。
その日、あたしはみんなと別れ、一人で帰っていた。
「彼氏の一人と会う」と嘘をついたからだ。
本当はみんなと一緒に帰りたかったけど、嘘をつき通す為には仕方ない。
あたしは電車に乗った。もちろん真っ直ぐ家に帰るためだ。
ドアに寄りかかりながら景色を眺めていると、
あたしの目の前にぬっと大きな影が現れた。
「よ!ゆりっぺ」
それは賢一だった。賢一の身長は180くらいあるので、
156センチのあたしにとっては、賢一の身長とは頭一つ半くらい違う。
「・・・なんだ、佐藤か」
あたしは不機嫌そうに返事をする。
二人きりで会えて、本当は凄く嬉しいのに。
「家に帰る途中?もし暇なら一緒に遊ばない?」
賢一はにこにこしながら、あたしにそう聞く。
マジで?マジで?これってデートってやつ?賢一となら絶対遊びたい!!
でも・・・どうしよう・・・。みんなに嘘ついちゃってるし・・・。
あたしはそんな事を考えながら、しかめっ面で黙り込む。
「ねー、いいじゃん。俺のオススメのゲーセンあるんだよ」
賢一はにこにこしながらあたしを誘ってくる。
こんなチャンス、もう2度と無いかもしれない。
「じゃあ・・・付き合ってあげるよ」
あたしは嫌そうに答える。もちろん全然嫌じゃないんだけど。
はぁ・・・素直に「行く!」と言える女の子になりたいよ。
「ほんとか?やったぁ!」
賢一は子供みたいに喜ぶ。ガキっぽい・・・けど、
あたしも似たようなモンだから、口に出しては言えない。
いざゲーセンに行くと、あたしと賢一は仲良くゲームに熱中していた。
始めて賢一の前で素直になれた気がする。
「うおっ・・・はえーよ!」
「こんなのできないって〜。あ〜」
二人で太鼓を叩くゲームをやっていたが、最後の最後でついていけず、
画面のは失敗の2文字が浮かびあがった。
「ね、ね、プリクラ撮ろーよ!」
「お、おう」
あたしは賢一のブレザーを引っ張ってプリクラに向かった。
好きな人と遊ぶのがこんなに楽しいなんて・・・。
あたしは「当分家に帰らず、ずっと賢一と遊び続けたい。」
とか思っちゃったりしてた。
「うわーやっぱりあたし変な顔だー」
プリクラの台から、女の子の3人組が出てきた。
それを見た途端、あたしの体中がピシッと凍りついた。
「あれー。お前らもいたのかぁ」
賢一が呼ばなくていいのに、わざわざ3人に呼びかける。
もちろん女の子3人組というのは、カンナ、ミカ、ショウコの3人だ。
「ん、賢一じゃん。・・・って、ゆりっぺ?」
ショウコが驚いた顔であたしを見つめる。
カンナ、ミカも同じような顔をしていた。
「あんた・・・今日彼氏と会うって言ってなかった?なんで佐藤と遊んでるの?」
「えっ・・・そーなの?」
カンナの言葉に、賢一も反応する。
ぜ・・・絶体絶命だ、ヤバイ。こうなったら無理矢理切り抜けるしか・・・
「そ・・・そーだ!あたし、こんな奴と遊んでる暇じゃなかった。
か、彼氏に会いに行かなきゃね!んじゃまた明日!」
あたしはそう言うと、ゲーセンからダッシュで飛び出して行った。
あたしはそのままダッシュで家に帰り、制服のまま布団に飛び込んだ。
気がつくと、ポロポロと涙が出ていた。
なんであんな事言ってまで、嘘をつき通したんだろ・・・。
あたしに彼氏がいるって言っちゃったら、賢一は・・・。
あたしは馬鹿だ、あたしは馬鹿だ。
あんな嘘ついてるからバチがあたったんだ。
せっかく賢一と・・・仲良くなりかけたのに。
そう思うと、余計に涙が溢れてきた。
「う・・・あああぁぁぁん・・・」
あたしは布団にうつ伏せになり、泣き続けた。
何時間経っただろう。
お母さんの晩御飯の呼びかけにも、まったく反応しなかった。
次の日、あたしは学校を休んだ。
次の日、あたしは朝から夜までベッドで寝ていた。
晩御飯もあまり喉を通らなかった。明日も学校休もうかな・・・。
ピンポーン
家の呼び鈴が鳴った。
「ゆり、お友達よ」
あたしはお母さんの言葉を聞き、バッと起き上がる。
2階への階段を昇る音が聞こえ、
ドアを開けるとショウコが立っていた。
あたしはショウコを部屋へと招いた。
シーンと静かな沈黙が続く。
あたしはショウコに何を言えばいいのか分からなかった。
「ゆりっぺ・・・みんなもうバレてるよ」
やっぱり・・・。
あたしはますます気分が重くなる。
「ずーっと前からね」
ショウコがそう言うと、あたしの目が点になった。
「え・・・?」
あたしがそう言うと、ショウコは「はぁ〜」と言いながら口を開いた。
「もう完全にバレバレだったよ〜。あたし3人を見くびっちゃ困る」
ショウコはそう言うと、「ふふっ」と笑い出した。
あたしは急に恥ずかしくなって、顔が真っ赤になる。
全部・・・バレてたなんて。
「あとゆりっぺ、男の人と付き合った事ないでしょ?
付き合いたいと思ってるのは・・・賢一だよね」
「あ・・・あのぉ・・・その・・・」
あたしは顔中真っ赤になり、耳まで赤くなっていた。
こうも直に言われると、あたしは気が動転して何も言えなくなっていた。
「・・・で、仲間はずれになりたくないから嘘ついたと。
ゆりっぺってば、可愛い〜!あははははは・・・・」
ショウコがお腹を抱えて笑う。あたしの顔は未だに赤いままだ。
「何もそんなに笑わなくてもいいじゃん・・・」
あたしはちょっといじけた仕草を見せる。
「で、賢一の事はどうするの?もちろん告るよね?」
「そんな・・・告るなんて無理だよ・・・。
ショウコ、賢一君と仲良いんでしょ?手伝ってほし・・・」
「甘えるんじゃないっ!」
あたしが言い終わる前に、ショウコはそうビシッと言い放った。
「好きなら好きって本人が言わなきゃ。
あたしは好きな人ができたらいつもそうしてきたよ。
他人の力借りて付き合えても、あたしはそれは駄目だと思う」
遊んでばかりいるショウコの口から、こんな言葉が飛び出すのは以外だった。
あたしはそれを聞いて、何も言えずに黙ってしまう。
「・・・まあこれはあたしの持論だから、
ゆりっぺに絶対そうしろって言ってるんじゃないよ。
でも、自分から伝えないと・・・ね」
ショウコはそう言うと、家に帰って行った。
布団の中で・・・あたしは明日、学校に行こうと決心した。
そして・・・勇気を出して・・・賢一に・・・。
次の日。
あたしは放課後、賢一を呼び止めた。
人気の無い階段で、あたしと賢一は二人っきり・・・
という事は無く、向こうでカンナとミカとショウコが覗いている。
「あの・・・」
あたしは賢一の事を色々思い出していた。
不良っぽい子、オタクっぽい子、誰かれかまわずに明るく話しかける賢一。
文化祭では一番張り切って、外が暗くなっても一人で頑張っていたのをあたしは知ってる。
体育祭でクラスが優勝したのも、賢一がリーダーとして引っ張っていったからだ。
何にも着飾る事無く、見栄を張る事も無く、いつも「自分」を持っている賢一。
あたしは・・・そんな風に生きる賢一が羨ましくて・・・好きだ。
「あたし・・・賢一の事が好き」
あたしは顔を赤くしながら言いきった。
向こうで3人が笑顔で小さく拍手しているのが見える。
「・・・ちょっとついて来て!」
賢一はあたしの手を握り、玄関へと駆け出して行った。
な、何?何なの?賢一は一体どこに行こうとしてるの・・・?
賢一は自転車の後ろにあたしを乗せて、自転車を精いっぱいこぎだした。
「着いたよ」
賢一が連れてきてくれた場所は、高校の近くにある丘だった。
「うわぁ・・・この丘にこんな場所あったんだ」
ここから見る街は、凄く小さく見える。
あたし達がいつも行ってるカラオケ屋さんも、喫茶店も、
親指と人差し指で挟めるくらいだ。
二人でしばらく景色を眺めた後、賢一が口を開いた。
「俺も・・・ゆりっぺ・・・いや、ゆりの事好きだ」
その言葉は、あたしの胸をギュッと熱くさせた。
賢一も・・・賢一もあたしの事が好き・・・。
「この前の事・・・ショウコから聞いたよ」
「えっ・・・ショウコが・・・?」
賢一がコクリと頷く。
「ああ・・・。なんていうか、無理して自分を作るの・・・やめろよ。
俺は・・・ありのままの・・・ゆりが好きだ」
それを聞いて、あたしの目から涙がポロポロこぼれ落ちた。
「あたし・・・あたし・・・嘘ついてる自分が・・・本当は・・・嫌だったの。
素直に・・・なれ・・ぐすっ・・・なれない・・・自分が・・・」
賢一はそっとあたしを抱きしめた。
「う・・・あああぁぁぁん・・・」
あたしは感極まって、賢一の胸で泣き続けた。
嬉しくて、こんなに泣いたのは生まれて始めてだ。
「あーあ・・・泣いたから化粧取れちゃってぐちゃぐちゃじゃん。ほら、これ使って」
賢一はハンカチをあたしに渡す。
「ありがとう」
あたしはハンカチで化粧を丁寧に拭いた。
「ごめんね、ハンカチ汚しちゃって・・・洗って返すよ」
「お、おう・・・。それより・・・ゆりって化粧取った方がその、綺麗・・・だな」
賢一があたしの顔から目を反らしながら言った。
賢一がそう言うなら、あたし・・・化粧薄くしてみようかなぁ。
「でも・・・賢一はどうしてあたしをココに連れて来たの?」
あたしがそう言うと、賢一は頭を掻きながら恥ずかしそうに答える。
「いや、なんつーか・・・俺の好きな人に早くこの景色を見せてやりたいっつーか、
その・・・好きな人ってのはもちろんゆりなんだけど・・・」
賢一が顔を赤くして黙り込む。
あたしはそれを聞いて、ますます賢一がいとおしくなる。
「そっかぁ・・・あたし、凄く嬉しいよ」
「ほんとか?」
「うん・・・。でも、ちょっとくさいね(笑)」
「ほっとけ」
あたしと賢一は笑い合った。
泣いて・・・泣いて・・・本当の自分を好きな人にさらけ出して、
あたしは凄くすっきりした。
バイバイ、ショウゴとユウイチ。
「この丘・・・風が凄く気持ちいいね」
ふわっとあたしの髪が風に乗る。
賢一はあたしをじっと見つめた。
あたしもじっと見つめ返した。
合図・・・かな。
あたしはゆっくりと目を瞑った。
賢一の唇があたしの唇と重なる。
ふわっとした感触が、あたしの唇全体に伝わってくる。
ただ唇を合わせてるだけなのに、胸がバクバクいってる。
ファーストキスが好きな人とできるなんて、あたしって幸せなのかなぁ?
そして、また・・・風が吹いてきた。
あたしが賢一と付き合いだして、一週間が過ぎた。
あたしは自分を無理して着飾るのをやめ、化粧が薄くなった。
賢一に気に入られたいってのもあるけどね。
そのおかげで先生の説教が減ったってのは嬉しいトコロだ。
もちろんあたしが少し変わっても、
カンナ、ミカ、ショウコとは相変わらず仲良し4人組だ。
一緒にカラオケ行ったりして遊ぶのも相変わらず。
ただ、あたしの変化にびっくりした子は結構いるみたいだけどね。
「ゆり、行こうぜ」
賢一があたしを呼ぶ。
「うん!」
あたしは大声で答え、賢一の自転車の後ろに乗る。
今日も紅葉が生い茂った山道を越え、あの丘に行く。
あたしと賢一の大事な場所へ。